お仕事(仮名)

一話~

 仮名

【見返り】


【一話】


 

 平成二十年五月、連休を目の前にして一人の若者がいつものように女性ホルモン投与のために通い慣れたサンシャインクリニックへと足を運んだ時のことだった。
 若者の名前は瑞樹薫(みずきかおる)と言い、年は満二十六歳の商社で事務系の仕事に携わっていた。 見た目には何処にでもいる普通のサラリーマンだったが、その背広を脱げばワイシャツの下の肌着の下のサラシに巻かれた胸にはAカップ相当の乳房が存在した。
 そんな薫はいつものようにサンシャインクリニックの待合室のベンチで診察を待っている時、何気なく目にした本棚の隅っこに挟んであった一枚のチラシが今後の彼の人生を大きく左右することになった。
 誰が何故にこんな馬鹿げたチラシを作ってこのクリニックに置いて行ったのかし不明だが、時間を潰す薫にとって興味を引くチラシだったことは言うまでもないが、薫は辺りの目を気にしながらもジッとその内容を見詰めていた。
 そして暫くして名前を呼ばれた薫は慌てて立ち上がると本棚にチラシを戻そうとしたものの、躊躇しつつ咄嗟にそれを折りたたんでポケットへと忍ばせた。

 一時間後、診察とホルモン投与を終えた薫は、頭から離れないチラシの内容を疑いつつもある種の決心のようなものを心の隅っこに置いて帰宅の途についた。
 毎月一度の定期健診とホルモン投与は身体に負担のかからない程度とは言いながらも、徐々に薫の精神を不安定にさせ何かにすがりたいと言う思いも募っていた時期でもあった。
 
 そんな瑞樹薫の目に留まったのが「性転換無料」と、言う文字列だった。
 
 有り得ないと思いつつも、茶色と白だけの質素な作りのチラシに書かれた「性転換後の就労支援」と、言う如何にも水商売を思わせる文面と「思い切って女性として人生の再スタートを!」と、言うありふれた文字が脳裏から離れなかった。
 どんなものか話しだけでも聞いてみたいと藁にもすがる思いで、十畳ワンルームの狭い自宅アパートへと戻った薫は、ロングのカツラを脱ぐと額の汗をティシュで軽く叩いて拭き取りジャケットを脱いだ。
 そして冷蔵庫から取り出した麦茶のボトルをテーブルの斜め横に置くと、下着の中の睾丸の位置を気にしながら床に斜め座りして服の内ポケットに入れてあったチラシを取り出して目の前で開いてみた。
 今時、こんなチラシを作っている印刷屋もあるんだなと微笑しつつ、一番下に書かれた「厚労省認定NPO性転換支援センター」と、書かれた文字に視線を奪われた。 
 そして薫は上から下まで何度も読み返しつつ「性転換の費用は身体で払えと言うことかな」と、インターネットに出てくるサイトの情景を頭に想い描いた。
 だが薫はそろそろ追い詰めらつつある精神状況の中で、今を変えたいと心に忍ばせていた思いを無意識に口に出した。

「話しを聞くだけだから…」

 自分に言い聞かせるように申し込み資格欄を何度も見返して自分が適合していることに安堵の表情を浮かべると、決めたら即行動に出る薫の性格が表に出ていた。
 テーブルの上にメモ用紙とペンを置き左手で持った携帯を右側に当てた。 妙な感じがすれば切ればいいと、非通知設定でかけた携帯のスピーカーに集中した。
 コールが二度目から三度目、四度目と呼び続け五度目に入った瞬間「はい… センターです…」と、出たのは中年男性の低い声で親しみやすい声ではない暗い感じだったことに薫は焦った。
 明るい若い女性が電話口に出るのだろうと思っていた薫にとって、この中年男性の暗い声はある種の落胆を覚えさせた。 そして電話を切ろうと思いながらもチラシのことを口にする自分が居た。
 逸る気持ちを抑えつつも山ほどの質問があった薫だが、焦っては相手の思う壺だと自分を抑えつつ要点だけを質問すると、相手の中年男性はその全てに淡々と答えた後、面接の日時の前にある一次審査の待ち合わせ場所を伝えてきた。
 面接は支援センターで行うが希望者殺到のため、一次審査を別の場所で行うと説明した相手の中年男性は、横に居るであろう中年女性の指示を電話で薫に伝えた。 薫は電話口から聞こえる女性の声に安心感を覚えた。
 
「一次審査には御自分が一番、女らしいと思われる容姿でお越し下さい」

 相手先の中年男性の言葉に薫は「やっぱりか…」と、心で呟いて自信を若干喪失させ唇を軽く噛んで電話を切った。 美人ばかりを集めるのだろうと、ガッカリした薫は手鏡を持って自らの顔立ちを見て大きな溜息をついた。
 無料で性転換を受けさすのだからそれなりでないと元が取れないのだろうと意気消沈した薫は、その場でコロンと横になって天井を見上げると、インターネットサイトに出てくる美人ニューハーフ達を思い出していた。
 私なんか無理に決まってると、何度も大きな溜息をつく薫はホンノリと涙目になりつつ、下着の中で蒸れて痒くなった玉裏をスカートの上からボリボリと掻いて瞼を閉じた。

「尚、一次審査は本日の午後一時半、先ほど御教え致しました公園内の一番奥のベンチで御待ち致しております」

 閉じた瞼の裏側に相手の中年男性の顔を想像しつつ、ガバッと起き上がった薫は「駄目で元々だ!」と、時計を見るなり化粧を直してカツラをかぶると鏡の前でジャケットを再び着衣した。
 駄目なら諦めればいいと、自分に言い聞かせる薫は鏡の前でニッコリ笑顔を作って涙目を払拭してハンドバックを手に自宅アパートを出た。


【二話】



 腕時計の針を気にしながらバスに揺られて移動した瑞樹薫(かおる)はバス停で降りた瞬間、ホッと胸を撫で下ろした。 時間はまだ余裕で十五分あると、バス停から徒歩で数分の大きな緑地公園を目指して歩いた。
 すると、平日と言うこともあってか道行く人も疎らで公園に近づくにつれ人気は殆どなくなり、若干の不安も手伝って薫は何度か引き返そうかと躊躇しつつ足の速度を遅くしたり早くしたりを繰り返した。
 そして少しずつ見えてきた公園の入り口に人気の恋しそうな心細そうな表情を浮かべる薫は、公園の中から出て来た見知らぬ御婆ちゃんの姿にホッと安堵の表情を浮かべた。
 数分後、公園の入り口から数百メートル奥の方へ入った薫は、その先を見て「えっ!?」と、言う顔して目を凝らして立ち止まった。 上下黒スーツのサングラスを掛けた男達が十人ほど居て、上下白スーツの白髪の老人の座るベンチをガードするかのように立っていたからだった。
 どう見ても一般人ではない彼らが審査員なのかと首を傾げつつ、行くかどうか木陰に身を隠して考えた薫は「ここまで来たのだから…」と、自分にカツを入れて大きく頷くと、パンプスを履いた足を前へと進めた。 
 そして時折吹く微風に髪の毛をサラサラとなびかせつつ、指定された一番奥のベンチへと近づくと一斉に黒スーツの男達は白スーツの老人を守るよえに身構え薫の方をジッと見入った。
 すると、白スーツの老人はサッと左手で合図して黒スーツの男達の身構えを解くと、ニッコリと微笑んで立ち上がって薫に一礼した。

「あの! さきほどお電話致しました者ですが…」

 白スーツの白髪の老人の少し手前で両手とバックを前に一礼した薫に老人は、ニコニコ笑顔を絶やさず再びベンチに腰掛けると周囲に居た黒スーツの男達は十数メートルまで老人から遠ざかって行き、老人の手招きで近づいた薫の腰に突然両手を当ててきた。

「キャァ!」

 突然、身体を触られた薫は無意識に小さな悲鳴を上げて身を老人から離した。

「ああ♪ これはこれはとんだ失礼を♪ 私は外科医師の織部と申します。 宜しく♪ 審査に来る方達のチェックをしているのですがね、皆さん個々に身体を弄っておられましてな。 身体を弄ってないかホルモン剤の副作用はないかなど触診していた訳なのです♪ ただ貴方が余りにも健康体だったものですから… 失礼致しました。 二、三質問をさせて頂きます。 その前にお掛け下さい♪」

 申し訳ないとばかりに照れながら笑みを浮かべて詫びる織部医師を恐々と見入る薫だったが、嫌いではない優しい笑顔の老人の横に腰掛けると背筋を伸ばして呼吸を整えた。 するとこの老人は突然、薫の前を塞ぐように立ちはだかると、両手で薫の肩を触手したかと思うと斜屈んで両膝に両手を滑らせた。
 薫は触られる恥かしさから顔を紅くして俯き加減になって口元を硬く閉じて終るのを待ったが、一向に終らないことに「こんなところで! もうこれ以上のことは……」と、一瞬、声を大きくしたが直ぐにその声を窄め、それを聞いた織部医師はビクっとして薫のストッキングに包まれたフクラハギから手を引っ込めた。
 そして、手を上げて黒いスーツの男を一人、手招きすると薫のことだろうか、何やら耳打ちして立ち上がった。

「大変、失礼しました♪ 一次審査は通りましたよ♪ 後はセンターでの面接、頑張って下さい♪」

 織部医師は立ち上がると、薫に一礼してベンチの裏側の少し奥にある駐車場へと一人の黒スーツの男を残して立ち去った。 すると黒スーツの男は申し込み書を薫に手渡すと「数日以内に必要事項を記入して返送して下さい」と、事務的に説明して手渡すと一礼してその場を離れた。
 薫は渡された申し込み書を手に暫くそれに見入っていたが、名前と連絡先だけしかない申し込み書に違和感を覚えながらハンドバックに仕舞うと何処へも行かずに帰宅した。 そしてカツラをとって家着のワンピースに着替えると一次審査に現れた白スーツの織部を思い出し、生まれて初めてストッキング越しに触れられたフクラハギを椅子に座って足組して眺めていた。
 そして翌日、薫はいつものように乳房をサラシで巻いて隠し男装用のスーツに身を包んでいつものように出勤し、途中にあった郵便ポストから申し込み用紙を投函した。 取り敢えずは詳しい話しだけでも聞いて見たいと言う思いが、相手方の怪しさを白い霧で包み隠した。
 それから数日後の金曜日。 男としての勤務を終えた薫が帰宅すると、電話機にメッセージ入っていることに薫は胸中をドキドキさせ留守メッセージのボタンを押した。

「明日の土曜日午前十時に当センターへ起こし下さい。 合否は当日解りますので合格の場合数時間の説明と簡単な医療検査を実施します」

 薫は不安と期待を同時に募らせつつ、男装から女性へ戻るとその足で着替えを手に風呂の脱衣場へと移動した。 そして浴室に入った薫は眼下でブラつくペニスを見て「コレと別れられるかも知れない…」と、口元に笑みを浮かべて小椅子に腰掛けた。
 合格すれば夢にまで見た女性(ほんもの)の身体を手に入れられるのだと、鏡に映った自分の顔を見ながらボディーソープで泡立つスポンジを小さな乳房に滑らせたが、この夜の薫はアレやコレや考えすぎた所為で眠りに付いたのは深夜の零時過ぎだった。
 そしてセットされた目覚まし時計に起こされた薫は、眠い目を擦りながら勢いよくベッドから出るとそのままカーテンを開いて眩しい太陽の光を部屋の中に取り入れ大きな背伸びをした。 そして時計を見て「いよいよ今日だ…」と、鏡に向かって朝シャワーへと向かった。

「コレにしよう…」

 襟がV字に下へ伸びる大きめのフリルの付いた白いブラウスを手に持って身体に合わせた薫は、用意しておいたアーモンドブラウンのパンティーストッキングを下半身にフィットさせると、ブラウスを身に纏いグレー系のタイトスカートで下を覆った。
 何かの時に着ようと買っておいたスカートとブラウスとスーツがこんなに早く役立つとは思っていなかった薫は、化粧台の前に座ると濃くならないように自然な仕上がりになるように心がけた。
 そしてカツラをかぶった瞬間、薫は鏡の中の自分に「当たって砕けろだよ!」と、自分に言い聞かせ視線を合わせた。 そして足元に置いてある滅多に履かないローヒールの靴を箱から出すと玄関に置いた。
 
「もしかしたら変われるかも知れない… 苦しみぬいた日々から開放されるかも知れない」

 薫は土曜日の人の疎らなバス停を横切ると普段は使わないタクシー乗り場へと移動すると、時計を見て顔を上にあげて時折吹く風に髪をサラサラと靡かせて車を待った。
 すると風上から歩いてきた女子高生風の女の子達の会話が風に乗って聞こえて来た。 薫を見て「綺麗」と、言う言葉と「オカマ?」と、言う言葉にいつもなら背を向ける薫だったがこの日の薫は毅然として立ち位置を変えることはしなかった。
 そして数分後、乗り場に停車したタクシーに乗り込んだ薫をジーッと見詰める女子たちは再びそのシーンに「格好いい」を連発したが薫の耳には届かなかった。

「あれぇー♪ お客さんもですか? いやぁー少し前にも同じ住所のところへお客さんみたいな女性(ひと)を送り届けたばかりなんですよ♪」

 目的地の住所を言った薫に運転手の男は嬉しそうに話して聞かせたが、薫はその言葉にスカートの前側を覆った両手に軽く拳を握った。 全くライバルは想定していなかった薫は運転手の言葉に現実を見せられた想いがしていた。
 無料(タダ)で性転換手術を受けられる夢のような話しに例え安っぽいチラシであっても飛びつきたくなるのは薫も同じだったことに気付いたが、薫の落ち着いた表情はそのまま緊張に変わっていった。
 駄目で元々。 当たって砕けるまで。 そう自分に言い聞かせて車窓から外を眺める薫は運転手に聞こえぬように何度も呼吸を整えた。 そして目的地について車から降りようとした瞬間、薫はバランスを崩してよろけたが、車のドアに掴まり難を逃れた。
 だが、それをジッと見入る数人の長身な女性(おとこ)達の目に気付いた薫は咄嗟にその視線に自らの視線を重ねた。 女性(おとこ)達は薫を見て動揺しながら薫の目的地であるビルの中にその姿を消した。
 
 ビルの三階。 エレベーターから降り立った薫を驚かせたのは様々にドレスアップされた女性(おとこ)達の群れだった。 そして周囲の美しい女性(おとこ)達を見回す薫は逆に周囲の大勢から注目され挫けそうになりながらも、直立不動で周囲の視線に自らの視線をブツけた。
 こんなことで負けてはいられない。 そう思いながら自分の身の置き場所を探すように人込みの中を歩き始めると天井のスピーカーから案内が入った。 その瞬間、三階は急に静まり返って物音一つしない空間が生まれた。

「御来場の皆様にお伝えします。 これより面接試験を行いますのでお持ちの番号札を持って受付までお申し出下さい」
「え!? 番号札!? 何それ!?」

 流れた案内に青ざめた表情を見せた薫は周囲を見渡して緑色の番号札を持って受付へ向かう群集に戸惑った。 そして自分だけ番号札が無いのだと悟った薫は歯を食い縛ってその身を後退させた。 そしてその瞬間、後ろから突然声を掛けられその声に思わず目を潤ませた。
 
「瑞樹さん。 連絡が遅くなりまして♪ 瑞樹さんはここで受付をされる必要はないのです♪ 既に合格が決まっている方は四階の方へ起こし頂くことになっておりましてね♪」

 後ろを振り向いた薫に笑顔で詫びる織部に薫の緊張は一気に解れ同時に最大の安堵感を手中に収めた。 薫は受付に群がる群集を横目に織部の後ろをついて四階へと向かい数人のサングラスをした黒スーツの男達が同行した。
 そして四階へと到着した薫を迎えたのは三階とは違う静かな環境で、鉢植えの観葉植物がアチコチに散らばり中央に位置した場所には緑色の大きなソファーとその床には土をイメージしたのか、こげ茶色と茶色の混合されたじゅうたんが敷かれていた。
 そんな光景を見ながら織部の後ろを付いて行く薫をもっと安心させたのは、綺麗なスーツ姿の行き交う女性達だった。 サングラスを掛けた黒スーツの男達ばかりの空間は異様だっただけに薫の緊張感は一段と解れた。
 織部医師は中央のソファーに腰掛けるように仕草を見せると自らも対面するソファーに腰掛た。 するとそこへ清潔感のあるスーツ姿の女性が近づいて書類の入ったA4サイズの封筒を手渡すと、薫に「後ほど検査がありますので♪」と、優しい笑みをかけて立ち去った。
 
「私共は公には余り声を大にして活動している訳ではないんですよ♪ むしろ密かではあるものの性転換を本当に必要としている方だけにお越し頂いている訳で、まあ~ 三階にお越しの方々は残念ながら整形手術と女性ホルモンの摂取のしすぎで我々の希望する健康な方と言う指針に当てはまらない方々ばかりなんです。 ですから殆どの方は面接まで辿りつけるかどうかは疑問です… ただ、貴方にも検査は同等に受けて頂きますが結果次第では残念と言うことも考えられますので楽観は禁物です。 私は医師の立場であって面接官ではないですからね… おっ、そろそろ時間ですので検査は五階ですから、一緒に参りましょう♪」

 足組して白衣の裾を揺らした織部は柔らかい口調で薫の目を見て笑みしながら話し、薫もまた真剣に織部に視線を重ねた。 そして話し終えると同時に時計を見た織部は薫に声を掛けて立ち上がると織部に一人の綺麗なスーツ姿の女性が近づいた。

「こちらでございます♪ 気を楽にしてくださいね♪ 特別な何かではなく一般的な健康診断程度ですからね♪」

 薫に近づいた女性は不安な表情を浮かべる薫に声を掛けると一礼して織部と香るの前を歩いてエレベーターへと向かった。 スラリとしているもののメリハリのある身体付きのモデルさんのような女性は背筋を真っ直ぐに綺麗な歩き方で薫を圧倒した。 そしてエレベーターに乗った薫を後ろに振り返ることなく女性と織部は到着するのを待っていたが、僅か四階から五階への移動が異様に長く感じていた薫だった。
  
 


【三話】



 五階。 エレベーターを出るとソコは左右に伸びる廊下のようになっていて、廊下の向こう側には数メートル刻みで無数のドアが並んでいる小部屋の階だった。 左の1番、2番、3番。 右の1番、2番、3番とドアに印字されている奇妙なドアを前に、女性は薫に「こちらでございます」と、声を掛けると左側へと黒いストッキングに包まれた足を進めた。
 そして5番、6番、7番と進みやがて10番になろうとした時、案内の女性はそのドアを開いた。 そして中に入った薫に「瑞樹さんはここで待っていて下さいね♪」と、声を掛けた女性は織部と一緒に別のドアの向うへ消え、残された薫は個人病院の診察室を思わせる室内を見回して用意されたパイプ椅子に腰を下ろした。
 余り使用感の感じられない診察室の空気は病院ではなくオフィスの匂いを漂わせ、ホコリ一つ落ちていない床は一度も使ったことが無いのではないかと薫に疑問を匂わせた。 そして待つこと十分ほどしてドアから出て来た織部医師の後、先ほどの案内役の女性が看護師姿のワンピースで入って来ると薫に「身体測定から始めますからね♪」と、微笑んで薫を奥の方へと導いた。
 身体測定から血圧に血液検査へと数十分かけて進んだ薫に女性看護師は「織部先生が触診しますから衣類は脱いで下さい。 ああ、ストッキングはそのままで結構です♪」と、天井からブラ下がるカーテンをササッと引くと患者衣の入った籠を手渡した。 薫は言われるままにスカートとワンピースを脱ぐと患者衣に着替えてカーテンの中から出た。
 すると少し奥の方の椅子に腰掛けている織部医師が笑顔で薫を自分の場所に導き、薫はそのまま織部医師の下へと移動した。 

「ちょっと胸を開いて頂けますか? ああ。ブラジャーも外して頂けますかな♪」

 薫は織部に言われるがままに患者衣の胸元を大きく開き、恥かしそうに俯いてブラジャーを外して小さな膨らみを晒した。 そしてヒヤッとする聴診器を肌の表面にに受け入れると、次の瞬間「少し触りますから♪」と、薫の乳房の左側に手の平を這わせて軽く揺らすと右横に立っている女性看護師は「シコリの触診です♪」と、怖がる薫を安心させた。
 織部医師は聴診器と両手を使って薫の両乳房の検診をすると、今度は薫を後ろ向きにして背中に聴診器を何度も当て「健康そのものだね♪ これなら行ける♪」と、嬉しそうに薫に声を弾ませた。 そして薫にブラを着けさせると椅子から立ち上がって女性看護師の目を見て小さく頷くと診察室から入り口付近にあるドアから再びその姿を消した。

「はい♪ 診察は以上です♪ あとは大事なモノを採取して終わりです♪」

 女性看護師は患者衣のままの薫を連れて一番奥の窓際に置いてあるベッドの所へ行くと再びササッと天井からダラ下がる白いカーテンを引いて囲んだ。 そして何だろうと不安な表情を浮かべる薫をベッドに座らせるとその横に自らも腰を下ろした。

「それでね… 実はこれから瑞樹さんには精液を出して欲しいんです。 ここにある人肌に暖めたフラスコに精液を入れて欲しいんです。 驚いたでしょうけどコレは大事な検査なんですよ~ それで精液を出すにあたってはお手伝いする専門のスタッフを準備していますので、男性か女性の何れかを選んで欲しいの。 まあ、一人で出せるのならそれはそれでいいのだけど、実は精液と別に愛液も採取したいの。 愛液は中々一人では無理でしょうからね♪ あと、この部屋は薫さんとスタッフだけの二人だけにしますし完全な防音壁になっているから、聞かれたくない喘ぎ声やヨガリ声も我慢しないで放ってくれていいから、タップリ出して欲しいの…」
「えっ!? で… でもアタシ… 他人とそういうことしたことないから…… 恥かしい……」

