天国への階段

天国への階段

天国への階段




 僕は天国への階段を上ってゆこう。こつこつと一人静かに、僕は天国への階段を上ってゆこう。一人で自由に、でもとても寂しく。

 希望や夢は何もかも崩れ去ってこの空の中に消えて行った。少年の頃描いていた夢や希望はみんな粉々になって、星子さんへの手紙に書いていたあの夢や希望は、現実の厳しさの中に灰となって消えていった。そして今僕の眺めているのは敗北の空だろうか。少年の頃の夢と希望がはかないはかない現実だったと知った失望の思いだけが一人ぼっちの僕の胸の中を淋しく横ぎっていっている。

 誰か天使さまのような女性が現れて来ないことには僕はこのままこの灰色の空のなかへ塵のように消えてゆくだろう。かつての、星子さんと文通していた頃の、自信いっぱいの僕はもう人生に疲れ果て、生きる気力が、エネルギーが、もう枯渇しようとしている。
 再生の道が、再生の道が見つからない。天使さまが、白い美しい天使さまが現れ出て僕を元気づけてくれないことには。美しい白いとても活発な天使さまが現れ出てくれないことには。

 一粒の涙に乗り、
 僕は旅立とう。
 霊界へと、霊界へと、
 ゴロと星子さんの待ってる霊界へと。
                  (ペロポネソスの浜辺にて)


 ----僕は昨夜、やはり心中することを思った。○○さんと(分裂病で入院している中二の頃のクラスメートの綺麗だった○○さんと…)中学校の砂場の横の鉄棒に柔道の帯を括りつけて(そしてお互い小指を赤いリボンで結び付け合って…)夜、バイクに乗ってやってきて(…バイクは砂場の前にまるで僕の中学時代のゴロのように停めて…)2人静かにやっぱりそこで死ぬことにしよう、と思った。

 僕は昨夜本当に何時間もまんじりともせずに『“死ぬ”か…それとも超能力者になって分裂病など病気で苦しんでいる人たちを次々に救っていくべきか』『○○さんと心中するか…それとも僕が超能力を開発して○○さんの病気をも治し、それに次々とその超能力で分裂病など不治の病で苦しんでいる人たちを救ってゆくか…』と僕は激しく悩んだ。

 僕は昨夜やはりどん底まで落ち込んだ。そしてやっぱり死のうと思っていた。
 自分には悪霊が憑いているんだ。そして分裂病と診断されているんだ…だから留年させられたんだと思ったり。


          (僕らの海)

 僕の魂は
 星子さんとの思い出の浜辺に行く気力も喪くし、(元気だった頃は朝もつかつかと出かけていってそして浜辺の空気を胸いっぱい吸ってその日“やっぱり生きよう、今日も元気に過ごそう”…などと思ったりしていたものだけど…)
 窓辺に佇み、海ばっかり見つめています。僕らの思い出のあの海を、青い青いもう夏になりかけた海を、白いカモメが飛んでいる海を、そして十年前の夜、僕らを呑み込もうとしたあの悪魔のような海を。黒かった海を。
 僕は生きるか死ぬかとても悩みながら見つめている。

 重苦しい夜明けだ。僕は昨夜メジャートランキライザーであるPZCを8mg飲んで寝た。最近のベンゾジアゼピンの薬の副作用を極力抑えるために。そして癖になりつつあることも。
 僕は最近毎夜、デパスなどの睡眠剤を通常の2〜3倍飲んでいた。

 もう9時間ぐらいも眠っていないだろうか。僕は疲れ果てた小犬のように昨夜からずっと横たわっている。そしていろんな夢を見た。
 
 僕は窓辺に腰掛ける気力も湧いてこない。ただただ空想の中であの浜辺や僕に駆け寄ってくるゴロの姿やゴロの後にゆっくりとついてくる車椅子の星子さんのとても美しい笑顔だけが見えるだけだ。僕は布団から起き上がれないでいる。

