『変心』 盛春とは噛むものだ(笑)

『変心』 盛春とは噛むものだ(笑)

          (一)

筒井周一さんはそのときまだ14歳。
生ッ白い顔で、下手すれば女の子より白かったのではないか。
運動部の女生徒にうらやましがられた。
「筒井クンって白くていいなあ」なんていう女の子を軽蔑さえして
いた。
(だったら運動部なんかなんか行かないで、文化系の部活に入れば
いいのに)
そんなふうに思ってる。
少しヘンクツ。

でも、文化部にいる女子生徒も羨んだ。それくらい白い。

「実は、オヤジが秋田生まれなんだよ」なんてうそぶいては、
「そうだったのかあ、色白だっていうもんね、秋田の人は」
と納得されるのをみて楽しんでる。筒井さんの両親はどちらも
東京生まれである。

周一という名前はどこからつけられたのか判然としない。
ただ、彼の父が尊敬する大学の教授の名前からそっくりいただいた
らしい。あとになって、あれ?もしかしたら「ショウイチ」だった
かな?・・・・なんて、父親の記憶もあいまいだ。

中学に入った時分は、「ツツイ!」と呼び捨てにされていた。
それがなぜか名前のシュウイチに変わったのは、なあに、つまんない
ことだ。
彼はとにかく惚れやすくできていて、ちょっとした仕草で女の子
が可愛く見えて、好きになるコが毎週のように変わった。
先週まで「ミヨコって可愛いよナ? なっ? なっ?」と友達に
言っていたかと思うと、翌週には、
「いやあ、やっぱりアヤコちゃんが最高!」と廊下ですれ違う
たびに嘆息しながら、一緒に歩いてた友達に言ってみる。

しかも、青春とは盛る春ともいうが如し。
グランドの端と端で男子と女子が体育の授業を受けてる時、それが
また棒高跳びの順番を待ってるようなときには、次々に飛んでは
はけてゆく列のほうなんて気にしないで、反対側でランニングをし
ている女子生徒のほうばかり見てる。
体操着につけたゼッケンがぶれるほど胸が揺れてるのを見ていたので
ある。

「おー!すごいなあ、マユミって、小学校のころはペッタンコだ
なんて言われていたのに、いやはや・・・」とこればかりは口に
出さないでつぶやいていたら、
「ツツイ!筒井!早く跳べ!」と教師に怒鳴られた記憶がある。

頭の中で胸が揺れるシーンを再生しながら走っていたら、案の定、
背面跳び、失敗。落ちた瞬間に竿の上に見事に落下して、太ももの
裏に擦り傷を負った。
よく見ると、少し出血していたので、保健室に行き絆創膏いちまい
もらって帰ろうとして、怪我した理由をそこにある帳面に書いて
おきなさいと言われた。

「竿をかばって背中をしたたか打ちつけました」と書いてきたが、
確かにタタせたまま正面からマットに落ちたら痛いはずだ。
だから背中から落ちた。

保健室から戻って着替えるのに遅れた筒井さんは、
「名誉の負傷だ」と言いながら、友達に、「イヤあ、マユミって
いいよネ!」と、揺れる胸元を思い出しながら、いかにも惚れた!
という顔をする。

そんな感じに、毎週のように好きなコが変わるから、週に1回の
ことという意味で「週一」とかけてそう呼ばれてるらしい。

          (二)

シュウイチがホントに週に一度の割合で好きな子が変わったのは、
何も中学までではない。
高校に入ると、なおさら女の子は可愛くなってゆく。
勉強にもともと興味はなかったし、学園ドラマに出てくるような
純愛がいいなあなんて思いながら暮らしてはみたけれど、
もとよりコンプレックスで出来てるような男だ。

どのあたりから、そんなふうになったのか記憶がない。
ただ、気がついたら、僕はカッコ悪いとまるで暗示にかかった
ように自分の容姿に引け目を感じた。
背は175、決して小さいほうではないし、骨格もしっかりしてるが、
中学まで言われ続けた色白のイメージが、どうにも男らしさと
かけ離れてることがコンプレックスになったらしい。

すくなくとも、カッコいい!と女の子に叫ばれるのは、運動が
出来た男子生徒ばかりで、のろくさと走り、時によっては100メー
トルを全力で走ったら、20メートルも行かないところで足がも
つれて倒れた周一さんは、口に砂が入ったまま、思わず泣いた。
どうしてこうオレはカッコ悪いんだ?
あとでいくら水道で口をすすいでもジャリジャリした感じが
とれなかった。
話すと歯の隙間に校庭の砂が見えるんじゃないかと、その日は
家に帰るまでの半日以上、口を開かなかった。
おかげで弁当も食い損ねた。

ではなぜに、高校でも週に一度、惚れる女の子が替わったか?
そのシュウイチたる所以は高校1年の夏にある。

中学校では夏服になると、女子生徒はベストを着ることが義務
付けられた。ところが高校はあまり着てるような子がいない。
長袖から半そでに替わるような時期にあっては、体育のあとは
ブラウスを腕まくりして、それだけでいる。
考えてもみれば休み時間なんて、そう長いものではなくて、その
日に他の用がなければ、ジャージからまた制服に着替える。
それであわてて席について教科書を開くが、汗がまだ乾かない。
いくら拭っても、背中がまだ湿ってる感じだ。

周一さん、男女が別々に体育の授業して、また席に着いたら、
彼の前の席の女子生徒から透けてるのが見えた。

(お・・・水色だな)

教室に差し込む光と、汗ばんで白いブラウスから映る金具に、
本体。
もとは水色なんだろうが、汗でまだ乾かないのか、ブルーになって
ブラウスから見える。

ふと眼をやると、ショッキングピンクもいる。こちらはオレンジか?
どれも淡いピンクや黄色のものをつけているのに、よほど
汗をかいたのだろう。

(体育の先生、ありがとう)などとは思わなかったが、前のほうから
プリントが回ってきて、それを後ろに回すときに、今度はすぐ
後ろに座る女子生徒の胸元に思わず釘づけになった。

(大胆すぎる!)

後ろの席のハルミはひょう柄の下着をつけていて、それが暑いから
と、外した第3ボタンからしっかり覗け、同時に大きさも手にとる
ようにわかった。

その夜は眠れなかった。
もしかしたらハルミのトリコになってしまうような気がした。

(ハルミ最高だぜ!)
夢の中でそう描くけど、顔は一切出てこなくて、あの胸の形
だけが何度もまぶたの裏に描かれる。とても眠れない。

ところがあくる週の体育のあと、ハルミはその日、欠席してて、
同じくプリントを回すときに、一人分あくから、周一は立って、
ハルミの後ろのケイコにプリントを渡しながら、思わず胸元を
覗きこんだ。

ぐしゃりと濡れた白いブラウスに、黒い下着が見えて、こいつも
また大きく胸元をあけて、下敷きであおいでる。

「冷ましてほしいのはこっちのほうだ」なんてつぶやいたのは、
彼女にプリントを渡して席に戻ってからのことで、今夜はあの
黒いブラが脳を刺激すると観念した。

僕にはもうケイコしかいない・・・


                                
                                            (つづく)   

『変心』 盛春とは噛むものだ(笑)

『変心』 盛春とは噛むものだ(笑)

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-08-14

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Copyrighted
  1.           (一)
  2.           (二)