 薫は看護師の言葉に顔を真っ赤にして恥じらいを見せると俯いて小さくうなずいたてみせた。 女性看護師は恥らいつつも顔を強張らせる薫の肩をソッと抱いてベッドに横にすると相手役の選択を小声で確かめた。 そしてそれに対して薫は初めてだから解らないと囁くと、女性看護師は「そうね… 女性には男性が自然かな…」と、怖がる薫の顔を覗きこみ小さく頷いた薫を見てその場を離れた。
 そして数分後、女性看護師から指示を受けて来たと言う爽やかな清清しい美青年を見た瞬間「え!? こんなステキな人…」と、薫は恥じらいながら「よろしくお願いします…」と、頭を下げ、相手役の美青年はニッコリと爽やかな笑顔を見せるとベッドに上がり薫をソッと仰向けにし、薫はストッキングを脱ぐ素振りをすると相手役の美青年は「ストッキングは貴女が官能するために必要なアイテムです♪ そのままで居て下さい♪」と、薫にステキな笑顔を見せた。
 
「さあ、目を閉じて何も考えないようにして♪」

 美青年は薫の患者衣の前側をゆっくりと露にしながら薫と添い寝してそして優しく頭を撫で、薫は緊張しつつも強張っている表情を少しずつ和ら始めた。
 生まれて始めて異性(だんせい)から口付けを受ける薫は両肩を緊張させそして小さな震えを相手に覚られた。 そして美青年は薫の肌に触れるか触れぬかのギリギリの触指で薫の本来持っている女性としての官能を目覚めさようと優しく喉元に舌を滑らせた。
 この後、薫は女性看護師の言葉通り診察室の隅々にまで浸透する喘ぎ声を奏でながらその身体を悶えさえ、美青年の手と口と肌の温もりで自らの恥かしい愛液を溢れさせ、そして自分以外の温もりで恥かしい白濁した液体を外に放った。
 そして全てを終えた薫を後戯するように抱きしめる美青年は耳タブを甘噛みすると「僕を忘れないで下さい…」と、耳元で甘く囁いてその姿を消し、その後、薫は初めての愛欲にベッドに溶け込むように眠ってしまった。 そして二時間後、ユラリユラリと身体を動かしつつ瞼を開いた薫は虚ろな目に飛び込む夕日を見て力の入らない両腕を支えにベッドの上に上半身を起き上がらせた。
 
「ここ… 何処……」

 カーテンを開いた薫は、見覚えの無い病室のような部屋の作りに辺りを見回し窓辺へと近づいた。 そして大きな窓から外を眺めると見覚えの無い景色の広がりに唖然しとた。
 エメラルドグリーンの海面と白い砂浜と何処までも続く青い空。 海外のリゾートホテルにでも居るようなこの景色に圧倒されつつ、大きな窓伝いに横へ移動した。
 
「あらぁ♪ お目覚めねぇ~♪ キレイな眺めでしょーう♪」

 突然かけられた声に身体をビク付かせて後ろを振り向くと、看護師姿からスーツ姿に戻った案内役の女性が立っていた。 薫は彼女めがけて近寄ると言葉を慌てさせた。

「ここ! ここは何処!? どうしてこんなところに居るの!? ねえ! 何処なの!?」

 顔色を変えて女性に近づいた薫は眠る前との何かの違いに怯えるように自分の足元を見てから目の前の彼女を凝視した。 眠る前は確かに自分より背の低かった彼女と同じ高さの目線に薫は激しく動揺し顔を強張らせた。
 
「瑞樹さんが眠っている間に面接は無事に終了して、検査結果も良好だったからね♪ 性転換手術も成功したし♪ お仕事の前にリフレッシュして貰おうとここへつれて来たのよ♪」
「えっ!? な、何を言ってるの!? 少しの間眠って居ただけで!? そ、そんな!? そんな… 直ぐには…… ええぇ! そんな馬鹿な! キヤアァァーー!!」

 薫に視線を重ねてニコニコ微笑む女性の言葉にウロタエて我が身を見回し仰天した薫は、悲鳴を上げてその場に尻からへたり込んでアヒル座りをしてしまった。
 床にアヒル座りした薫は呆然とし、自分が無意識にしたアヒル座りと見たこともない他人のような自分の身体に目を大きく見開いて放心状態に陥った。

「そ… そんな馬鹿な…… アタシ…… アタシは一体なんにち意識を失っていたの!? ねえ! 教えて! 一体何日… それにこの身体!? 何故、アタシの身長は貴女と同じなの!? そんなこと出切るはずない! 出切る訳がないでしょ! 頭がおかしくなりそうだわ!!」
「二ヶ月くらいかな~♪ 瑞樹さんが眠ってから目を覚ますまでは♪ でも、どうてすか~? 女性(ほんもの)になった気分は~♪ 骨格や骨の太さに全身の肉付きに胸の重さとか実感出きたでしょう~♪ 瑞樹さんは完全な女性の身体を手に入れたんですよ♪ おめでとうございます♪ あと、お顔もキレイになってますよ~♪ とっても美人だよ♪」
 
 呆然とする薫は我が身の変わり様に激しく動揺し震撼し声を震わせたが、そんな薫にニコニコとアッケラカンとして笑顔で接する女性は落ち着いた口調で性転換手術と全身と顔の整形の成功を嬉しそうに語り続けると、アヒル座りをしている薫の真正面に斜屈んで呆然とする薫を見て首を軽く横に倒して再びニッコリと微笑んだ。
 そして彼女に言われた薫は両手で自分の顔を恐々と触れると、口を半開きにして半泣き状態で顔を強張らせ両手でそのまま覆い隠した。 

「私は草野裕子。 よろしくね♪ まあ、ショックだとは思うけどね♪ アソコだけ女性になっても身体も顔も前のまんまだと不都合も多いし♪ 一度にやった方が身体の負担も少ないし♪ ねえ♪ おなか空かない? ねね♪ 一階に美味しいレストランあるから行きましょう♪」

 何処までもアッケラカンの裕子は涙ぐむ薫の顔から両手を引き離すと手鏡を渡した。 そして思い詰めた表情を見せる薫は恐る恐る手鏡を除いた瞬間、息を飲んだ。

「こ… これが私… え!? これが私なのお!? そ! そんな!」
「ネッ♪ 言った通りキレイでしょ♪ うふふー♪」

 手鏡を覗き込んで驚きの余り息することも忘れた薫に裕子はニコニコして首を傾げた。 

「ああ! そうだ! アソコ… アソコ見てみる!? 完璧に女性よ~♪ うちの先生にかかれば犬だって人間に変えちゃうんだから♪」

 手鏡の中を覗き込んだまま動かない薫の左腕を持って起たせた裕子は、少し離れたところから持ってきた等身大用の鏡を香るの前に置いた瞬間、薫は石のように固まった。
 患者衣の上からでもハッキリと解るほどくびれのあるモデルのようなスラリとしたボディーに、Cカップほどの見事な胸を持った美女が鏡の中に立っていた。
 鏡の中の生まれ変わった自分にウットリしている薫を他所に、裕子は椅子を薫の後ろに置くと患者衣をスルリと脱がせた。 その瞬間、鏡の中に眩しいばかり肌を持った美しい裸体が映し出された。
 そして薫の前に斜屈んだ裕子はアッケラカンとして薫の下半身からパンティーを下まで下ろすと、椅子に腰掛けさせ両足を大きく開かせた。 そして手渡された手鏡の中を覗いた薫は感極まってその美しい陰部に感動の涙をボロボロと流した。
 
「ねっ♪ キレイでしょぉー♪ これで安心した? さぁー これを着てぇ♪」

 肩出しのエメラルド色した膝上サイズのドレスと下着を手渡された薫は、裕子に言われ感動の涙を流しつつ身支度を整えて鏡にその美しさを映した。 そしてスリッパからお洒落なサンダルに履き替えた薫を裕子はグルリと見回してニッコリと笑みを浮かべた。
 クリーム色した大きな病室から手を引かれて廊下に出ると、大勢の白衣を纏った男性職員たちが立ち止まっては薫の美しさに見とれているのを薫は感じずにはいられなかった。
 
「この病院みたいなリゾートホテルはね♪ 貴女のために貸し切ったのよ♪ だから安心して寛いでね♪ お仕事に行くまでの間は貴女だけのホテルよ♪ うふふふふ~~♪」

 裕子に連れられてレストランに来た薫を出迎えたのは落ち着いた雰囲気とピアノの生演奏だったことに、薫は御姫様にでもなったかのごとく豪華な作りの室内に酔い痴れ生まれて初めて食べる見たことも無い料理と裕子のアッケラカンとした笑みに和みを深めた。
 そしてお腹を満たした薫は裕子に連れられて白い砂浜の感触と寄せる波の香りを楽しんだ後、ホテル周辺の散歩と中の探検に出かけ部屋に戻ったのは夕方近くになっていたが、体力の有り余る薫は夕日から放たれる真っ赤な陽の光の中でプールに飛び込んで新しい身体のバランスを実感して楽しんだ。
 だが、性転換と顔の整形は別としても、何故に身体までが萎縮してしまったのかと言う疑問は脳裏から消えることは無かった。
 



【四話】


「薫ちゃん♪ 新しい身体になったお祝いにね♪ 女の身体の素晴らしさを教えてあげるね♪ うふふふふ♪」

 夜の十時過ぎそろそろ寝ようかとベッドへと向かう薫を、カーテンの内側で正面から抱きしめた裕子は、その言葉に驚く薫に口付けをすると不思議にも薫は身体から力が抜けてベッドに崩れ落ちた。
 そして薫は薄っすらとした意識の中で裸にされると、そのまま肌に裕子の舌と触手を受け入れさせられた。 そして夢にも思わなかった裕子からの愛欲は生まれ変わった薫の身体に信じられない絶大な快感を与え、幾度もの全身痙攣の中で薫に壮絶なエクスタシーを与えられた。
 翌朝、ベッドで一人目を覚ました薫は身体の隅々に未だ残る深い官能と鋭い快感に起き上がることすら出来ずに居た。 身体がシーツに一瞬でも触れようものならその場でピタリと動きを止めずには居られなかった。

「もう駄目! こんなことしてたら起きられない! エイッ! はぁはぁはぁはぁ……」

 意を決して奥歯を噛んで一気に起き上がった薫は勢いつけてベッドから床に両足を下ろした。 そして立とうと辺りを見回すと裕子に前夜、脱がされたであろうパンティーを手に取った。 いつもより重さを増したパンティーに薫は「まさかお漏らし!?」と、眉間にシワを寄せた。
 そして立ち上がろうとした瞬間、天井からブラ下がるカーテンの端っこが薫の前側に擦れるように触れたその瞬間「あああんっ!!」と、薫は立っていられずにバランスを崩して再びベッドに尻餅をついた。 
 ジンジンと触れた箇所から身体の内側を通って隅々に広がった重々しくそして強い快感にも薫は尻餅状態から上半身をシーツに倒した。 そしてその快感に瞼を閉じた薫は無意識に開いた両足の真ん中に指を滑らせた。

「ああんっ! そ、そんな! ああああんっ!!」

 陰毛の茂みから割れ目伝いに指を滑らせた薫は、自らの勃起したクリトリスを指の腹で擦り回し全身をビク付かせながら奥へと移動させた。 そして窪みの内側から溢れるヌルヌルした液体を指に絡めとると、瞼を開いてその嫌らしい愛液を顔の傍で直視して震撼した。
 濡れる身体ではない自分から大量に溢れる愛液かを見た薫は、自分はどうなってしまったのだろうと激しく動揺し親指と中指を擦り合わせて指に伝わるヌメリに顔色を変えた。 そしてその指の匂いを嗅いだ瞬間、それが紛れも無い愛液だと悟ると恐ろしさに息を凍らせた。

「あらあぁ~♪ 起きてたのお♪ ダメダメー♪ 余計なことは考えちゃー♪ 折角、貴女の夢が叶ったんだから余計なことは考えないようにしないとね♪ うふふふふふー♪」

 自分から溢れた愛液に震撼する薫の足元から顔を出した裕子は、笑顔で語りながら薫の両足を持ち上げて膝を曲げさせると、そのまま「ペロリ♪」と、愛液に塗れた割れ目に舌を滑らせて舐めた。 薫は陰部から脳天を銃弾で撃ち抜かれたように全身を大きくビクつかせ腰を仰け反らせて甲高い恥かしい声を奏でた。
 裕子はそんな薫の割れ目の内側を「ピチャピチャレロレロ」と、無造作に舌を滑り回し激しく身悶えして仰け反る薫から余計な不安を取り除いた。 そして裕子の両手が香るの勃起した乳首をコリッと摘んだ瞬間、全身をヒクヒクさせて薫はエクスタシーにその身を痙攣させ失神した。
 
「生まれたては美味しいなあ~♪ うふふふふふ~♪」

 裕子は失神した薫の顔をチラリと見て尚も割れ目の中に舌を滑らせ白くて柔らかい乳房の感触に不適な笑みを浮かべた。 そして前夜を境にして裕子は毎晩のように薫に女の喜びを教え続け一週間が経過した頃、連れて来た美男子に薫の処女を奪わせた。
 薫は女として必ず一度は通る痛みの洗礼を受け枕カバーを涙で濡らし、その様子をベッドの横でニコニコして見入る裕子に処女喪失の瞬間を見届けさせ、処女喪失を果たしてから数日後には薫は美男子相手に自らも腰を振るほどに成熟していった。
 嘘くさい一枚のチラシから始まった薫の女への進化は、身体のみならず心の隅々まで脳の全体にまで広がりを見せ裕子と裕子に連れてこられた美男子を喜ばせた。 

「薫ちゃん♪ そろそろ御部屋へ移動しましょうね♪ もう貴女は完璧な女性よ♪ うふふふふ~♪」

 黒いレースのスリーインワン。 伸びたガーター紐に吊るされた黒いレース付きのストッキングはピッタリと太ももにフィットし、それを覆い隠すように紫色のドレスを身に纏う薫は、慣れた足裁きで深いスリットを靡かせた。
 新しく用意された部屋は淡いグリーンの壁とクリーム色の天井をした観葉植物満載の部屋で、ベッドは大きめのダブルを備えられていた。 そして大きな窓の横からベランダに出ると海から吹きつける柔らかな潮風に髪をサラサラと揺らした。

「どお♪ 気に入った? 思い出作りには最高の演出でしょ♪ うふふふふ~♪」

 横に立って薫の頬にキスした裕子は手すりに両手を置いて壮大なスケールの景観を見回した。 そんな裕子に困惑した表情を浮かべる薫は言いづらそうに声を苦しくさせた。

「こんなの変だよ… だって… だって! 性転換手術しただけなのに声まで変わるなんて! ぅぐ! それに濡れるなんて有り得ないよ! 今の医学はそこまで進んでないもの… それに! 身体が縮むなんておかしいよ! ね! お願い! 教えて! それとも… 本当は今の医学で!」
「はあーい♪ 質問はそこまで~♪ 不安なんてここでは必要ないよ♪ 貴女は現実に女性になって女の喜びを確かに実感してるわ♪ もっと楽しみましょ♪ うふふふふ~♪」

 真剣な表情を浮かべる薫の言葉をとめた裕子は楽しげな表情を変えることなく声を弾ませた。

「そう… わかったわ…… じゃあ教えて! 私はどんな仕事をするの!? 誰かの相手をするのは薄々解ってるけど… 何処でどんな」
「はあーーーい♪ それも含めてもう直ぐわかりまーす♪ うふふふふ~♪ てか、ホント言うと私も解らないのよね~♪」

 薫の思い詰めた質問を途中で断ち切った裕子は自分も詳しくは知らないと言い、その目に嘘はないと薫も思ったが、知りたいと言う気持ちは打ち消された訳ではなかった。
 
「私の仕事は貴女を楽しませることと~ 少しでも女性の身体に慣れてもらうことなのよね~♪」

 裕子は黙ったまま俯く薫に語りながら右下から顔を覗きこんだ。 

「じゃああの音はなんなの? 雷でも落ちたようなあの音… 私は怖いのよ… 時折聞こえるあの音……」
「んーーーーー 何だろねぇー♪ 私も何かなって思ってたんだけど~♪ うふふふふー♪」

 薫の質問に裕子は首を傾げて考えながら両手を後ろに回して傍を歩き回り再び薫の顔を覗きこんだ。 薫は裕子が何も知らないのだと思った。
 



【五話】



「初めまして♪ 今日から私がお仕事の準備のための事前説明の役目をすることになったイオです。 よろしくお願いします♪」

 ホテルに来て更に一週間ほどした翌朝、前夜に裕子とベッドで愛欲を重ねた薫の部屋を突然訪れたイオはリゾートには似合わない真っ白な肌で長い髪を後ろに縛っていた。

「あの! 裕子… 裕子さんは!?」
「申し訳ありません。 前任者のことは何も聞かされていないので…」

 白い半袖に黒いタイトスカートと黒いストッキングを履いたイオはベッドから出ようとした薫に両手を前にして頭を下げ、突然の担当替えに驚いて言葉を失う薫は肩を落とした。
 事前に何も裕子から聞かされていなかった薫は、何故に教えてくれなかったのだろうと寂しい気持ちのままベッドを出ると、イオが衣裳部屋から持ってきた黒いパンストを履きスカートとブラウスを着衣した。

「身支度が終りましたら早速参りましょう」

 イオは鏡台を前に軽く化粧し始めた薫の横に立ち薫を急がせる物言いをし、薫はチラっとイオを見て手を急がせた。 そして化粧をし終えた薫が立ち上がると、薫に一礼して付いて来て欲しい素振りを見せると部屋のドアへと歩き始めた。
 薫はそんなイオに事務的だなと思いつつ、後をついてエレベーターに乗ると、昨日まで無かった地下一階~三階と言う掲示の三階のボタンをイオは躊躇無く押した。

「あの! イオさん! 地下なんて昨日までは無かったはずよ! 一体どうなってるの!?」

 薫は顔を引き攣らせ声を裏返してイオに尋るとクルッとこちらを向いたイオは「私には解りかねます」と、冷たさを薫に感じさせた。
 そしてエレベーターは地下三階まで来たはずなのに止まることなく、再び動き出して表示階数のない場所へとドンドン降下し、薫は次第に息苦しさを感じ始めた。
 
「ねええー! イオさん何処へ連れて行くのぉー!! 壊れてるんじゃないのこのエレベーター!?」

 止まる気配の無いエレベーターに恐れ戦く薫は天井を見上げ室内をグルリと何度も見渡しつつ壁に背中をピタリとくっつけて無言のイオに違和感を覚えた。
 そして無言の数十秒が経過した辺り、エレベーターは軽い機械音と共にその動きを止めドアは両側へと軽快に開いた。 

「到着しました。 さあ、降りましょう。 これから行くお部屋は貴女がお仕事をしながら暮らして行く住居と殆ど同じ作りになっていますから、不自由しないようにしっかりと覚えて下さい」

 後ろに縛った黒髪が揺れながらイオは後ろに居る薫を振り返ることなく話しながらエレベーターを出て、薫はそれに無言で付いて行った。 エレベターを出ると廊下も壁も天井も全てが真っ白と言う奇妙に廊下に出て、その廊下は真っ直ぐに何処までも続いていて途中、何処にも入れそうなドアは無かった。
 そしてイオの後を付いて行くこと百メートルほどのドアを開いて中に入ったイオは、身体を薫側に向け軽く一礼してから招き入れた。 薫は大きく深呼吸して神妙な顔をして中に足を踏み入れた。

「先ほども申しましたが、ここは貴女が赴任される予定の場所の住居と仕事場の両方を勉強出きるように作られています。 まずは一通り見て行きましょう。 私に同行して下さい」
「ここが仕事場です。 既に察しは付いていると思いますが、男性のお相手をするのが貴女のお仕事です」
「ここに大き目のダブルベッドと壁に照明空調や冷暖房のスカイッチ類が配置されていますね」
「あと、向こう側のドアが貴女の住居に通じている扉で、こちらのドアが貴女を御賞味する方の出入り口です」

 両手を広げて身振り手振りを交えて大きなベッドとスイッチ類と出入り口の確認をするイオは歩きながら薫に視線を合わせた。

「そしてこのお客様用のドアですが、キーロック式になっていてこちら側からは出ることは出来ませんので予め留意下さい」
「次にベッドですが毎日ベッドメークの担当者が訪れてシーツや枕カパーを取替えに参ります」
「お仕事の部屋は見てわかる通り貴女を御賞味する場所ですからシンプルに作られています」
「続いてはコチラがお仕事を終える度にお身体を清潔に保つためのバスルームです」
「そしてコチラはトイレですが、バスルームとトイレも専用の担当者が毎日清掃に参ります」
「あと、ここが衣装部屋になっています。 ここではお客様を毎回キレイな下着と衣類で待つことになります。 一度使用したモノは全てシャワー毎に交換して頂きます」

 イオは話す度に逐一、薫の目を見て確認を取るように移動し十畳ほどの仕事場に対して三十畳ほどの衣裳部屋の引き出し類を手差しして見せた。 その物言いは完全に事務的で前日まで居た裕子とはまるで違う対応だった。
 
「スーツもスカートもブラウスも全て毎回ごとに替えて頂き、当然のことながら下着やストッキングも替えて頂きます」
「女性としてここを訪れる方に最高のオモテナシをして頂きます」
「あと。 アソコに表示されているデジタルの掲示板にその日の割り当てられた人数と開始の時間や終了時間が記されます」
「あとは必要な小物類。 コンドームや濡れない場合の時のローション類はここの扉に入っています」
「それと詳しい説明書と規則はこの扉の中に入っていますが、ここでは仕事中は無言でお願いします。 名前を聞いたり出身地を尋ねたりと言う行為は規則違反になり、一日のお仕事の成果が全て白紙に戻されますから注意して下さい」
「要は仕事中は無言に徹するということです。 規則違反すればその分、お仕事の期間が先延ばしになると言うことです」

