風を読む

風を読む

 照りつける日差し、行き交う人々、聞こえてくるお世辞……。
 まったく、つまらねぇ世の中だ。
 人間ってのはそれぞれ【個性】っていう物を持っていて、それぞれ違う筈なんだ。それなのに、俺様の視界に入って来るヤツはみんな同じに見える。何でだろうなぁ、何でコイツ等は他人と同じになろうとしてんのかなぁ?
 風が吹いてきた。奴らは「風なんて何処で吹こうが同じだ」と思っているがそれは違う。俺様、そして俺様の同業者には聞こえるのさ、風の声が。耳を澄ませて、それぞれの風が奏でる音を聞く。そしてそれに合わせて楽器を弾く。この演奏が、アイツ等に風の音を聞かせることの出来る唯一の手段だ。ただし、只の楽器じゃない。俺達が持つソレは実体が無い。言ってみれば、「あたかもそこに楽器があるかのように見せている」だけなのさ。
 でも、いざ弾こうとすると案外難しいもんさ。ビギナーの中には、取り敢えず形だけでも弾いているように見せようとする奴等がいるが、ソイツ等の演奏はグダグダだ。俺達は騙せない。
「お前等、俺様の演奏を聴きやがれ!」
 風の流れを読んで、それをこの手で、この体で奏でる! ……どうだ、聞こえるだろ、風の音が!



 その日の演奏は悲惨だった。
 誰1人、俺様の奏でる音を聞いていなかった。どいつもこいつも、他人と同じになる事に必死で、風の音なんてどうでも良いみたいだった。途中で演奏を止めて隠れ家に戻って来ちまった。
「ああ、悔しいなぁ。何で誰も聴いてねぇんだよ」
「時代が変わったってことだよ」
 とハカセが言った。
 ハカセは、俺様がこの道を選ぶきっかけになった人物だ。初めてその演奏を聴いたときは耳を疑った。この世のどんな音楽よりも綺麗な音色だったからさ。
「時代が変わったって、何がどう変わったって言うんだよ」
「わからないか?」
「ああ、さっぱりな」
「そうか。だったらお前もまだまだって事だ」
 結局ハカセは質問に答えてくれなかった。
 俺様がこの業界の質問をしたときはいつもこうだ。自分の力で答えを見つけさせる。聞いた回数は50を越えるが、まだ半分ほど見つかってない答えがある。
「ほら、準備しろ。他の奴等、先に行っちまったぞ」
「はいはい」
 世の中にはまだ俺様達の事を認めてくれている人達がいる。1週間に3回、俺様達はとあるバーで演奏する。風が無ければ意味がないから、そこには壁も天井も無い。あるのはテーブル、椅子、カウンター、食器、そしてステージのみだ。場所は日によって変わるのだが、何処も必ず自然に囲まれた場所に建てられる。今日は山の中らしい。
 その日の夜。
