かまって。

よし夫さんリク\(^o^)/大学生な感じで…。短くてすみません!!!!!

帰宅するなり抱きつかれて、ちょっとだけ堪能してからべりべり引き剥がした。リビングに押し込んだ大地の機嫌は異様に良くて、何があったんだろうと菅原は微苦笑を零しつつ、酔っ払いの目の前に水を汲んだコップを置いてやった。

「スガー。」
「なーに?」
「こっち、来いって。」
「ハイハイ。」

帰って来た瞬間からずっとずっと、大地はすんごいニコニコしてる。自分に対しては割といつも全開なのだけど、毎回何かしらのきっかけがあってこうなって、別件が入って飲み会に参加出来なかった菅原としては、何があったのか気になるし、あと、ちょっとだけ面白くない。
なので、自分用の麦茶を片手に、多分大地が呼んだ真横ではなく、テーブルの角を挟んだ隣に胡坐をかいてみる。気にもしないで手が伸びて、頭をぐりぐりやってくるのが複雑だ。

「スガのこっちって、そっちかよ。」
「どっちだろーね? ってか、ほんとに機嫌いいのな。」

気付けよバカって思う。でも、全開のままの目に『好きで好きで堪らない』って書いてある。大地が駄々漏れだなんて、これもいつもの事だ。気恥ずかしいのに嬉しくて仕方ない。でもやっぱりちょっと悔しい。

「この酔っ払い。」
「そこまで飲んでないけどなあ。」
「嘘つけよ。すっごい酒臭いぞ。」
「そっか。じゃあ、スガはそっちでいいや。」

本当にバカだ。菅原はテーブルに突っ伏した。ハズした恋人を低い位置からジト目で睨んでいると、大地もテーブルに弛み切った顔を乗せて、目線を合わせたままで髪を梳いてくる。気持ちがいいので懐きたい。テーブルは硬いし冷たいし、ここにいたい訳じゃないし。なのに大地ばかりが上機嫌で、そんなのとっても理不尽だ。
理不尽というか、一人で取り残されている気がする。気分というのは勝手なもので、別にそこまで切なく淋しく大地の帰りを待ってた訳でもなかったのに、菅原は独りぼっちでずっと放って置かれたような気になった。

「……なあ。何でお前は、俺の知らないとこでそんな機嫌よくなってんの?」
「んー。」

我慢出来ずに大地から顔を背けたら、掌が優しく優しく頭を撫でた。このテーブルのどこかには、出しっぱなしのタバスコが置いてある筈で、もうちょっとしたらそれを全部大地のコップに突っ込んでやる事に菅原は決めた。掌に飽きたら即実行する。今は、もうちょっとだけこのまま。

「付き合ってる相手の自慢みたいな話になって。」
「ふーん。」
「みんなの話全部合わせても、スガが一番だなって。」
「……ふーん。」
「そんで、すっごいスガのこと構いたいんだけど。」

別に本当に、機嫌の理由を聞きたいとかじゃなかった。人の気持ち読んでこないし、話の飛び方おかしいし、大地はやっぱり酔っ払いだ。酔っ払いの言う事なんか真に受けてらんない。でも、こんなに機嫌がいい理由がまさかの自分で、それが不機嫌な頭の中をぐるんぐるんに掻き混ぜてくる。頬までつつかれて、気持ちの整理が全然つかない。なので、菅原の声も微妙に不機嫌なままになる。

「……バカだろ。お前の頭ん中で、俺はどんだけなんだよ。」
「で。スガの自慢する代わりにずっと飲んでて、帰ってきてスガの顔見たらさ、」
「俺の話、聞いてんの?」
「ほんとにもう、すっごいすっごい構いたい。」

構えばいいのに。

もうよくわかんない頭に、ぽつんとそれが落ちて、ものすごい勢いで広がっていく。掌は飽きた。飽きたというか、足りなくなった。タバスコは気分じゃない。見えない顔が容易に浮かぶ声がした。