 小さな扉から取り出したA4サイズの本を一冊だけ手に持って、中に入っているであろう数冊を手かざしした。

「お仕事場はこのくらいにして、次は住居部分の説明に入りますので、どうぞコチラです…」
「作りは広めの2LDKで、ここから外に出れます。 まぁ玄関と言うところでしょうか。 それとキッチンですがそれが重要ですコチラへ…」
「見た感じは普通のキッチンなんですが、こちらの壁、一面に自販機のような表面パネルがズラリと埋め込まれていますが、これは全て無料で無限に使って頂いて結構です。 その代わりここでは煮炊きは一切出来ません。 タッチパネル方式でモニターに映し出されたボタンを指でタッチしていくだけで世界中の、勿論、日本中のお料理が全自動で出て来ます。 飲み物やお酒の類も全て無料で制限はありません。 あと、使い終えた食器はここに入れて下さい。 あと、ここに無いモノはこちらのパネルで自分のレシピを作って入力して頂ければ次回からは自動化されます。 例えばカレーならここにボタン操作で数千種類のカレーを食べられますし、お寿司なら何処の国の何と言う店のと、ここまで詳しく設定できます♪ あと、解らないことはコチラのメインパネルで検索できるようになっています♪」
「次はお洗濯ですが、こちらへどうぞ。 ここではお洗濯は必要ありません。 使用済みのモノは全てこの扉の中に放り込んで頂ければ、衣裳部屋の引き出しに自動で補填されていきます。 そしてトイレですが、ここは数回ごとに壁に埋め込まれたローター式のトイレが回転して常に洗浄されている面を向くようになっていますから、実質的にはトイレの掃除も必要ありませんね。 貴女の衣食住の全ては自動化されていますから、お仕事の疲れを十分に取ってくれます♪」

 イオは二十畳程の壁一面に埋め込まれた自販機の表面のようなパネルの前に立って粗方の使い方を教えると、トイレの中に薫を連れて行き壁にある長方形の隙間を指差して実際にボタンを押してトイレを回して見せた。 こちら側を向いたトイレの便座が中心部から左に移動すると同時に右側から新しいトイレがクルリと回るように出て来て薫の前でピタリと止まった。 薫は目を丸くして自らもボタン操作をしてその光景に唖然とした。

「あとお風呂もそうですがトイレと同じでローター式で回転しますから貴女は掃除は必要ありません。 これから行く寝室も同じ仕掛けでベッドメイクやシーツの取替えは機械が全部自動でやってくれます。 それとリビングにはテレビやパソコンの他に、世界中の書籍、雑誌がキッチン同様にパネル操作一つで無料で制限無くお読み出来ますし、見終えたモノは洗濯モノ同様に扉の中に入れて頂ければ自動で回収致します。 貴女が生活ですべきことは全てが自動で機械が代行します♪」
「あと、お仕事については専門の方が私と入れ替わりで来ますからその時に説明を詳しくお聞き下さい。 それともう一つ。 外に出られる時の玄関の使い方ですが、こりように横にモニターがありますが、これもタッチパネル方式で自由に自宅の外を演出出来る仕組みになっています。 春夏秋冬のお好きな景観をボタン一つでお決め頂きその季節や場所の匂いを楽しめますので是非ご活用下さい♪ ただ、お仕事場に赴任されますとお休みの場合であっても日本のご自宅には戻れませんので、お仕事が全て終るまでお待ち頂きます」
「あとの細々したことに付いてはここで一週間ほど過して頂きますので、実際に使用して頭と身体で覚えて頂きますが、その間は私も一緒にここで過させて頂きます♪」
「さて、ここでの実習も一週間ございますので、一度地上ほ参りまして外の空気を吸ってきましょうね♪ あと、次回からここに入りますと一週間経過しないとここからは出ることが出ませんが、まあ、私も一緒ですからご安心下さい♪」

 一通り説明したイオは気難しい表情から一転してニッコリと薫に笑顔を見せるとホッとして傍にあった椅子に腰掛けた。 そんなイオに薫は辺りを見回して真剣な顔して口を開いた。

「イオさん。 ここまで設備を整えるということは私は一体何をさせられるの!? 男性の相手をするのは承知していますけど、たかが女一人のために。 正直、私。 怖いんです…」
「私はお仕事の内容を語る立場ではありません。 ご理解下さい」

 椅子から立ち上がったイオは再び薫を連れて地下の実習場から地上へと戻って来ると、薫に気付かれないうちにその姿を消し薫はホテルの中に戻って来た時、イオが消えていることに気づいた。
 何処かへ入った物音も感じられなかった帰り道、薫は何度も来た道を振り返りイオを待ったが出てくる気配はなかった。
 薫はこれから始まるイオとの生活実習に不安を覚えていた。


【六話】


 
 地下室へ行くまでに時間のあった薫は一週間はエメラルドともお別れとホテルを出て浜辺を一人散歩に出かけた。
 何処までも続く青い空の下で誰も居ない白い砂に足跡を残す薫は、何度も立ち止まってはグルリと身体を回して美しい景色を目に焼き付けていた。
 そしてお気に入りの場所へ来ると腰を砂に下ろして体育座りして両手で膝を抱いた。 スカートの中に入り込む風に「本当に女になったのだ」と、実感する一時は過去に例がないほどに薫の心を癒した。
 そんな中でも誰も教えてくれない仕事の中身を考える。 心の中で不安が募り考えても解らないことへ大きな溜息が吹き付ける熱い風に溶け込む。 自分を求める男の相手をすればいいのだと自分に言い聞かせるものの、自分に用意された莫大な経費を考えればそれが恐怖に変わる。
 見合うはずがない。 何億? 何十億? 商社で経理をしていた薫には自分の対価を遥かに超えるこの理不尽な企てが恐ろしくて堪らなかった。 薫は恐怖の中で腕の骨が自分のモノなのだろうか不安を募り、足を触りこの足の中の骨は本当に自分の骨なのかと心細くなる。
 両手で頭を抱いて「頭蓋骨」も「削られたの?」と、両手で押し付けて「砕けてしまうのではないか」と、両肩を窄めた。 考えるのは止そうと何度も自分に言い聞かせつつも百七十八センチあった身体が何故に百六十八センチになるのか、その理由が解らずに全身を怯えさせた。

「どうしました? 元気が無いようですが? 何か心配ごとでも?」

 解らないことだらけの中、両膝に額をつけて両手で頭を覆い怯えている薫に後ろから声が掛けられた。 優しい口調の声に全身の震えをピタリと止めた薫の右横に腰を下ろす誰か。
 
「僕はこのホテルの中で働いている者なのですが休憩時間は僕もこうして海を見に出るんですよ♪ 剣(つるぎ)と申します」
「あの! 教えて下さい! ここは何処の国のなんと言う島なんですか! そして私の仕事って何処の何と言うところで何をするのですか!」
「………」
「ご、ごめんなさい…」
「正直、僕らも何も聞かされていないんです。 ここを訪れる方に最高の思い出を作っていただくことが僕らの仕事なんですが… そうですか… 不安なのですね…」
「誰に何を聞いても知らない。 聞いていない。 担当が違うの一点張りでこの先のことを考えると辛くて苦しくて…」
「それは確かに苦しいですね… 自分が何処に向かっているのか解らないと言うのは…… ただ、貴女を粗末に扱うようなことは無いと思うますよ。 これだけの施設を貴女のためだけに借り切るのですからね。 粗末に扱うべく女性にこれだけの施設をと言うのは考えづらいですね。 恐らく重要な何かでしょうかね…」
「ごめんなさい… 見ず知らずの貴方にこんなこと…」
「いえいえ♪ 僕は何度も貴女を見かけておりますのでそれはよろしいのですが、何れにしても貴女に最高レベルのもてなしを言い付かっておりますからね。 ここでは悲観論を待たずに貴重な時間を楽しまれて欲しいですね~♪」
「ここは、私以外の人も過去に来たこと… あっ…… すみません。 バカなこと聞いて……」
「いえいえ構いませんよ。 まあ、リゾートホテルですからね色々なそして様々なお客様が大勢いらっしゃってますよ♪ そして時折ですが、今のように貸切も当然ながらございます♪」
「剣さんはここでは長いのですか…?」
「そうですねえ~ かれこれ二十年くらいになりますかね~ 一度このホテルに泊まったことがありましてね。 すっかりこの環境のトリコになってしまって元々は銀行員だったんですがね。 気付けば未だに独身ですよ。 あっはははは♪」
「剣さんと出会えてよかった♪ 少し楽になった気がします。 うふふふふ~♪」
「それは良かった♪ ああそうそう。 何かご要望とかありましたらお聞かせ下さいませんか? 直ぐに出来ることは早速取り掛からせて頂きますから♪」
「ああ、いえ。 私、夕方には地下の実習場へ移動するんです。 一週間。 この景色ともお別れなんです♪」
「えっ!? 地下!? はて… このホテルには地下なんてあったかな……」
「ええ♪ 地下三階で一旦止まるんですが、その後が凄い長くてまるで地下二十階くらいまである見たいな長さなんですよ♪」
「ああ、いえ。 私が来る前にはあったのかも知れませんが… そうですか~ なにせこのホテルは我々従業員でも立ち入れない階数やお部屋も多いのと、お客様用のエレベーターは使えないことになっているので♪ 申し訳ありません。 知らなくて♪」
「働いてる人も入れない場所とかあるんですか?」
「ええ。 もしかしたら貸切のときだけ地下が使えるのかもしれませんね。 ところで何かご要望ありますかね♪」
「いえ、今のところは何も… 強いて言えば、こんなステキなところに私だけポツンと居るのは… 寂しい気持ちになりますね…」
「そうですね。 確かにリゾートなのに。 賑やかさが欠けておりますの♪ では瑞樹様が地下へ行かれるまでには少しだけ賑やかに致しますか♪ お任せ下さい。 では休憩時間も過ぎておりますので僕はこれで♪ 後ほど窓からビーチを眺めて下さい」
「あ! あの! また、お会い出来ますか?」
「ええ♪ 喜んで♪ それでは失礼致します」

 薫は自分から離れて行く剣を座ったまま見送ると直ぐに吹き付ける波風に視線を移した。 そして数分ほど経過して再び剣の方に視線を移すと既に剣の姿は何処にもなかった。
 ホテルから女の足で歩いて十五分。 薫は自分から離れて僅か数分で剣が見えなくなったことに「またか…」と、その視線を打ち寄せる白い波に向けた。
 そして再び十五分ほど歩いてホテルに戻った薫は有り得ない光景に震撼した。 閑散としたホテルのロビーが旅行客でゴッタ返し広すぎるほど広かったはずのロビーは客で埋め尽くされていた。 そればかりか、何十人、何百人いるのか解らない客達は手に遊具を持ってビーチへ出かけ薫とすれ違い、そして楽しげな声が辺りに飛び交っていた。
 有り得ないことに慣れているはずの薫は目の前を通り過ぎてビーチへ向かう有り得ない光景に呆然と立ち尽くしていた。 そして次々にホテルの駐車場にかけつけるサーフボードを積んだ何百台もの車と、ホテルの前に止まるタクシーの列に「有り得ない…」と、心の中で呟きつつも何故か心をウキウキさせた。
 そしてほぼ満員状態の二階の喫茶からドンドン人で埋め尽くされるビーチを見て薫は笑みを零すと、遠くから暖かい視線を感じてそちらに視線を移動したがそこには誰も居なかったが「剣さんありがとう♪」と、心の中で頭を下げた。 そしてビーチは色とりどりのパラソルが花開き、大勢の海水浴客でその楽しげな声は風に吹かれてホテルの中にまで迷いこんだ。
 
 
 夕方の五時。 旅行客で賑わうホテルのロビーの隅っこにいる薫にイオが声をかけた。 そしてイオは朝方とは見違えるほど元気になった薫に驚いた。

「ねえ、イオさん。 私、貴方達の正体知ってるわ♪ 私、解ったのよ!」

 地下へ降りるエレベーターの中で、自分に背を向けるイオに薫は声を鋭く潜めた。 イオはその言葉に一瞬「ドキッ!」として、顔を強張らせて薫を振り向くと薫の目を見据えた。
 薫は口元に微かな笑みを浮かべて自分を見据えるイオの視線を逆に見据えた。 イオたちの正体を知って目を笑わせる薫と凍りつくような目をしたイオは視線を外すことなくエレベーターが止まるまで互いに見入ったままだった。
 そしてエレベターが止まると同時にイオは薫に背を向けたまま「とにかく私は担当として私のすべきことをするだけです…」と、そのままドアへと歩き続けた。 そして入り口のドアを開いて中に入った瞬間、二人の入った部屋からどちらかの悲鳴が廊下に響き渡った。


【七話】



「キヤアァァーーー! 放してえぇ! 放しなさあぁーい!」

 両腕を床に押さえつけられたイオは首を左右に激しく振って身体を起こそうと必死にもがいたが、上から覆いかぶさる薫を払うことは出来なかった。

「さあ! 本当のことを言いなさい!! 私を性転換したなんて真っ赤な嘘!! 本当は薬物で私を眠らせて動かない私をモルモットにしてるだけなんでしょう!! 白状しなさい!! どうせこれは現実じゃない幻覚なんでしょう!! さあ! 正直に白状なさい! どうせ貴女も作られた人間なんでしょおぉー!!」

 激しく抵抗するイオ以上に激しく声を荒げる薫は神を振り乱した。

「何を言ってるのお!? これは現実で夢なんかじゃないわ! どうしたのおー!? しっかりして薫さん!!」
「貴女! 私を馬鹿だと思ってるの!? たった二ヶ月で性転換と顔の整形と身長を変えられる訳ないじゃないのお! そんな医療が何処にあるのさあぁーー!!」
「でもお! これは事実なの! 事実なのよお!!」
「じゃあ! 聞くけど! 貴女が現実の人間なら自分の本名とここに来る前の住所とか言ってごらんなさいよ!」
「それは! それは…」
「ほら見なさい! 言える訳ないよねえー! そこまでプログラムされてないんだものねえぇー! 早く私を現実の世界に目覚めさせてよお!! 私に何の実験してんのよおおぉー!」
「実験なんかじゃーないわあ! 信じてえぇー! 貴女は本当に生まれ変わったのよおぉー!」
「この期に及んでまだ私を騙す気なのおぉー!? アンタなんかこうしてやるうぅー!」
「ああー! いや! やめてえぇー! イヤアアァァーーー!!」

 業を煮やした薫はイオに馬乗りになると着ていたブラウスの胸倉を左右に引き裂いてボタンを床に飛ばし、首に巻かれていたスカーフでイオの両手を後ろ手に縛りあげた。
 そして抵抗し続けるイオからスカートを脱がすと履いていた黒いパンティーストッキングを物凄い形相で破き始めた。 イオは両足をバタつかせ逃げようと床を転げまわったが、直ぐに薫につかまって白いスリップとブラジャーの肩紐を一度に外された。
 ピンク色した乳首とそれを支えるBカツプの乳房がプルプルと無造作に揺れ薫の前で空気を振るわせた。 そして唇を噛んで泣き出したイオからズタボロになったパンティーストッキングを両手でむしり脱がすと、同時に白いパンティーさえもイオから剥ぎ取った。
 イオは蛍光灯の灯りの下で半裸状態の辱めを受け首を横に倒して大粒の涙を頬に伝えた。 だが薫はそんなイオに同情することなく確かめるように二つの乳房を両手てせ鷲掴みした。
 
「もうやめてえぇー! もう十分でしょ! 私は幻覚じゃないし貴女も眠ってはいないコレは現実なのよお!! 何で解らないのお!!」
「何を解ればいいの? 何をどう理解すればいいのよお! たったの二ヶ月で全てが変わってこれが現実だといわれてそれをどうやって解ればいいのよお! しかも私は眠らされていたのよお!! だいたいこの施設は何! 地下室なんてなかったのに突然出来たり第一、何でここには時計が一つもないのよおお! あるのは私の携帯だけ! しかも何処へ移動しても圏外! 圏外なのにロビーや部屋ではテレビが映ってるわ! そのテレビにも時間は何処にも出ないなんておかしいでしょー!?」

 パンティーを剥ぎ取られ乳房を薫の前に晒されたイオは涙ながらに肩を震わせたが、それ以上に全身を震わせる薫は甲高い声を裏返して地下室に響かせていた。
 
「だからああ! だから私は何も知らないんだってばあぁー!! 私はここの説明が仕事で他のことは何も聞かされていないのよおぉー!」
「そお! じゃあここを借り切ったNPO法人名を言ってごらんなさい! 自分が働いてるところの名前も知らないとは言わせないわ!」
「NPO!? 私が働いているはNPOなんかじゃないわ! 私はこのホテルの季節従業員で夏場だけ来ているだけなのよお! いい加減に信じてよおう!」
「そお! なら聞くけど、私はどうやってここに来た!? 私はここで目を覚ましたのよ! このホテルの人なら当然、私がどうやってここに来たのか知ってるわよね! 貸切で入って来た客を知らないはずはないわよね!」
「それは! それは……」
「ほら♪ 言えないんじゃないの♪」
「貴女は眠っていたわ… 台車に担架ごと乗せられて運ばれてきたもの… 数人の医師と看護師に付き添われて… 貸切の時はいつもそうなのよ…… そして到着した貴女の世話を別の担当者が割り当てられたけど、私達は担当ごとに区割りされていて前任者のことも素性も顔すら知らないのよ! 本当よ… 信じて…」

 担架で運ばれて来たと言うイオの言葉に嘘はないと薫は思った。

「じゃあ、私のことは何か聞いている? 自分が担当する御客のことを何も知らないのは不自然よね?」
「それは……」
「そう… それも言えないのね… ならいいわ! 私が自分で行って事務方に聞いてみるから…」

 薫はイオの上から降りて立ち上がると、ドアに向かって歩いてノブを回した。

「?… ?… ?? 何これ?? 開かないじゃないの!」
「そこは一週間は開かないわ…… 朝方、言ったけど自動ロックが掛かって開くのは一週間後なのよ。 一週間たたないと爆弾でもない限り開くことはないし、仮に開いてもエレベーターは止まったまま動かないわ。 上で操作していんですもの…」
「そう! ならし方ないわね…… 解いてあげるから剣さんを呼んで頂戴! 剣さんならここを開けてくれるわ!」
「剣? そんな人はこのホテルには…」
「また始まったわ♪ いい加減にしてもらえないかしら♪」
「これだけのホテルなのよ! どれだけの人が働いていると思ってるの!」
「そう… そう来たか… じゃあこのホテルで一番古い人は誰? 剣さんは二十年もこのホテルで勤務しているそうよ!」
「二十年!? そんなはずはないわ! このホテルはまだ十年しか経ってないわ…… ロビーにあるホテルのガイドブックにも載っていたし……」
「そう! じゃ私は真昼間にビーチで幽霊と話したんだね! て言うか、まさかとは思うけど。 本当は貴女も幽霊なんじゃないの? 私の実家は寺だからその手の話しなら驚きはしないけどね」
「本当よ! 第一考えても見て! 二十年も経ったホテルに見える!?」
「そう言われれば確かにそうよね… そんな古さは感じないわね… じゃあ、この地下室はどうなの? 此間までは無かったじゃないの♪」
「ここは貸切の時だけ使う空間の一つで使用目的はその都度、そのお客様によって変わるから全てを語ることは出来ないけど… もういいでしょう… 腕が痛いの。 解いて頂戴…」
「まだ聞きたいことはあるわ。 取り敢えずここは何処の国で何て言う島なのか答えて! 知らないとは言わせないわ!」
「それは! それは……」

 床に仰向けで居るイオの真横、床に片膝付いてイオを見入る薫にイオが切羽詰ったように口を開こうとした瞬間、イオは驚いたように薫の後ろにその視線を移した。 そして薫はチクリとした突然の痛みを首の後ろに感じてそのまま気を失った。

「目が覚めたようね! 貴女が無用の疑問を持った所為でカリキュラムを変更することになったから説明しておくわ。 ここでの一週間の実習生活の次にやることになっていた赴任先での実習訓練。 男性を喜ばせる女性としての基本を勉強して貰います」

 クリーム色のソファーで右肩を下にして目を覚ました薫の真正面に立つ女の声は薫の耳に痛いほど突き刺さった。 そして薫は横になったまま床から視線を上へと移動させると、ハイヒール。 黒い網タイツ。 そして黒光りするレザーのボンテージを来た美人顔の女王様のような女の顔に行き着いた。
 左側に髪の毛を集めたサイドアップがその美人顔を更に引き立て、黒光りする長い手袋に待たれた黒い鞭が一層雰囲気を出していた。 何故、こんな人がいるのだろうと思いながら視線を前に固定したままゆっくりと起き上がる薫に、女王様は「アタハが貴女を一人前の女に調教するから覚悟しなさい」と、再び声を鋭くさせた。
 そして薫の姿勢がソファーの背凭れに垂直になった辺り、突然女王様の鞭が薫の足元を「ピシャリ!」と、叩いて音を出し、その音に驚いた薫は顔を顰めた。 

「アタシの言うことには全て従って貰うからねぇ~! そして逆らうことは許されないわ! もし逆らえば徹底的に身体に教え込むまでよ! さあ! みんな出ておいで! 今回のターゲットは極上よ!」

 ソファーに腰掛ける薫を前に声を笑わせて弾ませる女は薫の全身を舐めるように見ると、後ろを振り返って誰かを呼んだ。 そして直ぐに反応するようにドアの向うから黒いブリーフ姿のマッチョな男達が二人部屋の中に入って来て、女の両側に一歩下がって立った。
 ブリーフ一枚の男達の股間には恥かしくなるような一物のラインが浮き出ていて、薫はその姿に顔を少し俯かせて頬を紅く染めた。 そしてそんな薫をイラつくような表情で見下ろした女は再び薫の足元を鞭で叩いた。

「あのおぅ… 質問なんですが。 その… 恥かしくないですか? そんな格好して…… それに男性の方も… その見てて恥かしいんですが…… そのモッコリが……」

 薫の恐る恐るの物言いに二人の男達は自分の股間を見て顔を真っ赤にして後ろに組んでいた両手を前に、そのモッコリを隠して俯くとモジモジし始め、女王様風の女も顔を紅くしてウロタエルように視線を左右に泳がせた。