 僕は今日、探偵社のアルバイトの面接に行くつもりだ。○○病院と掛け持ちでやっていこうと思っている。そして福岡の○○○の奨学金を貰おうかとても迷っている。

                      (夕方)
 淋しい…今にも雨が降るかのような空だ…この空は。
 僕は空ばかりを見つめている。何もない何もない灰色の空ばかりを。
 僕は今日、結局探偵社の面接にも行かず病院からすぐにこの浜辺にやって来た。僕の赤い400ccのバイクは壊れ、新型の250ccの赤と黒のツートンのバイクに変わっている。
 バイクとともに僕の心境も変わっていっている…という感じがしないでもない。僕の心は何か新しい世界へ…環境へ飛び込んでゆくようだ。

       (僕も白い翼を持って)
 僕も白い翼を持って、天国へと羽ばたきたい。星子さんやゴロの待つ白い雲の向こうの天国へ。僕も羽ばたきたい。
 するときっとゴロが駆け寄ってきて僕に飛びかかるだろう。そして星子さんが車椅子の上でやっと天国へやって来た僕を見て、とてもとても美しい微笑みで僕を迎えてくれるだろう。
 だから僕は飛び立ちたい。星子さんやゴロの待つ天国に飛び立ちたい。
                               浜辺にて


       (赤い太陽)
 長い間僕を覆ってきた絶望の黒い闇は去り、夏とともに、夏の赤い太陽とともに、僕の胸にも『喜びの季節』がやって来た。長い長い冬だった。長い暗い闇だった。

       (白い星)
 赤い星は思い出のペロポネソスの浜へ落ち、浜辺から再び白い球が舞い上がった。それは僕を憂愁へと誘う星だ。僕を自殺へと導く星だ。

       僕も白い翼を持って
             (もう夏になりかけた浜辺にて)
 僕も白い翼を持って、飛んでゆきたいな。ゴロと星子さんが居る白い雲の向こうにあるという天国へ。
(僕は26年間後悔ばかりしてきたけど、そして今、死のうか死ぬまいかとても迷っているけど、そして死ぬ方法ももうかなり研究してきたけど(首吊りはやっぱり厭だから。クスリを飲んで眠るように死んでゆきたいから。)
 僕も白い翼を持って、UFOに乗ったゴロと星子さんが手を振ってくれていて、僕は白い翼を持って、ふわりと浮き上がるんだ。この白い浜辺から、思い出のこの浜辺から。

 星子さんへ (おまけにゴロへも)

 星子さん。僕はやはり何もかもにも敗れ去った人間…男として死のうかな…とも思います。僕は昨日、今度は福岡の○○○の面接に行ってきました。熊本で断られ、長崎で断られ、そして今度はもうやけっぱちで福岡です。熊本や長崎の○○○に断られたこと言わなかったら良かったなあ、とつくづく後悔して、自分はなんて馬鹿なんだ、言わなければきっと大丈夫だったのに…解らなかったのに…と後悔しています。
 白い夜明けが窓辺から見えます。あの頃元気だった頃の自分はこの窓から顔を出すとゴロが見えてゴロが僕が顔を出しているのをすぐに感じ取って『散歩に連れていってくれないかな』と大きなあくびをしていたものでした。そしてよくゴロを連れて星子さんのよく居るペロポネソスの僕らの思い出の浜辺まで駆けていってたものです。
 今、白く白く夜が明けようとしています。僕の心も白くなってあの僕らの思い出のペロポネソスの浜辺へ飛んでゆけたらな、と思います。でも今の僕には、中学時代のようにゴロを連れてペロポネソスのあの浜辺まで走ってゆく気力はありません。

      (僕の躰も白い球となって)
 僕の躰も白い球となって、舞い上がってゆく、舞い上がってゆく。僕の躰も白い球となって、舞い上がってゆく、舞い上がってゆく。星子さんやゴロの待つ雲の上の天国へ、このペロポネソスの浜辺から。
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               6月7日 早朝
                  ペロポネソスの浜辺にて

