さぼてん

不条理短文。

  さぼてん     育田知未
 ある日のこと、大学の講義の後、某量販店でのアルバイトを終えて、俺は家に帰った。今日は疲れた。一刻も早く寝たいと思い、玄関の扉を開けた。
そこにはなぜか一鉢のサボテンが放置されていた。バランスボールよりふた回り位大きなそのサボテンは、玄関の靴置き場を占領するようにそこにいた。
「何だ、これは?母ちゃん!由美子!これ何だよ。」
大きな声で呼んでみたが、返事は無かった。いつもなら、この時間は皆家にいるはずなのに。どうしたんだろう。仕方がない。ここを通り抜けなければ家の中に入れない。ベッドに潜り込む事も出来ないのだ。俺は何とかしてトゲと壁の間をすり抜けて廊下へと辿り着いた。
「生意気なサボテンだ。今すぐ、トゲを全部引っこ抜いてやろう。」
そう思って、押し入れの工具箱からペンチを引っ張り出して、玄関へと戻った。
すると、なぜか、トゲはさっきより少し下を向いて全体的に元気が無かった。
俺はなんだか可哀そうになって、ペンチを元に所に戻すとそのまま床に就いた。
 もう朝か。目を覚ました俺は、今日は大学の授業もアルバイトもないので、家族を探してみた。と言っても家の中で声を掛けただけだけど・・・。やっぱり家族がいない。どこにいったんだろう。と思ったが何時か帰って来るだろう。そういった、生来の楽観主義ですぐに考えるのをやめた。俺は腹が減っていることに気がついた。食糧を探しに冷蔵庫と食器棚へと足を進めた。幸い冷蔵庫も満タンだし、缶詰と米もある。当面は飢え死にしなくてすみそうだ。家族を探すのはもう少し困ってからでもいいか。しばらくすればバイト代も出るし、通学定期もまだ3カ月ぐらい残ってるから、出かけるのもなんとかなりそうだ。と考えた。
「そうだ、サボテンなんとかしないと。」
玄関に行ってみる。サボテンだけは昨日のままの姿で、俺を迎えていた。心なしか昨日よりも少し大きくなっているようにも見えた。
「ああ、そうだそうだ。」
俺はサボテンをそのまま放っておくのも可哀そうに思い、まあ、観葉植物の類だろうと思って、水をあげることにした。暑い日が続いていた。出来るだけたっぷり水不足にならないように水をやった。俺はサボテンに水をやると満足し、ひと寝入りした。
 翌日はバイトだった。今日も暑くなりそうだ。俺はサボテンにたっぷりと水をやってバイトに出かけていった。俺はいつの間にか、母親や妹が居なくなっていることを忘れていた。いや、家族が居たことすら忘れてしまったのかもしれない。
 そんな生活が数日続いた。ここで俺はサボテンの様子がおかしいことに気がついた。この間まで、緑色でつやつやしていた肌が、今はトゲと同じように薄茶色になっているではないか。俺はとてつもなく心配になって、スマートフォンでサボテンについて調べてみることにした。そう、こんなことを聞ける友達が俺にはいない・・・。スマートフォンの辞書機能にはサボテンは砂漠の植物であり、乾燥した気候を好むと書いてあった。それ以上のことは面倒くさいので調べるのは止めた。なんということだ、俺はサボテンに良かれと思って水を沢山やったのにそれが、サボテンを苦しめる結果になっていたなんて。
 それ以来、俺は悔やんでも悔やみきれない気分になり、家でふさぎこんだ。もちろんバイトも休んだ。結果、首になった。仕方がない俺のせいでサボテンはこんなになったんだ。俺が責任を取らねば。などと考えていた。俺はサボテンのことを気にかけ、四六時中、サボテンのことを見ていた。と言っても、俺が唯一世話をしていた「水やり」すら今はすることが出来ず、サボテンを唯々見つめるだけだったが、そうしていたかった。俺は数日間、玄関の前の廊下で座布団を数枚敷いてゴロゴロと時間を使った。メシとトイレの用を足すとき以外は。そのうち、サボテンの頭部に何か膨らみのようなものが出来ているのを発見した。俺はそれを取るべきか取らないべきか思い悩んだが、結局そのままにしてしまった。まあいい。なるようになるんだ。俺はそう思った。今までだってそうやって生きて来たんだ。何とかなるよ。などと思った。
 そして、翌日。サボテンの頂点に小さな一輪の花が咲いているのを見つけた。とても小さくてピンク色の花だった。俺はサボテンが元気になったと思い、今まで経験の無かったような嬉しさを感じた。
 さて、これから何をしようか・・・

さぼてん

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さぼてん

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更新日
登録日
2013-08-27

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