「な! 何を言う! ア、アタシを馬鹿にすると容赦しないわよ! 第一これから恥かしい思いをするのは貴女の方よ! 貴女にはこれから女の恥辱をタップリ味わって貰うわ~♪ うふふふふ~♪」

 女王様風の女は照れ顔を奥歯でかみ殺して真顔に戻すと、目の前の薫に再び声を鋭くさせると直ぐにその声を俄かに弾ませた。 そしてソファーに座って真っ直ぐ前を見る薫に命令口調を放った。

「スカートとブラウスを脱ぎなさい! 脱がなければ男達に脱がさせるわ! どちらを選ぶかは貴女の自由よ。 うっふふふ~♪」

 ニヤニヤしながら薫を見詰める女はその視線を固定したまま微動だにせず、二人の男達は相変わらず両手でモッコリを隠したまま俯いてモジモジしていた。
 そしてそんな三人を覗き込むような視線で見る薫は座ったまま両手を膝の上に置いて「私を調教するために隣室でそんな格好に着替えてきたの? アダルト映画とか好きなんですね♪」と、笑いを堪えるのに必死になる薫にモジモジする二人の男達は身体を斜めに向きを変えると中腰になって赤面した。
 
「な! 何いぃー! 下手に出てればいい気になって! もう許さない! 貴方達! この女を脱がしてしまいなさい!!」
「モジモジモジモジ……」
「何してるの!! ホラあ!! 早くなさい!!」

 女王様風の女の言葉に後ろの男達は互いの顔を見合わせそして再び俯くと女王様風の女は苛立ちを声に変えてブツけた。 そして数十秒が過ぎた頃、薫は「スッ」と、立ち上がって自らブラウスを脱いでスカートを脱ぎ捨てた。

「これでいいでしょ! 怒ったら二人が可愛そうよ! 序にスリップも脱げばいいの!? それとも全裸になって大また開きでもすれば予定通りなの!?」

 スリップの肩紐に左手を掛けたままソファーに腰を下ろした薫は目の前の女王様風の女を見据えてたまま目を反らさずにいた。 すると突然、声を震わせた女王様風の女がウロタエて薫の右側の天井付近の壁をチラッと見た。
 
「誰もスリップまで取れなんて言ってないでしょぉう! 勝手なことしないでぇー!! なに考えてるのおう!! 貴女、まさか痴女!? 恥かしくないの!?」

 モジモジしながら出て来たドアの方へジワジワと近づく二人のモッコリ男をチラリと振り返った女王様風の女は、一人取り残されそうになると引け腰になって薫から後退りした。

「で、何て呼べばいいの!? そのまんま女王様って言えばいい!?」

 スリップの肩紐から手を放した薫は足組して女王様風の女がチラリと見た辺りに小さな穴があるのを発見したが、そんな素振りを微塵もみせなかった。

「谷川美奈よ! 美奈でいいわ! 今更、女王様なんて呼ばれても気分悪いわ!」

 美奈はドアに近づいて逃げ出した二人の男を尻目に薫に名前を言うと、辺りを挙動不審者のように見回して、何やら顔を強張らせた。 そしてそんな美奈の異変に気付いた薫は美奈に声を放った。

「早く私を調教して! 調教したいんでしょ! 男達に私をレイプさせて私が泣き叫ぶのを見たいんでしょ! 恥かしい格好を私にさせて私を恥辱して楽しみたいんでしょ!」
「な! 何を言ってるのよ! アタシは変態じゃないわ!! 同性がレイプされてるのを見て興奮でもすると思うの!?」

 薫の言葉に自分の姿を見回して顔を赤面させる美奈はハッとした表情を薫に見せると、傍にあったベッドシーツを引き離すとそれを慌しく身に纏った。
 そしてホッとした表情を見せると突然、薫の傍に近づいて「お願いだから涙汲んで助けてとか言ってよ! 貴女だってもう気付いてるんでしょ! 茶番だってこと! ヒソヒソヒソヒソ…」と、耳打ちし薫の右手を「ギュッ!」と、握った。

「だったら本当のことを教えて! 貴女は誰に雇われて私に何をさせようとしているの!?」 
 
 薫の問いに気まずそうに顔を少し曇らせる美奈は小さな溜息をすると左側の壁に埋め込まれている隠しカメラに背を向けた。

「私はこのホテルの従業員… 彼らもそうよ。 多分… 多分よ。 アタシの勘なんだけどカリキュラムを見るとね… 多分、貴女がMかSかを調べるんだと思う……」

 困惑しつつ顔の表情を強張らせる美奈。

「一体、貴方達に指示を出してるのは何処の誰なの? 何でこんなことするの? 私はこれから何をさせられるの!? 第一、ここは一体何処なの!? 私、何も知らないのよ! ここで何が行われてこの先、何処に連れて行かれるのかも… 日本に! 私の住んでたところに帰りたい! 怖い!」

 美奈の言葉を聞いた薫は美奈の後ろの壁にあるであろう隠しカメラをチラリと見て、両手で口元を覆った。

「アタシにもここが何処なのか解らないのよ… 時給のいいバイトがあるって人に誘われて面接受けたと思ったら急に気を失って気付けばここにいて。 そしてちゃんと言われた通りに仕事をすれば給料払って日本に返してやるって言われて… それも個室から流れるスピーカーからよ! 怖くて怖くて! 貴女に関わってる人たちは全員さらわれて来た人たちばかりなのよ!」

 口元を両手で覆った薫を見て恐怖が増したのか、美奈は半泣き状態になって薫に苦しい胸の内を告白した。 そんな美奈を見た薫は美奈に自分の身に起きたことを告白しようと口を開いた瞬間! 突然凄まじ区眩しい光が二人を覆い耳が壊れるのではないかと言う物凄い「キイイィィーーーン」と、言う音に薫は目を瞑って両耳を力いっぱい押さえた。
 



【八話】


「ここ… 何処……」
「ズキッ!」
「痛っ!」

 目を覚ますと同時に薫は強い頭痛に顔を顰めつつゆっくりと起き上がりながら辺りを見回した。 霞む視線の先に目を凝らし耳を澄ませ自分の居る場所グルリと見回した。

「なっ、なにこれ!? そんな!? どうしてこんなとこに!!」

 薫は自分の背丈程の縦横数メートルの鉄の檻(おり)の中に居ることに激しく動揺し硬い木の板の上に敷かれた干草をバサバサと蹴散らした。
 巨大なヤシの木が十メートル程の間隔で無作為に立ち並ぶジャングルの中、地上に組まれた台の上に置かれた檻は薫が動く度に金属と木が擦れ合う音を放った。
 辺りを見回しても人間の姿はなくかと言って動物の気配もない、立ち上がって鉄格子を両手で掴んで見回すものの四方八方は巨大なヤシの木が群生しているだけだった。
 誰かに運ばれてきて放置されたのだと思った薫は、これからどうなるのだろうと不安を隠すことなく心細さに肩を窄めその場に座り込んだ。
 そして自らの両腕で身体を抱きしめると不安げに首を左右に回して辺りの様子を覗い時折思いついたように後ろを振り向いた。 その瞬間、前側から突然声を掛けられた。

「頭痛は止まったようだな」

 聞き覚えの無い太い男の声にその身を震撼させ後ろから前に視線を移動させた薫は、息を飲んで再びその身を後ろに半身ずらした。 

「取り敢えずは元気そうで何よりだ」

 黒い頭髪を肩まで伸ばした筋肉質な男はターザンのように下半身だけを獣の皮で覆い隠し、日焼けした胸板に薫の視線を釘付けにした。

「貴方は誰!? どうして私はここに居るの!? ここから出して頂戴!」

 両肩を自らの両腕に抱き怖がる薫は閉じ込められている折の内部を見回して悪人には見えない男に声を振るわせた。 すると男は鉄格子を両手で掴んでそのままスッと斜屈むと、ニッコリ笑みを浮かべて薫を見入った。

「いいや、アンタはこの中に居た方が安全だ。 ここは凶暴な獣で溢れているからな♪ 居心地はよくないだろうがここがジャングルでは一番安全な場所なんだ♪ 俺の名前は藤岡。 この辺じゃ隊長と呼ばれているよ。 あっはははは♪ で? アンタが新しい研修要員さんかい? 美人さんなのにヤツラの逆鱗に触れたようだな♪ 普通ここへはアンタのような美しい女性は来ないんだが。 まあ来てしまったからにはその服が似合う場所まで連れて行かないとならないな♪」

 藤岡と名乗るターザンのような男は、両手で握った鉄格子を斜屈んだままギシギシと腕の力を試すように引っ張るとニコニコして薫の目からその視線を胸に移動させ、薫は咄嗟に胸を両腕で覆い隠した。 
 
「あっははははは♪ 怖がらなくてもいいよ♪ 今は何もしない♪ その服が似合う場所に行ったらアンタの身体を味見させてもらうからね♪ 隊長としてアンタを守る義務を負っているんでねアンタからは身体で報酬を払ってもらうよ~♪ しかし何年かぶりに見たよスーツ姿の女性はね~ あっはははは♪」

 藤岡は満面の笑みして突然立ち上がると、筋肉質な両足首を交互に回して片手を天に向けて伸ばし別の指を使って大きな口笛を鳴らした。 その瞬間! 突然「バタバタバタバタ!」と、耳をつんざくような機械音が遠くから聞こえてその轟音は徐々に近づいて周囲に物凄い風を巻き起こした。 薫は両手で耳を塞いで干草の上にその身を座ったまま正面から横にして身を守った。
 そしてドンドン近づく轟音にその身を震わせていると、その音はやがて自分の真上に移動していることに驚いて首を横にして閉じた瞼を開いた。 太陽の光をさえぎった巨大な鉄の塊は藤岡の合図でフックの付いたワイヤーのような物を数本垂らし藤岡はそれを檻の上部に引っ掛けると、そのまま檻の上に乗ってワイヤーを片手で掴んだ。
 その瞬間、藤岡の合図で薫の入った檻は宙に舞い上がり薫はドンドン遠ざかる地面に「キヤアァー! ヒイィィーー!」と、悲鳴を上げ両手で頭を抱えて飛び散る干草に丸まった。 藤岡はその様子を檻の上からニコニコと清清しい笑顔を見守りつつ巨大なヘリコプターに合図を送っていた。 
 巨大ヘリコプターは薫と藤岡の乗った檻を吊るしたまま高さ数十メートルを水平に移動し、薫は生きた心地のしないまま檻が地上に舞い降りたことも知らずに丸まって震えていた。

「あっははははは♪ 怖かったかあ~い♪ さあ♪ 到着したからね安心していいよ♪」

 檻からワイヤーを外した藤岡は地面に立って中で頭を抱えて丸まった薫に爽やかな笑い声を掛けたが、薫にはその声は全く届かず困り果てた藤岡は周りを見渡して高電圧の柵の内側にいる数人の兵士(おとこたち)に薫の見張りを言いつけると、自らは直ぐ傍のコンクリート製の三階建ての建物へと入って行った。
 そして藤岡の立ち去った後、四人の兵士(おとこたち)は檻の中で蹲る薫の姿を自動小銃を両手に持ったままチラチラ見ては柵の向こう側に視線を向けた。 そして十五分ほどした辺り、ようやく薫の緊張感が溶け始めた頃、薫の耳に「いい身体してるな… 美味そうだ…」と、囁く兵士達(おとこたち)のヒソヒソ声が聞こえ、薫はギョッとして頭を抱えたまま上半身を起こして辺りを見回した。

「キヤアァァーーー!!」
「ガチャガチャガチャ!」
 
 突然の薫の悲鳴に薫を護衛している四人の兵士達は自動小銃の安全装置を外して柵の方に身構えた。 一瞬、極度の緊張感が走った後、檻の外にいる兵士達を見て薫が悲鳴を上げたことを兵士達は悟って緊張の解れた笑みで顔を見合わせた。
 だが薫は手に自動小銃を持つ兵士たちを四方に見て顔を強張らせガチガチと身体を震わせて、再びその場に蹲った。 すると少し離れた場所から藤岡の声が聞こえた。

「おいお♪ 御嬢さんが怖がってるだろおう~♪ お前らを見て悲鳴を上げたんだろ♪ さて、瑞樹さんだったね。 今、鍵を貰ってきたからね直ぐに出してあげるからまってなさい♪ お前らも休憩に入っていいぞ♪」

 爽やかな笑顔が想像出来る安堵感のある藤岡の声に薫は、余りの恐怖からボロボロと大粒の涙を零して口元を両手で覆った。 そんな薫を早く外に出そうと藤岡の鍵を開ける手に力がこもった。 そして鉄の扉が開くと腰を屈めた藤岡が薫に向かって手招きして出るように声を掛けた。
 そして涙を零しながら藤岡の方に視線を移した薫は、ワイシャツを着てネクタイを付けたスーツ姿の藤岡に驚きながらも干草の上を這って檻から外に出た。 そして立ち上がった瞬間、薫し突然藤岡に抱きついて白いワイシャツを涙で濡らした。

「おおぉー♪ おっ♪ おっ♪ おおーっほほ♪ これはこれは♪」

 抱きつかれた藤岡は軽く赤面しつつ照れ臭さから太い声を出し辺りを見回し、兵士達も藤岡を見て羨ましそうに驚いた顔を見合わせた。 そして兵士達からハグしろと言う身振り手振りを見せられた藤岡は軽く頷くと抱きつく薫をその太い両腕で抱きしめた。
 数分間、藤岡は照れながらも薫を抱きしめその姿を兵士達に晒しつつ薫を連れて白い建物の中へと姿を消した。 

「まあ、適当にその辺に座りなさい。 見た通りここは男ばかりのジャングルの施設だが我々は麻薬撲滅のためにここで日夜戦っているんだ。 まさか君のような可愛い娘がここに来ようなんて夢にも思ってなかったよ。 あっははは♪ と、言っても君にはこれから、まあ、そのなんだな♪ まあ、上のヤツラの指示によれば、その俺達を相手に男を喜ばせる女としての最低線の基本と言うか、いや~♪ 照れるものだねこう言う話しは♪ あっはははは♪ で、それを覚えて貰うということになっているんだが。 正直、困っているんだよ。 君のような可愛い娘にそんな汚れたことをさせて良いのかどうか。 俺はここの司令官として。 まあ、上に立つ者として気が乗らないと言うか、その何と言うか。 あははははは♪」

 ゴツゴツした木の椅子に腰掛て背筋を伸ばす薫の前、同じく椅子に腰掛けて足組する藤岡は真っ赤に赤面して両手で顔を覆い隠したり、恥かしそうに照れ笑いして落ち着き無く振る舞った。
 薫はそんな藤岡を見て正直で素直な男性(ひと)なのだと無意識に口元に笑みを浮かべ藤岡に見入っていた。 

「まあ、幸いにしてここには監視カメラの類は何処にも無いからねえ、上には報告書だけで済ませられるんだけど、まあ♪ 俺がこんな性格なもんだから、あはは♪ まあ、残念と言うか勿体無いというか♪ いやぁ、女性相手に話すなんてのはここへ来る前に母親と二言三言会話した程度だからねえ~♪ あっははは♪ しかし、今日は暑いねえ~ クーラー直したはずなんだが♪ いやはや♪ まったく♪」

 室内を見回して漢詩カメラの無いことを照れながら語る藤岡はワイシャツを汗でビッショリと濡らしセンスでパタパタと顔を扇いだ。 そんな藤岡を見ていた薫は目をパチパチさせてスクッと立ち上がるとポケットからハンカチを出して大きな藤岡の前に立つと、藤岡の右肩に手を置いて藤岡の額の汗をパタパタと拭き始めた。 
 すると藤岡は突然、無言になって石地蔵のようにカチコチに動かなくなった。 薫から立ち上る女性の甘い香りに藤岡は目を閉じて息する音を静かに薫が離れるまでジッとしていた。 そして薫が離れる瞬間に巻き起こした微風に舞い上がる甘い香りに藤岡は無意識に深呼吸してウットリした表情を浮かべた。

「俺は君を汚したくない! 君は俺にとって、いや! ここにとって妖精なのかもしれない… 美しい花は手を触れずにその愛らしさを見ている方がいい…」

 薫は目を閉じたまま低い声で語る藤岡の言葉を背中で聞くと、クルリと身体の向きを変えて再び藤岡に近づいた。

「私は藤岡さんの考えているような女ではありません… 現に私はこうしてここに来たと言うことは」
「シッ! その先は言わなくてもいいよ… その先を君の口から聞かされることが俺にとってどんなに残酷なことか… とは言っても実際には我々には来る者の情報は一切開示されないからね。 まあ、ジャングルで暮らすケモノの勘てヤツなんだが… それはそうと汗をかいたろ? 何処から来たのか解らないが、ここは太陽に近い場所だからね、熱いシャワーだけは年中あるからね、今、案内するよ♪ あと、我々は入れないんだが来客専用の部屋があって君はそこを使うことになっているからね。 着替えも多分、そこに用意されていると思うから使うといい。 あと、使い終えた衣類は焼却処分になっているから、部屋に備えられた場所に放り込んでくれればいい。 心配しなくてもいいよ♪ 君の使ったモノを外のケモノ達に触れさせたりはしないからね♪ さあ、こっちだ♪」

 薫は藤岡に自分の素性を放そうとしたものの、直ぐにそれを藤岡に止められた。

「君がここに居るのは確か二週間の予定だから、迎えが来るまでは心穏やかにしていればいい♪」
「隊長さんはいつからここに居るんですか? 食事なんかはどうされているんですか?」
「ああ、ここが君の部屋でここは君の指紋以外では開かないからね。 ああ、ここへ来てもう十年以上になるよ。 食事は全自動の機械… ああ、機械と言うよりはロボット… いや、自販機のようなモノかな~♪ とにかく世界中の料理がボタン一つで出てくる優れものなんだ♪ 君にも後で使い方を教えるんらね♪ ああ、俺達はここへは入れないから後でまた♪ シャワーやトイレやなんかは全て部屋に備えられているからね♪ 自由に使っていいからね♪」

 一階から二階へ移動する白い階段の途中で藤岡と話した薫は案内された部屋の前で藤岡と別れると、壁に付けられた装置に手をかざした。 ピピッと音がして開いたドアにはノブらしきモノはなく自動で開いて薫が中に入ると同時に、再びピピッと音がしてそのドアをモーター音と共に閉じさせた。
 十六畳ほどのリビングを備えた2LDKタイプのクリーム色の部屋にはエアコンが部屋ごとに備えられ、リビングにおいては二基が備えられていた。 そしてここの指揮官である藤岡さんでも入れないと言う部屋は、チリ一つホコリ一つない見事な清掃が行き届いていて、誰も入れない部屋なのにと、薫は違和感を覚えつつバスルームを確認後、寝室の壁に立ち並ぶ観音扉の埋め込みタイプの洋服箪笥を開くと、その引出を開いて中をチェックした。 
 そして何箇所か開いてみた薫は、全ての下着や衣類やストッキングまでもが、全て自分のサイズになっていることに再び違和感を感じた。 こんなジャングルの中で司令官でも入れない部屋の掃除や衣類の取替えは一体誰がやってるのだろうと、開いた引出の中からビキニの白いパンティーとブラを取り出し考えつつ、いつもの不思議な光景と思いながらバスルームへ移動した。
 バスルームは脱衣場と浴室を合わせて六畳ほどの広さで浴槽は女の薫なら手足を伸ばして入れる広さだったが、湯量が気になりながら温度調節をしてゆっくりとハンドルを回した薫の頭の上に大量のお湯が降り注いだ。 藤岡の言う通りお湯は豪雨のごとく降り注ぎかおるは慌てて湯量をしぼりつつハシャグように歓喜して声を上げた。
 一人でバスルームの中でハシャぎ歓喜な声を上げる薫は、元は男だったことすら記憶にないかのように楽しげな声をあげハンドルを回して豪雨のようなシャワーで全身を包んだ。 そして汗を流してサッパリした薫は上がり際に水で身体を冷やそうとコックを開いた瞬間、藤岡の言う通り出て来たぬるま湯に唖然とした。 太陽に近いジャングルでは冷たい水は期待できないと悟った。
 
「おおっと♪ こりゃこりゃ参ったね~♪」

 髪型をサイドアップに薄化粧した薫は肩だしの黒いミニドレス姿で藤岡のいる司令室を訪ねた。 藤岡は片手で一瞬、目を覆い赤面して照れ笑いすると薫の下半身を包む黒い網タイツを少しだけ隠す赤いサンダルで視線を止めた。

「おいおい~♪ 何処に目を向ければいいのかわからんぞお~♪ あっはははは♪」

 藤岡は自分に近づく薫をチラチラと見ては照れ笑いして、目の前の大きな机に広げられた山岳地図を見るものの薫が気になって椅子をクルリと薫へ向け視線を下げた。

「暑苦しいかも知れないけど… その… 藤岡さんに見てもらいたくて……」

 恥かしそうに俯いてその視線を黒いアミタイツに包まれた脚に向けた薫は、藤岡に合わせる薫は傍へ近づくと両手を前にして深々と頭を下げた。 そんな薫を見た藤岡は片手を頭の後ろに当てて困惑げな表情を見せつつ照れ笑いして自らも立ち上がると、薫に「こちらこそ♪」と、嬉しそうに笑顔を見せた。

「あのぉ、食べ物の機械… 私のお部屋にもあるんですけど… 使い方が解らなくて…」
「えっ? 来客室にもあるの? うん。 まあ。 そうだね~ 来客が兵士達と同じ場所で食事するってのも変だとは思ってたんだけど。 じゃあ、俺は上の部屋へは入れないから、一階でよければ使い方を教えるよ♪ なあーに、基本さえ解ればあとは応用だからね♪」
「あのぉ、二階のお部屋で教えて欲しいんですけど… ダメですか……」
「あっ、いぇ、今、見て来たんですけど、同じモノじゃないみたいで…」
「えっ? 一階と二階は違う機械なのかい? 妙だな~ 使い方を教えるように指示書にはあったんだけどね♪ 違ってたら教えようがないな… よし! じゃあ、入れない規則にはなっているけど使えないんじゃどうしようもないな。 見てみるかあ……」
 