 黒と赤のツートンの250ccのバイクに乗って

          (僕の躰が)

 僕の躰が溶けてゆく。この浜辺に。もう暑くなったこの浜辺に。汗のようになって。僕の今までの孤独と苦しみとともに。溶けてゆく。溶けてゆく。


 星子さんへ ゴロへ
 僕はもう少ししたらアルバイトに行かなくてはならない。もう8時15分だ。僕は昔とちっとも変わってないこの浜辺を立ち去るのがとても惜しいような気がする。僕はこの浜辺から帰ってゆくのがとても辛い。


星子さんへ そしてゴロへ
 おとといから梅雨に入ったのに僕は雨ガッパを着たままもう7時半ぐらいまで明るくなったこの頃…会社帰りにいつも立ち寄るなんて。僕の心は寂しさで溢れていてこの頃毎日ここへ来ないことには心が爆発しそうな気がする。本当に心が爆発してしまう気がする。
 僕の心は今、激情が燃え盛っていて、でも不思議な不思議な激情だ。26歳も半ばを過ぎた青春の激情なんだろうか。それともあまりにも一人ぼっちすぎるからの激情なんだろうか。
 
 僕のクルマは車検に出したすぐばかりなのに壊れ、もうミッションをオーバーホールするかしなければならない。そうすると20万近くかかるんじゃないかな。そんならもう廃車にしようかな。でもバイクのときのようにクルマまで呪われてしまったな、という思いでいっぱいです。
 だからこのごろ雨続きなのに毎日バイクで通っています。車検をしてからまだ4回しかクルマに乗ってないのに今日の朝2回目のJAFを呼びました。1週間ぐらい前の前もクルマが全く同じように大曲の坂のところで4気筒のうち2気筒ぐらいしか点火しなくなってJAFを呼びました。そして今回はJAFの人が(JAFと言っても今では近くの修理工場の人がJAFの代わりに来てくれるのだけど、なんだかわざと壊されたようでとても悔しいです。昔のJAFは良かったのになあと、つくづく思うこの頃です。
 でも僕は挫けそうになる心をこの浜辺に来て癒しています。クルマのことやいろんなことで今も悩みはいっぱいですけど、挫けないように挫けないように、この頃また頻繁にこの浜辺にやって来るようになったのだと思います。正月頃のピンチのときもそうでしたけどこのペロポネソスの浜辺の香りと小波の音、それに石ころや砂浜。いつも孤独で憂欝に陥りがちの僕をこの浜辺は救ってくれています。
 波の音とともに心の中で必死に戦いながら僕は

 僕は寂しい気持ちをいっぱい湛えながらこの浜辺に正月頃のように膝を抱え込みながら座って波の音や遠くを行く漁船の音などを聞きながら孤独な心を癒しています。ゴロと星子さんの笑顔が雲にポッカリと浮かび出て、そして今にも僕に手を差し伸べてくれそうな、そんな感じもします。
 星子さん、ゴロ。雨がぽつぽつと降ってきました。それにもうずいぶん暗くなってきました。だから僕はもう帰ろうと思います。さようなら、ゴロ、星子さん。そしてペロポネソスの浜辺。僕は雨に打たれながら悲しく帰ります。僕は一人ぼっちです。いつもいつも一人ぼっちです。


        (僕の心も蝶になって)
 僕の心も蝶になって、星子さんやゴロの待つ白い雲の向こうへと飛んでゆきたいな。まっ白いまっ白い蝶になって、ちょっときついかもしれないけど、そしてとってもとっても長い旅路だと思うけど、そして孤独で一人っきりの旅路だと思うけど、僕は蝶になって天国へ飛んでゆきたいな。ゴロと星子さんの待つ白い雲の向こうの天国へと。


