向日葵が咲いた夏

また、今年も夏が来た。

 今年こそ、ひまわりを見せてあげるんだ。
 
 毎日、病室の窓から外を見るだけの君。
 外で遊べて、学校にだって行ける僕達のことは羨ましいはずなのに、病室に入るといつも笑顔でいてくれる。

 僕達四人は幼馴染みだ。 
 眼鏡で一番頭が良くて、真面目な拓実(たくみ)。
 負けず嫌いでおてんばして大人によく怒られているのは海(うみ)。
 僕は、玄樹(げんき)。元気だけなら自慢できる。
 生まれつき病気持ちの日葵(ひまり)は、明るい夏の花。ひまわりのような元気な笑顔をいつだって見せてくれる。
 明るい子だ。
 
 日葵は三歳の時に高熱で入院して病気が見つかり、病状は悪化していた。
 小学校に上がってからは、学校帰りや休日も行ける日は毎日ってぐらい、三人でお見舞いに行っていた。

 ある日、日葵びっくりさせようと、病室に入る前にこっそり中を覗いた、日葵は窓の外を見つめていた。
 僕は、ふぅっと大きく深呼吸してドアを勢いよく開け、
 
 「日葵っ!」

 精一杯の元気な声と笑顔で名前を呼んだ。

 「玄樹君!?」

 向日葵は首をかしげ目を丸くして、びっくりしている。

 「玄樹、ここ病室!」

 病院で大きな声を出してしまって、海と拓実に注意された。
 そのあとは、いつも通り他愛もない話をして家に帰った。

 家に帰ってからも、病室に入る前に見た、日葵が窓の外を見ていた表情が頭から離れなくなっていた。
 日葵は、病室で一人の時、いつもあんな顔で外を見ていたのか。
 僕は、一人の時もあんな悲しそうな顔をさせたくないと思った。

 次の日、拓実と海にも話をして、三人で考えた。
 日葵は病室の窓の外しか見れないから、違う景色を見せてあげようと言う事になった。
 しかし、日葵の外出許可は下りなかった。
 
 他になにか・・・・。
 その時、海が一言。

 「日葵って名前、ひまわりの花と同じなのに図鑑でしか花、見たことないよね。」

 その言葉に僕は、

 「日葵の病室の外を、ひまわりでいっぱいにしよう。」

 僕の言葉に、二人は顔を見合わせてから、

 「いいじゃん。」

 と言って、笑った。
 その後、日葵にはばれないように病室の外にひまわりの種をたくさん植えた。

 種を植えてから一年目の初夏。 
 台風が直撃して、咲きかけのひまわりは全滅した。

 二年目の夏。
 ひまわりの花は咲いていた。でも、日葵の病状が悪化したため、日葵は病室を移され、
 前のように面会もできなくなった。

 三年目も、四年目もひまわりの花は元気に咲いていた。
 それでも、日葵は、回復しないまま、だった。

 日葵の回復を待つうちに、僕たちは中学生になっていた。

 中学2年の夏。日葵の病状は安定し、
 毎日ではないが、少しずつ面会も出来るまでになっていた。

 病室はまだ、元のところへ戻ることは出来ないが僕は、日葵の笑顔を見れたことがただ嬉しかった。

 中学3年に進級した夏。
 病状もだいぶ落ち着いて、病室の移動が決まった。

 日葵が病室に戻ってくる日、三人で日葵を待っていた。

 車椅子の音が近づいてきた。それと同時に僕は、閉め切ったカーテンの端をギュッと握り締めた。

 ドアがゆっくりと開き、日葵が入ってきた瞬間。
 
 僕と、拓実でカーテンを思いっきり開けた。
 
 明るい日差しが病室に照りかける。それと同時に、窓の外一面の黄色いひまわりの花が目に入った。

 「ありがとう。」
 泣きながら、笑う向日葵につられ、海も泣いてしまった。

 僕たちは、その後四人で昔の話をしたり、中学校の話しや進学先の話など、色々話した。
 
 「来年も、再来年も、大人になっても四人でひまわり見ような。」

 「うんっ」

 日葵が、元気な声で返事をして

 「向日葵ちゃん。ここ病室だよ。」
 海が、俺の時みたいに注意した。

 「ごめん。ごめん。」
 
 嬉しそうに笑う日葵の横顔を見ながら
 僕は、この楽しい時間がずっと続けば良いのにと思っていた。

 「約束だからな。」
 その言葉は日葵への言葉だった。

向日葵が咲いた夏

向日葵が咲いた夏

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-26

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