少年とおじさん Ⅲ

おじさんと出会ってから一週間ちょっとが経過した。

最近ふと思うのは、おじさんの仕事についてだ。

出会った頃は、フリーターさんなのかとばかり思っていたが、どうも違うらしい。

朝早く私服で出て行ったと思えば、夜ご飯の時間になると必ず帰ってくる。

これだけだと、"サラリーマンとかじゃないの?"とか"バイトじゃないの?"とか思う人もいるだろうけれど。



この前、部屋を掃除していたら、部屋からすごくキラキラしたステージ衣装(?)のようなものが見つかった。しかも複数。

おじさんにこんな趣味があったのか?とも思ったが、おじさんの普段着はいつも黒のものが多いので、こんなハデなものは着ないだろうな、と思う。

それからというものの、楽譜やら、キーボードやら、おしいれの中にいろいろ入っていた。どれもこれも音楽関連のものばかりだった。

実はおじさんは音楽関連のすごい人なんじゃないだろうか。

とか僕は考えたりしていた。


そして、つい最近・・・三日前ほどにアコースティックギターを見つけたときには、つい耐えきれなくて、というか感動して、おじさんに問い詰めた。

「おじさん、これ、アコースティックギターじゃない!?どうしておじさんが持ってるの?え、もしかして、おじさんもギター弾けるの?」

おじさんがいかにも「やべえ」みたいな顔をしていた。おじさんは思っていることがすぐに顔にでる。単純なのだろう。

「い、いや・・・それはね・・・僕のじゃなくって・・・えっと、何ていえばいいのかな・・・。えっと・・・それはね・・・僕の兄のものなんだ・・・」

「お兄さん!!」

うらやましいな、と思った。

僕には兄弟はいない。

まあ、家族関係もよくなかったから、だからこそ僕は少しだけ

兄弟という言葉に憧れを持っていた。




「そのギター勝手につかっていいよ」

「いいの!?」

「というかあげちゃう。兄さんはそのギター使わないから」

「・・・お兄さんって、何か音楽関係の仕事をしてるの?」

「・・・えっと・・・んと・・・その・・・」

「・・・?」

「"ハヤト"っていう・・・歌手・・・しってる?」

「うん!!僕、あの人ほんっとに好き!歌詞も本当に良い歌詞だし、歌声も透き通ってるし、僕の憧れ!!笑顔も素敵だよね!!」






"ハヤト"は僕が一番大好きで、尊敬している歌手だ。

僕が歌手になりたいと思った理由も、ハヤトだった。







僕の家族はとても厳しい人達ばかりだったから、家に僕の居場所はなかった。

家に帰ると塾に行かされてしまうから。

そんな時、よく通っていた場所が、とあるCD屋さんだった。

CD屋さんのおじさんとはすぐに仲良くなった。

僕はそのころ、音楽の知識は一切なかったので、CD屋さんのおじさんが手取り足取り教えてくれた。


そんなある日のことだった。

そのCD屋さんに一枚のポスターが貼ってあって。

そこにはこう書かれていた。



『"ハヤトファン"待望のファーストアルバム!!~月~日 発売!!新曲「Barrier」も収録!!』

「ばりあ・・・?」

すると、近くにいたCD屋さんのおじさんが話しかけてきた。

「おや?お前さんはハヤトくんを知らないのか?」

「初耳です・・・」

「ハヤトくんはなあ、今すごく売れている歌手だよ。そうだ、せっかくだから聞かせてあげよう。ちょっとまっとれ」

「ありがとうございます」

数分後、店内には曲が流れだした。

「Barrierという曲をかけてきたぞ。ハヤトくんが最近出した曲だよ。ハヤトくんは本当に声がきれいなのもさることながら作詞も作曲も全部一人でやっちゃうらしいね。」

「へえ・・・」

そんなにすごい人なのか。と思った瞬間。

「・・・きれい・・・」

その声は、透き通っていながらも、強い芯のようなものもあって。

そのメロディーは一回聞いたら忘れられないような、切ないなと思うけど、明るくなれる、そんな不思議な曲調で。

その歌詞は・・・僕に、ぴったりだった。

その時の僕にぴったりだったんだ。


「どうだった?ハヤトくん、いい曲作るよねえ。・・・って、どうしたの?」

「あの・・・は、はやとさんの!いままでのCD、全部借ります!!」


こうして、僕はハヤトのファンになり、歌を、ギターを練習し、ハヤトみたいになりたくて、歌手になりたい、と思うようになった。





にしても、おじさんがどうしてハヤトについて聞いてきたのだろう、謎だ。

「ハヤトがどうかしたの?」

「ん、いや、なんでもないよ」






それからしばらくして、おじさんは「出かけて来るね」と言って、部屋を出て行った。

何をしようかな~とか考えていると。

ピンポーン、と玄関のベルの音がした。

(誰だろう?)

疑問に思いながら、扉を開ける。

「はーい。どちら様で・・・す・・・か・・・?」

「俺だ。さみィんだから早く入れろよ、ガキ」


僕の

目の前に

ハヤトが

本物の

ハヤトが

そこに


立っていた。


「ぅえええええええええええええええええええええ!?」

「うっせえよ。お前だな?あいつが言ってたガキってのは」

「あ、あいつ・・・?」

「ここに住んでるあのチビのことだよ。あいつあんなんでも俺の弟だから困っちまうよなあ」

「え?」


落ち着け、僕。

今、すごいことを目の前の人は言わなかったか!?

