Fragment of Air~空の欠片~
見上げる空~プロローグ~
暑い。今の状態を一言で表すとやっぱり、
「暑い」が一番しっくり来る。
「もう嫌だ。暑い暑い暑いー。」
僕は叫んだ。
「そりゃあ、仕方ないよ。夏なんだから。」
前を行く君が言い返した。僕は何も言い返せなかったから空を見上げた。今は昼間、十二時半を過ぎているだろう。
見上げた空は、今日も黒一色だった
すべての始まり~one day~
全ての始まりは三ヶ月前だった。僕は普通だと思われる一人の高校生、名前は金本秦世
という。何らかの運があって二年生になることが出来た。
二年に進級して五月の始めに僕は夢を見た。
空は黒いが見ている景色は自分達の暮らしている町だった。そこで僕達が手に武器を持ち、
異形な物と戦っていたのだ。すると、どこからか、
「お前は何を引く。」
と、言う声が聞こえてきた。そして目の前に現れた謎のカード達、確かな数は覚えてないが五十二、三枚はあったと思う。そのカードの中から、一枚引いた瞬間に目が覚めてしまった。
異変~Next Day~
次の日、何気なく学校に行くと、僕の机の上に昨日、夢で見たカードが一枚机の上にあった。そのカードを取ろうとしても、カードに触れることさえ出来なかった。
九時に始業の鐘が鳴るのだが、いつもの鐘の音と違っていた。僕の学校の鐘の音は教会の鐘の様な高い音だが、僕が聞いたのは、腹の底に響く低い鐘の音だった。それに気付いた瞬間、世界が黒一色になった。
別の世界へ~Reality of Dark sky~
「ここは何所なの。だしてよ。」
そんな声が聞こえてきた。目の前が少しずつ明るくなってきた。だが空は黒一色のままだった。
ここに居るのは、僕だけではないようだ。
他にもたくさんの人がここに居るようだ。
走り出す~The Tutorial Sequence~
「ようこそ、『黒き空の現実』へ。」
突然、声が響いてきた。状況を把握し切れてない僕らは、突然の声に驚き一斉に声がした方を向いた。皆が持っているカードにだ。
「諸君らは、強制的にこの世界に連れてこられたと思っているだろう。だが、諸君らはこの世界を一度見ているはずだ。そして、その証に諸君らは全員、カードを持っているだろう。それは、一人一人違うカードだから、
自らの証明書となる。カードは決して無くしてはならぬ物だから気を付けることだ。」
僕はこの話を聞いて、昨夜の夢を思い出した。長くて暗い、そして恐ろしいと思ってしまった夢を。そして、夢の中でカードを引いてはいけないと思いながらも、引いてしまった事への後悔が出てきた。そして、僕が一番考えている事について、カードの中から、また声がした。
「何故、こんなことをするのかと思う者も多いから、答えよう。今、この世界の空が真っ黒なのは知っているだろう。この空の青を諸君らに取り戻して欲しいと思っている。空の色を戻すには、各地に飛び散った、欠片を集めてないといけないのだ。」
いきなり、そんなことを言い出した。僕は何故僕らがここに呼ばれた理由を知りたかった。
「この世界には、人ならざる異形な物が多く存在している。ここでは『空喰い』と呼んでいる。空喰い達は各地に存在しているが、欠片の近くに強力な空喰い『欠片喰い』と呼ぶ物が存在している。この欠片喰いを倒すと空の欠片を手にすることが出来る。私は、欠片の位置を探すことが出来るが、ここに住んでいる空喰い達に手を出すことが出来ないのだ。だから、諸君らにこの空喰いと、欠片喰いを倒して欠片を集めてもらいたいのだ。」
僕は、「そんなことを言ったって僕らには、その空喰いなどを倒す力は無い。」と、言い返したかったが、先にカードの中の者が話し出した。
「諸君らに倒す力は無いと思う者もいると感じている。しかし、諸君らはここに来ているということは、諸君らには、力があるのだ。」
