事の顛末 彼女の思い
アパートの玄関に乱雑に脱ぎ棄てられた二組の靴を見て、ため息をついた。
男物の見慣れた靴と、派手な女物の靴。この女物の靴は私のものでは無い。ならば、家の中には見知らぬ女がいるのだろう。
二人とも全裸だったらどうしよう。それはさすがに居たたまれない。
すでに何回か同じ経験をしている私の思考回路は、かなしいとか腹が立つとかそういった感情を弾きだすことを放棄していた。
怒りも悲しみも、存外体力を使う行為なのだ。さすがに疲れる。
あー。もう、めんどくさいなぁ。
私の中の何かが、ぷつりと切れた音がした。
気付かぬふりをしながら、あいつに笑い続けていた自分が世界で一番馬鹿な人間だという、どうしようもなく笑いたいような泣きたいような感情が津波のように私を押し流してゆく。
静かに玄関から外に出る。どうやら気付かれていないらしい。
気付かれないよう静かにドアを元に戻す。完全に閉めると音で気づかれそうなので、少しだけ隙間を残した。
わずかに開いた隙間から零れる光を一瞥する。
オレンジ色の優しい光。先週一緒に買ってきた。
彼のことが、とてもとても、好きだった。
しかしきっと、私ばかりが彼を好きだったのだろう。
彼が女性を連れ込んでいたのは、一度や二度ではなかったから。
薬指のシルバーリングをそっと外す。
オレンジ色が零れる無機質な廊下の上に置いたシルバーリングが、きらりと光った。
事の顛末 彼女の思い