クラスメートがHRを終え教室を去った。
俺は一度呼吸を整え、帰りのクラス委員の仕事にとりかかっている生徒に声をかける。

「菊」
黒板を消している最中の菊に話しかけた。

「あら春兎。さようなら」
こちらを振り向かず手の動きを止めないまま言った。

「あのさ、菊。話があるんだ」
「私はないわ。さようなら」
「そう言わずにな。昨日発売した『真夏の純情〜愛と光の戦士達〜の特定ポスターあげるから」

ピクっと体が反応し、ようやく動きが止まり体がこちらにむけられた。

そうなんだよな。菊は根っからの腐女子なんだよな。

「話ってなに」
「あのな、学園祭の時は本当にすまなかった」
「別にいい。気にしてない」
「そっか。でもこれは大切な『友達』として菊に言わなくちゃいけないんだけどさ」

『友達』というワードに菊はするどく反応した気がする。
目に見えて菊の表情が曇っていくのがわかる。

「『友達』として何がいいたいの」

妙に毒気のある話し方だ。

「俺は冷奈の事が好きだ」

「へぇ。それで?」

「でも菊の事も大好きだ」

一瞬俯いた後今まで見たことのない顔の菊が俺を睨みつけてきた。

「バカにしないで・・・」

「バカにしてないよ」

「してるよ!そんな風に同情されたって全然嬉しくない!」

鼻息を荒くし、手にもっていた黒板消しを投げられた。

「同情何かじゃない!本当にだ!」

「なら!私と付き合ってよ!恋愛対象として私を見て!」

暫しの沈黙が流れる。

「それは出来ないんだ」

「もう良い・・・」

菊は落ち着きを取り戻した様子で教室から出ようとする。

「恋人にはなれないけど。家族のように仲の良い、そんな友達にはなれないかな?」

「なれる訳ないじゃん・・・」

「『私の王子様は永遠に』」

「!?どうしてそれを・・・」

「ちゃんと見たんだよ。学園祭の日のDVDを貰って。あの日見れなかった菊の部活の演劇」

そう。俺は冷奈を追いかけた後
演劇部の部長に頼み込みDVDをかりて家でみたんだ。
普段短調なセリフと抑揚のない話し方、表情が一定の菊が感情豊かなお姫様役を演じていたあの劇を。

「綺麗だった。菊にもこんな表情が出来るんだってドキドキしたよ」

「・・・バカ。今更言われても嬉しくない」

「でもちょっぴり嬉しいかも」

菊は先程より落ち着いたトーンで話しかけてくれた。

「本当は分かってたんだ。春兎が冷奈さんが好きだって。でもそれを認めたくなくて。意地になっちゃって。取り返しがつかなくなっちゃって。
春兎と距離が出来てからずっと後悔してた。
だから謝ろうって。でも近くで見るとやっぱり強がっちゃって。
それならいっそ距離を話した方が楽なんじゃないかって・・・」

始めて。
始めて菊が泣いてる所を見た。
今までさんざん俺が傷つけたはずの菊が自分を責めて辛い想いをしていたのだ。

「そんな訳ないよ。俺は菊とはいい友達でいたい。これからもずっと」

「私を許してくれる?」

「勿論。俺こそ本当にごめん」

「うんん。また一緒にアニメイトにも行ってくれる?」

「おう、いこう」

「また一緒に皆で遊べる?」

「遊ぼう」

「そっか。分かったよ。春兎を信じる」

顔面を涙でくしゃくしゃにしながら菊は笑顔で言ってくれた。

「冷奈さんと幸せにね」

そう言うと「また明日ね」とだけ言い残し今度は本当に教室から去っていった。

「ありがとう。菊。」

言うと俺の頬にも堪えられていた一筋の雫が流れて行った。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-21

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