 バーに着くと、先に来ていた同業者のシローとヨシ、ノブが手を振って来た。ノブは正装だが、シローは派手なバンダナを頭に巻き、ヨシは袖のないシャツを着て、サングラスをかけている。音だけではなく、視覚でも客を楽しませたいらしい。
「何やってんだよ! 早く!」
「すまんな。コイツがまた無駄に演奏を」
「無駄って何だよ!」
「うるさい! 早く行くぞ」
 ヨシを先頭に、俺様達は簡素なステージに上がった。ノブはその脇に置かれた椅子の上に座っている。弾き方の都合上、彼はこうして演奏を行う。
 しかし、客席を見てゾッとしたね。何しろ客が少なくなっているのだから。ここに来る客が減って来ているのは前々から気づいていたが、とうとう10人を切ってしまったか。しかも年齢層も、今では若者が1人もいない。力が抜けちまったが、それを見たハカセが後ろから背中を叩いた。
 全員目を閉じて、耳を澄ませる。風の流れがわかったら、目を開けて互いに合図を送る。そしてハカセの合図と共に、演奏を始める。楽譜が無くったって各々が同じ風の音を聞いていれば完璧な演奏が出来る。ハカセのバイオリン、ノブのピアノ、ヨシのドラム、そして俺様とシローのギター。種類の違う楽器の音色が重なり、1つの歌を紡ぎだす。たった10人の客はそれぞれ違った反応を見せた。感動して聞き入っている者、思っていたものと違うのか、腕を組んでしかめっ面をする者、歌を聴かずに周りの連中と話している者、そして寝ている者。割合は後者2パターンが8割を占めていた。
 何だよ、ここでも聴いてくれるヤツがいないのか。だんだん集中力が途切れてきた。すると、聞こえていた筈の音が聞き辛くなって、そして……音を外しちまった。普段なら有り得ないミスだ。シローがそれに気づいてフォローしてくれた。他の4人も音をより大きくして、俺様の外れた音を隠してくれた。風は、音の大きさを変えることは出来るが違う音に変更する事は出来ない。だから誰かの音をフォローするのはかなり難しい事だ。
 その後、およそ30分演奏は続いたが、俺の音が元通りになることはなかった。
 反省会では、まずシローが俺様の顔をぶん殴った。そりゃそうだろうな、演奏を台無しにしちまったんだから。
「お前、いい加減にしろよ! 時間に遅れるわ、音は外すわ、やる気あるのかよ!」
「あるよ! あるけどよぉ!」
「口答えしてんじゃねぇ!」
「やめんか!」
 ハカセが止めてくれた。危なかった。もう少しで殴り合いのケンカになるところだった。
 その場がしんと静まり返る。風も起こらない。俺様はその場から走り去った。このときの感情は自分でも上手く言い表せない。ただ、もの凄く胸が熱かった。嫌な熱さだった。