 申し訳ないとばかりに頼む薫にニッコリ笑みを浮かべた藤岡は、初めて入る二階の来客用の部屋に緊張した面持ちを見せつつその大きな身体を移動させた。 そして指紋キーでドアを開いた小さな薫を横に大きな深呼吸をした藤岡は大きく頷くとその身体を中へと移動させた。
 そして後から付いて入った薫はキッチンを指差して、藤岡は緊張して太い眉毛の間にシワを寄せて進んだ。 

「こっ、こりゃあ、新型じゃあーないかあ~♪ あっは♪ こりゃー驚いた♪」

 壁に埋め込まれた自販機のような形をした機械を前に、藤岡は両腕を左右に大きく開いて歓喜な驚きをキッチンに響かせた。 そして隣りに起つ薫を前に満面の笑顔を見せると自販機の前に斜屈んでその表面を見回した。

「こりゃ驚いた! 冷たい水も飲めるらしい♪ 一階にも一応は付いてるんだが、なにせ温くてね~♪ 一杯、貰ってもいいかな♪」

 嬉しそうに笑み浮かべる藤岡を見た薫もまた嬉しそうに大きく頷くと、藤岡はタッチパネルを操作して取り出し口からギンギンに冷えた水の入ったコップを二つ取り出した。

「うん! こいつは美味い!! 薫ちゃんも飲んで見なさい♪」

 冷えた水を一気飲みした藤岡はこれ以上ないほどの笑顔で薫を見ると、薫は嬉しくなって冷たく冷えた水を喉に流しこんだ。 そして藤岡に視線を重ねた薫はその冷たさに首を震わせて大きく数回頷いて見せたが、薫は冷たい水よりも藤岡との一体感のようなものの方が嬉しくて堪らなかった。 
 

 
 
【九話】



「薫ちゃん。 すまんが俺はこれから部下達と一緒に敵陣を視察しなきゃならんから、君はここに残って部屋に居るんだ。 連れて行きたいところだが来客は危険の伴う外には出せない規則なんだ。 まあ、数時間で戻るがいいかい、この部屋から出てはいけないよ。 いいね!」

 司令官である藤岡は女に飢えた獣達の居る施設に薫を残していくことに不安を抱えつつ、何度も部屋から出ないことを助言してヘリコプターで部下達共に施設を飛び立って行った。 そしてそれを二階の指紋ロック式の部屋の窓から薫は見送って音が聞こえなくなるまで開いた窓の傍を離れなかった。
 だが、獣達の親分格である副司令官の罠に嵌り一階へと降り立った薫は、複数の獣達(おとこ)に広間から副司令官の部屋へ拉致され無残にも女として死ぬほど辛い辱めを受けるに至った。 
 
 そして司令官である藤岡の留守中に副司令官と数人の兵士達に力ずくでレイプされ辱められた薫は、その終焉に全身に射精されその柔肌に塗り付けられた精液に目を開くことも出来ずに咽び泣いていた。
 施設に戻った藤岡は、騒がしい男達(けもの)の声に、一階の奥にある副司令官の部屋を訪れその光景に狂乱したが、上からの指示書を読むことの出来る副司令官は指示書に従ったまでとそれを突っぱねその場から立ち去った。
 床には薫のズタボロに破れた衣類と下着が散乱し、片足に残る破れたパンティーストッキングが男達の性欲の凄まじさを物語っていた。 薫は全身に塗りつけられた精液臭で覆われうつ伏せで咽び泣き、そしてこの日から薫は笑顔が失った。
 

 数日後


「お前、つくづく馬鹿だな… この指示書を来客に実行できるのは司令官である俺だけだろうに… 新しい指示書が来たから目を通して置け…」
 
 事務室で椅子に座って腰掛ける司令官の藤岡は、目の前で両手を後ろに起立する副司令官に吐き捨てた。 そして藤岡から指示書を手渡された副司令官の顔色が直ぐに変わった。

「副司令官はF戦場へ早急に移動を命ずる」と、書かれた指示書には薫をレイプした兵士達の全員の名前が記されていて、副司令官はその戦場の場所を目にするや口を大きく開いたまま両手で頭を覆い絶句して呆然と立ちつくした。


「行ったら一人も戻って来た者はいない… あそこは誰も行きたがらない。 と言うより上は探していたんだろうな…」
 戦闘服姿で足組する藤岡は両手を前に座る椅子を左右にクルクル回した。

「そんな馬鹿なあ!! 何故、あんな場所に俺が飛ばされるんだ! あんなところへ行くくらいならここで死んだほうがいい!!」
 戦闘服姿で両手で頭を覆う副司令官は声を限りにその恐怖に叩きのめされていた。

「馬鹿はお前だ! よく指示書を見てみろ! 来客(おんな)に男を喜ばせる術を教え育てることと書いてあるだろ! 来客を犯せだのレイプしろだの恥辱しろとは何処にも書いてない… お前は来客に地獄を見せた罰として、お前自身が地獄へ行かせられるんだよ… 規約違反にドップリと浸かってるじゃないか」
 落ち着き払った藤岡は机の上に置いてある冷めたブラックコーヒーを一口飲むと恐れおののく副司令官に声を厳しくした。

「頼む! 頼む助けてくれ隊長!! 隊長から進言してくれ!! 俺はここに必要だと! 頼む!! 頼むううぅー!! 俺はここに必要だからと司令官特権を行使してくれええぇー!!」
 指示書を床に落とし目をギョロギョロと泳がせその場に崩れた副司令官は藤岡に土下座して頭を床に押し付けた。

「あの時、お前は俺に言っただろ… あれと同じで俺はお前同様に指示書に従うだけだ… 特別、お前をここでは必要とはしていないから、司令官としての回避は無い。 諦めて地獄へ行くしか無いだろうな……」
 土下座する副司令官を前に太い声を低くして天井を見上げる藤岡は言葉に感情を込めることはなかった。

「あの不思議なF戦場へ行けば戦闘で怪我をしても完治することはなく、壮絶な痛みと苦しさだけがいつまでも残り死ぬことこも出来ずに永遠にそこからは逃げられない。 毎日を激痛と戦いながらあの地獄で生き延びるしかない…」
 低い声を更に低くそして小さく絞った藤岡は司令官に成り立てのころに視察で一度だけ見た生き地獄を語った。 その瞬間、副司令官は突然床に立つと辺りを見回して大声を張り上げた。

「うおおおおおおぉぉぉーーー!! 助けてくれええぇぇー! 助けて! 隊長おおお!! 助けてくれええええ!! 嫌だ! 行きたくなああーーーい!! うおおおおーーー!!」
 残っていた冷めたブラックコーヒーを飲み込んだ藤岡にすがって助けを乞う副司令官。

「来客もお前らケモノにそうやって哀願した来客をお前らは無残にも…… ああ、そろそろ迎えの来る時間だな…… 外に出て待っていたほうがいい…… でないと武装兵がここに来るしな……」
 藤岡の足組した軍靴に両腕で抱きつく副司令官は藤岡の一言にガクッと肩を落としフラフラと立ち上がると藤岡に頭を軽く下げて出て行った。

 
 その頃、二階の自室にいる薫は頭から離れないレイプの後遺症(きょうふ)から、好きなスカートを止め滅多に履かないジーンズスタイルで肌の露出を抑え壁を背に体育座りしていた。 そして膝を両手で抱いて窓の人から聞こえる兵士達(おとこ)の声に肩を震わせていた。
 そして窓の外の大勢の兵士達(おとこ)の声が最大になった辺り、突然何処からか現れた長い黒髪の女性の声に、薫は震撼して女性の方ほ振り向いた。 身長百七十センチはあろうかと言う長身の女性は黒髪をサラサラさせて薫に近づくと、前屈みになって語りかけてきた。

「ねえ、今、死にたいって思ってるでしょ? でもね私は知ってるんだぁ~♪ 貴方が男の身体だったころ女装してマスターベーションしてた時の妄想は、複数の男達からのレイプだったはずだよね? 違ってる? 身も心も女として実際にレイプされた感想は? 気持ちいい? 貴方は泣き叫びながら股間の硬くなったモノを扱いてレイプを妄想してマスターベーションしてたわよね? 思い出した? あの時の貴方は心は女といいながらも実は完璧なまでの男だった… そう思わない? 今の貴女なら解るはずだけど……」

 ヒールの付いたサンダルを履くスラリとしたパンツスーツの女性は、薫にそう語ると横にある一人掛けの木の椅子に腰掛けて虚ろな目をした薫の顔を覗きこんだ。 

「そして今の貴女は女性として犯されることの悲しさや辛さを経験した… 決してマスターベーションのオカズにはならないことを身に凍みて解った… 辛い思いをしただろうけど、本物の女なればこそカリキュラムにはないトラブルにも当然巻き込まれる。 次のカリキュラムに移るまでまだ時間はタップリあるわ。 女として生きるための知恵と強さをここでもう少し勉強なさい。 どんなに医学や技術が発展しても手に出来ない、女性本来が生まれながらにして持っているモノをここで見つけて自分のモノにして頂戴。 それが何なのかは貴女自身で探しなさい。 ホラ、窓の外を御覧なさい。 貴女に地獄を見せたあの男達はその報いを受けるために別の場所へ移送されるけど、女装してマスターベーションしてた時の貴女との差は無いように思えるわ♪」

 虚ろな目をして壁の一点を見詰め動かない薫に淡々と語り尽くした女性は、薫が気付かないうちにその姿を何処かへと消し薫がその姿を目で追った時なは既に何処にも居なかった。
 薫は女性に言われた通りヘリコプターの爆音が響き続ける窓の外に視線を移そうとゆっくりと立ち上がって身体の向きを変えた。
 地面に着地した黒々とした巨大なヘリコプターを前に、薫を犯し恥辱し地獄を見せた兵士達(おとこたち)が二の足を踏みつつもヘリコプターに乗る姿がガラス越しに見えた。
 兵士達は絶叫し何かを必死に訴え泣き叫びながら後ろから押されるようにヘリコプターに乗り込み最後に、薫の身体に精液を掛け手で全身に塗りつけることを兵士達に笑いながら提案した憎い副司令官がヘリコプターの入り口で泣き喚きつつ後ろ向きに乗り込む様子が見えた。
 そしてそのヘリコプターを藤岡指揮官と大勢の部下達が硬い表情をして見送り、その緊張感が窓ガラスを空き抜けて薫を金縛りに誘い込みつつ、巨大なヘリコプターは地面を離れ空高く舞い上がって遠くへと消えて行った。 そして窓から離れ窓に背を向けた瞬間、薫は込上げて止めることの出来ない程の怒りを誰も居ない部屋の中にぶつけた。

「一体、私に何をさせようとしてるのおお!! 何を私に学べと言うのおおー!! いい加減にしてええぇぇーー!!」

 窓を背にして部屋の中に怒鳴り散らす薫に静まり返った部屋は何も答えずそして何も語らなかったが、さっきここに来たであろう女性の香水の香りだけが仄かに漂っていた。
 何故に見知らぬ女性が自分の過去の自慰の様子を知っているのか、薫は何も見えず何も解らない中で疑問だけが山積みされ解決していかないモドカシさに両手に握った拳の行き先を傍にあったソファーにぶつけた。
 



【十話】



「薫ちゃん♪ こんな乾いた場所にもね♪ とってもいい所があるんだよ。 一緒に見に行こう♪ 大丈夫だよ、あの件を知っている者はここにはもう居ないからね♪ ホラこの長靴に履き替えなさい♪」
 
 藤岡は高圧電流の流れる鉄柵で覆われた敷地の外れにある水源へと薫を誘った。 歩いて三十分。 美しい澄み切った水がコンコンと湧き出る泉は水源と言うこともあって複数の兵士達が小銃を手に見張りをしている場所でもあったが、暗く沈んだ薫を笑顔で誘った藤岡隊長は少しでも薫の心を癒そうと歩調を薫に合わせ一路向かった。
 大きな鉄で出来た頑丈そうな倉庫を両側に見ながら歩く薫の耳に、アチコチに点在するヤシの木の葉がユラユラ揺れる心地いい音が伝わるものの、湿気った地面に足を取られその都度横を歩く大きな藤岡にヒシッとしがみついた。 そんなことを繰り返す薫を横目に藤岡は嬉しそうに照れ笑いした。
 薫は藤岡に掴まって泥濘(ぬかるみ)も難なく越え徐々に近づく群生するヤシの木を目前に掴んでいた藤岡の右腕に更に身を寄せた。 藤岡は微風に乗って届く薫から放たれる甘い香りに御満悦の表情を浮かべた。 そしてヤシの木の間を縫うように入った薫は数分後、丸く四方八方に広がった泉を前に息を飲んで立ち止まった。
 群生するヤシの木に囲まれ畔を豊かな緑が覆う濁り一つ無い美しい水面に、薫は呆然とし掴んでいた藤岡の腕をスルリと外した。

「薫ちゃん。 俺は女性と喋るのが苦手でね、余り上手くは言えないけれどねえ。 この清らかな泉に身を投じるも良し乾いた喉を癒すも良し。 それを決めるのは薫ちゃんなんだよ。 俺は向うのヤシの木の裏側に居るから自分で進む道を決めなさい。 薫ちゃんの命は薫ちゃんの物なんだよ……」

 藤岡は呆然と泉を見詰める薫に真剣な表情を浮かべると、薫は無言で小さく頷いて藤岡は黙って薫から離れた。 藤岡はこの時、心の中で「死を選んではいけないよ」と、祈るように囁いていたことを薫は知る由もなかった。 そして一人になった薫はゆっくりと足を泉に進めると、泉のアチコチから水泡と共に沸き立つ水の流れに目を奪われた。
 その頃、ヤシの木の裏側に起位で背中を凭れさせる藤岡は青い空を見上げてポケットから取り出した葉巻に火を付け始めたが、その表情は異様な程に硬かった。 そして数分が経過し更に十分が経過した頃、藤岡は神妙な顔してヤシの木の裏側から泉へと俯いて移動した。 そして視線を上に上げた瞬間、藤岡はその光景にピタリと固まった。
 
「え!?」

 泉の畔に斜め座りして髪を解かす全裸の薫の姿に藤岡は「天使のようだ…」と、小さな呟きを無意識に放っていた。 そしてそんな藤岡に気付いた薫は身体を隠すことなくポツリと呟いた。

「この水で身を清めてもらいました…」

 薫は自分を見詰める藤岡に頬を紅く染めつつ、藤岡の方へ全裸のまま隠すことをせずに一歩、そして一歩と近づくと藤岡を見上げた。 だが藤岡が起ったまま気絶していたことを知ったのは数分も後のことだった。
 そして薫の働きかけで、藤岡は見張りをしていた兵士達によって建物の中の医務室へ運ばれ眠ったまま軍医に診察を受けたが、軍医は首を傾げて医務室を出て行き、薫は藤岡の眠るベッドの横のパイプ椅子に座り様子を見守りつつ、忌まわしいあの一件を思い出していた。


「何するのおぉ! 嫌あぁー! 嫌あぁーーー!! ヤメテ! ヤメテエェー!」
「ビリイッ! ビリビリビリイィー!」

 複数の兵士達と副司令官に拉致された薫は、副司令官の部屋のベッドに押し付けられ両手足を押さえつけられた。 そして身につけていた衣類を力任せに引き裂かれ下着姿にさせられると、ニヤニヤしながら嫌らしい目で薫を見入る副司令官は、薫の肩から黒いスリップの肩紐とブラジャーを引き摺り下ろし、白い乳房を両手で掴んで真ん中に顔を埋めた。
 薫は狂乱して全身と首を振って抵抗していたが、軍人訓練に長けた兵士達の筋肉質な腕を振り払うこと出来ないまま、そのピンク色した乳首を汚らわしい副司令官の唇に奪われつつ、下半身を包む黒いパンティーストッキング越しにその嫌らしい手が滑り回った。 泣き叫ぶ薫を嫌らしい多くの視線が舐めるように見回し、ある者は薫の脇の下にそしてある者はストッキングに包まれた足の爪先にムシャブリついて舐め回した。
 兵士達は「あっひゃひゃひゃ♪」と、歓喜して薫の身体の匂いを嗅ぎそして舐め回し、上に乗っている副司令官は、自らの手で複数の兵士達の見ている前で黒いパンティーストッキングをズタボロに破き引き千切りそしてパンティーを剥ぎ取った。 兵士達は副司令官の合図で薫の両腕をベッドに押し付けたまま、両足を大きく開かせそのまま固定し、恥かしい部分を副司令官の目の前に晒した。
 そして晒された薫の恥かしい部分に鼻先を近づけ両手の親指でその割れ目を左右に開いた副司令官は、中の匂いを嗅いで「うっひゃひゃひゃ♪ 臭せえ♪ 臭せえ♪」と、大笑いして周りにいる兵士達の顔を見回した。 そして「お前らも嗅いで見ろ♪ この美人の匂いをよおぅ~♪ あっひゃひゃひゃひゃ♪」と、声を裏返させ次々に代わる代わるに兵士達は薫の恥かしい部分の内側を凝視しつつ、その匂いに「臭っせえ臭っせえ♪」と、歓喜し薫を侮辱し続けた。
 そして再び副司令官は、周りの兵士達を見回して口を開くと、舌を根元まで目一杯外に出して薫の割れ目の内側に押し付け、首を下から上へと移動させた。

「イヤアァァァァァーーーー!!」

 複数の兵士達の嫌らしい視線の中で、薫は広げられた割れ目に押し付けられた舌で内肉を舐められ涙と髪と叫び声を振り乱した。 副司令官は薫の泣き叫ぶ声を楽しむように何度も何度も執拗に舌を押し付けて舐め回し、その都度その舌を周囲の兵士達に見せびらかした。 そして舐め取った薫の恥かしい汚れを飲み干した副司令官は兵士達に再び合図をした途端、二人の兵士達は香るの両腕を押さえつつ左右から乳房に吸い付き更に、両足を開いていた二人の兵士達はその太ももに頬ずりして舐め始めた。
 薫は恥かしい部分の内肉を副司令官に、そして乳房と太ももを四人の兵士達に味わい舐め続けられた。 兵士達は鼻息を荒くして個々に好きな部位なのであろうか、飽きることなく泣き喚く薫の表情をチラチラ見てはその柔らかい肉質にムシャブリ付いて離れることはなかった。 そして再び合図した副司令官に両太ももを味わっていた二人の兵士達は「グイッ」と、大きくその足を開かせると、黒光りする硬く撓った肉棒の先を薫の内肉に擦り付けると、ローションをその肉先に垂らし握った肉棒を「ニュルニュル」と、回し滑らせた。
 その瞬間、薫は内肉に滑らされる硬いモノに両目を大きく見開いて口を半開きに顔を極度に強張らせたが、その表情をニヤニヤと見入って楽しむ副司令官は容赦も躊躇もすることなく、ピンク色した内肉の窪みへとその硬い肉先を挿入した。

「ヌプヌプヌプ… ズブリユウゥゥーーーーー!!」
「嫌あああああぁぁぁーーー!!」

 薫の目は、大きく見開いたまま強張った顔をそのままに、壮絶な叫び声を発して身体の中に入ってくるケダモノの熱い肉質に全身の筋肉を硬直させた。 そして首を限界まで仰け反らせた薫は押さえつける周囲の兵士達(おとこたち)が震撼するほどの叫びを発した。
 太くそして硬い肉質はヌルヌルしながら薫の内肉に擦れる感覚を無理強いし、奥へとその場所を変えたが、ケダモノに犯されながらも否応無くその刺激は薫の脳天を打ち抜いた。 だが薫の中では内肉に擦れる肉質からの刺激よりも獣に犯されたと言う不快感が勝り脳天を打ち抜いた刺激は直ぐに打ち消された。
 だが薫の中に無理矢理入った副司令官は泣き叫んで揺れる薫の全身の柔肌の揺れと弾みに目を奪われ、腰振ることも忘れるほどの衝撃を受けた。 この美女を自分のモノにしたと言う副司令官の思いは腐った獣魂に一層の拍車をかけ、自分の下で泣き叫ぶ薫をもっと乱してやろうと突然、その腰を前後に振り始めた。
 そして薫を押さえつける兵士達(おとこたち)は、息を飲んで犯される女の光景に目を血走らせ、次々に自分の番を想定して下着一枚になった。 兵士達(おとこたち)は、下着の下のモノを硬く聳えさせ副司令官がイクのを待ち望んだ。 複数いる兵士達は副司令官に犯される薫に男のエゴイズムを剥き出しにし誰一人として、薫を哀れむものなく泣き叫ぶ薫にエロチシズムを感じていた。
 やがて薫の中に入っている副司令官の腰と乳房を揉み回す手の動きが速くなると、押さえつける兵士達の片手は自らの下着の中で前後に慌しく動き、副司令官が薫の中に射精する瞬間、兵士達はドロリとした白い体液を下着の中で放ちポタポタと床に零れさせた。 そして無残にも身体の中に射精を受けた薫は顔を顰め抵抗する全身から力を抜くと、閉じた瞼の下から大粒の涙をシーツに染込ませた。
 だが、そんな薫の中から思いを遂げて出た副司令官が離れると下着の中でマスターベーションしたばかりの兵士の一人は、我慢出来ないとばかりに再び硬くした肉質を薫の中に根元まで一気に挿入した。 生き地獄を再び重ねられた薫は息も絶え絶え咽び泣いて抵抗の声を弱々しく放つものの、その表情に中に入っている兵士は喉をゴクリと鳴らして腰を懸命に振り続けた。 
 その様子を椅子に深く腰掛ける副司令官は、満足気に笑みを浮かべつつタバコを深く吸い込み、他の兵士達は未だか未だかと自分の番を待ちわびた。 そして三人目になる頃には薫はピクリとも動かなくなって四人目になった時、薫の恥かしい部分の窪みからは大量のヌルヌルした白く泡立つ大量の液体が溢れ出てベッドシーツを濡らした。 それでも四人目の兵士は萎えることのない肉塊を薫の中に挿入すると、抵抗しなくなった薫の乳房を揉み回し乳首を弄りながら腰を振った。
 パァーン! パァーン!と、勢い良く薫の股間を打ち付ける兵士の尻肉は大きく揺れ、薫の腰を掴んで固定する兵士は薫の身体を自分に引き寄せ腰を激しく振り続けた。 そして四人の男達が見入る中で肉塊の根元をドクドクと脈打つように伸縮させ、溜っていた精液を薫の奥深くに撃ち放った。

