水晶姫
詩、のようなもの。いつかの国のどこかの時代。その王国をしろしめすのは、水晶の姫に鉄の大臣――。
いつかの国の どこかの時代
王国一つ 時の中
その王国を しろしめすのは
水晶の姫 鉄の大臣
水晶の姫は なんにもしない
なにも聞かない なんにも見ない
水晶の姫は 玉座の上で
見えぬ瞳で 明日を見る
水晶の瞳 すべて素通し
水晶の瞳 見えるはずもない
けれども姫の 瞳をのぞけば
そこには確かに 明日がある
王国のすべて 取り仕切るのは
休むことない 鉄の大臣
鉄の心は 冷たく冷えて
鉄の心に 血潮通わぬ
ある時嵐が 城を襲って
お城の屋根に ひびが入る
水晶の姫は 動けぬままに
ただ日の光に さらされる
色を持たない 姫のその身から
あまたの色が 流れ出す
水晶の心 こゆるぎもせず
玉座の上に ありつづける
鉄の心も 動かぬはずが
虹の七色に 染められる
水晶の姫 透明なまま
鉄の大臣 虹のただなか
急いで屋根を なおさなければ
鉄の大臣 雨ざらし
雨に降られて いくら濡れても
水晶の姫 何も変わらず
雨に降られて 濡れていくたび
鉄の大臣 錆びていく
水晶の姫 美しいまま
鉄の大臣 もう錆びだらけ
水晶の姫 何も変わらず
鉄の大臣 もうひびだらけ
姫は動けず 大臣動かず
王国やがて ひびだらけ
とうとうある日 嵐とともに
大臣 王国 砂になる
廃墟の中に 水晶の姫
なにも変わらず ただ美しい
やがて現れる 虹の王国
そのまたの名を 蜃気楼
そして繰り返す そう いくたびも
また現れる 鉄の大臣
いつかの国の どこかの時代
王国一つ 時の中
その王国を しろしめすのは
水晶の姫 鉄の大臣
水晶の姫 なにも変わらず
鉄の大臣 もう何人目
水晶姫