決意
あるどこかの世界の、ひとりの男の子の物語。
幸せな男の子でした。
家族、友達、先生、隣人……男の子は、皆から愛されていました。
しかし、男の子は自分が幸せであることに気付いていませんでした。
なにせ男の子には不幸を体験したことがないのですから…。
悲しみ、怒り、憎しみ、それと……どれも男の子には無縁でした。
ーーーその年までは。
でも、男の子にもひとつだけあったのです。
それは、恐怖です。
『今の生活を壊さないで。』
『みんなと離れたくない。』
『この日がいつまでも、いつまでも続けばいいのに……。』
男の子は、心の奥底では気づいていたのです。今が幸せであると…。
しかし、男の子はその考えに至るにありませんでした。
だから、この恐怖の正体が分からない男の子は、ひたすら願い続けました。
毎日、毎日……。
その祈りは、いつしか世界を少しずつ歪めていきました。
そして願いに懸ける想いの強さが増すにつれ、しだいに男の子自身にも異変が起きていました。
男の子は次第に「今」ではなく「過ぎ去った日々」だけをみるようになってしまいました。
怖くなってしまったのです。
男の子にとっては、みんながいなくなってしまう世界などいらないのです。
未来なんて希望などではなく絶望の闇でしかなかったのです。
男の子の願いによって歪みきった世界はもう限界でした。
ーーーそして、世界はーーー
決意