 星子さん。今日は抜けるような青空です。今は朝の6時半です。僕は今日、大牟田の病院に奨学金の面接を受けに行くことになっています。そしてもし採用されたら僕は生きよう、と思います。元気になって生きていこうと思っています。そしてナナハンでも買って。
 でも採用されなかったら、そうしたら僕は絶望のあまりバイクで(今の250ccのバイクで)日見トンネルの中で猛スピードをあげて走って向かって来る大型トラックに正面衝突しようかな。それともそれではあとで親がトラックの人から賠償金を取られるからやっぱり首吊り自殺するしかないかな、とか考えて迷っています。


        (もしも僕がナナハンを買ったなら)
  星子さん。もし僕がナナハンの免許を取ったら一緒に天国まで飛んでゆこうね。この浜辺から。ゴロもタンクの上に乗せて。
 もし僕がナナハンの免許を取ったらすぐナナハンを買うからそうしたら星子さんを後ろの座席に乗せてゴロをナナハンのでっかいタンクの上に乗せてこの浜辺から飛び立とう。
 あ、そうか。もう星子さんもゴロも天国へ旅だっているから僕一人でナナハンに乗って白い天国へと向かうんだ。僕はすっかり忘れていた。頭が朦朧としているからすっかりそのこと忘れていた。
(そして僕は朝の砂浜の上に倒れ伏した。二日酔いで頭は朦朧としていたが朝6時半ごろ家を出て久しぶりに晴れた大気に包まれながら僕はこの浜辺に来た。思い出の白いペロポネソスの浜辺に。)
星子さん。でも僕は親にできるだけたくさんのお金を残してやっておきたい。だからやっぱりナナハン買うのやめようかな。


      (もしも僕がナナハンを買ったなら    パート2)
 もしも僕がナナハンを買ったなら、僕のでっかいナナハンで天国を旅しよう。広い広い果てしのない白い天国の道を、僕ら旅しよう。後ろに星子さんを、そしてタンクの上にゴロを乗せて、いつまでもいつまでも、そしてどこまでもどこまでも、僕ら旅しよう。
 天国での旅はもしかするととっても苦しいものになるかもしれないけど、僕ら、僕と星子さんとゴロとで、でっかいナナハンに乗って、どこまでもどこまでも旅しようね。いつまでも、いつまでも。


       (僕の心は時計の振り子)
 星子さん。僕は今日、福岡の○○○の人に会ってきたけど、僕は右翼に走るか左翼に走るか、左翼に走るか右翼に走るか僕の心は時計の振り子のように揺れ動いています。本当に僕の心は時計の振り子のようです。

 ノホホン、ノホホン、と僕は心の中で題目のように唱え始めてきました。


                       (6月13日 朝)
 星子さん。今朝は本当に抜けるような青空です。一昨日は昼頃から雨になってきたけど、今朝は本当に抜けるような青空です。
 僕は、あまり難しいことを考えずに暢気にノホホンと生きていこうかな、と浜辺の波の音や沖を行く漁船の音などを聞きながら考えています。
 でも僕の心は空はこんなに晴れているのにあんまり明るくなっていません。僕の心はやはりまだ元気を取り戻せないでいます。


     (僕の心は沖を行く白いカモメのように)
 沖を行く船と、白いカモメの群れの中に、僕は星子さんとゴロの幻影が見えます。そして元気だった頃の僕を。中学や高校時代の僕を。必死に思い出そうと焦っています。
 僕の心は沖に戯れる白いカモメの群れのように、明るく白く元気になりたいな、と思っています。僕の心も沖を行く白いカモメのように、中学や高校時代の純白だった心に立ち戻りたいな、と必死で願っています。僕の心も沖を行く白いカモメのように。

