宇宙眼がやってきた。やあ、やあ、やあ。(5)

五 宇宙顔がやってきた。やあ、やあ、やあ。

 宇宙耳がこの街から消えた後、街は、雪や氷が解け、どんよりとした灰色からさくら色など心が浮き立つ華やかな色に変わりつつあった。冬が去り、春の到来だ。中央通りの歩道の桜並木はつぼみが開き、花が満開となった。人々は春の陽気に浮かれてか、街に繰り出し、街は活気に満ち溢れた。
 ある日のことだ。昼間にも関わらず、空が急に暗くなった。光が何かに覆われたのだ。日食か?そんな情報は、天気予報では流れていなかった。人々は不安に襲われた。
「あれは、なんだ」
「わんわん」
「みゃー」
「きゅるきゅる」
 人間を始め、犬、猫、ムクドリなど、街の全ての生き物が空を見上げた。空に、何かが浮遊している。眼を凝らして見た。
「眼だ」
「鼻だ」
「口だ」
「耳だ」
 だが、顔はない。それぞれが、眼は眼、鼻は鼻、口は口、耳は耳で大挙して群れをなしている。宇宙眼、宇宙鼻、宇宙口、宇宙耳たちが再び街に戻ってきたのだ。人々は口をぽかんと開け、空を見上げたままだ。花見帰りの客は、千鳥足のまま、空を見上げ、まだ酔いの最中なのかと、何回も眼をこすっている。
「ひゃあ」
 人々は眼をつぶった。頭を下げ、体をくの字に折り畳んだ。強い春風が吹いた。中央通りには、花びらが散り舞う。再び、人々が顔を上げた時、空の浮かんだ宇宙眼たちは、体型を変えていた。それぞれの眼、鼻、口、耳が、輪郭はないものの、一組の顔となって、空に浮かんでいる。花火のように美しくはない。どちらかと言えば、不気味だ。
 空に浮かんだそれぞれの顔の口がにやっと、街の人々にはにやっとと見えたが、本当に、にやっと笑ったのかどうかはわからないが、とにかくにやっとした動きをすると、ゆっくりと地上に降りて来た。
 街の人々は、ビルの中から、学校の教室から、道路から、この光景を固唾を飲んで眺めたままだ。宇宙眼たちは、眼で探し、鼻で臭い、耳で声を聞き、自分のオリジナルの眼や鼻や口や耳を見つけると、その面前に浮かんだ。じっと対峙するオリジナルとコピー。
 コピーの口が再び、にやっと笑うと、コピーたちはオリジナルの顔に張り付き、オリジナルの眼、鼻、口、耳と入れ替わった。
 自分の顔から追い出された眼、鼻、口、耳は、宙にふわふわと漂った。もう、元の顔には戻れない。しかし、どこかに、落ち着き場所がいる。眼や鼻、口、耳たちは、一斉に空高く舞い上がり、新たな故郷を求めて、どこかの星の、顔のある生物を求めて旅立った。

宇宙眼がやってきた。やあ、やあ、やあ。(5)

宇宙眼がやってきた。やあ、やあ、やあ。(5)

五 宇宙顔がやってきた。やあ、やあ、やあ。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-31

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