ザザッ、ザザザッ・・・
ザザッ、ザザザッ、ザザザザザ……。
ああ、あの人はまだ生きている。
恥ずかしがり屋さんだから、私のところに出てきてくれないの。だから私は、畳の上を移動するこの音であの人を感じるの。
ザザザッ、ザッ、ザザッ……。
何をやっているかはわからない。だって扉越しなんだもの。中に入るのは駄目。鍵がかかっているから。それでも良いの。見えていなくても、あの人がそこにいることがわかれば良いの。もしあの人が死んでも、音が止んだことで知ることが出来る。だから私はそれで良いの。
ザ、ザザッ、ザザザザザッ……。
今日も忙しそうね。
あの人は博士なの。人と接する事よりも、自分の研究の方を優先する人。そんな人だからこそ、相手は私以外には考えられない。だって普通の奥さんじゃ、相手にしてもらえないからって怒ってしまうもの。
私は気にしない。私はあの人の内面、そして生き方が大好き。これがあの人の個性なのよ。
ザッ、ガリッ、ガリガリガリッ。
でもね、あのときだけは、怒ったの。
毎日あの人の洗濯物を洗って、あの人のご飯も1日3回作って、あの人が機嫌を損ねないように、極力一緒にいる時間を減らしてきた。
それなのに、その仕打ちがあれじゃ、あんまりじゃない?
あの人、私の知らない間に相手を作っていたの。
パソコンとにらめっこして、研究をしてるのかしらと思ってたけど、実は違ったのね。こっそり別の女の人と知り合って、出来てたみたいなの。
ザッ、ガッ、ガガガッ、ジリジリジリ……。
普段は怒らない私だけれど、このときばかりは流石に許せなかったわ。怒りを抑えられなかったわ。
ジリジリ、ズズズッ、ザ、ザザザザザ……。
それで私、決めたの。
ガリッ、ガリガリガリ……。
あの人を、永遠に私の物にしておくって。
ガリガリッ、ザッ、ザザザザザッ。
ふふふ、紐を解きたくって、今日も忙しそうね。
ザザッ、ザザザッ・・・
ここまで短い話は初めて書いた。
蒸し暑い今日この頃、少しはひんやり出来たでしょうか……?