僕は耳を疑った。僕にも力があることに対してだ。しかし、戦うのだから、命を落としかねない。だが、ここは僕らの世界とは違うみたいだから大丈夫だろうと浅はかな考えをしてしまった。
「しかし、この世界で『敗北』要するに死んでしまうと、本当の現実世界の君たちの本体も何らかの原因で死に至るから、この世界で迂闊なことをしないようにしないよう気を付けてくれたまえ。」
僕は愕然とした。「この世界で死ぬと本当の現実世界の君たちの本体も死ぬ。」その言葉が胸に突き刺さった。
そして、我に返った皆が口々に叫び、怒った。
「ここから出してよ。」
「誰か、何とかしろよ。」
「何が力だ。何が集めろだ。」
また、声が聞こえてきた。
「最後に、諸君らに贈り物がある。このカードの中央に光っているアイコンがある。それを押してみたまえ。」
僕らの声は聞いてないようにカードの中の者は話した。僕は言われたように押した。すると、「装備一覧」というページが開いた。そして、また説明があった。
「諸君らのカードの内容によって装備が異なる。ちなみに諸君らはトランプのカードと同じように分けられている。スペードの1~13。ハートの1~13でダイヤの1~13があり、そして、クラブの1~13がある。最後に一枚だけ謎のカードジョーカーがあり全部で53種類ある。」
僕は自分のカードを見てみた。そして愕然とした。
コレクター名:Uncover
筋力値:不明、敏捷値:不明、運:不明
カード名:Joker
欠片収集数:0
そう、僕が最後の一枚のジョーカーだったのだ。そして、最後の解説がはじまった。
「諸君らの中で装備の交換は出来るがカードの交換は出来ない。他の者にカードを取られるとその取られた者は死んだのと同じ扱いになるので注意してくれたまえ。以上、チュートリアルシーケンスを修了する。皆の健闘をを祈っている。」
と、いって唐突にカードから声が消えた。そして、しばしの静寂の後、多くの者が然るべき行動を取った。怒り、泣き叫び、そして怒鳴りまくる。
「ふざけるな。」
「嫌だよー。」
「誰かー、ここから出してよー。」
そのとき僕は、妙に冷静だった。カードを見て、自らの装備を装着した。
武器:大太刀(始まりの太刀)
防具:始まりの防具
手袋:始まりの手袋
靴:編み上げブーツ
「思いっきり、初期装備だな。」
だけど、少し強くなれたような気がした。特に僕の装備している大太刀は僕の身長の三分の二ほどあるかなり長い太刀だった。
「ここに居たら何も始まらない。そして、元の世界に帰れない。だから、誰よりも早く
強くなってやる。」
僕はこの、皆が集められている広場から抜け出し、カードの欠片に対する共鳴を頼りに、次の場所へと走り出した。
再会~Meet You~
あの、強制的に連れてこられた日から二ヶ月がたった。
僕は、意外な人と再会した。中学生の時から仲が良かった同級生、山浦海吾だ。確か、高校はかなりの進学校に入学していて生徒会執行部で頑張っていたそうだ。
この世界で、知っている人が居ることがわかってとても安心した。僕とあいつの再会は、空喰いの群れに遭遇したときだった。
「おーい。誰か手伝ってくれー。」
そんな声が聞こえて、僕はその声がした方へ駆け出していた。その声の主は、多くの空喰いに囲まれていて、とても危なっかしそうに戦っていた。
「大丈夫ですか。」僕は、駆け寄りながら、周りに群がっている空喰いを大太刀で上半身と下半身を両断した。
「あぁ。すまない。助けてくれて。」
「いや。さらに増やしてしまったようだ。ここに来る途中に後ろから付けてきてしまってようだ。」僕は、苦笑いしながら。空喰いを切り飛ばした。
「いや、いいよ。戦力が増えて少し動きやすくなった。」と、笑いながら返してきた。
