フライドチキン
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美味しいフライドチキンのお話
「フライドチキン」
僕はフライドチキン。
とあるコンビニのファーストフード用の機械の中に陳列されている。
正午を越えたついさっき、店員に揚げられて生まれた。
そしてなぜか意思がある。性別があるか否かは不明だが、自分のことを僕という辺りどうやら男ということなのだろう。
「もしもし、すみません。」
僕は隣にいた三本のフライドチキンたちに声をかけた。すると一番近くにいたフライドチキンが口を開けた。
「よう、揚げたてくん。俺は今日の朝方つくられたチキンだ。」
「あ、先輩ですね。」
フライドチキン界にも上下関係はあるのだろうか。あるとしたらやはり先に揚げられたチキンが先輩だろう。念のため敬語で話す。
「俺はこのチキンたちの中で一番骨まわりの肉が多くて油ののった最高のチキンだぜ!」
ナルシストなのか?この人…じゃなくてチキン。と思ったのは置いといて、僕はある疑問をなげかけてみた。
「先輩、僕たちなんで意思があったりしゃべれたりするんですか?」
「…知らないわけじゃないが、自分で考えろそんなこと。」
「教えてくださいよ。」
「だ、だから自分で気づいてこそ意味があ、あるんだよ!」
「本当に知ってますか?」
「も、もちろんだ!」
動揺の仕方、噛み方、完全に知らないな。
すると、一番奥にいたチキンが不機嫌そうに言った。
「なんだい、ごちゃごちゃとうるさいねえ。あんたたち。」
「おっと姉さん。新人がきたんだよ。」
姉さんって。女か?やっぱ性別あったんだな。
「あ、どうも。揚げたてのフライドチキンです。」
「自己紹介したってみんなフライドチキンだよ。しかし名前がないと呼びづらいねえ。じゃ、あんたは揚げたてだから揚げちゃんね。あたしのことは姉さんとお呼び。」
またややこしそうなチキンがでてきたな。
「あ、ヤバイ!姉さん。注文入りましたよ!」
ナルシ先輩が叫んだ。
もちろんこの密室からは注文は聞こえない。
しかし店員の右手に持つ恐々光るトングがそれを表していた。
「俺がうまいぞ!俺を選べ!」
「あたしはまだ食べられたくないよ。」
二つのチキンの思いは違った。
しかし不幸にも、食べられたくないと言っていた姉さんにトングが伸びた。
「やめなさい!」
無情にもその叫びは店員の
「こちら一点で、140円でございます。」
にかきけされ、あっという間に袋に入れられた。
「姉さーーん!!」
ナルシ先輩と僕は一緒に叫んだが、もちろん届かない。
あーしかもせっかく名前つけてくれたのに一回も揚げちゃんって呼ばれなかったな。
「姉さん、羨ましいぞ。俺が選ばれたかったのに!」
隣でナルシ先輩の言葉を聞いていた僕は、今この目ではっきりと見た。
姉さんが入った袋が、ピカピカ光っていたことを。
残された僕たちの間に少しの間沈黙が広がり、それを壊すかのようにナルシ先輩が口を開いた。
「お前も気づいたか?光ってただろ。姉さん。」
「え、あれ姉さんが光ってたんですか。」
「ああそうだ。姉さんはフライドチキンではあるが、[ブライトチキン]でもあるんだ。」
「ブライトチキン?」
「まあ、輝くチキンっていうことだ。」
「なるほど。輝くチキンか。かっこいいですね…。」
なるほどとは言ったものの、正直あまり意味がわからなかった。
「先輩、僕ら食べられたらどうなるんですか?」
「わからない。でも俺たちは、食べられるために生まれてきたんだ。食べられるべくして生まれてきたんだ。だから俺は一番うまい状態で食べられたい。」
「すごいですね先輩。」
「その食べ頃が今の俺だ!はやく食べてもらいたいんだ!」
そうナルシ先輩が言い放った次の瞬間。おもむろに、ゲージのとびらが開かれた。
「え?注文はまだ来てないはずですよね。」
「違うんだ揚げたて。廃棄の時間なんだよ。」
「廃棄?」
店員の持つトングは、ずっと喋らなかった三本めのチキンをつかんだ。
「あいつ。もうずっとそこにいるんだよ。時間的にも、もう廃棄されるんだ。」
「え!食べられずに捨てられるんですか?」
「そういうことになるな。」