おじさんのお兄さんって。

ハヤトだったの!?!?!?!?




「混乱しているところわりィんだが・・・そうだな、お前、アコースティックギター、弾けるか?」

「ひ、弾けます」

「じゃあ、そのギター使え。昔俺が使ってたやつだ」

さきほどおじさんからつかっていいと言われたギターだった。

「歌えるか?」

「歌え・・・ます」

「じゃあ、やってみろ」

「・・・え!?」

突然すぎる。いろいろと、唐突すぎてついていけなかった。


「いいから、やってみろ」

でも、ハヤトの目は真剣だった。


「・・・がんばります」




僕は、憧れのハヤトの目の前で、「Barrier」を歌い、演奏した。

おじさんの家に来る前は、毎日歌って練習していた曲だった。




「お前、いい声してるよ。まだいろいろ惜しいところはいっぱいあるけどな」

「あ、ありがとうございます・・・」

素直に嬉しかった。

「あいつ、今、死にたいとかいってないか?」

「え?」

「昔は結構言ってたんだ。けど、最近言わなくなった。しかも、俺が頑張らなきゃ、とかそうゆう前向きな言葉を言うようになった」

あいつ、とは、きっとおじさんのことだろう。

「あいつさ、おまえのこと大事なんだよ。あいつに生きがいをあたえてくれたからな」

「・・・僕が?僕はむしろ、おじさんに助けられて・・・」

「おじさん、なんてよんでんのかお前。あいつ、今大学生だぜ?」

「えっ!?大学生・・・。」

仕事をしていると思っていた。そうか、いままで外出していたのは大学に行っていた・・・からなのかな?



「あいつ、童顔だろ?頭もいいんだよ、ああ見えても。色々期待されてさ。ねたまれていじめられたりもしてたよ。俺は小さいころから歌手の道に進んだから、親の期待も全部弟にいっちまったんだよ。俺はそのころから寮生活だったから、あいつになんにもできなかった。そのころから自殺しようとかもかんがえただろうな。
そんぐらい、追い込まれてたんだよ、あいつ」


僕と、少し似ているような気がした。

おじさんは、どれだけ辛いのを我慢してきたのだろうか。

「お前、親はどうした?」

「親・・・ですか・・・」

「ほっといて出てきたんだろ?」

「・・・・・・」

「まあそこはいいんだけどよ、俺らの親さ、もう居ねえんだよ」

「えっ・・・」



「別に死んだとかじゃねえよ?離婚したんだよ。今じゃ住んでるところも違う。俺らに金だけ振り込んでる。最低な奴らだよ、本当に。だから余計に、お前のことがほっとけねえんだろうな。」



「そう、だったんですか・・・」

おじさんの過去を、まさかお兄さんからきくことになるとは思わなかった。

「俺から礼を言う。ありがとな」

「は、はい・・・っ!こちらこそ、おじさんには命・・・だと大袈裟すぎるかな、人生を救ってもらいました!」




「そうか・・・、俺がここに来た理由は二つあるんだ。一つ目は、今の話をするため。もう一つは・・・お前をスカウトするため」

「え?」



ス・・・カウト?

「な、なんで僕がスカウト・・・」

「嫌か?」

「いやいやいやいや!!むしろ僕にはもったいない・・・」

「あいつが、俺のところにわざわざ頼みに来たんだよ。お前をプロデュースしてやってくれ、ってな」

おじさんは、そんなことまでしてくれていたのか。まったく知らなかった。

ぼくは下唇を噛む。

おじさんは、どこまでいい人なんだ。本当に。




「お前はどうする?」

「え?」

「お前には才能があるよ。これから、俺の元にくれば、もっと上達すると思う。茨の道になると思う。どうする?」

「えっと・・・」

「俺の元に、くるか?」









『君が歌手になれたら僕の本名をおしえてあげる』

何故か、おじさんの声が、あの時の、気持ちが、湧き上がってきた。







「行きます。僕、おじさんの本名と、実年齢、知りたいから」

僕は、笑顔で答えた。



「・・・よし、その顔じゃ、覚悟きめたな」

「はい」

「じゃあ、お前から言えよ?」

「・・・はい。」

「これ、俺の住所な。っと・・・、そういえば、お前の名前知らなかったわ。名前、教えてくれるか?」

「僕の・・・名前は・・・、----」

「よろしく。じゃあな」

「はい」






僕は、このころから決めていた。

いつか、絶対に、おじさんに向けた歌を、作ろうって。





そう、決めた。

少年とおじさん Ⅲ

めっちゃ長くなりました~。短編ぐらいの長さだよ。長いね。

おじさんと少年 http://slib.net/19808 (おじさんサイド)

少年とおじさん http://slib.net/20068 (少年サイド)

おじさんと少年Ⅱhttp://slib.net/20263 (おじさんサイド)

少年とおじさんⅡhttp://slib.net/20705 (少年サイド)

おじさんと少年Ⅲhttp://slib.net/21276 (おじさんサイド)

少年とおじさん Ⅲ

おじさん(大学生)と少年(小学生高学年)のちょっとした物語。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-11

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