女の子
『手紙』
私は学校から帰って来るとポストに入っていた郵便物の束を持ち玄関のドアを開けた。
誰も居ない部屋に帰る…。
『お帰り』なんてここ数年聞いた覚えが無い気がする…。
郵便物の中から自分宛の手紙を取り出すと後はダイニングテーブルに置き自分の部屋に向かった。
重苦しさのある制服を脱ぎ、着替えると受験勉強をする前に手紙を書いた。
いつもと同じ文を…。
『今あなたは元気ですか?
今あなたは幸せですか?』と。
ただこの二行だけを。
それから七時まで勉強し、ダイニングテーブルに置かれた炒飯をレンジで暖め、冷蔵庫から野菜サラダを取り出し食べる。
そしてまた勉強…。
寝る前に今日届いた手紙の封を切り、レター用紙を取り出した。
『今あなたは元気ですか?
今あなたは幸せですか?』
これは数日前、私が自分で書いた文字だ…。
私は私の為に自分で自分宛に手紙を書く…。
それが間違っているのか、どうなのかは分からないけど書く事にしていた。
自分が存在してる事を示す為に…。
誰かに、その二言を言われたいのかも…。
明日、帰ったら『私は元気です』と書いてみようかな…。
何かが変わるかもしれないから…。
- end -
『休息』
私はいつも駅前の駐輪場に自転車を停め、そこからバスに乗り換えて学校に通っていた。
毎日毎日同じコトの繰り返し…。
何故か、そんな自分が他人のように思えてしかたなかった。
いつものように駐輪場に自転車を停め、コンビニで弁当を買い、バスを待ち、そのまま吸い込まれるようにバスに乗れば良いのに、その時足は動いてくれなかった…。
バスは行ってしまい、残された私は、軽く空を見上げ、いつの間にか自転車に乗っていた。
そこでやっと私は気づいた。
あっ学校サボっちゃった…。
自転車で今まで通ったことのない道を走り続けた。
何処かへ行きたいと言う目的があった分けじゃない。
ただ、何となく走っていた。
数時間走り続け、行き着いた場所はほとんど人のいない堤防だった。
のどかで現実逃避するにはもってこいの場所だ。
自転車から下りると草むらに寝転んだ。
汚いと思うより先に行動していた。
太陽が眩しくて仕方ない。
こんなに晴れてたかな…。
軽く伸びをして、ケータイを開くと数件メールや着信が入っていた。
それが誰からか、それがどんな内容か見る事なく時計を一瞥し、閉じた。
11時過ぎか…。
朝、コンビニで買って来た弁当を食べることにした。
一人寂しく食べてるはずなのに、何故か気持ち良い気がした。
食べ終わり、再び草むらに寝転び眩しすぎる空を見つめながら、私はふと思った。
名前も、ケータイも、友達もいるけど、もしそれらが全部無くなったら、私はどうなるだろう。
寂しくて仕方なくなるだろうか…。と。
そんな事を考えながら、重くなって行くまぶたには勝てず眠ってしまっていた。
- end -
『ルージュ』
学校の帰り、一〇〇円ショップで真っ赤なルージュを買った。
これからデートに行くわけでは無く、ただ何となく買って見た。
大人になりたい分けじゃない。
だからと言って子供でいたい分けでも無い。
家に帰り鏡の前に座った。
鏡の中の自分は…、落ち着いてるようだ。
これから何をされるのかまだ分かって無いらしい。
鏡の中の自分は、不愉快に思うかしら、それとも気に入ってくれる?
今まで化粧一つした事無いこの顔に真っ赤なルージュは似合うかしら。
鏡の中の自分は、じっとこちらを見つめていた。
軽く下唇にルージュを滑らせ、次に上唇にルージュを滑らせる…。
下に向けていた視線を上にずらし、鏡の中の自分と目が合った。
鏡の中の自分は照れ臭そうな顔をしていた。
思ったより、変ではないらしい。でも、何故か違和感を感じる。
やっぱり中一の私はまだ大人になる気が無いらしい。
私は、ルージュを引き出しにそっとしまった。
- end -
女の子