「よおーし… そろそろ締めと行くかぁ~♪」

 副司令官の合図で薫の周りに立っていた四人の兵士達は、副司令官同様にその硬くしたモノの先を薫の柔肌に向けて一斉に扱き始めた。 男の生臭さが充満する部屋の中でグッタリしてピクリとも動かない薫は数分後に生臭い男達の精液を全身に浴びせられた。 そしてそればかりか副司令官の合図と共に兵士達は自らが射精した精液を両手で薫の肌に歓喜して塗り付けた。 そしてヌルヌルした精液は泡立ちながら五人の男達の精液と混ざり合って異様な臭気を漂わせ、薫は顔から足の爪先にいたるまで塗り付けられそれでも足りないと副司令官の合図で兵士達は次々に薫に目掛けてマスターベーションして射精をして塗り付けた。
 薫は目も開けられないほどに顔と全身を精液で塗れさせ、太陽の光に照りさえ見せた。 精液塗れの薫を見た副司令官は御満悦とばかりに不適な笑みを浮かべた。 そしてその瞬間、何事かと兵士達の騒ぎに副司令官室に姿を現したのは藤岡だった。
 
「おお! これはこれは司令官! ただ今、指示書に従いましてこのメス豚を調教しておりました♪ 如何ですか♪ 司令官もご一緒に♪ 今、部下に命じて風呂にでも入れてキレイにしますから♪ いやはや、上の連中も気を利かせてくれたんでしょうかな♪ こんな上等な贈り物を届けるなんて♪」

 薫を見て形相を鬼のように豹変させた藤岡を見て急にオロオロし始めた副司令官は、嘘くさい笑みをしつつ慌てて下着を履く兵士達を見回した。 

「そうか。 取り敢えず来客は俺が連れて行くが異存は無いな!」

 副司令官の目を鋭く見入る藤岡はグッタリする薫を毛布で包んで抱きかかえると、そのまま副司令官室を出て二階の薫の部屋へと足を進め、薫の指で指紋ロックを開けて中に入った。
 
「すまん… 俺の責任だ…」

 薫の部屋の風呂場に入った藤岡は目を閉じて薫から毛布を剥すと手探りでシャワーを強く出して放心状態の薫を床にそっと寝かせるとその場を立ち去った。 そして薫の部屋を出た藤岡は涙を滲ませていたことを薫は知る由もなかった。
  
 三十分後。

 ベッドの傍でウトウトし始めた薫を優しい笑みして見詰める藤岡の視線に薫は「ハッ!」としてその瞳を開いた。 そして自分を見詰める藤岡のゴツゴツした腕に両手を添えると「ごめんなさい… 私が来たばかりに… 軍医(せんせい)が疲れだろうって言ってた……」と、小さく伝えた。
 藤岡はニッコリ微笑むと薫の両手を左手で支え右手で頭を優しく撫で、薫は気持ちよさそうに藤岡に頭を傾けた。 

「薫ちゃんの所為じゃないよ♪ それより俺の所為で薫ちゃんには辛い思いをさせてしまったね。 申し訳ないと心から思っているよ…」
「あっ………」

 藤岡の言葉に薫は黙ったまま静かに立ち上がると藤岡に口付けをした。 女になって異性への生まれて初めてのファーストキスだった。 藤岡は薫からの突然の口付けに目を虚ろにし唇を薫に任せると、やがて薫の甘く蕩けるような舌が中へと入って藤岡を再び失神させたが、薫は恥かしさからそれに気付かずに医務室を立ち去った。
 そして二階の自室に戻った薫は寝室の埋め込み箪笥の前でドアを開いて立ち尽くした。 ここにはもう怖い獣は居ない。 藤岡さんが守ってくれる。 そう自分に言い聞かせた薫は一瞬脅えた表情を見せつつも中から膝丈のフレアスカートと前ボタンのノースリーブブラウスを取り出した。 そして大きな深呼吸をしながらベッドに腰掛けた薫はジーンズを脱いで脇に置いた。
 滅多に履くことはなかったジーンズに別れを告げ自分(おんな)らしい服装を身に付けた薫は心晴れやかに寝室を出るとそのまま藤岡のところへと足を向けた。 だが、ドアの前で再び恐ろしい情景を蘇らせた薫は、胸元を両腕で抱いてドアの前から後退りした。 そして直ぐに部屋へ引き返し窓辺に近づいて空を見上げて藤岡の笑顔を思い浮かべ何かを決意したように小さく頷いた。
 


【十一話】



「お願い… 今すぐに私のところへ一人で来て!」

 部屋に備え付けられている緊急用の屋内電話から藤岡に連絡を取った薫は、髪をセットし化粧を施し身体には深いスリットの入った白いドレスを纏っていた。 そしてその下を黒い下着とストッキングで覆い隠し、更にその下の心臓の鼓動を高鳴らせていた。
 そんな事情など何も知らない藤岡は血相を変えて「また誰かが何かを!」と、二階の薫の部屋のドアを激しく叩いた。 そして開いたドアの中の薫を見た藤岡は左手に持った拳銃をゆっくりと下におろすと、何事かと思いつつドレスアップした薫にホッと胸を撫で下ろした。

「入って……」

 ポツリと呟いた薫は藤岡を招きいれる仕草を見せると、部屋の奥へと移動し、何が何だか解らないという表情を浮かべる藤岡は黙ってその後を追って中に入った。
 そして部屋の中央に立ち尽くしたドレス姿の薫は無言で小さく頷くと再び寝室のドアの前に立って「来て…」と、藤岡に小さな声を掛け中に入って行った。

「えっ?……」

 藤岡は只ならぬ薫の様子に不安を覚えつつ、入ったまま出て来ない薫を案じて何も言わずに寝室へと足を進めた。 そして中に入ると小さく絞られた赤球の光の下、ベッドに腰掛ける白いドレスの薫にドキッとたじろいだ。

「お願いがあります… 私に教えて下さい… 男性の喜ばせ方を… 一度は汚れてしまった身体だけどこんな私でいいなら藤岡さんに抱いて欲しい…… だから指示書通り私に貴方の喜ばせ方を教えて下さい…」

 白いドレスの大きなスリットから見える黒いストッキングに包まれた薫の悩ましい脚に藤岡は目を奪われつつ、無言でその視線を上にあげると大きく膨らんだ胸の上に真剣な眼差しをした薫の瞳を見つけた。
 
「薫ちゃん…… 俺は黙って君の滞在期間が終ればいいと思っていた。 君に教えるほどの術は持ち合わせていないしね。 だから俺はこのまま帰ることにするよ…」
「お願い!! 汚れた私を貴方の手で、貴方の体温で清めて欲しいの!! 私の汚れを清められるのは貴方しか居ない!! お願いです! 私を! 私を助けて!」

 寝室を立ち去ろうとする藤岡を呼び止めながら立ち上がった薫は白いドレスを脱ぎ捨てると、そのまま藤岡に抱きついて頬を藤岡の胸に埋めた。 藤岡は躊躇しつつも薫を抱きしめると下から自分を見上げるか折るの額に小さなキスをして離れようとした。

「お願いぃ! 私を救ってえぇー!!」

 薫と目を合わせない藤岡に、号泣して抱きつく薫を両手で引き離そうとした藤岡だったが、余りに泣きじゃ狂う薫を不敏に思った藤岡は首に巻いていた手拭いで薫の涙を吹き上げると、そのまま自分から薫を抱きしめた。
 黒いレースのスリーインワンが藤岡の戦闘服に覆われやがて抱きかかえられると、そのままベッドへと運ばれ、大きな戦闘服の隙間から這い出た黒ストッキングに包まれた薫の脚に、藤岡の手の平が優しく滑り動いた。
 藤岡の手が薫の履いている黒ストッキング越しに膝から太ももに到達した直後、藤岡の触手にゆっくりと首を仰け反らせる薫は首横に「チクリ!」と、言う痛みを感じるとそのまま気を失った。
 
 そして。


「どおーうしたの! ボォーっとしちゃって。 薫! そろそろ就業時間よ♪ それとも残業するの?」

 知らない女性の声に身体をビク付かせて我にかえった薫は、何処かのオフィースの中の机の前に座り頬杖を付いて目を閉じていた。 そして声の方を向いた薫の視線に親しげに表情を浮かべるスーツ姿の女性が前屈みで立っていた。 薫はその女性に咄嗟に話を合わせて受け答えすると周りを見回した。
 大きなオフィースの中で大勢のスーツ姿の男女社員が書類を手に忙しそうに行き来し、チャイムと同時に大きな壁掛け時計を見て帰り支度を始める者もいた。 見たことも無いオフィース。 離れた場所にある窓越しに見える景色から何処かの街のオフィース街だと解った。
 そして自分の姿を見回せば、リボン付きのブラウスにグレー系のタイトスカートを履き、脚をライトブラウンのパンストが包んでいた。 どう見てもOLの容姿は薫に、藤岡とのベッドから居場所を移動したことを教えた。 そして再び周りを見回せばオフィースから立ち去るOL達の楽しげな会話が遠ざかって行った。

「私は何処へ帰ればいいのだろう…」

 机の引出を開いて自分の帰るべき場所の手がかりを慌しく捜す薫は、机の左横に置いてあるポーチを手に取ると、オフィースから出て行ったOLの後を追いかけた。

「更衣室に行けばハンドバックがあるに違いない」

 薫は望みを掛けてそのOLの後を離れずに付いて行き、更衣室の中へとその身を移した。 ロッカーの前で着替えをする下着姿のOL達の間に見えるロッカーを目で追う。
 
「どうしたの? 薫! 疲れた?」

 自分のロッカーを見つけられずに着替用の丸い椅子に腰を下ろした薫に、再び見知らぬスリップ姿の女性に声を掛けられた。 薫はさっきと同様に表情を相手に合わせ立ち上がると、その女性の行く先に付いて行った。

「どおうしちゃったのぉ~♪ 薫の場所は二つ隣りでしょ♪ うふふふふ~♪」
「あっ! うん」

 声を掛けてくれた女性からロッカーの場所を指摘された薫は「ここが私のロッカーか」と、ドアを開けると上の棚にハンドバックがあって薫を安心させた。 そして周囲に遅れながらスカートとブラウスを脱いだ薫は、中から取り出した薄水色のワンピースに着替える頃、殆どの女性達は更衣室を立ち去っていた。

「それじゃあ、薫! また来週、会いましょう♪」

 声を掛けてくれた女性も更衣室を出て行くと、中には薫一人だけがポツンと立っていた。 薫は慌ててハンドバックを手にすると知らない人のバックを開ける罪悪感に駆られながらそれを開いた。
 通勤に必要な小物たちがひしめくなか、社員証とJRの定期にバスの定期が出て来たが自宅を現すものはなく薫を愕然とさせた。 だが諦めずに探す薫の手にしっかりとした厚みのあるモノが当たった。

「え? 私の運転免許証?」

 手にとって見てみると、今の顔写真が貼ってある免許証に薫は唖然とし、行ったことのない場所が自分の住所であることを知った。 

「〇〇市か…」

 鏡の前で身支度を整えた薫はバックにポーチを入れ大きく深呼吸した後、更衣室を後にした。 そして自分の居たビルの玄関に出て来た薫は、後ろを振り返って見知らぬ高層ビルに驚いて口元を片手で覆った。
 薫は見知らぬオフィース街で、まるで心細い子供のようにバス停を捜しそして乗り込んで揺られ、電車を乗って再び揺られて目的の場所に来た頃は陽はすっかり落ちていた。 そして免許証の住所を頼りに徒歩で探し回った一時間後の夜の八時過ぎ、ようやく目的の場所を探し当てた薫は安堵する間もなく、錆びれた木造モルタル二階建てのボロアパートの部屋のドアの番号を月明かりで見て回り、二階の奥の部屋であることを突き止めた。
 そして鉄階段をボロボロの手摺に掴まって靴音を立てながら上ると、人気の無い二階の奥へと足を恐々と進めドアに近づいた。

「この部屋だよ」

 ドアに貼られたコピー用紙に手書きの文字が記されていた。 薫はその文字を見て一気に疲れが出て肩を落としてドアの横に背を凭れさせた。
 外灯も遠くに見えるだけのボロアパートの二階。 街場の賑やかさとは対照的に時代に取り残された感を否定出来ない、レトロなプラスチックのヒサシ屋根。
 そして鍵を開けて開いたドアの「ギギギ!」と、言う音に驚いて肩を窄めつつ、手探りで裸電球のスイッチを探した。 上がり元に置かれたイチゴ模様のスリッパ。 ドアノブにブラ下がる小さなキリンのヌイグルミ。 小さな玄関の壁に備えられたむき出しの電源ブレーカーに古さを感じる。
 パンプスを脱いでスリッパに履き替えてドアを開いた薫は、恐る恐る室内の暗さに我が身を投じて手探りで蛍光灯のスイッチを探した。 だが壁の何処にも見当たらずに暗闇に目が慣れてきた辺り、天井からぶら下がる小さな物体を見つけそれを手に掴むと下へと引いてみた。
 パチパチパチと天井に白い小さな光が点いて、やがて大きな灯りが灯ると薫はその光から顔をそむけた。 そして辺りを見回せば、生活の匂いが全く感じられない整理整頓の行き届いた小物や家具に寒々しさを感じた。 
 台所のついた八畳のリビングと六畳の寝室だけと言うシンプルな作りだったが、ホコリ一つ、チリ一つ落ちていないのは前回居た場所と同じであった。 生活感の無いリビングの二人用の椅子に腰を下ろした薫は、知らない人の部屋に緊張しつつも隠しカメラはないかと辺りを見回した。
 すると部屋に似合わない大画面テレビの画面に「順番が来るまでここで暮らせ」と、手書きで書かれたコピー用紙が目に入った。 部屋に似合わない大きなスリードアの冷蔵庫の中は、女の一人暮らしとは到底思えない食材と野菜で溢れ、六畳の寝室のベッドの真横にある大きな箪笥に息苦しさを感じた。
 そして風呂場は部屋の造り通りに狭さはあるものの、どう見ても新品の浴槽とシャワーは光沢を放っていた。 どうせなら普通のマンションにして欲しかったと、前回居た軍事施設の二階の部屋を思い出しつつ、浴槽に腰掛て藤岡に触手された左太ももに自らの手を這わせた。
 薫は目を閉じて藤岡があの後にしたであろうことを想像し、太ももに這わせた手の指をストッキング越しにスカートの中へと滑らせた。 自らの重々しい吐息が浴室に充満しつつ、その指をパンティーの上から恥かしい部分へと滑らせ、ゆっくりと縦に指を行き来させると、薫は腰をビク付かせて恥かしい声を室内に響かせた。
 
「ああんっ!」

 スカートの中に入れた手の指を割れ目に沿って縦に擦りつつ、薫はパンティーストッキングを下ろそうとした瞬間「これもカリキュラムならもしかしてあるかも知れない!」 と、火照った身体を引き摺るように寝室へ来ると、慌てて箪笥の引き出しを片っ端から引いて中を探した。
 そして次の瞬間、薫の動きはピタリと止まった。 ゴクリと喉を鳴らし中のモノを取り出した薫は、ベッドの上にその身を投げ出すとスカートを脱ぎ捨てた。 そしてパンティーストッキングとパンティーを自ら剥ぎ取ると、両足を大きく開いて右手に持った擬似ペニスを口の中で唾液を絡ませた。 
 
「クチュッ!」

 開いた両足の真ん中、左指で開いた割れ目の窪みに右手に持った擬似ペニスを「ニュルニュル」と、挿入した薫はそのまま後ろに倒れ握った擬似ペニスで火照った身体を更に熱くした。 そして「クチュクチュネチュネチュ」と、嫌らしい音を奏でる薫の窪みは大量の愛液を溢れさせ、その音に連動して全身を悶えさせ、ヨガリ声を暗い部屋の中に奏でた薫は、首を後ろに仰け反らせ無造作に揺れる二つの乳房の重みを胸に感じた。
 そして窪みの奥へ出し入れしながら差し込んだ擬似ベニスを、強弱つけながら脳裏に浮かぶ藤岡隊長の肉棒に見立てた薫は、両足を爪先立ちして体位を微妙に変化させつつ、伸ばした左手の中指に付けた愛液でクリトリスを擦り回した。 クリトリスは直ぐに勃起して指の腹にコリコリ感を伝え、二つの快感に薫は全身を大きく前後に揺り動かして、藤岡隊長にあたかも抱かれているかの妄想に浸った。
 薫の藤岡への愛欲は数十分間続けられ二度のエクスタシーに達した薫は、それでも治まらない全裸を風呂場へ移動させると、シャワーのコックをホットからクールに切り替え、冷水を頭から浴びて恥知らずな我が身の火照りを沈めた。 そして寒さで全身に震えが走った辺り、薫の火照りは完全に消え去りその冷えた身体をガウンで包んだ。

 


【十二話】


 
 土曜日の朝、住人の住んでいないアパートと言うこともあって、薫は久々に熟睡し目を覚ませば時計は既に十時を指していた。 こんなに寝たのは久しぶりだと、カーテン越しに入る日差しを見て大きな背伸びをしながらベッドを出た。
 シルクのキャミソールの下でノーブラの乳房が無造作に弾み乳首の擦れ感に一瞬途惑うも、フレアパンティーの裾から体温が逃げて行くのを感じながら、窓辺に立ってカーテンを開けると下町風に広がる民家に一安心した。
 そして小さな台所の横へ移動すると大きな冷蔵庫を開いて中から麦茶のボトルを取り出し喉を潤した。 女になって以来、眠るときだけ外せるブラジャーの開放感は朝になってもその自由度を減らしてはいなかった。
 誰がセットしたのか解らない部屋の家具と小物たちを見回して「フフッ♪」と、小さな笑みを吐き出して二人掛けの椅子に移動し腰掛けた。 テーブルの上のテレビのリモコンを手に足組して電源を入れると、身体が男だった頃の一人暮らしを俄かに思い出し「足組したら玉が挟まって痛かったなぁ~」と、生まれ変わった今の自分を見回した。
 テレビから流れる音だけを聞きながら椅子から立ち上がって、見知らぬ友達たちと一緒に写った写真立てを前屈みで見詰め「誰も来ないんだからこんな演出要らないのに♪」と、再び微笑して風呂場の脱衣場にある小さな洗面台の前に移動したが「今朝は妙に乳首が敏感だな~」と、キャミの内側に擦れる乳首が勃起していることに違和感を覚えた。
 そして洗面台に向かって鏡に自分を映した薫は、ヒラヒラするキャミをその場で脱いで本来洗濯機があるであろう場所にある大きな洗濯物入れに放り込んだ。 そして再び自分を鏡に映した薫は「んっ!?」と、異様に張りのある乳房に見入った。

「どうしたんだろう!? これ!」

 身体を左右に揺すって乳房を弾ませて見ると、腫れていると言うより張っている感が強く、初めての感覚に薫は顔色を変えた。 そして恐々と両手の指で勃起したままの乳首を摘んだ瞬間「あひいぃっ!!」と、腰砕けのようにその場に崩れ落ちてしまった。
 恐怖の余り心臓がドキドキドキと高鳴って暫くは立つ事も出ずに落ち着くのをそのまま待った。 そしてそのままでもう一度二つの乳首を、今度は力を弱めて摘んだ瞬間「あんっ!」と、無意識に甲高い声がその場の空気を震わせた。
 前夜、藤岡のことで自慰をしたのが原因なのだろうかと、乳房から遠のかせた両腕をそのままに立ち上がった薫は、急いで洗顔と歯磨きをすると得体の知れない恐怖に震えながらフレアも洗濯物入れに放りこむと、全裸で寝室へ移動し箪笥から出したブラジャーを慌てて装着した。 
 それでも少し身体を動かすと乳首がカップの裏に擦れて強い刺激で腰砕けになる薫は、引出の中から今までに一度も使ったことのないパットを出してそれも装着し、動いても乳首が擦れないことに「はあぁ~」と、安堵の表情を浮かべ伸縮性の白いビキニタイプのパンティーで恥ずべき部分を覆った。
 病気かも知れないと顔を強張らせる薫は、救急車で運ばれて病院で診察を受けやすいようにと、洋服箪笥の中から伸縮性のあるワハウスドレスを探して取り出すと、それで全身を覆い身体を揺らさないようにリビングへ移動した。
 そして誰かに連絡とらなきゃと、部屋の中を不安げに見回して連絡先を探ったが、何処にもそれらしいモノはなく部屋の中のワゴンの引き出しを片っ端から開いたが中は空っぽのままだった。 

「もおー!! どうすればいいのよおー!!」

 苛立ちヤキモキする薫は両手に握った拳を振り下ろして、そのまま椅子に腰掛けて耳障りなテレビの電源を落とした。 

「とにかく落ち着かなきゃ… そう。 落ち着いて彼らと連絡を取る方法をさがさなきゃ…」

 テーブルの上のボトル麦茶を再び喉に流し込んだ薫は突然の空腹を感じた。 とにかく何か口に入れてからだわ。 冷蔵庫の前、まさかと思いつつ「私は熱々なハンバーガーが食べたい!」と、ドアに向かって声を出した薫は祈るようにドアを開けた瞬間、その光景に唖然とした。
 冷蔵庫の中の棚の上に置かれた、包み紙に包まれた熱々のハンバーガーを視界に収めた薫は「えぇ!?」と、目を疑った。 そしてそれに手を伸ばすと「熱っちいぃー!!」と、手を放し食器棚から持ってきた小皿に移動させドアを閉めた。

