メルヘン孤独

できたらあいして、ここにいて。

 ひどく、狭い部屋だと思う。物理的にも心理的にも。
ワンルームの部屋に、机と電燈とタンスとベット。机の上にはお菓子と飲み物、ベットにはぬいぐるみ、タンスと床には服とごみが、たくさん、たくさん散らかっている。片づけなくちゃってそう思っていつも一日が終わってしまう。鳴らない電話を見つめたりお菓子を食べたり手首を切ったり、そういう風にしていると一日なんてかんたんに時間が過ぎて終わってしまう。塗ろうと思ったマニキュアは瓶のなかで分離して床に転がっているし、爪のあいだ自体、血やら皮膚やらがこびりついていてそもそも汚い。今日も一日中マニキュアも塗らず、化粧もせずに一日が終わる。床に散らばった服を同じく床に散らばった靴に当てはめてきせかえ人形みたいに遊んでも、服を着てきちんとするほど身なりが整っていない。どこもかしこも中途半端に汚いわたしのからだ。どうして、こうなっちゃったんだろう。半裸で壁にもたれかかりながら、ちょっぴり、考えてみる。
 一か月前のわたしはもっとキレイだったんだ。髪だって丁寧にブローしてたし、爪だってちゃんと切っていた。香水もつけていたしお風呂は一日に二度入っていた。体だって、こんなに余分な脂肪がついていなくて、もっとキレイだった。モデルさんほどではないけど、ふつうにお洋服が似合うような。カミソリだって血を拭ったティッシュだっておくすりだって、こんなに転がってはいなかったはずなのに。
 どうしてこんな風になっちゃったんだろうなあ、そういう風に考えてたらいつの間にか二時間経っていた。どうしてだろうなあ、ってぼおっと考えながら腕を切ったりおくすりをのんだり泣いたり笑ったりしていた。テレビから録画していたアメリがながれているけど、この1か月間、何回も見た。何十回も見た。何百回も見た。もうたくさん。もうたくさんなのに私の恋愛がアメリみたくうまくいかない理由はひとつもわからないまま。
 「ねえむーたん。わたしのなにがだめだったんだろう」
 ラベンダー色のウサギのぬいぐるみに話しかけても答えは返ってこない。
 『おまえが醜く社交性がないからだよ』
 代わりに私が答える。
 「結局のところそれだよね。男のひとって顔がきれいで愛想があって友達がおおい女の子がすきだもんね」
 「でもさ、むーたん。私一か月前まではそこそこ頑張ってなかった?ダイエットもしてたし、きちんと身なりも清潔だったし愛想もよかったよ。なにがダメだったんだろう」
 むーたんは隣にいて、何もいわずにただわたしの話をきいてくれる。むーたんに付けられたビーズの黒い大きな目。弧を描く口。なんか、わたしよりずっとかわいい。ぬいぐるみだから、それはあたりまえなのかもしれないんだけど。
 「ずっとずっと待ってるのになあ。この部屋で。この部屋に、あの人が来るのを。まだかなあ、メールも、SNSもずっと更新してるのに、わたしにはなしかけてくれやしないの」
 だめなのかなあ。わたしが所詮がんばってもたかがしれてるのかなあ。叶わない恋なんてどこにでもありすぎて吐き気がすると思ってた。それっぽい雰囲気を出せば恋をしてくれなくても、そばにいてくれると思ったのに。むーたんを抱き寄せて子供がするみたいに目線を合わせてみる。むーたんの黒い、大きな目に私の醜い顔が反射して。
 『お前は確かに努力したかもしれないがあの女はずっと美しく、美しく愛されるために努力を惜しまなかった。お前みたいな女が今更取り繕った表面だけの努力をしただけで追いつける相手だとでも思ったか。ほんとうに、そんなものでヤツと釣り合うとでも思ったか』
 その言葉を聞いた瞬間、わたしは耐えきれなくなりゴミ箱におもいきり吐く。ティラミス、ポテチ、グミ、コーラ、クレープ。あんなに可愛いくておいしい食べ物ばかり食べたのに出てきたのは褐色の汚い物体だけだった。えづいて吐き気が止まらない、苦しい、苦しい、助けて、待って、迎えにきて。
 何だかつらくなってそのまま水と一緒におくすりを大量に飲む。かわいいパッケージだから、きっとわたしもかわいくなれるはず。そう思いながら一気に飲む。たくさんのむ。酸欠とおくすりの効果で頭がクラクラする。ふわふわする。ああ、なんだか幸せなきもち。これならいつまでもあなたを待てそうよ。
 「ねえ、むーたん、わたしの何がいけなかったんだろう」
 むーたんはもう何もしゃべらない。カミソリから血がしたたっていてわたしは泣いてる。ずっと待っているから迎えにきて、そしてわたしを救い出して、あいして。

メルヘン孤独

メルヘン孤独

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-11

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