がっかりの山積み

処女作になります。

僕はオバケです。

 暑い日が続くなか、僕はいつものように仕事に出かけた。
ちなみに工場に勤務している。包装やらをするいわゆる下請けだ。毎日が同じ作業で淡々と時間だけが過ぎていく。上司や同僚達、仲間には何ら不満はないがとてつもなくつまらない。そこで僕は人生の一大決心をした。

 
 
 僕はオバケになった。20歳の夏にオバケになったのだ。
家族のことや、仕事の仲間達のことを考えると申し訳ないことをしてしまったともちろん思うし、後悔もそれなりにしている。が、オバケも意外と悪くないものだ。僕を見て逃げる人や、わーきゃー騒ぐ人達を見ていると、これが結構心地のいいものなのだ。存在の薄いはずのオバケなのに、オバケになったおかげで工場勤務していたときより存在が濃くなるという皮肉もまた面白く思える。ちょっとしたアイドルの様な気分を味わえるのだ。



 オバケになって1ヶ月。僕はいつものように仕事に出かけた。
オバケにも大分慣れてきて、「板についてきたな。」なんて言われたりもする。この仕事にやりがいを感じ始め、今はオバケの中のオバケを目指している最中である。


「まもなく開園5分前でーす。」


 ここから僕の新たな人生が始まる。遊園地のオバケ屋敷のオバケ役。
ちなみにベタな落ち武者である。一番の山場というわけではないし、始まりでも落ちでもない中間で飛び出して客をビックリさせるだけだが、これが意外と難しい。ただ単に背後からでは落ち武者と認識されず驚きが半減。早くに飛び出しては当たり前だが怖くない。オバケはタイミングが命なのだ。オバケ役のくせに「命だ」なんて言っているのも変だが、オバケ全員が驚かすことに「必死」なのだ。



 オバケになって4ヶ月。今日はちょっと変わったことが起こった。
いつものように落ち武者の衣装を着ようとしたところ、「今日は口裂け女が急遽休みになった。代わりに頼む。」と言われた。性別も違うし最初は断ろうと思ったが、口裂け女は入ってすぐに登場する言わば切り込み隊長なのだ。こんなチャンスは滅多にないと思い、落ち武者は口裂け女になった。
 順調に仕事をこなしていき夕方に差し掛かる頃、外国人のカップルが入ってきたのだ。落ち武者と違って口裂け女は台詞がある。「アタシキレイ?」だけなのだが、はたして日本語が通じるのか、それに口裂け女を知っているのか疑問に思った。そうこうしているうちに外国人カップルはオバケ屋敷をでた。結果は惨敗。日本語ペラペラだが、口裂け女を知らなかったのである。一番怖くない状況になってしまったのだ。



 オバケになって7ヶ月。今日もちょっと変わったことが起こった。
あれからまた落ち武者に戻ったのだが、落ち武者に相棒ができたのだ。矢の刺さった落ち武者だ。これからは2人で驚かすことになるのだが、この相棒がまた変わりものだ。客を待っている間、オバケのくせにオバケに怖がっているのだ。大のオバケ嫌いのくせにこの仕事に就いたのである。しかし、この相棒が驚かしに行くと僕よりいい反応が返ってくるのだ。おそらく自分が怖がりだからか、相手の怖がるツボをなんとなくわかっているのだろう。悔しいことに、たちまち僕より人気がでたのだ。



 オバケになって12ヶ月。今日はとんでもないことが起こった。
なんと遊園地が閉園になってしまうのだ。相棒もでき、オバケの仲間達と楽しくやっていたところに、この知らせは落ち込んだ。そして最後の開園のときがきた。


「今日が最後の開園でーす。今日も1日がんばりましょう。」


 僕は正直気持ちが乗らなかった。自分が思っていた以上にオバケ役に嵌っていたらしい。相棒に励まされながらこの日も客を驚かしていた。ところがいつもと客の反応が違う。相棒に負けないぐらいの反応が返ってくるのだ。心なしか、僕を見て相棒も怖がっている気もした。気持ちがどんよりしているせいか、表情に覇気がなく、いつもより怖く見えていたのだろう。そう思うともっと落ち込んだ。



 オバケをやめて1ヶ月。僕はいつものように仕事に出かけた。
ちなみに工場に勤務している。包装やらをする下請けだ。嫌でやめた仕事をまたやっているのである。上司や同僚達、仲間と話す機会があれば毎回のようにオバケ時代のことを自慢げに話している。すっかり僕の鉄板ネタとなっていた。しかし、話せば話すほど

今の生活にがっかり。

また同じ仕事をしている自分にがっかり。

過去の栄光のように、自慢げに話している自分にがっかり。

よくよく思い返してみれば

オバケのくせに必死な姿を見てがっかり。

その日に限ってなった口裂け女で、外国人カップルをうまく対処できずがっかり。

自分より後に入った後輩のほうが人気がでてがっかり。

よりによって最終日にやっとコツを掴んだのもがっかり。

 
 と、何も工場だけに限らずがっかりの連続だったのだと僕は思った。これから先のことを考えるとオバケより怖いが、これが現実。前を見すぎず、後ろを見すぎず、オバケに足はないが、足元を見て生きていこうと一大決心をした。

 


 「新たに開園でーす。」     

がっかりの山積み

自己満足ですみません。
作品といえるものじゃありませんが、設定が思いついたので書いちゃいました。
あえて書き方や小説を読まずに書いてみました。楽しかったです。
今度書く機会があれば、勉強して出直してきます。

がっかりの山積み

人であったり、人でなかったり、不思議なようで、不思議じゃない1人の男のありきたりな人生。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-23

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