今、僕の背後にいるやつの武器は二本の少し大きめのダガーだった。それをかなりの速さで両手を閃かせ空喰いに次々と当てていった。
僕も負けていられず、太刀を大きく振りかぶって、周りに居る空喰い共に斬りかかりに行った。まず、正面の獲物を袈裟切りで吹き飛ばし、そのまま太刀を水平にして回転して周りの空喰い達を一気に両断した。太刀の範囲攻撃「辻風」がきれいに決まりほとんどの空喰いが上空に吹き飛んで見えなくなった。
「ナイス。」隣から声が聞こえてきた。あちらもほとんど倒しており、かなり余裕がありそうだった。そして、「こっちも負けていられないな。」と、言って一気に走り出した。高速で走り、空喰い達を次々と屠っていく。あまりに、手数が多すぎてよく分からなかったが、確かあの技は、二刀短剣突進技「雷光」だったはずだ。しかし、元々の速さもあるのか動きがほとんど見えなかった。
最後の一匹を倒したのは、ほぼ一緒だった。
「お疲れ。」僕は相手に対して言った。
「そちらこそ。」と返ってきた。そして互いに手を差し出し握手した。その時に相手の方から言い出した。
「お前、秦世か。」
何故、僕の名前を知っているのだろう。相手の顔をよく見て分かった。
「海吾、久しぶりだな。まぁこんな所で話すのも危ないから。奴らが来ないところに移動しよう。」
さっきの場所から少し離れたところに安全エリアがあるのでそこに移動して会話を僕から再開した。
「まず、君の種類は何だ。」
「スペードの2だ。お前は?」
「僕は、ジョーカーだ。」
「へー。あの一枚しか無いジョーカーを手にいれたんだ。」
「まぁ何か昔から運だけはいいんだよ。」
「そうだよね。そういえばお前はカードの種類によって属性が変わるのは知っている?」
「何となくだけど分かる。スペードが短剣による接近戦専用で、ハートが治癒能力によるヒーラー、ダイヤは投擲武器による中距離牽制、そしてクローバーが銃器による遠距離戦闘を得意としているよね。だけど、僕の持っているこのジョーカーは、何にも分かんないんだ。」
「そうだよね。後は数字によって効果が分かれている事ぐらいしか分からない。」
「君の効果は?」
「ん?俺の効果は連続攻撃回数によって全体的な速度アップだよ。お前は?」
「あぁ、ごめん自分でも分からなかった。カードの情報でもほとんどが『不明』としか書いてなかった。分かるのはコレクター名、カード名と欠片収集数、装備ぐらいだよ。」
「ふぅん。大変だね。お前欠片はいくつ集めた?俺は今二十個ぐらいだよ。」
少し自慢したように話した。
「えっと、確か三十個とちょっとあるな。」
僕は特に個数に気にせず言った。
「これって全部一人で集めたの。僕でもたまに誰かと組んでやっているから集めるのは速いと思っていたのに。」
君が落ち込んだように答えた。
「多分、他の人と組んでいるから欠片が他の人に行ってしまうんだよ。その代わりに僕は基本的に一人でやっているから欠片はすぐに集まるよ。」
「そういえば、最近みんなで欠片の個数を計算で予想してみたら全部で、二千六百五十個ぐらい必要だと思われるみたいだよ。」
「二千六百五十個も集めるのか。ということは一人頭五十個がノルマなんだな。」
「そんなところかな。でも、たまに退場してしまう人や最初の場所から動かない人が居るから本当はもっと必要だろう。」
「退場」と聞いたとき僕は背筋を伸ばした。
退場とは、この世界で死ぬことなのだ。
「なぁ、これから二人で組んでいかないかい。」
海吾が突然そんなことを言い出した。
「何でだ?」
僕は基本的に一人でやっていたから誰かと組む必要性が分からなかった。
「だって、いつ欠片喰いが現れるか分からないから一人でいるより、誰かといた方が安心するし。」
海吾は照れくさそうに言った。僕は何も言い返せなくて仕方なく、海吾と組むことにした。
作戦会議~meeting~
