無事学校に着いた後、体育館へ移動し始業式を終えた。
体育館に張り出されていたクラス表に目を通し自分の名前があった一年二組へと移動する。
クラスに着くと自分の席である一番左前の窓側の席へと座る。
「私達の縁は切っても切れないようだね、春君」
 隣から声が聴こえ、そちらを振り向くと今朝二度も派手に転んでいた夏花が居た。
「別に元から縁は切れてないけどな」
 やはりこいつは天然だ。と半ば呆れつつも
唯一の女友達が隣の席で良かったとも思う。
「はーい皆さん席についてねー」
 扉の入り口からゆったりとした声で女の教師が入ってきた。
「皆さん始めまして、担任の斉藤みかです。
みかちゃんって呼んでね」
 教壇に立ち見た目通りの穏やかな風貌でそう言うと、名簿を持ちクラスの点呼を取り始めた。
程無くして全員分の名前を呼び終わり、入学式一日目は無事終了した。

  *
次の日の放課後、俺は校内にある図書室へと向かっている。私立であるこの姫ノ宮学園の図書館は文庫のみならず、漫画やラノベに加えアニメ雑誌まで置いてあるらしい。
中学時代、学園生活を殆どアニメやラノベに費やして来たこの俺には聖地とも呼べる場所だ。
この学園を選んだ理由の一つ、いや最大の理由がこの図書館だと言っても過言では無いのだ。
廊下の窓からは部活に励む生徒達の声がする。
勉強を終えた後に更に体育系の部活をするとは何てマゾヒストなんだ。
いや、アニメやラノベを無料で読みたいという動機で入学を決めた俺に比べたら素晴らしい事極まりないのだけど!

校舎の一階、一番奥の部屋に図書室を見つけた。
 人が居ない事を確認し、『アニメ』の項目があるプレートを目指してひたすら歩き、無事室内の最奥部にアニメコーナー発見。
(ん?誰かいる?)
 ふと本棚の方に目を向けるとここからでは見えにくいが確かに誰かがいる。
俺と同類か?こんな人目のつかない放課後を狙うとはまさに俺と同じ思考回路!
もし同類ならばこの学校で隠れオタとして
肩身が狭い俺の友人が出来る絶好なチャンス到来の予感……
 ――まぁどの道俺には話しかける勇気何て持ち合せてないんだけどな。
 仮にあの人物がオタクではなかったとしたら赤っ恥をかくのも目に見えている事だし。
そもそもこの学校には俺みたいにオタクを隠しているような人物はいるのか?
いるならば是非お互いの苦しい心中を一晩通してでも語り合いたい。
「今日は帰るか」
未だアニメコーナーから離れる様子のない人物を余所見に近くにあった本棚に手を掛けた。
しかしその瞬間体重を掛けすぎた勢いで本棚が傾き本が地面に落下してしまった。
全身から汗が吹き出てくるのが分かる。
まずい!と咄嗟に人物の方に目を向けると
慌てた様子でこちらに気づき向かっているのが分かる。
「あの、大丈夫ですか?」
 こちらに向かってきた人物は意外な事に女の人だった。
それも今まで見た事のないような美少女。
人形のように丸い碧眼でこちらを見据え、
夕日を浴びた髪は銀色に輝いている。造り物のように端麗な顔立ちをしている。
「あの……」
「あ、すみません!大丈夫です」
「そうですか、良かったです」
 そう言うとその少女は床に散らばっている本を手に取り本棚に戻し始めてくれている。
「あの、あなたもアニメ雑誌とか良く読むんですか?

 俺も散らばっている本を拾いつつ何気なく気になっていた事を聞いてみる。
「いえ、好きという訳ではないのですが」
「そうなんですか」
 危なかった。もう少しで自分の墓穴を掘る所だった。
 この場所にいるという事はオタクに多少なりとも理解があると思うが反応から察するに
彼女がオタクだとは到底思えない。
「でも嫌いでもないです。あなたもって事は君は好きなの?」
 まずい。墓穴を知らぬ間に掘っていた。
「いえ、俺も図書館に来たらこのコーナーを見つけてたまたま……」
 はい、アニメ大好きです!とは到底言えやしない。
「やっぱりそうですよね。見た目もこういう系あんまり好きそうでもないですしね」
 え?俺ってそういう風に見えるのか?
今まで会話を交わす友達は夏花くらいだったから外見は気にしていなかったけど……俺はどういう風に映ってるのか気になる。
「あ、そういえば名前言ってませんでしたね
! 私椿 冷奈って言います」
 ここで会ったのも何かの縁だし! と付け加えて彼女。椿冷奈は言った。
「俺は秋風春兎です」
 

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-28

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