「使い方くらい書いておけばいいのに! 全く! 驚くじゃない!」

 声を大にて嬉しそうにハンバーガーを頬張る薫は魔法の冷蔵庫をチラチラと見ながら空腹を満たした。 そしてその日の昼過ぎ、薫はウトウトと床に座布団で枕を作って昼寝タイムに入ろうとした瞬間、腹の中に妙な違和感と軽い嘔吐感を感じて起き上がった。
 その瞬間、薫は腹の中で何かが剥がれて下方向へジュルジュルと降りて行く激しい不快感に顔を顰めた。 何かが身体の中を真っ直ぐに陰部へと滑り落ちていく嫌な感覚に、薫は慌ててトイレへ移動するとパンティーを膝まで下ろし便座に腰掛けた。

「な! 何これえぇー! あわわわわわわわ!!」

 白いパンティーの内側にベッタリと張り付いた粘度質の真っ赤な血液を見た薫は、目と口を大きく見開き顔を強張らせて緊迫した表情を浮かべた。 そしてソコから漂う鉄の錆びたような血生臭い匂いに思わず顔を背けた。
 そして再び腹の中で何かが剥げて「ドゥルドゥルドゥル」と、割れ目の窪みに落ちていく異様な感覚に薫は「ヒイイィィー!!」と、便座の上で後ろに仰け反って取り乱し全身を振るえ上がらせた。 そして恐る恐る前屈みになって便器の中を覗き込んだ薫の視界に真っ赤な血液が「ドゥルゥー」っと、水に溶ける光景が入った。
 薫は、とんでもない病気に掛かっているのだと、血の付いたパンティーを慌てて床に脱ぎ捨てるとトイレットペーパーで割れ目を吹いて、そのベッタリと付いた血糊に顔色を真っ青にした。 これが噂に聞いた「肝臓癌… それとも腎臓癌…」と、便器の中に震える手で投げ入れたペーパーが水に溶ける様子を見守った。
 そして大きな深呼吸をして「もう、思い残すことはないよね。 夢が叶ったんだから…」と、大粒の涙をポタポタと零して唇を振るわせた。 その瞬間、突然ガタガタとトイレの中が激しく揺れた。

「キヤァー!! 地震だあぁー!!」

 地震の苦手な薫は下半身を丸出しのまま両手で頭を覆い隠して震撼した。 ガタガタガタと大きく揺れるトイレと建物の軋む音に悲鳴を上げて地震が治まるのを待った。
 その瞬間、薫の足元に上の板棚から何かが落ちてきた。 そしてそれに薫が気付いた瞬間、ピタリと地震が止まった。 恐る恐る目を開いて足元を見ると、そこにはピンク色の四角いビニール袋が落ちていた。
 震える右手で手繰り寄せて掴み取ると、それはナプキンだったことに気付いた。 薫は首を傾げながらも取り出したナプキンを割れ目に左手で当てたまま立ち上がると、パンティーをそのままに寝室へ急ぎ別のパンティーを慌てて手にすると再びトイレへと戻った。
 すると、さっきまで無かったはずの汚物入れがトイレの中の角に備えられていた。 とにかく裸でいる訳にもいかないと、手にしたパンティーを見た薫は「何これ?」と、慌てて掴んで持って来たものがサニタリーだったことに唖然とした。
 そして薫はサニタリーに両足を通すと、袋から出した新しいナプキンを取説通りに内側の布にセットして恥ずべき部分をピタリと覆うと、足元にあったはずの白いビキニパンティーが消失していることに気付いた。 そしてトイレから出た薫は洗面台で手を洗い流しつつ、大きな溜息を何度もして涙眼の自分を見詰めた。
 血液が中から出るほどの癌なら末期に近いはずだと、鏡の中の自分に言い聞かせ、遣り残したことはないかと自分に質問した。 その瞬間、薫は鏡の中の自分に「いい方法を思いついた!」と、その妙案に慌てて台と頃の冷蔵庫の前に移動した。

「織部先生を連れてきて!!」

 冷蔵庫のドアの前で大きな声を放った薫の耳に、信じられない音が冷蔵庫の中から聞こえて来た。 慌てた薫は手を震わせて冷蔵庫のドアを開いた瞬間、中に白衣を着た織部医師が丸まって入っていた。 そして数分後、薫は冷蔵庫から出て来た織部から信じられない事実を聞かされた。
 
「ええ!? そ! そんな! そんな馬鹿な!! 性転換手術で生理なんか来るはずない!! 嘘! 嘘だわそんな! 先生! 真実を教えて!!」

 凝った肩を解すように首を回す織部医師に、薫は涙を流して前屈みで声を張り上げた。 だが、織部は至って落ち着いて涙を零す薫に「女になったのだからね。 月経が来て当然のこと。 驚く必要はないですよ。 まあ、生まれた時からの女体ではないですからね、他人とは少々違いはありますが。 ただ、どうして月経が来たのかなどと疑問は持たなくていいんですよ♪ 冷蔵庫から私が出て来たことを考えれば、女性に月経が来ることのほうが自然だと思うが…」と、笑みを浮かべて薫を安心させた。
 
「先生! 先生達は一体… 私、何もかも解らないことだられのまま色んなところへ行かされて…」
「何れ解る時が来ると思いますよ♪ ああ、でも。 瑞樹さんも私も、まさか冷蔵庫から出てくるなんて思ってもいませんでしたねぇ~ あっははは♪」
「お願いです。 先生! 私、これから何処に行くんですか! 私、怖いんです… おかしくなりそう…」
「あっ、そうそう。 月経が来たからには男性との性交は気をつけてくださいね。 妊娠してしまいますからね。 あ、そろそろ暇しないと… 患者さん達が待っていますからね♪ 瑞樹さん、随分と可愛らしい御嬢さんになりましたね♪ ではまたの機会に♪」
 
 織部医師は薫の悲痛極まりない問いを断ち切ると、そのまま冷蔵庫ではなく玄関から白いソックスのまま出て、薫が見送る間もなくドアの向うで瞬時にその姿を消した。
 癌ではなく生理であることで安心した薫だったが、久しぶりに会えた織部に薫は安堵の吐息を放ち、夢にまで見た生理との出会いに心から感謝し鼻歌をしながら部屋の中で軽いダンスをした。
 だが夢にまで見た生理は、この後、女性特有の地獄のような苦しさと痛みを薫にもたらすことを薫は知る由もなかった。 ただ、ナプキンを交換するると言う女性ならではの行動に薫は涙が出るほど嬉しかった。


【十三話】 



 
 
「痛い… クッ! 痛い……」

 日曜日の朝だと言うのに薫はベッドから起き上がることも出来ずに不愉快な頭痛と腹の痛みと腰痛に悩まされていた。 噂には聞いた生理痛に薫はベッドの上で呻き声を上げ小便にも行けない自分に目を潤ませた。
 それでも、壮絶な陰部の痒みとベッドで漏らす訳にも行かないと、ベッドから降りると部屋にあった掃除機の柄を、杖代わりにしてトイレへと移動して用足しをしたものの、帰りの体力を使い切ったとばかりに便座で疲労回復を待っていた。
 医学的にどうの、科学的にどうのと言う位置に身を置いている薫ではないことから、ドアポストから中に入れられていた「初めての月経」と言う小冊子は、糞の役にも立たず、返って解らないことだらけでイライラをも募らせていた。
 明日は入社した覚えの無い会社に出勤しなければならないのにと、壁伝いにベッドへ戻る薫は数歩あるいては休憩しつつ五分もかけて戻ると、その重々しい腰をゆっくりと落ち着かせた。 
 
「女って… こんなに辛いものだったなんて……」

 悔し涙を滲ませる薫は腹を押さえたまま、ゆっくりとベッドにその身を倒した。 そして、このまま死んでしまうのではないかと言う不安に駆られつつ冷蔵庫までその身を引き摺ると、冷蔵庫に向かって「生理痛の薬が欲しい!」と、息も絶え絶えに発した。
 そしてドアを開いて中を確認すると織部の名前の入った薬袋が置いてあったことに、薫は感動して紙袋を開けると中から手紙が出て来た。

「瑞樹さん。 夢が叶って月経が来たのですから、皆さんと同様に痛みと苦痛に耐えて、早く痛みに慣れて下さい」

 薫は愕然とその手紙に苦い表情を浮かべ弱々しく冷蔵庫に掴まると、そのまま床へと滑り落ち、這って椅子まで移動すると上半身を椅子へ凭れさせた。 そしてどの方向を向いても痛みの引かない身体は行き場なく結局、寝室のベッドへとその身を寄せた。
 そして生理痛に悩まされつつ、知らぬ間に眠ってしまった薫の部屋を誰かが尋ねた。 眠りについてまだ一時間と経っていなかった薫はドアチャイムに不機嫌な顔して頭を毛布で覆った。 チャイムは続けて数回鳴ったが薫はそのまま起きることはなかった。
 
 それから数時間後、尿意とナプキン交換時期を感じた薫が目を覚ますと、腹痛は治まり腰痛も楽になっていることに気付きつつトイレへと移動した。 そして慣れて来た手つきでナプキンをサニタリーから外すと、溜っていた小便を勢い良く放って割れ目の内側をウォシュレットで洗い流した。
 心地よい温度の湯に洗われる割れ目の内側に、心地よさを感じた薫は数回それを繰り返した。 そして再びナプキンをつけてトイレから出た薫は「そうだ! 散歩でもしてみるか!」と、一人前の女として明日の出勤に備えて生理歩行訓練を行うこを決めた。
 ナプキンのゴワゴワ感に慣れるようにと、寝室でサニタリーの上からパンティーストッキングを履いた薫は、膝丈のベルト付きワンピースを纏うと、薄化粧と髪を手早く直しナプキンを入れたポーチを持って両足をサンダルで包んだ。 
 
「パンスト履くと、結構蒸れるんだな……」

 昔ながらの木造アパートが無造作に立ち並ぶ古い町並み。 スカートの中へ足元から入る風も役に立たないほどに蒸れる股間に気付いたのは、部屋を出て間もない頃だったが、ナプキンをして歩くと言う女として当たり前の事に、薫は感動の蒸れ具合に心を弾ませていた。
 そして最初に目に付いたコンピニに入った薫は、立ち並ぶ弁当を見て空腹に気付くと「コンビニでお弁当買うなんて久しぶりだな♪」と、籠の中に弁当と見もしない女性誌を二冊入れた。 そしてレジに向かうと店に入って来た見知らぬ男性に突然、声を掛けられた。

「あれ! 薫! さっきは何処か行ってたのか~? 行ったら居なかったから一旦戻って出直したんだよ…」
『え!? 誰、この人…』
「今日、部屋へ行くからって先週の水曜日に言ったろ? 忘れてたのか?」
「え!? あ、はい。」
「おい。 大丈夫か? 熱でもあるんじゃないのか?」
『この人、誰なんだろう…』
「取り敢えず、俺も弁当買うからお前の部屋で食おうぜ」
「えっ!? いえ、そ、ちょっと… それは困ります…」
「おいおい、何だその他人行儀な言葉… あっははは♪ おいおい、本当に大丈夫か?」
『………』
「とにかく、一緒に行くわ」
「え! いえ、結構です。 貴方のこと何も知らないし」
「とにかく、ここじゃ何だから」
「え! ちょっ! ちょっと放して下さい! 困りますから!」

 長身で細身のギョロ目の男は、清算を終えた薫の腕を強引に掴むとそのまま人目を気にして店を出ると、自分を拒絶し顔を強張らせ逃げる薫に何かあったのかと首をかしげた。

「おい! いい加減にしろよ! 薫! お前、自分の彼氏の顔も忘れるほど気温で頭をやられたのか! 全く、冗談キツイぞ…」
『え!? 彼氏ー!? そんなー! 何でそう言う設定なのよ!』

 薫に付きまとう男の正体を知った薫は、長身の男の真正面で立ち止まった。

「じゃあ、私の名前を言って見て!」
「へっ!? 瑞樹薫だろ… 俺と付き合って一年くらいか…」
「ふう~ん。 じゃあ、私の実家は何処? それと勤め先は?」
「〇〇県の〇〇市だったけ? あと、横山物産商事の四階。 てか、何で一々、そんなこと俺に聞く訳? なんかあったのか?」
『そっか、そう言う設定なんだ…』
「じゃあ、今日は何で私のお部屋に来ようとしたの?」
「今日? おいおい、自分の彼女に会いに来るのに理由なんて必要なのか? いい加減、怒るぞ! 何、不機嫌に… あ! そろそろ生理… そかそか、それで意地悪してんのか。 あっははは。 すまん、忘れてた♪」
 
 目の前の男からクルリと方向を変えた薫は無言でアパートの方へ歩き出した。 そして少し歩いたところで再び後ろから来る男の方をクルリと向いた。

「そう。 そう言う設定なのね。 でも私は彼氏なんて認めないから! 一昨日までジャングルに居て藤岡隊長の下に居たのよ。 突然、ここに連れて来られて、突然、彼氏だって言われて、ハイそうですねなんて言えないからね!」
「ああー! 何なんだよ! 全く! その設定ってのは一体なんだ!? ジャングル!? どうしちまったんだよ、お前! 意味、解んねえーよお!!」

 薫の言葉に切れた男は声を荒げそうになったが、薫は言うだけ言うとそのままクルリと向きを変えて歩き出した。

「解った! じゃーほら! これ見ろ! お前と一緒に写ってるだろ!」

 男は電車の定期入れを開いて、薫の肩を抱いて笑みを浮かべる自分の写真を薫に見せた。 薫は数秒間、それを見て直ぐに視線を反らした。
 
「とにかく! 俺がお前の彼氏だってことは解ったろ! 取り敢えずお前の部屋へ一緒に行くから」
「彼氏かも知れないけど、私は貴方の奥さんじゃないわ! ついて来ないで! しつこいと人を呼ぶわよ! いい加減にして!!」

 歩く速度を速めた薫は周囲に悲鳴を上げる素振りを見せると、男は立ち止まって薫の後姿を睨み付けていた。 薫は後ろを振り返ることなく家路を急ぎアパートの前に来ると、ホッと胸を撫で下ろした。
 そして鉄の階段を駆け上がって部屋のドアを開けた瞬間、薫は後ろから誰かに押し付けられてそのまま部屋の上がり元に前のめりで両手をついて倒れた。 そして振り向いた時、ドアの内側にさっきの男が立っていた。
 
「ヒイイイィィーー!!」

 咄嗟に出た劇画のような叫びに男は目玉をギョロギョロさせ、捲くれ上がったスカートの中、突き出した薫の右太ももを凝視した。 薫は咄嗟にスカートを降ろし逃げようと内ドアのノブに手を伸ばした。

「す、すまん薫! 大丈夫か!? 驚かすつもりは無かったんだけど。 あんまりお前がツンツンするから…」

 男はドアノブに手を掛けて開くと薫に左手を差し伸べたが、薫は見知らぬ男の侵入に顔を引き攣らせ恐怖に吐息を振るわせ伸ばした手を慌てて引っ込めた。

「何を怒ってるのか解らんから、ちゃんと説明してくれ」

 男は左側にいる薫を跨ぐようにドアの向うに靴を脱いで入って行ったが、薫は逃げるなら今がチャンスと視線を玄関ドアに向けた。 その瞬間、薫の耳に男の意味不明な言葉が飛び込んだ。

「ああーあ! また、こんなに散らかして~ 全く、週一で俺が来なきゃ直ぐにゴミ屋敷になっちまう。 脚の踏み場もないとは…」

 薫は中から笑いながら語る男の声に、首を傾げてソッとドアの向うを覗き見た。 そして部屋の中を見た瞬間、脱ぎ散らかした衣類や下着の他に物凄いゴミが床を埋め尽くし、ソファーの背凭れには使用済みのパンティーストッキングが何足も束になって掛けられていた。

『何これえー!?』

 買物に出かける前とまるで違う部屋の様子に、薫は口をポカンと開いて掃除を始める男の姿を目で追った。 男は床から拾い上げたゴミを袋に分別して入れつつ床から拾い上げた使用済みのパンストをソファーの背凭れの束に重ねた。
 薫はその光景にゆっくりと立ち上がると、開いたドアの前に立って掃除する男と、ゴミ屋敷のような部屋を瞬きを忘れて見回した。 

『そんな馬鹿な…』

 他人に見せるには余りに酷い状況に、薫は開いたドアに両手で掴まって震撼し、尚且つ自分の使用済みの下着を素手で掴んで洗濯籠に放り込む男の姿に仰天した。 そして数分が経過すると床に落ちたゴミは袋に入れられ台所の隅っこに置かれたが、薫をもっと驚かせたのは、買物に行く前と今とでは部屋のの中の家具や配置や小物が全部知らないモノに入れ替わっていたことだった。
 そして、引出の付いたワゴンのうえに置かれた、男と一緒に写っている写真立てを見て、目の前で掃除する男と何度も見比べた。 大画面のテレビは小さくなって、魔法の冷蔵庫もテレビ同様に小さく、そしてカーテンの色やシンクの色までもが変わってしまっていた。 
 無造作にハンガーに掛けたスーツスカートは落ちそうになっていて、それを丁寧に直した男はソファーの背凭れに束になった使用済みのパンストを洗濯籠に鷲掴みして入れて、洗濯機など無いはずの脱衣場に持って行くと、程なく洗濯機の回る音が聞こえて来た。
 薫は唖然としつつ、片付けられた部屋の床に足を移動させ辺りを見回すと、カレンダーの今日の日付の箇所に「工藤真一掃除の日」と、書かれた自分の筆跡を見つけ両手で口元を覆い隠した。 そして起ち尽くす薫の傍で、男はシンクの前に立って洗物を始め水音を立てた。
 



【十四話】



「ふうぅ~! やっと片付いたな♪ 全く毎度のことながら、自分の彼女だけど本当にこんな美人の部屋かと疑っちまうよ♪ お前の部屋♪」

 洗い物を終え、ソファーに腰を下ろした薫を見笑いながら部屋の隅っこにあった掃除機を用意する工藤真一は、窓を開けると慣れた手つきで掃除を始め数分が経過した。 床に落ちて散らばった砂糖や菓子のクズがドンドン掃除機に吸い取られ床は見る見る間に本来の姿を現した。
 そして掃除し終えた工藤真一は、そのまま寝室へ掃除機を持って入って行ったが、手際よく掃除する工藤を薫は止められずにそのまま見入っていた。 そして開いた寝室の中もまた、買物に行く前とは全く異なった造りで、部屋を圧迫していた洋服箪笥は消え去り女の一人暮らしに丁度いいサイズに替わっていた。
 ベッドの上に放置してあるブラやスリップを一つに纏める工藤真一は嫌な顔一つせずに、淡々と雑誌やら菓子の食い残しを分別して袋に入れ、余暇に放置された衣類を拾い上げベッドセの上に纏めたが、薫は何故が自分が惨めに思えてきた。 自分の所為じゃないと思いつつもゴミ屋敷同然の室内を異性に見られた恥かしさからだった。
 
 二時間後、寝室もリビングもトイレも台所も風呂もキレイになった辺り、今度は洗濯機から取り出した下着やストッキングを洗濯鋏の付いた専用器具に薫の目の前で取り付けた工藤真一はそれを、部屋の隅っこの天井にブラ下げ、更に再び衣類を持って洗濯機に放り込んでスイッチを入れた。
 部屋の隅っこで窓から入る風に揺らめくパンストとスリップ、パンティーにブラジャーを見た薫は、口元を硬く閉じて憮然とした表情を工藤とは逆の方向に向け悔しさに目を潤ませた。
 そして更に二時間が経過すると、掃除も洗濯も全てを終えた工藤真一は最後にトイレ掃除に入って出てくると、薫を見て「汚物入れの中身。 袋に入れて玄関の脇に出して置いたけど、帰りに俺が捨てて行くから」と、そのまま部屋の中をグルリと見回して笑みを浮かべた。
 
「ありがとう」

 憮然さの抜けない薫の口から出た言葉に工藤真一は驚いた顔を見せた。

「え!? 珍しいな。 お前が礼を言うなんて~♪ さてさて、ようやくメシが喰える♪」

 ソファーに座る薫を前に、テーブルの向こう側に床へ座る工藤真一は、薫をチラチラと見ながら買物袋から弁当を取り出した。 それを見ていた薫はお茶を入れようと立ち上がって台所へ移動した。

「おいおい、どうした♪ お前がお茶を入れてくれるなんて、初めてじゃないかあ~♪」

 工藤真一の言葉に再び薫は惨めさを感じた。 お茶、一杯入れてあげたことがないと言う設定に工藤に見えないところで薫は右手にゲンコツを握った。
 そしてお茶を入れて工藤の前のテーブルに置いた薫に工藤が「寝室のベッドの引き出しのコンドーム、切れてたけど買ってないのか? まあ、今日は生理だから必要ないけどな」と、当たり前のように弁当を食いながら話したことに薫は「えっ!?」と、一瞬目を大きくした。
 
「今夜は泊まっていけるから、夕飯は久しぶりにお前の好きなビーフカレーにしようかって思ってんだよ♪」

 弁当を食いながら薫を見て笑顔する工藤真一は困惑する薫の様子に気付いてか気付かずか、ストッキングに包まれた薫の足の爪先をギョロリと見た。 そして薫はその視線に足を隠すようにすくめた。

『何て人なの! この人は私が生理中だと知ってて私の中に入る気なんだ…』

 薫は心の中で考えると早く帰って欲しいと策を練り始めたものの、生理的に受け付けないギラギラした目をした工藤真一の傍では何も浮かばず窮屈な時間を経過させた。
 そして工藤は弁当を食い終わるとゴロンと横になってタバコに火を点け吸い始めた。 会話のなすまま時間だけが経過し工藤のタバコが半分ほど消失したその時、工藤は突然、ガハッと起き上がって薫をギョロリと見詰めた。