「そうなんですか。可哀想に…。」
と、僕がそう言い終わる前に、トングにつかまれたそのチキンが初めて言葉を発した。
「捨てられてたまるか。」
と。
そう言ったチキンは、なんとトングを押し分けて宙を飛んだ。
まるで飛行機のように、きれいに放射状に明らかに自ら飛んだ。
まさに[フライトチキン]。
「あ、やべ。」
店員は自分が手を滑らしたのと勘違いしてそう言ったのだろう。が、宙をフライトしたそのチキンは、レジ下にあったゴミ箱にきれいに入った。
「あいつ自分からゴミ箱に入ったぞ。」
「わざとなんでしょうかね。それともたまたま?はたまたバカ?」
その真相は、勢いよくゴミ箱にダイブしたフライトチキン本人しか知らない。
「ねえ先輩。」
気づくといつの間にか、フライドチキンは僕とナルシ先輩の二本になっていた。
「なんだ?揚げたて。」
「僕ら食べられるんでしょうかね。」
「当たり前だろ!廃棄なんか稀だぞ。」
「食べられたとししたら、苦しいんでしょうかね。」
「苦しいわけないだろ!食べてもらうことが俺らの使命なんだよ。」
「そうですかね。なんで僕ら生まれてきたんでしょう。なんで生きているんですか。」
今までのチキンたちの最期を見てきた僕が、不安と恐怖から精神的に崩れてしまい、生きている意味を先輩に問いた。すると、ナルシ先輩はすかさずこう言った。
「生きる意味を探すために生きてみようじゃないか!」
僕はその言葉で自信がついた。
食べられようが食べられまいが、それが人生。いや、チキン生。
さらに生きる意味を探してそして、知るには生きてかなくちゃならない。
もっといえば、生きる意味を探して生きるのがもう答えであるのだ。
そんな哲学的な思考をしていたとき、ナルシ先輩が一言。
「おい、俺らも食べてもらえるぞ。しかも二人ともかもしれない。」
「なんでですか?」
「見てみろ。あの客、力士みたいに太ってるだろ。ああいうやつはまずフライドチキンを頼む。そしてお昼時で腹が減ってたら二つくらいペロッといくかもしれない。」
たしかに。あの体型ならフライドチキン二つくらい頼みそうだ。
これで僕も食べてもらえる。
「フライドチキンひとつください。」
しかし、力士体型の客は、ひとつだけ注文した。
「おい揚げたて。レジにフライドチキンが一個しか入力されてない。てことは、どちらが取られようがここでお別れだな。」
「先輩……。」
店員の持つトングは、わずか迷ったような気がしたが、ナルシ先輩をつかんだ。
「あばよ!揚げたて!俺は食われるけど、お前も絶対食われろよ!」
「もちろんです!」
と、別れの挨拶を済ませたがその時、トングでつかむ力が強かったのか、衣が少し剥がれた。
しかしナルシ先輩は、その剥がれた部分を僕には見せなかった。後輩にカッコ悪いとこは見せなかった。
最後まで一番旨い状態。一番きれいな状態を見せつけてくれた。
そう、ナルシ先輩は、プライドがとても高い。
まさしく、すなわち、いやはや、えてして、そのとおり!!
[プライドチキン]!!
「先輩!」
叫んだ。目一杯。
届かないのを理解しながら。
一本になるのが嫌だったから。
しかし、とうとう現在自分一本だけ。
「僕ってなにチキンなんだろう。」
ぼそっと呟く。
今までに逝ったフライドチキンたちは、うまい具合に類似した単語でその能力を得ていた。
これをふまえて考えると、自分にもなにか能力はあるんじゃないかと悟った。
しかしいくら考えてもフライドチキンのあるかもわからないちっぽけな頭脳ではレパートリーどころかボキャブラリー的に欠損しており、何一つ思い浮かばなかった。
「うーーん…。」
頭を抱えて悩んでいると、その疑問はすぐに解決された。
店員にトングでつかみ出された。
ついに自分に注文の時がやってきたのだ。
店員につかみ出されたとき、少しの間だけ見た外の世界は、数々の魅力に溢れていた。
だがそんな思いは一瞬でかき消され、あっさりと袋の中にいれられた。
そのとき彼ははっきりと見た。
袋が黒かったことを。
「こちら、プレミアムチキンでございます。」
店員の言葉を耳にした彼は、少しだけ頬を赤らめた。
完
フライドチキン
さあ、コンビニへフライドチキンを買いに行きましょう!!