 それから何時間ぐらい走っただろう。いつの間にか夜が明け、知らない町まで来てしまった。途中の道はどんな感じだったか全く思い出せない。前が全然見えていなかった。それよりもあの惨状が、風の音を聞く者がいなくなってしまうこの惨状が見ていて苦しかった。逃げ出したくなったのだ。
 今何時だろう。携帯を見ると、シロー達からメールや着信が何件も入っていた。彼等も心配してくれているらしい。あんなことがあった後でも。
 俺様が戻ったところで何が変わる? この現状は変わらない。もっと進行するかもしれない。だったら、俺様が……俺が音を奏でる必要なんてあるのか?
 日が高く昇り、人々が動き出した。みんな同じようなことばっかりやっている。携帯片手に電話をしたり、周りから疎外されないように必死に素の自分を抑えたり、上司に気に入られようと無駄な努力をしたり。つまらねぇ奴等ばっかりだ。こっちが与党で、俺達が野党。昔は逆だったのに。何が世の中を変えちまったんだろう。
 行く当ても無くとぼとぼ歩き回る。路上で、物質としてのギターを搔き鳴らす男がいた。ソイツは必死に自分の考えた音色を奏でているが、それを聞く者は1人もいない。みんな自分のことで精一杯だった。ソイツは必死に、周りとは違う自分だけの音色を奏でているのに、それも周囲の不協和音にかき消されてしまうのだ。今の俺達と同じだ。結局ソイツは演奏を中断して帰っちまった。
 道の隅にしゃがみ込むと、五月蝿い不協和音がより大きく聞こえてきた。気を紛らわそうと風の音を聞こうとするが、今までのようにはっきりと聞き取る事が出来ない。
 悩んでいると、周りの奴等が俺に白い目線を向けてきた。心がズキズキと痛む視線だ。今の世の中は、他と違うものを無視するだけでなく、こうやって痛めつけて押さえ込んでしまうのだ。まさか、ここに来てようやくその事に気づくとは。ハカセの言う通り、俺もまだまだだ。
 ずっとここにいても仕方無い。俺は再び歩き出した。何だか息が苦しくなってきた。車の排気ガスだ。風の音を集中して聞いていると、こういう臭いも余計に強く嗅ぎ取ってしまう。風が運んで来るのだ。それにしても、他の奴等はよく平気でいられるな。
 そのままフラフラしていると、視界に1人の少女の姿が入り込んで来た。離れた所にいるのだが、彼女だけは何故だか際立って見えた。高校生だろうか。制服を着ているのだが、この時間にプラプラしていて良いのだろうか。少女はずっとベンチに腰掛けて、ぼーっと空を眺めていた。
 何となく気になる。俺は彼女に駆け寄り、話しかけた。
「よう」
 俺の事をいかれたヤツだと思っているのか、少女はムッとして俺から視線をそらした。
「なぁ、こんな時間に……」
「うるさい」
 少女が立ち上がって歩き出した。慌ててそのあとを追う。
「待てよ、ナンパしてるんじゃないんだよ」
「信じられると思う、そんな話?」
「いや、本当なんだよ」
 歩きながら話をする俺達。そうだ、思い切って聞いてみよう。そうすれば、少しは俺の話を聞いてくれるかもしれない。
「世の中、つまんねぇだろ」
「つまんない」
 一応答えてはくれるがまだ足を止めようとしない。だが、思いは俺と同じらしい。
「あの、俺の曲聴いてくれねぇか?」
「は? 何言ってんの?」
「いいから止まって聴いてくれよ!」
 熱が入って思わず大声を出してしまった。すると、少女はようやく足を止めてくれた。そして、タイミング良く風が吹いて来た。良い風だ。今度は綺麗な音が聞こえてくる。
 黙って俺の方を向くと、少女は腕を組んで俺を見つめた。澄んだ瞳。他の奴等とは何かが違う。
「早くして」
「え? ああ、悪い」
 音は聞いた。早速演奏を、と思ったそのとき、少女が文句を言ってきた。
「ちょっと何? エアギターってこと?」
「違ぇよ! いや、違うってことも無いけど、まぁ黙って聴けよ」
「バッカみたい」
 少女はまた歩き出した。まずい、早く弾かなくては。
 風の音を捕らえ、親指で風の弦を弾いた。綺麗な音が出た。良かった。まだ腕は鈍っていないようだ。続けて他の弦を弾いて演奏を始める。他の奴等は俺のことを白い目で見て通り過ぎて行くが、少女だけは違った。彼女の足はまた止まり、上半身だけが俺の方を向いていたのだ。
 俺が睨んだ通りだ。彼女は野党の存在なのだ。だからまだ、俺の奏でる音が聞き取れるのだ。
 やっと興味を持ってくれたのか、少女は俺に近づいて来た。
「何なの、それ」
「風の音だ。今では聞こえるヤツも少なくなっちまったけど」
 演奏を止めて、少女にお辞儀をした。
「ごめんな。この歌が聞こえるかどうか試しただけなんだ。じゃ、ありがとな」
 本当に、それだけのことだった。下心も無かった。ただ単に、風の音を聞いて、風の音に興味を持ってくれる人を探していただけなのだ。
 少女に背を向けて、来た道を引き返すことにした。そうすれば自然にハカセ達の所に戻れるだろう。すると後ろから、
「待って」
 今度は少女の方から俺に話しかけてきた。
「それ、もっと聴かせてよ」



 アマコ。それが彼女の名前だ。
 都内の私立高校に通っているが、成績は中の中くらいで、登校日数も足りないらしい。この様子を見ればわかる。
 アマコは世の中が嫌いらしい。クラスで派遣を握っている同級生に嫌われないようにしているクラスメートや、仕事で上司を接待することばかりに力を注いでいる両親を見ていて嫌気がさしたのだとか。
 やはり同じだ。俺と同じ思いを抱いている。だからこそ音が聞こえたのだ。
「みんな私のことを馬鹿にするの。でも、アッチの方が相当変だからね? みんな嫌われ者になりたくないからって空気読んで」
「空気を?」
「知らない? KYとか。【空気読めない】の略」
 それぐらいは俺も知っている。少し前に流行語になった言葉だ。
 何よりもその、【空気を読む】という言葉が妙に引っかかった。風を読むことと似ているが、何か違うのか?
「KYって便利な言葉なんだよね。色んな所で使えるし。当然、場を弁えない人に対しても使うんだけど、偶に他と違うことをしてる人に対して使ったりもするし」
「他と違う、か」
「前にね、クラスの中で絵がもの凄く上手い子がいて、ノートなんかも毎回綺麗に書いてたんだけど、一部の女子がそれを嫌がって、彼女を否定するようになったの。そしたら周りも同じように彼女から離れちゃって」
「え? 何で?」
「嫌われたくないからじゃない? 私はその子と仲良かったから付き合ってたんだけど、今度は私も離されちゃって……」
 社会だけではない。学校という小さな空間にも影響が出ているようだ。
 嫌われないように、自分を世間から消さないために。風の音を聞いているのでは自分は消えてしまう。だから、必死に空気とされるものを必死に読もうとしているのだ。
 空気を読むために風を読む事を止めてしまった。そうか、ハカセが言っていた、「時代が変わった」というのはそういうことだったのか。
「ねぇ」
 アマコが尋ねてきた。
「私にも聞こえるようになるの?」
「風の音を?」
「そう。あんた無しで、どうやったら聞こえるようになる?」
 まさか、この世界にここまで興味を持ってくれるとは。
 ここでは教えられない。どこか、自然に囲まれた静かな場所が良い。
「この近くに山か何か、無い?」
「山? 山は無いけど、公園じゃ駄目?」
「静かな所か?」
「まぁ、比較的静かだと思うけど」
「案内してくれ」
 少女は戸惑ったが、それが風の音と関係があるのだろうと察し、すぐに案内してくれた。
 そこは歩いて10分の所にあった。なるほど、人がいない。これなら風の音を聞きやすい。1番聞きやすい地点を探して、そこで教えることにした。
 俺達にとっては至極簡単なことだが、人に伝えるとなるとこれまた難しい。何て言えば良いだろう。
「そうだな……」
 俺はハカセの言葉を思い出していた。俺に風の読み方を教えてくれたのはハカセだった。
「まず、目を瞑って」
 視界を遮ることで、世の中から離れられる。それでも駄目なら鼻を摘んでも良い。耳だけが開いていればそれで良い。
 無音の状態からいきなり音を捕らえるのは難しい。最初は俺が弦を弾いてそのきっかけを作る。音はアマコにちゃんと伝わったようだ。音を段々小さくしてゆき、そして最後は弾くのを止める。これが、ハカセの教え方だった。初めは演奏を止めるとアマコも目を開けてしまったが、時間をかけて練習するうちに、アマコが目を開けるまでの時間が長くなった。早い。俺よりもずっと。
 練習から3時間ほど経過したとき、それは起きた。今までのように、音を小さくして、最後に演奏を止める。するとアマコは、
「あっ、変わった」
 と言った。
「音の感じが、変わった」
「え? 本当か?」
「うん! すごいよ、コレ! ……あれ、まだ何か聞こえる」
 音の変化は俺も経験したが、その先の事は未経験だ。
「何だろう、言葉?」
「言葉?」
「そう。コレは……歌?」
 まさか、本当にあり得るのか?
 ハカセからこの話を聞いたことがあったが、実際に遭遇したことは今まで1度も無かった。
「ちょっと」
 俺はアマコの手を握っていた。暖かい手だった。
「来てくれ、一緒に!」
「待って、ねぇ、待って!」
 突然のことにアマコは驚いて手を離してしまった。
「いきなり来いって言われても、何処に行くの?」
「俺達が演奏するから、1曲歌ってくれないか?」



 俺達は感じた音に合わせて楽器を持つ。俺やシローの場合はギターの音が最もマッチしたからギターを選んだ。ノブがピアノを選んだのも同じ理由だ。
 アマコの場合は、そのどれにも属さなかった。彼女にマッチしたのは楽器の音色ではなく、歌声の方だったのだ。風から歌を引き出せる者は少ない。風の声を聞くわけだから。楽器と違うのは、たとえ周りに音が聞こえていなくとも、正しく歌を聞き取れば、それを周囲に発信することが出来る点だ。歌うのは人だからだ。ハカセでさえシンガーとは1度も会ったことがない。
 一緒に来てほしいと頼むと、目を瞑って少し考えた後、アマコは笑顔でOKしてくれた。会ったばかりの男から誘われるのだから疑われても無理はないのだが、もしかしたら、彼女には何か特別な音が聞こえていたのかもしれない。風の音を聞き取った上での判断だったのかもしれない。
 すぐにハカセに連絡を取り、都内のある場所で待ち合わせした。バスに乗ればすぐに着く。
「ねぇ、服ってこれで良いの?」
「衣装なんか関係ないって。まぁ着替えて気分が乗るならそれでも良いのかもしれないけど」
「そ。じゃあいいや」
 バスを見つけてそれに乗り込み、終点まで向かった。30分で終点に着き、そこで降りると、俺達は1軒のビルを探した。俺とハカセが寝床にしているビルだ。壁が赤くて、テナントのあまり入っていない建物。都会でも比較的音を聞きやすい場所。バスを降りた地点からだと何処にビルがあったかなかなか思い出せない。アマコにも特徴を伝えて探していると、
「アレじゃない?」
 アマコが指差した先には、確かにあのビルがあった。
「よし、行こう!」
 俺達は駆け出した。横断歩道を渡り、ビルの階段を駆け上がる。1段踏む度に足が痺れたが、そんなことはどうでも良い。今なら、最高の演奏が出来る気がする。その嬉しさが、俺の体を動かしていた。
 最上階に着いた。扉を開けて、屋上に出る。日差しが眩しくて思わず目を瞑った。
「よう、おかえり」
 同僚の声だ。目を開けると、そこにはハカセ達4人が立っていた。
「彼女が、シンガーか?」
「ああ。アマコって言うんだ」
「あ、初めまして」
 自己紹介を済ませると、俺達は早速演奏の準備を始めた。準備と言っても、ヨシとノブが椅子に腰掛けるだけだが。
 それから、アマコが前列中央に立った。歌声が他の音にかき消されないように。
「よし、早く始めようぜ!」
 と俺が言うとハカセが、
「お前、変わったな」
 と一言。自分では何がどう変わったのか理解出来なかった。ただ、誰かに聞かせようとか、そういう考えは持っていなかったように思う。ただ、最高の演奏がしたい。それだけだった。
「たった1晩で変わっちまうんだから、面白いヤツだよ」
 シローが言った。彼は俺に笑顔を見せた。俺もそれに笑顔で返した。一種の仲直りである。
「よし、目を瞑ろう」
 全員が目を瞑り、風の音に耳を澄ました。
 ああ、聞こえる。今日は良く聞こえる。昨日の夜とはまるで違う。目を開けると、アマコを含めた他のメンバーも音を感じ取れたようだった。ハカセがそれを確認し、合図を出す。
「1、2、1、2、3!」
 いよいよ曲が始まった。これまでと違い、今日はシンガーがいる。アマコの音色は美しく、演奏している俺達も心が温かくなった。いや、きっと俺達だけではない。町を行き交う人々も、その歌声に立ち止まったに違いない。この声が、心を縛っていた何かを解いてくれる。この瞬間だけ、時の流れが変わっていたような気がする。
 演奏が終わると、時の流れはまた元に戻り、人々は元の生活に帰って行く。が、今回は少なからず彼等の心に響く演奏になったと思う。楽器をしまったハカセ達も清々しい顔をしていた。
「すごいね」
 アマコが言った。彼女は目に涙を浮かべていた。
「すごいね、風を読むって」
「ああ」
 それしか言えなかった。言葉では言い表せない感情だ。ただ、それが昨晩のそれとは真反対のものであることは確かだ。
 これが、風を読むと言う事。俺自身も、この日初めてそれを実感するのだった。



 あれから数ヶ月経った。
 俺達は相変わらず演奏を続けている。やはり客は減りつつあるが、あの日以降、客の殆どが俺達の奏でる歌に注目してくれるようになった。演奏にもより磨きがかかったということか。それから、それぞれカッコいい衣装を着るようになったからか。……いや、それだけじゃないだろうな。
「アマコ、喉の調子どうだ?」
「ばっちり」
「よし、始めよう!」
 週に3度だけ開かれる自然のバー。そのステージで、俺達は今日も風の音を奏でている。

風を読む

 今回は明るい話を書いてみた。夜中に思いついて、午前3時から8時20分まで書き続けていたので、読み辛い部分が多々あったかもしれません。すいません。

風を読む

「聴け、この音を!」男達は風を読み、そこに音を生み出す。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-16

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