海吾と組んでから三ヶ月がたった。僕も海吾も元々のノルマを遙かに超えていた。そして空は少しずつだが、青色を取り戻していた。全部の欠片を集めきるのはもう時間の問題だった。
「おい、聞いたか十人ほどのグループが欠片喰いを発見したそうだが、あまりの大きさに腰を抜かしていたそうだぞ。あいつがかなり大きいのは空の欠片を大量に持っているみたいだからだそうだ。」
どこからか、そんな話し声が聞こえてきた。今、話しているのはこの世界でかなりの欠片を集めているコレクターのようだ。さっきの話を詳しく聞いてみようと思った時、海吾が突然、
「あっ、あの人と組んだことがあるから少し話を聞いてくるね。」と言ってそのままその人の所まで行ってしまった。
少し離れた所で待っていると、海吾が話を終えてこちらに戻ってきた。
「ただいま。話聞いてきたよ。」
「ご苦労です。それでなんかいい情報を手に入れることは出来た?」
「うん。今回の欠片喰いのいる場所は、あの神殿がある所みたいだよ。そして、神殿の中に今回の欠片喰いがいるみたいなんだけど、その周りに、かなり強力な空喰いがいるみたいなんだ。」
「今回はかなり困難な欠片収集になりそうだな。そして、たくさんのコレクターが退場するかもしれない。」
「そうだね。これから欠片収集作戦会議があるらしいよ。今回は、大がかりだから参加しないとだめだろうな。」
「僕と君の二人のペアだから、多分周りの空喰い達を排除する係になりそうだな。」
「すぐに、片付けて欠片喰いを攻撃すればいいんじゃないか。」
「そうだな。じゃあ作戦会議に参加しますか。」
「うん。」
作戦会議に参加して今回の欠片喰いの特徴を聞き収集に行こうとしたとき、
「君らは二人だから周りを排除してくれ。」と言われてしまった。
戦闘開始~ari eater destruction~
神殿に着くまで何回か空喰いと戦ったが大きな戦闘が無かったから意外と速く着いた。
そして、この巨大グループのリーダーらしき男が神殿の前で話し始めた。
「この戦闘に参加してくれたコレクターの皆、協力を感謝する。たぶんこの戦闘が最後の戦闘になると俺は思っている。皆一緒に勝って一緒に元の世界に帰ろう。」
この男はそう言って武器のチェックを始めた、僕と海吾を含めた約三十名のコレクターも装備のチェックを始めた。棒の装備は、
武器:大太刀(欺手の戯)
防具:欺師の戯言
手袋:背信者の露払い
靴:道化師のお遊び
変な名前の装備だが、自分のカードの種類によってこんな装備になってしまった。太刀はもう一本強いのはあるのだが、かなりの威力によってあまり使えない。
「皆準備はいいか。それでは、『巨大欠片喰い討伐作戦』開始。」
この一言で皆一斉に神殿の中に入って行った。
神殿の中は意外とさっぱりしていたが、空を見上げると、ちょうど空の欠けている所と同じように天井が崩れていた。
「おい、何所にも空喰いと欠片喰いはいないぞ。」と、誰かの声が聞こえた。この神殿に入ってすでに五分たっていたのだ。周りの者が少しずつ動揺し始めていた。その時、僕の頭の中に声が聞こえてきた。
「羽虫どもの声が聞こえる。さぁ一気に払おうじゃないか。」
その声は他の者には聞こえないようだった。
僕は、皆に告げた。「欠片喰いが来るぞ。」
皆も何か異変を感じ取ったのか緊張し始めた。そしてまた空を見上げた。口を大きく開けた竜が僕らの真上にいきなり現れた。そして、口の中にあった、光を僕らに浴び掛けてきた。
「皆、避けろ。」と叫ぶ声が聞こえていたが、あまりの出来事に動けないものもいた。そして光を浴びた。そして光が消えたときには、もうそこには誰もいなかった。
Fragment of Air~空の欠片~
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