 星子さん。昨日今日と梅雨なのにとてもよく晴れた朝です。僕はこの頃タバコを吸うようになりました。今も石の上に腰掛けてタバコを吸いながら波の音を聞いたり磯の香りを楽しんだりしています。
 僕はこのまえの日曜日、福岡まで奨学金のことで行って以来(たぶん夏休みの実習の態度で採用かどうかを決めるのだろうけど)なんだか死ぬ気があまりしなくなってきました。なぜだろうかなって不思議です。
 ノホホン、ノホホン、と心の中で唱えるようになったからかなあとも思います。僕はあんまり不安や焦りを感じなくなってきました。そしてやろうと思えばテレビを見て暢気に過ごすこともできるようになりました。
 そして今の僕の心の中はこのまえまで不安と焦りでいっぱいになって来ていたのとちがって、ただノホホンと海の香りや波の音、そして懐かしい昔の思い出に浸るために来ています。

                      (8時30分)
 でも僕は2学期からは学校に出ないといけないのでアルバイトは夜のアルバイトぐらいしかできなくなることを考えると心がものすごく重くなってきました。今朝は割合にノホホンとした気持ちでこの浜辺にやって来たのに。今朝の天気のような心で、いつもは重苦しく今にも泣き出すような表情で来ていたのに。
 やっぱり死のうかな、とも思ってきました。やっぱり死のうか。やっぱり僕もゴロと星子さんが楽しく戯れている白い天国へ向かってペロポネソスの森の中で首を括って死のうかな、と思ってきていました。
 やっぱり死のうかな。もうそれしか方法がないようだから。それに僕が自殺したら僕たち一家に祟っていた自殺した父の兄の霊も僕たち一家から去っていくかもしれない。だから死のうかな。

                        (6月16日)
 星子さん。死ぬなら今だ、という気もします。今日は午後から雨が降りそうです。浜辺の石ころも砂も僕に“今日は雨が降るからクルマで行った方がいいよ”と囁いているようです。
 なんだかこの3年間の留年も今までの2度の留年と似てきたような気がしてきました。夏になって暑くなってきたし250ccのバイクに乗るようになったからか以前の留年の頃を思い出したようで。
 やっぱり死ぬのは今かなあ。授業料を払ってない今死ぬのがいいかなあ。そしてその代わりに居間にインバーターのエアコンを取り付けて。
 曇空で青く見える今日の海は鏡のような海面から星子さんの微笑みやゴロの駆ける姿が映し出されて見えるようで僕はとても懐かしいです。

 星子さん。もう僕のこの頃の毎日は終末かそれとも再生かの様相を呈してきています。親のためには元気に再生すべきですけど、ほかにいいアルバイトもないし。
 顔さえこわばらなければ、顔さえひきつらなければ、僕も家庭教師をできるのですけど。
 浜辺に佇む僕の耳に微かに聞こえてくる波の音と潮の香りはとても僕を感傷的にさせて僕の目は潤んでしまった。


          (僕はテロリスト)
 僕はテロリスト。自殺するよりマシだろう。僕はテロリスト。やけっぱちのテロリスト。自殺するよりマシだろう。僕はやけっぱちのテロリスト。


 星子さん。僕は奨学金を貰わないと2学期からとても困るから、だから今日は山口県の○○○に電話しました。福岡ではやっぱり中途半端というか、姉の住む山口の萩まで遠いから。
 でもそこでも断られそうな気もします。また熊本の奨学生になるのが一番だと、7月終わりの病院実習に賭けようかな、と思っています。
 夕暮れが、もう遅くなった夕暮れが、僕をすーっと包み込んでいます。とても気持ちいいというか、このまま夕暮れの潮風の中にすーっと溶け込んでゆきたいです。

