なっちゃんとデパートおじさん
なっちゃんとデパートオジサン
秋桜が映える秋の頃、なっちゃんはお母さんとデパートにお買い物
「うれしいな、たのしいな」となっちゃん。
お気に入りの洋服に身を包みお出かけの用意万全。
「さあ行くわよ」のお母さんの号令で出発
「いざデパートへ」
とお母さんとなっちゃん
さあ、デパートに着きました。
お母さんはワンピースにカーディガン姿、そしてお母さんはバーゲン品が目当て。
「なっちゃん!!ちゃんと付いて来るのよ」とお母さん。
バーゲン品を売っている会場は人がたくさん居ました。
なっちゃんは必死になってお母さんに付いて行きましたが、実に良く似た格好をした別の人に付いて行ってしまいました。その、実に良く似た格好をした別の人に付いて行くと、その人は地下の食品街に消えていきました。
そうです、なっちゃんは迷子になってしまいました。
「よう、嬢ちゃん迷子になっちまったみたいだな」と誰かがいいました。
「誰?」となっちゃんが聞くと、その誰かが答えました。
「俺かい、おれはデパートおじさんさ」とデパート自体がなっちゃんに話しかけました。
デパートおじさんは言いました。
「さあ、お母さんを探すたびにデパート中を歩き回るんだ、でだ、このデパートおじさんが付いているから泣くんじゃないぞ」と励ましました。
「デパートおじさんお母さんはどこに居るの」となっちゃんは聞きました。
「そうだな、食品売場を探してみな」とデパートおじさんは言いました。
早速、なっちゃんは食品売場を旅し始めました。
なっちゃんが食品売場をうろうろしていると、ある魚の頭がなっちゃんに話し掛けてきました。
「おう、そこの子供、俺は大間の黒マグロだ、生きているときは止まる事もせず泳いでいたんでぜ、
今は、捌かれてこんな格好だけどな、でもなキロ、ウン万もするんだぜ、おっと、自慢が過ぎちまったな。
母ちゃん探しているんだってなデパートおやじから聞いてるぜ、そうだな、野菜コーナーを探してみな、じゃあな」
「私お野菜嫌いなんだよー」なっちゃんは少し困りながらも野菜コーナーに行ってみました。
「キャベツさんキャベツさんお母さんを知りませんか?」となっちゃんはキャベツに聞きました。でも、キャベツは何も答えてくれません。
「大根さん、大根さん、お母さん知りませんか?」でも、大根も答えてくれません、それを見兼ねたエアカーテンがなっちゃんに助言を与えてくれました。
「なっちゃん、野菜には口がないから何も答えてくれないよ、でも、ピーマンなら何か知っているかも」
「エアカーテンさん私ピーマン大嫌いなの、それなのに行かなきゃ駄目なの?」
エアカーテンはこう受け答えました。
「確かにピーマンは苦い、でもな、それは人生の厳しさを知っている証なんだ、だから、行ってみな」そういって、エアカーテンはまた冷たい風を吹き出しました。
とことことこ。
なっちゃんは意を決してピーマンの前に立ちました。ピーマンの前に立つと、あの苦い臭いが立ち込めました。「やだな、やだな、やだな」と心の中で呟きましたが、なっちゃんは我慢して聞きました。
「ピーマンさんお母さんはどこですか?」
そうすると、ピーマンはコロンと転がってへたをエスカレーターの方に向けました。
「エスカレーターさんの方に行きなさいということ?」となっちゃんがピーマンに聞くともう一個のピーマンもへたをコロンとエスカレーターの方に向けました。
「分かった行ってみる。」となっちゃんはピーマンにお礼を言ってその場を離れました。
「でもどこに居るんだろ?エスカレーターさんって」とまた地下の食品街をうろうろしていると、どこからとも無く、声が聞こえてきました。
「ヘイ、ガール、こっちだぜ」なっちゃんは声の元に行ってみることにしました。
「イエス、カモン、カモン」
声はどんどん大きくなってきました。
「ヘイガール、ウェルカム」
目の前にはエスカレーターが一階へと続いていました。エスカレーターは言いました。「ヘイ、ユー、ミーには昇りと降りがあるのさ!ユーはupしたいんだから、昇りの方をセレクトしろよ!」
ウィーンと音を立ててエスカレーターは動いています。
「それと手すりからヘッドを出すなよ、危ないからな」そう言ってエスカレーターは動いています。
無事、一階になっちゃんは辿り着きました。
一階は化粧品の匂いがふんわりと充満していました。
「さっきは気が付かなかったけどいい香り」となっちゃんは思いました。
「そこのあなた、私は一階の女ボスよ!!迷子になるなんてあんたもおっちょこちょいね。全くたまにそういう子が現れるのよね。困ったものだわ」
なっちゃんは何だかバツの悪い気持ちになりました。
「ごめんなさい、でも私お母さんを探しているの、一緒に探してもらえませんか?」
