薄情

なんとなく思いついたものです

私には、情とかそういったものが他人より薄いような気がする。
たとえば「死にたい」といった人に対して自分は迷わず
「ならば死ね」と真顔でいうだろう。
相手が本気で言おうが、なんとなく言っただけだろうが、そんなものに興味はない。
相手が友人だろうと他人だろうと関係ない。
それで相手が傷つくことなど百も承知だ。
別にそれは「死ぬ度胸が無いくせに」とか「その程度で死ぬとか言うな」とか怒りを感じたりしたからではない。
適当に聞き流すときの返事のように軽く言う。
そういう性格のせいだろうか自分には友人、知人と呼べる人さえ少ない。
考えれば当たり前だ。
自分が悩んでるときや苦しんでるとき、励ましの言葉すらかけない奴と好んでつるむ奴は、ほとんどいないだろう。
しかし、そんなのでは人の社会で生きていけない。
だから私は「情に厚い男」を演じた。
演じるのは案外簡単だった。
今までと逆のことをすればいいだけなのだから。
困ってる人がいるなら助け
悩んでる人がいるなら本気で相談に乗ってるふりをした。
おかげで友人もそこそこできた。
他から見れば充実した生活を送っているのだろう。
しかし、演じ続けるのはさすがに疲れる。
息抜きは必要だ。
今まであらゆるスポーツをやってきた。
あらゆるリラクゼーションも試してみた。
だが、どれも効果はあまり無かった。
そこで私は考えた。
「演じる」ことに疲れたのなら一切「演じなくていい」場所に行けばいいのではないかと。
実に簡単なことだ、しかし、うまくはいかなかった。
「演じるなくていい」だけならば一人でいればいいだけだが
いままでの経験上あまり効果は無ない。
かといって誰かいる限りありのままの私ではいられない。
そして、ある時 思いついた。
あったのだ、ありのままの私でいれて、かつ非難されないとこ。
『裁判の場』である。
何故そう思ったか
当時の私は裁判の場に情など不要というイメージをもっていたからである。
犯した罪に相応の罰を与えればいい
それさえできればいいのだと
「あそこならば薄情でいられる」そう思った私は必死に勉強した。
もちろん裁判官になるためである。
昔から勉強は得意だったが、流石に苦労はした。
大学に入りなおし必死に勉強した。
6年かかりやっと試験に合格し晴れて裁判官となった。
いくつもの裁判に参加した。
そうしてるうちに裁判長までのぼりつめた。
何人もの容疑者を有罪にした。重刑にした。
どんな動機があろうとも、老若男女かかわらず
冷酷に刑を下した。
いつしか私の裁判に出たものは必ず重い刑がかせられるとまで言われた。
重刑に処した者の親族からは恨み言を言われ。
同僚からも忌み嫌われた。
そして私の周りには昔のように誰もいなくなってしまった。
しかし善人ぶろうとは思わなかった。
なぜならそんなことをしなくても今なら生きていけるからだ。
ただ昔は一人でもなんとも思わなかったが今は何故か少し、
ほんの少しだけ寂しいような気がした。
ある日、帰り道の路地で少女にあった。
その少女の父親は私によって重罰をかせられたそうだ。
私は言った君の父親はそれ程のことをしたのだと
しかし少女は納得しなかった。
「あれはしょうがなかった」と少女は言った。
だが、そんなものは知ったことではない。
私が重視するのは『どうしてやったか』ではなく『何をしたか』だからだ。
その旨を少女に伝えると、少女は激怒した。
私をののしり今にも襲い掛かってきそうだった。
それも当然かと思う。
自分の発言に反省し、なだめようと声をかけようとしたとき
腹に痛みがはしった。
刺されたのだ。
見ると少女は震えていた。
その震えた唇で何かいっていたようだが、ほとんど聞き取れなかった
しかし、はっきり聞き取れた言葉がある。
「自業自得だ」と
思えば今まで本当の自分を隠し上っ面で人をだまし
裁判長になってからは犯罪者といえど多くの者を絶望へと突き落としていった
自嘲するような薄笑いをする
悪人を裁いておきながら私も悪人ではないかと
今までの行いを間違っていたとは思わないが
騙してきた者、裁いてきた者とその親族に罪悪感をいだいた
そして今、私をさした少女にも
できるなら起き上がり謝りたかった
私がもう少し配慮することができたならば少女はこんな凶行にはでなかっただろう。
ふと気がつく、自分が今まででは考えられないような思考をしていることに。
「あぁ私にも多少の情はあったか…」
なんとなくそうつぶやいた
そして心が満たされたような気がした
どうやら私は情が薄い自分を酷く嫌っていたようだ。
この少女には感謝しなければならないだろう。
なぜなら死を直前にして
こんなにも清清しい気分でいられるのだから。

薄情

淡々とした雰囲気でかいたつもりです
「何言ってんだこいつ・・・」と思われるかもしれませんが満足してます

薄情

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-28

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