                         (6月17日 夜)
 星子さん。僕は今夜はクルマやバイクの修理のことばかりを考えていました。(夕方はずっとクルマの掃除なんかをしていました)クルマやバイクの修理やメカニズムのことを考えると、宗教とか○○○○のような暗いことを考えなくて良いのでなんだか僕は明るく元気になって、ちょうどクルマやバイクのメインテナンスなんかに凝っていた頃の元気だった自分に舞い戻ったような気がして、『もう限界だな…』とちょっぴりあきらめの気持ちを抱いていた挫けかけていた自分が再び元気になり、なんだか星子さんやゴロの居る天国への階段から遠のいたようだけどごめんね。このまえまではその階段を登りかけていたのにね、ごめんね。
 でもゴロも星子さんも最近またクルマやバイクのメインテナンスなんかに凝ってきた僕の姿を見て、元気になるつつある僕の姿を天国から見て、元気になりつつある僕の姿を天国から喜んでいるような気がします。
 僕は再びバイクやクルマのメカニズムなどに凝っていた自分に舞い戻り、僕は元気になって、そして元気になった僕の姿を星子さんやゴロが白い雲の上の天国から見てとても喜んでいるようで僕も嬉しいです。僕はこれから元気に生きてゆくつもりです。決して自殺なんてせずに。決して憂欝に陥ったりせずに。

          ?@           (6月18日 早朝 浜辺にて)
 僕は小石を拾い、静かな鏡のような海面にポチャリと投げた。輪が広がっていっていた。空は今にも雨が降り出しそうに重たい。

 星子さん。僕はやっぱり田舎へ帰って農業をやろうかな、と昨日から本気で考えています。いろんな珍しい種類の果物や野菜を作ればいいな、とも考えています。
 そうして大学は暢気に卒業しようかな、とも考えています。また医者にならずに(僕はどうしてでも自分一人にならないと緊張してしまって頭が回らないから。それに僕は心は弱いけど体はとても頑丈にできているから)
もう僕も長く苦しい大学生活はこの辺で終わりにして
 そうしないと僕は発狂しそうな気がします。一年間ぐらい自衛隊に入るか。

 僕は長い長い大学生活を終わり、新しく農業青年として再生しようかな、と思います。農業なら僕のような重症の対人恐怖症でも体は頑健にできているからできるだろ。僕は農業青年になろうかな。このままでは死んでしまう。僕は農業青年になろう。

 傷つき果てた僕の心は農業によって再生するかもしれない。唯物論者の心は機械のように冷たくて、僕は傷つけられて僕は怒りに震えている。

 青く白い天国から僕に手を差し伸べてくれている星子さん。そして星子さんの傍でワンワンと吠えて喜んでいるゴロ。星子さんともゴロとももう10年も会ってないけど、今でも僕の瞼にその姿をありありと思い描き出すことができる。とくに落ち込んだときやこの浜辺に来たときには。
 僕は落ち込んでいるときにばっかりこの思い出の浜辺に来るけど、僕はもうどれだけ長い間落ち込み続けているだろう。もう気の遠くなるような前から、もう一年半くらいも僕の心は落ち込み果てていて、この浜辺にある天国への階段の前で足踏みし続けている。僕はずっと足踏みし続けている。

 聞こえてきます。星子さんの最後の声が。あの電話での哀しげな最後の声が。そして何も一言も吃って答えきれなかった受話器を持ってブルブルと震えていた自分の姿とともに。
 あああれから十年経ったんだなあ、と僕は感慨に暮れています。もうあれから十年。あの悲しい星子さんの最後の日からもう十年経っているなんて。
 そしてゴロが死んでからも9年経っています。
 僕もそろそろ星子さんやゴロのもとへ羽ばたこうかな、と思います。僕もゴロや星子さんのもとに今にも羽ばたこうかな、と思います。

 日曜日の朝のペロポネソスの浜辺を僕は完全に哲学的に行きづまりを覚えながら歩いていた。最近信じてきた○○○○への怒りと憎しみが僕の胸の中に渦巻いていた。そして右翼に走ろうと、僕は右翼に走るんだ! と心の中で繰り返し叫んでいた。
“やはり○○○○は羊の衣を被った悪魔の思想なんだ。黙示録に書いてあるアレなんだと。
“欲望”に向かって生きよう、とも思っていた。必死に“欲望”を念じてそれを現実化するというカーネギーという人の書いた『信念の魔術』の本を思い出していた。そして僕はボルボやBMBのクルマのことを必死に念じていた。
 それに僕が何故医学部へ来たのかと言うと僕は自分と同じ病気で苦しんでいる人たちを救うためだった。そのためにはやはり大学に残って基礎の大脳生理学なんかの研究をするべきだと思った。○○○に入っったってその研究ができないと思えた。

