チョウの幼虫

ハーブの鉢に育っているチョウの幼虫をみつけた。
食まれる葉を眺めつつ、どうしようかと思ったけど、
ひと鉢くらいキミのためにプレゼントしようと、そのままにしていた。



     
ある雨上がりの朝、昨晩の暴風雨に、
飛ばされてはいないか、流されてはいないかと心配になり、様子を見てみると。
キミはハーブの根元にしっかりとくっついていた。
なにかホッとしたものの、鉢のハーブの葉も残り少ない。



     
その、おう盛な食欲は、一株の葉が芽吹くよりも早くなっている。
サナギになるにはまだ小さめなようで、
もうひと鉢かふた鉢、よく茂ったハーブの鉢が要りそうだ。



     
気づいて隣りの鉢に引っ越しするかな。
でも隣りの鉢は葉も枯れはじめ、すでに残り少ない。
花壇に辿り着けば、ハーブの楽園がある。
花壇に気づき、自分の力で歩いて行くだろうか。
でも道々、天敵に出会いそうだ。



     
今、暮らしている鉢のハーブとは種類が違うけど、
えり好みしないのなら私がそっと花壇まで運んでしまおうか、と思うのだけど。
チョウの幼虫は何が起きたか解らないまま、
そのまま新しい環境に順応して成長してくれるかな。
もし、その後に土のうえに転がるキミの姿をみつけたら、私はきっと後悔しそうだ。
無事にサナギになり、やがて羽化するキミの姿を思い浮かべる。



     
それとも、こんなに私が鉢を覗き込んでいると、
子供たちに見つけられ、次の瞬間、
チョウの幼虫は箱の中に引っ越しするかもしれない。
暖房が効き、木の枝の家具をしつらえた、
レタスやキャベツの葉がふんだんに食卓に用意される、スイートルームへと。
それがキミにとって居心地よいかは、
幼い召使いさんたちには解らないのだけど、
一生懸命に世話をするだろう。



     
人間の想像が気まぐれに、空中をくるくると回っていることも、
置かれた環境の自然の過酷と、人の手と、幾つもの命運があることも、
そんなことは全て、お構いなしかのように、
まだ雨の残る空の下で、キミは再び葉を食み始めた。

チョウの幼虫

チョウの幼虫

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-23

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