「お前… 誰? 薫はタバコの煙が苦手なんだよ。 だから俺は薫の前じゃいつも禁煙してんだ。 何でお前は平気なんだ? 姿かたちも瓜二つだし… もしかしてお前、薫の双子とかか? そう考えれば今までの経緯(いきさつ)も自然なんだけどな…」

 突然、真顔で薫に視線を釘付けにする工藤は、タバコの火を空き缶で消すとそのまま這って薫に近づくと、ワンピースの裾をいきなり捲り上げた。

「キヤアァー! 何するのおー!!」

 スカートの中を見られた薫は仰天して両手で抑えて隠し、立ち上がって工藤から離れると、その身を後ろの壁に移動させ恐々した表情のまま吐息を震えさせた。

「やっぱりだ! 俺がこないだ内モモの愛撫で付けたうっ血がない! あっ! それ何ヶ月も前だった♪ あっはははは♪ てか、毎度のことながらもう他人じゃあ無いってのに、お前のその初々しさが堪んねえぇーよ♪ クッククク♪」

 突然、冗談だと笑いを浮かべた工藤は片足だけ膝立てして両手で拍手して一人で大笑いし、とても冗談とは思えない工藤の迫真の演技に薫は顔を引き攣らせて傍へ近づこうとはしなかった。

「おいおい♪ どうしたんだよ~♪ 冗談だって冗談♪ てか、お前、本当に薫か? なんか変だよな~ いや、お前の生理が重いのは知ってるけど、大丈夫か? 掛かり付けの医者へ連れて行くか?」

 壁際に怯えたまま張り付いている薫を見た工藤は、笑うのを止めると真剣な眼差しを向けると、再び立ち上がって薫に近づいた。

「よし! お前が本物かどうかお前の身体に聞くとするか~♪」
「えっ!? 嫌! 嫌よ! 来ないで! 来ないでえー!」
「ククク♪ 堪んねえ♪ このシチュエーション♪」
「何言ってるの! 近づかないで! 来ないでえ!」
「嫌! 嫌! 嫌ああぁぁーーーー!!」

 薫は両手の平を前に出して自分に近づくギョロ目の工藤から後退りし、工藤は獣のように逃げる薫を捕まえようとした。 そして逃げ場を失った部屋の角、瞬間的に薫に近づいた工藤はその大柄の身体で「ヒョイッ!」と、薫を抱きかかえると悲鳴を上げて四肢を降って暴れる薫を寝室のベッドへと運んだ。
 
「嫌ああぁーーーん!! ヤメテエェーー!! ヤメテヤメテヤメテエェー!」 
「あっははは♪ その演技、堪りましぇーーん♪」

 ベッドに薫をフワリと放り投げた工藤は逃げようとする薫に身体を重ねると、左手で薫の両腕を頭の上で押さえつけ左手でワンピースの裾をフワリと捲り上げると、ギョロギョロした目玉を充血させパンティーストッキングの切り替え部分を見てニヤリと笑みを零した。
 薫は何とか逃げようとモガくものの抑えられた両手は外れることなく、足をバタ付かせても動くのは左足だけで、その左足さえも工藤の右手がスリスリと嫌らしい手を滑らせたことで動かせなくなった。 工藤の右手はパンティーストッキング越しにスルスルと太ももを触りまくり、好きでもない男の手の感触に薫は涙を滲ませて身体を揺すった。

『女じゃなきゃこんなヤツに負けないのに! 畜生!』

 薫は頭の中で女であることの非力さを悔しがり、女故に男の性の処理に付き合わされることへの不満を爆発させた。 だが現実は改善することなく薫は身体を揺すって抵抗しつつも工藤にパンティーストッキングを掴まれ音を立てて破られた。
 スカートの中に入れられた工藤の手は左足を包むストッキングを無残にも破り、その手を腰に押し込むとパンティーストッキングのゴムは簡単に掴まれそして下へと引き摺り下ろされた。 

「ウヘヘヘ♪ アハハハハ♪ もっと暴れろ♪ もっと泣き叫べ♪ 今日の薫は最高だあ~♪」
「何言ってんのよおー! 私はアンタの彼女でもなんでもない! ヤメテ! ヤメナサイ!」
「そうそう♪ 俺は今、見知らぬ女を辱めてんのさ♪ お前は辱められて泣き叫ぶ女、メチャ可愛いー♪」
「違う! 本当に本当に私は貴方の彼女じゃないのよおー! 別人なんだってばあー!!」
「あっひゃひゃひゃ♪ 俺が買ってやったレイププレイ用ののワンピース着てるじゃん~♪ そんな言い訳は通用しないよーん♪」

 身体を左右に振ってモガク薫は、工藤の言葉に絶句し一瞬、その動きを止めたが工藤の手は薫の右足を包むパンティーストッキングをも引き裂き始めていた。
 そして抵抗も空しく薫は下半身から引き裂かれたパンティーストッキングで両手を頭の上で縛られた。 そして工藤はベッドのヘッド部分の裏側からロープを手繰り寄せるとそのロープで薫の両腕を緊博した。
 これに驚いた薫は「何でそんなところにロープがあるの!?」と、激しい動揺を工藤に見せたが、工藤は薫の迫真の演技と満面の笑みを浮かべて薫の身体を包んでいるワンピースを力任せに胸元からスカートの裾までを一気に引き裂いた。
 薫はその工藤の凄まじい気迫に顔を強張らせ半泣き状態で工藤の前に晒される下着姿にオロオロし始めた瞬間、薫は狂乱したように大声で叫び出した。

「助けてえぇー! 誰が助けてえぇー!! 人殺しいぃーー!! 助けてえぇー!!」

 薫の絶叫に度肝を抜いた工藤はその凄まじい声に逆にオロオロして辺りを忙しく見回した。 そして何処からか手繰り寄せた粘着テープを切り取ると、それを薫の口に貼り付けた。
 それでも薫は粘着テープで塞がれた口で声にならない声を発して首を左右に振り続けると、工藤はギョロギョロした目玉で暴れて叫ぶ薫の全身を笑みして見回した。

「はぁはぁはぁはぁ… 堪んねえ! 生理中に犯される女か♪ ふふふ♪ ふはははははは♪ 今日のお前は最高だあああぁーー♪」

 血走った目玉をギョロギョロさせる工藤は興奮して、薫の両足の膝に馬乗りになるとハサミで薫のブラジャーを「パツッ」と、正面から切り離した。 その瞬間、暴れる薫の胸からパラリとブラジャーのカップが左右に揺れ落ちた。
 そしてその瞬間、粘着テープで口を塞がれている薫は両目を大きく見開いて、工藤の前に乳房が晒された事実に髪を振り乱し全身を弾ませてベッドを大きく揺らし音を立てた。
 だが薫は暴れることで知らず知らずに乳房をブルブルと大きく揺らし工藤の獣魂(こころ)の炎をを倍増させた。

 工藤の充血したギョロ目はピンク色の乳首を支える「プリンプリン~ プルプル~」と、大きく無造作に揺れる柔らかい薫の乳房に目を奪われ、伸ばした両手で揺れる乳房の動きを掴んで止めた。
 そして全身を弾ませ首を左右に振る薫は乳房をつかまれた瞬間、両目から大粒の涙を頬に伝えた。 工藤の両手は乳房を揉み回しつつ、唇で乳首に吸い付きザラ付いた男の舌で乳首の先をチロチロと舐めた。
 
「ぅあっ! あひっ!」

 粘着テープで口を塞がれていなければ薫の口から本来放たれたであろうヨガリ声は、全身を揺すり弾ませて抵抗する薫の喉の奥に溜め込まれた。
 だが、工藤には聞こえないはずの薫のヨガリ声は薫の筋肉の動きで揺れる柔肌で確実に伝わっていた。 そしてその揺れをチラチラとギョロ目で見入る工藤は無心になって薫の乳房と乳首を味わい続けた。
 抵抗しつつ身悶えしそして仰け反りを見せる薫の溶けてしまいそうなほどに柔らかい身体に触手し味わうための舌を滑らせる工藤は、殆ど抵抗しなくなった薫の下半身へとその嫌らしい手を伸ばし、プリプリと張りがあって手に溶けてしまいそうな太ももを左右外側から撫で回しつつ、口の中で勃起してコリコリする乳首を執拗にシャブッた。
 そして乳房を揉み回しつつ谷間に移動させた舌をそのままヘソまで回し滑らせながら到着させると、ヘソの中をチロチロと舌先と唾液で無造作に回し、更に両手で下ろし始めたサニタリーの中から漏れる強烈な生理臭と塩気の聞いた陰毛臭に鼻を膨らませてその匂いを嗅ぎまわし同時に唾液の付着した舌先で陰毛を味わった。
 


 
【十五話】



 剥ぎ取ったサニタリーから落ちた血糊のついたナプキン。 工藤は密かにその匂いを嗅ぎ、続けて血生臭い割れ目を開いて内側の汚れに目を釘付けにした。 そして「ペロリ」と、その内肉を舐めた瞬間、薫はその一舐めに全身の筋肉を痙攣させ悶え狂った。
 敏感過ぎるほどに敏感になった性器の全体とその内側に無造作に滑る工藤の舌は、薫の思考回路を一瞬にして破壊し薫の全身の感度を数倍にまで高めた。 ザラ付く工藤の舌に微かな痛みにも似た刺激を感じたかと思うと、直ぐに脳天が粉々に砕け散るほどの快感が全身の内側を充満させた。
 工藤は唇を血だらけにしてその生臭さに歓喜し、それを洗い流すかのように溢れだす薫の愛液を舌に絡めて満遍なく内側に塗りつけた。 薫は大きく広げられた両足をヒクヒクさせ、まるで死後硬直のように全身の筋肉を硬化させつつも粘着テープで塞がれた口を吐息で膨らませた。
 
「ピチャピチャレロレロ… チュパチュパレロレロ…」

 工藤の舌の動きに薫の汚れた内側は溢れた愛液と舌に洗い流されそのまま工藤の口の中へと消えて行った。 薫の柔らかい内モモに両手を添える工藤は時折、内モモに自らの頬をピタリと張り付かせその蕩けるような柔らかさに笑みを浮かべ直ぐに目の前のクリトリスへと刺激を加えた。
 どう見ても挙動不審者にしか見えない背高ノッポのギョロ目の工藤は、自らの変態性欲者を武器として薫に女としての最高レベルの快感と官能を与えた。 そして薫は既に女と言う性感帯の肉塊と化し身悶えも仰け反りもしない境地にその身を置いていた。
 そしていつの間にか工藤の手に依って全身を荒縄で緊博された薫は、そのジリジリとした痛みと自由を完全に奪われた窮屈さの中に常識では考えられない官能に顔を歪めた。 両手を後ろ手に縛られその荒縄は真っ直ぐと尻の割れ目を通り愛液の溢れる内肉の真ん中を前側に、そしてその荒縄は首に回されつつ再び下へ降りてきて腹を一回転して固定されてから、左右の太ももを片足数箇所キツク縛られた。
 身体を伸ばせば割れ目に荒縄が食い込み痛みを伴わせ、身体を丸めると両太ももに荒縄が食い込む奇妙な緊博に薫は息を引き攣らせ全身をナメクジのように舐めまわす工藤に感情の高ぶりでもある大粒の涙を零した。 薫の蕩けそうな柔らかい肉肌に食い込む荒縄は薫に言葉にならない快感と官能を与え続けた。
 そして夢うつつの状態で口の中に挿入された工藤の生臭い肉棒に舌を転がして応える薫は、無意識に工藤から溢れる愛液を喉の中に流し込み自らの首を前後に振って刺激を与えたが、首を後ろに振れば割れ目に荒縄が食い込み、首を前に振れば柔らかな太ももに荒縄が食い込んだ。 
 薫は工藤の生臭い肉棒を銜えて動かしつつ、自らの肉体も官能させ続けたがそれは意図的と言うより本能と言うべきだった。 そして荒縄に全身を緊博された薫と言う名の肉の塊は工藤の肉棒を口に銜えたまま、尻にポタリポタリと滴らせた溶けた蝋(ろう)の熱さに尻の穴をギュッと締めさせ首を後ろに仰け反らせて割れ目に荒縄を食い込ませた。
 両足をシーツの上に投げ出して座る工藤の肉棒を前屈みで銜える薫は、プリプリとした柔らかくて張りのある尻肉に滴り落ちる蝋燭に乳房を大きく揺らして工藤を喜ばせた。 

「ポタリ!」
「うぐぅ!」
「ポタリ!」
「あぐぅ!」
「ポタポタポタ」
「あぅ! あぅ! あぅ!」

 蝋燭を垂らされる度に薫は首を仰け反らせ割れ目の内側を張り詰めた荒縄に締め付けられた。 そしてその反動で大きく揺れる乳房の真ん中、勃起した乳首を左右交互に指で摘むと薫は口を大きく開いたまま最大限に後ろへと仰け反った。
 そして最大限の仰け反りから割れ目を締め付けた荒縄に薫は、失神寸まで追い詰められ仰け反ったまま動きを一瞬止めた。 工藤はそんな薫を目の前に射精欲を増大させたが、奥歯を噛み締めて自らの射精欲を我慢しつつ、蝋燭の火を消すとその手にプラスチックの棒を持ち替えた。

「ビシッ!」
「ああんっ!」
「ビシッ!」
「ああんっ!」

 持ち手が太く先っぽの細いプラスチックの棒が、工藤の肉棒を銜える薫の尻を打ちつけると薫は、その鋭い痛みに口を大きく開いたまま後ろに仰け反り割れ目を荒縄で締め付けさせた。
 工藤は口元をニンマリさせ薫が痛みを快感として受け入れる適度な力で尻を打ちつけ、肌に張り付いた蝋を砕け散らせた。 工藤の打ち付ける愛欲の鞭は白い張りのある柔らかな薫の尻に鮮やかなラインを描いた。
 そして工藤の手に持たれた愛欲の鞭は薫の意表を突いて、尻から外モモを打ち付けそして背中にも達した。 全身の至る部位を鞭で打たれる薫は割れ目に張り付く荒縄をヌルヌルした液体で湿らせた。
 工藤はそんな薫の割れ目を這う荒縄から愛液を指で絡め取ると、そのまま何も知らない薫の口の中にその指を入れて舐め取らせた。 薫は夢中になって口に入れられた自分の愛液を舐め啜りその光景が変質者である工藤を喜ばせた。
 そして再び工藤の鞭打ちが始まったが数分後、工藤は肉棒を銜えさせつつ手際よく薫から荒縄を解き始めた。 薫は肌に食い込んだ荒縄が少しずつ剥がされる瞬間のジリジリと言う痛みに顔を強張らせ、そして肉棒をシャブリながらその痛みが快感に変化した瞬間「うあ゛あ゛あ゛あ゛」と、官能の呻き声を発した。
 薫の身体に無数に残る荒縄のうっ血痕に工藤は笑み浮かべて手の平を這わせると、薫からは無数の呻き声が漏れ続けた。 そして再び薫を後ろ手にズタボロのパンティーストッキングで縛り上げた工藤は、犬用の首輪を取り出すと不適な笑みを浮かべて薫の首に取り付けた。
 二メートルほどの紐を首輪に取り付けた工藤はそれを持って、薫をベッドの下へ移動させると自らは両足を開いて座り、腰を「クイクイッ!」と、降って肉棒を靡かせた。 すると薫は床に正座して工藤の聳える肉棒を再び銜えると自由になった首を大きく前後させ太マラに舌を巻きつかせた。
 そして数分後、かおるの口の中に肉棒を挿入している工藤が鼻息を荒くし自らも腰を降り始めた更に数分後、薫の口の中にはドロドロした水分を失った粘度のあるゼリー状の精液が溢れた。 

「さあ! 一気に飲み干すんだ!」

 工藤の声に薫は目を閉じて口の中に溢れた苦くて生臭いドロドロした液体を飲み辛そうに喉を鳴らして飲み込んだ。 工藤は満足とばかりに首輪についた紐を軽く引いて再び肉棒を薫に銜えさせると、剥がれ落ちた蝋の散らばるベッドシーツを片手で剥ぎ取った。
 薫はまるで催眠術にでも掛かったように額に汗して工藤の肉棒を再び硬くさせると、工藤は薫の勃起した両乳首を両手の指で摘んだ。 その瞬間、薫は全身をビクンッとさせ一瞬動きを停止した。

「あひいぃぃぃーーーー!!」

 薫は電気に感電したかのように、悲鳴にも似た甲高いヨガリ声を部屋全体に響かせ、ガクガクと振るえながら正座しつつ見る見る間に潮吹きして床を濡らした。
 そしてそれを見た工藤は目玉をギョロギョロさせ薫の身体をヒョイと持ち上げると、ベッドに仰向けにして両足を開かせ潮吹き止らぬ割れ目に口を押し付けて吸い取って飲んだ。
 薫はそのまま割れ目に舌を押し付けられ潮吹きで汚れた内肉をピチャピチャと工藤に舐め取られ、肛門を開いたり閉じたり繰り返した。 そして工藤は「限界」とばかりに、薫の首輪に付いた紐を持ったままガタイに似合った太くて硬い肉棒を窪みへと挿入した。

「いっひいぃぃーーー!!!」

 薫は両方の目玉を歌舞伎役者のように中央に寄せ、一気に体内に入る肉棒に呼吸を乱して奇妙な声を発し四肢を小刻みに震えさせた。 それでも工藤の巨根はグイグイと中に突き進み、内側の生肉を擦り薫の両手の指先は痙攣し始めた。 
 工藤は奥まで一気に入れた巨根を小さく擦りながら一気に引き抜くと直ぐに奥まで再び到達させ、薫の狭い肉洞に肉棒を小さく連続して擦り再び一気にその肉棒を引き抜いた。 薫の肛門は工藤の侵入に開いたり閉ったりを繰り返し同時に腹筋は収縮を制限なく繰り返した。
 だが薫は知らなかった。 工藤はこの時、薫がしていたナプキンを口の中に入れてクチャクチャとガムのように噛んで味わいつつ、履いていたサニタリーショーツのうち内側を顔に向けて被っていたことを。

 一時間後、工藤によって数回のエクスタシーに導かれ汗だくになった薫は、その身体の隅々までを工藤に味見される後戯の的になり、一通り味見し終えた工藤は全裸の薫をヒョイっと抱きかかえると狭い風呂場にそのまま入り、起位のままシャワーの真下で工藤に全身を洗われた。
 だが、その狭さ故か工藤はウットリしている薫を確認すると「パチリッ!」と、指パッチンして狭い風呂場を八畳ほどの広さに替えた。 そして薫を後ろから抱いた工藤はそのまま椅子に座って鏡の前で薫に両足を開かせた。 
 そして鏡の中に女の全てを晒してグッタリする薫の割れ目に、工藤の右指が再びうごめくと薫のクリトリスは直ぐに勃起して奥の窪みからヌルヌルした愛液を滴らせた。 工藤はそりヌルヌルを指に絡めると直ぐにクリトリスに塗り付け右指の腹で回した。
 鏡に映る薫は愛狂しい悶えを工藤に見せ、工藤は柔らかくて抱き心地のいい薫に再びペニスを肉棒化させた。 そして左手で左乳房を揉み回しつつその指を乳首に絡ませた。 薫の乳首は直ぐに反応して勃起すると工藤の左指に心地よいコリコリ感を伝えた。
 薫はクリトリスと右乳首を同時に可愛がられ、目を閉じたまま股間にコツコツと当たる工藤の肉棒の存在を知ると、工藤に「お願い… 入れてぇ…」と、切なげな吐息交じりの声を聞かせた。 この薫の声に工藤は目の色を変えた。
 工藤は両膝で薫の尻を高く持ち上げると、自らの肉棒を自在にコントロールして両手を使わずに薫の窪みへと挿入さた。 そして薫の中に肉棒が入るや否や薫は「うわあああーーーん!」と、風呂場に悲痛な女の鳴き声を奏でた。
 そして工藤は薫を両手で軽々と持ち上げると上下させて互いの肉と肉を擦らせ「クッチャクッチャニッチャニッチャ」と、嫌らしい音を響かせた。

「薫! 見て見ろお♪ お前の中に入っているぞお~!」

 薫の中に肉棒を挿入し持ち上げて動かす工藤に、エクスタシーに近づきつつある薫は全身をプリンのように揺らしながらその重い瞼を開くと、鏡の中の自分に入っているその肉棒を空ろな瞳で見た瞬間「気持ちいい… 気持ちいいいいー!!」と、後ろの工藤に叫んで涙を零した。
 その薫の二つの乳首とクリトリスは痛い程に勃起し、発射を待つロケットのように聳え立っていた。 そして持ち上げられて上下する動きに合わせてその根元から発する強い快感(しげき)は四肢の指の先にまで及んだ。
 
『何て女だ…… 本当にこれでも元は男なのか! 堪らん!!』

 薫を持ち上げて上下させる工藤は心の中で満足を超越し、言葉が見つからないまま薫の中に熱い思いを発射し同時に薫はエクスタシーに突入し全身をグッタリさせた。
 工藤はグッタリする薫から縮みかけた肉棒を引き抜くと自らが中に放った滴り落ちる精液を見て、シャワーを手に優しく薫の割れ目の内側を洗い流した。
 薫はエクスタシーに達した身体を工藤に丁寧に優しく隅々までをボディーソープで洗い流されると、再び工藤に抱きかかえられて風呂場から出て来た。
 二人が愛欲するに十分だった広い風呂場は工藤の指パッチンで元の狭い空間に戻ったことを薫は知らないまま、夢見心地で取り替えられたベッドシーツの上に全裸でその身体を横たえた。
 
 そしてベッドでまどろむ薫をそのままに、台所では工藤はビーフシチューの準備に取り掛かっていた。


 

お仕事(仮名)

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  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
  • 強い言語・思想的表現
更新日
登録日
2013-08-24

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