一階の女ボスは答えました「分かっているわよ、デパートの野郎から話は通っているからね、本当に手間の掛かる子だこと、あと数年もすれば、この私の良さがとっても分かるのに、全く、だから幼子は嫌いなのよ」
一階の女ボスはプリプリしながら、一気にまくし立てました。
なっちゃんは更にバツが悪くなりましたが、こう答えました。
「一階は私のママみたいな香りがしてとっても落ち着くの、それにあのガラスケースに入っているきらきらした綺麗な石がとても素敵」
そういうと一階の女ボスは、心もち優しい声でなっちゃんに話し掛けてきました。
「あら、あなた、その歳でここのよさが分かるの?なかなかね、気に入ったわ、ママを探しているんですってね?バーゲンなら二階の婦人服売場で催されているわよ。
婦人服マダムにも、デパートの野郎から話は通っているはずだから、あのいけ好かないエスカレーターで行くのよ。じゃあね」
それっきり一階の女ボスは黙ってしまいました。
「Yo、ガールマダムの所に行きたいんだってな、またユーはミーに乗ることになったんだZe、昇りだぜ間違えるなよ(Don’t miss it)。」
唐突にエスカレーターはなっちゃんに話し掛けてきました。
「マダムさんの所に行けばお母さんに会える。」そう思うとなっちゃんは急に安心してきました。さっきまでの不安はどこへやら、
本当に不思議。ドキドキしながら昇りのエスカレーターさんに乗りました。二階に着くとなっちゃんは心の中で呟きました。
「婦人服マダムさんママを一緒に探して下さい」そう、で呟くと、婦人服マダムは答えました。
「オホホホホ、お嬢さんお母さんを探しているんでしてね。わたくしね、こう見えても結構良い心の持ち主なのよ。一緒に探してあげるわ、
そうねえ少し前チラッと見かけましたのよ。何だか焦っていたわねえ、もしかしたらもうここには居ないかも」と婦人服マダムは言いました。
「でも、一ついい手があるわ、」マダムは続けました。
「心と心をつなげる言葉があるわ、それはとっても簡単な言葉『ピンポンパンポン』と呟いてみなさいな」更にマダムは続け、「さんはい」と促しました。
なんとなく恥ずかしいけれどそれに合わせて、呟きました。「ピンポンパンポン」すると、デパートのスピーカーさんが大きな、とても大きな声でデパート中にこう響かせました。
「なっちゃんのお母さん、一階のサービスカウンターまでお越しください。なっちゃんが待っています。」と、スピーカーさんはハキハキといいました。
「さあ、いよいよお母さんに会えるわよ。降りのエスカレーター、なっちゃんをエスコートしなさい」マダムは言いました。
降りのエスカレーターはへりくだり、言いました。「マダム様、御意に、さあ、なっちゃん様こちらへどうぞ」そう、なっちゃんに伝えると降りのエスカレーターはなっちゃんを乗せ一階の女ボスのところへといざないました。
一階の女ボスはなっちゃんを見つけるとこう言いました。「全く世話の焼ける子ねえでも、サービスカウンターならあのガラスケースの奥よ、さっさと行きなさい」
そう言われて、なっちゃんはガラスケースをまず目指しました。ガラスケースの所まで来ると確かにサービスカウンターは、その奥にありました。
が、ふとガラスケースに目を向けると先ほど見た綺麗な石のほかに、金や銀のリングが並んでいました。
「きれい」
なっちゃんが思わず我を忘れて見とれているとプラチナのリングが、なっちゃんに話し掛けてきました。
「オイラはさあ、愛し合う男と女が互いの心を確認しあう為の存在なんだ、互いの心を誓い合い永遠に一緒にいることを認め合うものなんだけど、
ま、世の中なかなか上手く行かないこともあるのさ、男と女って複雑なんだぜ、ま、オイラは指にはめられているだけなんだけどな。」そう言って、屈託の無い笑顔のようにキラリと輝きました。
不意にサービスカウンターの方からいつもの声が聞こえてきました。
「なっちゃん、なっちゃんそんなところに居たの、もう心配したのよ」
「お母さん!!」なっちゃんは叫びました。なっちゃんは本当に安心したのか涙が零れ落ちそうになりましたが、デパートおじさんが静かにたしなめました。
「嬉しいときは笑うものだ、なっちゃん」それを素直に受け入れたなっちゃんは、笑顔でお母さんに言いました。
「私ねデパートの中を旅してきたの、とっても楽しかった」そういってお母さんの手を握りました。
「お母さんの手って暖かくていい香りがする」なっちゃんは続けて「お母さん、私にも好きな人できるかな?」と聞こうと思いましたが、
それを言うのを止め胸の内に秘めました。だって、女は秘密が多い程、素敵に成れるんだから、なっちゃんはそんな事を考えつつ、二人は家路へと向かいました。
おしまい
なっちゃんとデパートおじさん