 僕は哲学的に行き詰まりを感じどう生きるかとても迷っている。小石に躓きながら、浜辺を俯いて歩いていた。日曜日の朝、浜辺を俯きながら歩いていた。
 そして僕はそっと目を白く霞んだ空に向けた。今にも雨が降り出しそうな重苦しい空だった。いつものゴロと星子さんの僕を見て微笑んでいる姿が、とても懐かしく懐かしく見えていた。
 星子さん、ゴロ。僕はどうやって生きてゆこうか。生きる支えというか目標が喪くなてしまった。
 僕はこのまま歩き続けると以前僕が大きなチヌを釣った浜辺の突端に行きつく。
僕の心の中は挫折感や焦燥感で溢れ、本当に自衛隊に入るか田舎で農業をしようか、と考えていた。でもそう考えると白い空に見えるゴロや星子さんの僕を見つめる表情が途端に悲しげになるのだっった。そしてゴロや星子さんはやっぱり僕が吃りなどで苦しんでいる人たちを救っていくべきだって望んでいるらしかった。
 僕は浜辺の突端の以前僕がチヌを釣った所に行き着き、誰もいないその岩場の上にゆっくりと腰を下ろした。星子さん、ゴロ。僕は死なない。父や母のために。だから僕は星子さんに約束したように世界中で吃りなどで苦しんでいる人たちのために生きてゆくんだ。吃りなどの研究を必死になって、身を粉々にしてでもしてゆくんだ。
 久しぶりに来た岩場の上で僕は空の上の星子さんやゴロに向かってそう呟いていた。僕は大学を卒業したら吃りなどの研究に没頭するんだ。そうして僕が今まで受けてきた苦しみや悲しみをほかの人に味あわせないように必死に頑張るんだ。


                         (6月21日 火曜)
 星子さん。僕の胸の中は心配で打ち震えている。日曜の夜、僕は発作的に高校時代の友人で今警察官をしている0のところへと電話してそして○○○関係の本や資料をすべて持っていった。そしていろいろな情報を伝えた。
 僕はスパイになった。そして僕の心の中はいろいろな心配でいっぱいになっている。僕がスパイであることが知れれば○○○○

 僕はいったいどうしたらいいのだろう。0は“今日でも連絡をくれるように”と昨夜電話してきた。でも僕は

 僕の胸は心配で打ち震え、青い海の中に、もう夏になった輝く青い海の中に溶けこんでゆきたい。
 昨夜森から電話があったと言ったときの母と父の心配そうな姿と。
 そして僕はもう生きられないんだという気持ちと。
 いろんなことがごちゃごちゃになって
 僕はもう生きてゆかれない。このまま青い海の中に溶けてゆきたい。そしてゴロや星子さんと楽しく遊びたい。

 だから僕はまた本気で死にたくなってきた。学校のことへの心配。いろいろなことへの心配で僕はもう発狂しそうだ。そして悲しむ父や母の姿のことを思うと。
僕はまだ前期の授業料を納めていない。だから死ぬなら今のうちがいいような気もするけれど。僕はどうしようか。いったいどうしたらいいのか解らない。

 打ち寄せる波。もうどうしようもなく行き詰まった僕。僕は溶けてゆきたい。この海の中に静かに。

 ゴロ。星子さん。僕はもうそろそろ病院のアルバイトに行かなければいけない。僕の心は本当に時計の振り子のように揺れている。そして心配でいっぱいになった一振り一振りをしている。

