赤吹雪~伊吹山編 10章~

赤吹雪~伊吹山編 10章~

僕達は、観察するだけだ。
要が壊れていくのを。
そして、疑心暗鬼に陥っていく姿を。


2月16日(水)午前6時30分

「…おい、要。朝だぞ。」
朝から彩が起こしに来てくれた。

「う~ん、もうちょい寝させて…」

バッ
(彩が布団を没収する音)

バンバンバン
(彩が布団を叩いて冷ましている音)

ファサ……
(彩がやさしくその布団を僕の上に
返す音)

ブルブルブル……
(冷えた布団で僕が震えている音)

「起きて~。
すごいヒマだから起きて~。」

な…なんという陰湿ないじめなんだ。

彩はもう着物に着替え終わっていた。
昨日とは違う柄の着物だ。だから荷物がすごく大きかったのか。

「おはよう彩。今日の天気はどう?」

昨日式は 帰れないかも と言っていたし、そこは不安だ。

「まだ夜かと思うくらい空が暗いぞ。
腰くらいまで雪が積もってるし、明日まで降るらしいから、今日は泊まりだろうなぁ。」

Oh……マジか……

「そっか、ありがと。
それじゃあ、鮮花に帰れなさそうってことだけ伝えておくよ。」

「あれ?ケータイは使わないの?」
そういえば繋がらなかったってことは伝えてなかった。

「それがさ、繋がらなかったんだよ。
タワーが壊れたからかな?」

「…ちょいとそのケータイ見せて。」

まぁ渡せと言われたから渡した。
何かあったかな?

「……ふ~ん、おかしいね。」

「……………え?何が?」
意味不明なんですけど。

「ここ見てみて。」

指を指した所には、アンテナが無くなっていた。
……アンテナがない……?
昨日の電車内では立っていたのに。

「そのアンテナはテレビ電波のアンテナなんだけど、あのタワーはラジオ用なんだよ。
だから、君のケータイテレビは写らずに切れた。
ラジオは途中までは聞けたが、回線を切られた。
……君のケータイは古いせいか、
チャンネルを変えられなかったよ。
ここは三重県だよ。愛知県じゃない。
…君のケータイの取り扱い説明書を
読んだら、一番電波の強いテレビに
自動で変わるようになってた。
でもそのテレビ電波は登録してないから、見れないんだ。
三重県だったら、三重チャンネルか。
昨日の午前中は使えていたな。
で、今日になって使えなくなった。
確かあの場所は大垣だから、三重と愛知の境目。だから電波強度が変わり、ケータイは封じ込まれたって訳だ。
あるいは……
…昨日電車の中から見えたんだけど、
テレビの電波を反射する金属板が駅の近くにあった。それのずらし方によっては、一番電波の強いものは変わって来ると思う。」

……え~っと、
「つまり、誰かがその金属板をずらしたってことか?
あるいは、普通にケータイの不都合?
メールが送れなかったのは?」

緊張が走る。

「昨日談話室にいるとき、
鮮花がメールアドレスを変えたって言ってたな。
あと、この天気じゃ普通に無理じゃないか?」

え゙ぇ……
あとでメアドは聞いておこう……

「でも、さっき言ったとおり、誰かがその金属板をずらしたから、テレビは使えなかったんだよ。」

「じゃあ、ずらしたのは誰だろ?」

「……ああいうのは、周りに重大な被害を出す恐れがあるから、触るのだけでも法律違反になる。まぁ、触れないよ。不法侵入以外は、ね。」

「そうか…そういえばもうそろそろ
朝御飯になるね。食堂に行こう。」

「わかる?不法侵入しないといけない事情が犯人にはあったんだよ。
バラバラ殺人の犯人の逃げた方向を眩ませるとか……!!!
これだったら傑作だね。
あっははははははははははは!!!!」

なんで、こんなに彩は笑っているんだろう。

「ま、まさか!そんなわけないだろ!
は、早く食堂に行こうよ!」

僕は逃げるように食堂に向かった。

赤吹雪~伊吹山編 10章~

要はどんどん壊れていっている。
彩は単純に仮定をして、要に話している。
要はその話を聴いて、疑心暗鬼へと陥っていく。

例えば、それは穴だろう。
疑いの穴ははまり始めは手が届く。
しかし、ある程度はまってしまうと、
手が届かなくなる。
即ち、救出不可能。
「密室」という世界は、
何が起こってもおかしくはない世界なのだから。

Thank you for reading!

赤吹雪~伊吹山編 10章~

旅行一日目が終わった要と彩は、 完全に「断絶された世界」に入ってしまう。 そこは、空想が空想の中で具現化しやすい、 脱出不可能という状況。 要は、疑心暗鬼へと陥っていく。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-08

Public Domain
自由に複製、改変・翻案、配布することが出来ます。

Public Domain