「スガ。」
「……っ、」
「スガ。スガ、」
「……好きなだけ、構えばいいじゃん。」
「すっごい酒臭いって言ったろ。」

バカだ。正確にはバカだった。こんな風に離れて座ってしまった自分が。あと大地が。
もう全然別の意味で淋しくて堪らないので、菅原は眉尻下げて立ち上がってキッチンに向かうと、冷蔵庫の中のビールを掴んでプルタブを開けた。その場で一気に煽り、ふと思いついて慌てて戻る。残りは、しっかりと大地の目の前で飲み干して見せた。釣られたように水を一口飲んだ大地の隣になんか、今更過ぎる気がしてもう座れない。でも淋しい。とてもとても淋しい。どうしようもなくて、菅原は元の場所に腰を下ろすと、大地の方を向いてころりと横に転がった。

「スガ?」
「……俺も、酒臭くなったなー。」
「そっか。」

ぎゅっと目を閉じる。のそりと立ち上がった気配が近寄ってくるのを、胸をどきどきさせて待った。すぐ横に転がって、ぎゅうぎゅうに抱き締められて、肩にぐりぐり懐かれた。

「んっ……。」
「な。構っていいか?」
「も、構ってんじゃん。」
「もっと。ほんッと、かわいい。」
「……好きにすれば?」

恐らくはほとんどが酒の所為で熱い大地の胸に、菅原は丸くなって顔を埋めて自分もぐりぐりやった。包み込んでくる腕には満足だけど、聞こえる鼓動が早いのも酒が理由だと思うと悔しくなる。

「スガ。」
「うるさい。大地のバカ。」
「ん。ほんとに、スガが一番かわいい……。」

人の話全然聞かないし。なのに、話なんかどうでもいいってくらい、腕の中が幸せなのには間違いなくて、髪なんかキスされまくりで浮かれそうになる。そのキスの合間に、あの声で、名前を呼ぶとか卑怯過ぎるとしか思えない。

「スガ、」
「バカ。大地のバカ。」
「ん、ゴメンな?」
「何が悪いかわかってんの?」
「何だろ。とりあえず、スガを怒らせたのはダメだろ。」
「……ばか。」
「ゴメンって。あとかわいい。」

このバカって顔を上げたら、丁度落ちてきた口唇が額に当たった。口唇も熱い。フザケんなって思って、ちゃんと目を合わせようとして、ぶつかったのは全開駄々漏れのあの黒だ。嬉しくて嬉しくて大好きで幸せだって書いてある。至近距離でまともに喰らった。菅原の中の悔しいとかそんないろいろが、とろんととろけて消えていく。
降参だ。大地は大地だった。この『好き』のカタマリに敵う訳なかった。何の力が加わっていても上機嫌なのはいい事で、しかもそれが全部自分に向けられている。
菅原は大きく息を吐いた。もういい。この腕も身体も、もっとずっと熱くなる。酒なんかに負ける訳ない。そこまで大地を煽れるのは自分だけだ。

「だいち、」
「ん?」
「ちゃんと、構えよな。」
「ん。」

背中を撫でてくるのは気持ちいい。でも、寝かしつけようとでもするようなのが気になる。菅原はもう一度大地の目を覗き込んだ。笑う目許は細くて、もしかして眠いんじゃないだろうなと釘を刺す。

「先に眠ったら、許さないからな。」
「寝ない。」
「ほんとに、許さないよ?」
「寝ないって。」

苦笑と共に寄せられた口唇を、口唇で受け止めた。優しいだけのキスじゃ足りなくて、菅原は舌先を忍ばせて誘う。ならば遠慮しないとでも言うように搦め取られて、口の中をたっぷりと撫でられた。激しいのに優しいキスだ。とても甘くて、身体がとろんとろんになっていく。

「ん、ふぁ……。」
「スガ、シャワー浴びてきていい?」
「……やだ。」

酒を抜こうとしてるのを、駄々を捏ねて止めた。
酔いが醒めても恐らくは変わらない。でも、箍が弛んだこの構いたがりの大地のままでと、菅原は胸に擦り寄って甘えた。



すっごいすっごい構われて、文字の通りに突き崩されて、結局、先に寝たのは菅原の方だった。大地は朝から上機嫌で、酔っ払いだったクセに全部覚えてるってのがその理由らしい。

恥ずかしくて爆発しそうになって、菅原は誤魔化すのに拗ねてみた。
今度はちゃんと間違えずに、避難場所は大地の腕の中にした。


■ 終われ

かまって。

かまって。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-21

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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