 でももう僕はアルバイトに行かなくてはならない。今日、アルバイトの帰りに警察署の0のところに行くべきか行くまいかととても迷っている。僕はただお金のことが心配なだけなんだ。
 誰かお金持ちのお嬢さんが現れて、そして僕を救ってくれたなら。そのお嬢さんと結婚して、僕は救われる。そうしたら僕はまだ生きてゆかれる。
(やがて僕はバイクに乗って浜辺をあとにした。250ccのバイクは猛スピードで僕を浜辺から遠ざからせていた。僕の両足にはまだ浜辺を歩いていたときの感触が残っていた。そしてバイクの上では僕は○○○や警察や学校のことなどの心配で胸の中は大きく揺れていた。僕はタイヤをきしませながら猛スピードで十字路を曲がった。

                        
 星子さんへ そしてゴロへ               (6月22日)
 僕はやはり今朝も心配で胸がいっぱいになってこの浜辺へやって来た。僕はもう警察から家宅捜索されたっていいや、などと思ってもいた。
 波は青く静かに僕の足元に押し寄せてきている。そして僕は沖の方に向かって何か叫びだしたいような衝動にものすごく駆られた。
 胸が張り裂けそうだった。裏の森で、ペロポネソスの森でやはり首を括って死ぬべきかな、と僕は思った。


     星子さんへ そしてゴロへ              (6月23日)
 今日は雨が降っていて僕は海辺にクルマを停めてこれを書いています。2年前に買った旧型の赤いプレリュードの中でこれを書いています。
 僕は淋しく淋しくこれを書いています。まだ朝の6時半です。僕は昨夜、12時半に目が醒めてからもう眠れず、そして地方上級の公務員試験を受けることばかりを考えていました。そして警察官か防衛庁に入ってレッドパージというか○○○を潰すことを考えていました。
 こんなことを真剣に考えてるなんて僕は。
 いつもは6時半はもう明るいのにこの雨の日は依然として薄暗いままです。たぶん今日は雨がずっとしとしとと降りながらうす暗いままで一日が過ぎてゆくのだと思います。なんだか僕の一生を象徴しているかのような気もします。
 しとしととクルマの屋根に降り懸かってくる雨の音は星子さんの涙のようだ。そしてゴロの涙のようだ。
 辛い人生をまだ送っている僕を嘆き悲しんでいる涙のようだ。
 僕に早く天国においで、おいでと促している涙のようだ。


     (僕はゴロと星子さんをクルマに乗せて)  
 僕はゴロと星子さんを僕の赤いプレリュードに乗せて、天国を旅しようかな。僕のまっ赤なプレリュードは、そして白い天国の中でひときわ輝き渡るだろう。僕のイタリアンレッドのプレリュードは、天国の人たちの羨望とあこがれを集めるだろう。僕らは星子さんとゴロとで広い果てしのない天国をいつまでもドライブを続けるだろう。僕らには生きているときにあまりこんなことなかったから、僕らは生きているときにこんな楽しい日曜日なんて送ったことがなかったから、僕らはいつも不幸だったから、僕らはいつも不幸だったから、

 でも僕には悲しむ父や母の姿が見えてくるから、天国へ旅立てないけどゴメンネ。僕には僕が死ぬととても悲しむ父と母の姿が見えてくるから、ゴロ、星子さん、ゴメンネ。僕は死ねないんだ。ゴメンネ。ゴロ、星子さん。ゴメンネ。


          (僕は旅立ちたいけれども)
 でも僕にはたしかに不安と焦燥感が嵐のように押し寄せてきている。僕の胸の中は不安と焦燥感でもみくちゃになっていて、ゴロや星子さんの待つ天国へ旅立ちたいけど、僕の胸には不安と焦りと哀しみが嵐のように吹きすさんでいるけど、僕は旅立ちたくてたまらない。

 死んではいけない。どんなことがあっても、死んでだけはいけない。どんなに辛く厳しい毎日であっても、死んでだけはいけない。

 生きてゆく糧がない。僕には生きてゆく糧がない。


                完 
http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html

天国への階段

天国への階段

天国への階段

天国への階段

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-22

CC BY-NC
原著作者の表示・非営利の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC