better half

明け方の海岸で、小さな貝殻を拾った。
それはまるで月の光を残したように、白く冴え冴えと光っていた。
あまりに美しいので、君の分も見つけようと思って、まだ冷たい砂の上を何度も行ったり来たりした。

そのうち君が起きて来て、「何探してるの」と訊くから、拾った貝殻の片割れを探してるんだって言ったら、そんなの見つかるはずがないって笑った。
広い海のどこかで死んで、打ち上げられた貝殻の片方。
ここへたどり着いたのは偶然で、もう片方がどこにあるかなど誰にもわかりはしないんだって。
それでも諦めきれずに砂の上にしゃがみ込んで、太陽がずっと高く昇ってもいつまでも探していた。
ふいにポケットから、明け方拾った貝殻が落ちた。
僕はそれを拾い上げずに、しばらく見つめていた。
喉や目の奥が、なぜか急に痛むような感じがした。
胸が苦しかった。
うずくまった姿勢のまま、陽に照らされてさらさらに乾いた砂を、ぎゅっと握りしめた。

世界のどこかにはあるのに、絶対に見つけられないものがある。

気がついたら貝殻は空を飛んでいた。
青い空に、白い砂を巻き込みながら飛んでいく何よりも真っ白な貝殻を見ながら、僕は自分自身がそれを海に放り投げたことにしばらく気が付けずにいた。
涙が、溢れる前に。
それをどこかにやってしまわなきゃいけないと思った。

君は笑うんだろうか。
「貝殻はどうしたの」と訊かれたら、こう答えよう。
自分で片割れを、探しに行ったって。
真っ白な貝殻が、青い海に飲みこまれるのを眺めながら、僕はそんなことを考えた。

better half

見つからないってことは必要ないってことなんだと、最近は思うようにしてる。

better half

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-20

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