死にたがりの日記<3>

結局、夢だった。

「ふわぁ・・・」
職場のパソコンの前で大きなあくび。
「お前、そんなあくびしてると怒られるぞ?」
隣の席の同僚がニヤニヤしながら言った。
俺は、こっそりと上司の席を盗み見する。
上司もパソコンに向かっていて、とくにこちらの様子に気づく感じではない。
「なんだよ。寝不足?」
「あぁ・・・ちょっとな・・・」

結局、彼女の涙を見た後の記憶はあやふや。
目が覚めたら、自分の部屋のベッドで寝ていた。
(やっぱり、夢・・・?)
俺は、起きてすぐに日記の内容を確認した。
夢の中で聴いた会話は日記に書いてあるものと同じだった。
偶然なのか?
寝る前に読んだから、印象に残って夢になったのか?
それとも、必然なのか?

俺には良く分からなかった。

「はぁ・・・」
今度はため息をついた。
今さら、あの日記帳を店に届けるには気が引ける。
そもそも、あの日記の彼女が現在どこにいるかも分からないのに・・・。
「なんだよ。あくびの次はため息かよ」
同僚が怪訝な顔で俺を見る。
「なんか悩み事か?」
「いや。別に・・・」
俺は言葉を濁した。
「なんだよ?。人が親切に聞いてやってんのに」
「それ。余計なお世話じゃね?」
「そう?」
悪びれもしない同僚は、パソコンに目線を向けた。
そんな同僚に、なんとなく疑問に思ってたことを聞いてみた。
「なぁ・・・」
「ん?」
「スマイルって何か知ってるか?」
「スマイル?」
「あぁ。男性タレントかなんかだと思うんだけど」
「あぁ!大手事務所から最近CDデビューしたユニットだろ。それ」
同僚は、「朝のニュースでよく取り上げられてた」と話した。
「へえ?・・・そいつらって人気あんの?」
「結構あるんじゃねーの?俺の彼女も結構好きだし。ほら。今回クールのドラマに出てたりして知名度は結構なもんだと思うけど?」
同僚は、パソコンの画面に画像を出す。
「こいつら」
それは、夢で見た彼女の部屋にあったカレンダーの写真だった。
いわいるアイドル顔の7人の男性が、かっこ良く映っている。
「CD発売に伴って、コンサートツアーしてたみたいだな」
「そう、なんだ」
なんだか、こういう情報を聞かされると、日記と夢の内容がリアルになってくる。
「何?興味あんの?」
「いや。最近、ちょっと聞き覚えがあって・・・どんな人達か気になったんだ」
「ふ?ん・・・。まぁ、男の俺らには何処が良いのかよく分からないけどな。いかにも女性向けアイドルって感じで」
「そうだな」
「ほら。こーゆーやつらのファンってリピーターが多いらしいから、コンサートも何度も行ったりするらしいぜ」
「へぇ?」
「ツアーとかになると、北は北海道、南は沖縄まで、ついて行ったりするらしいしな。遠征って言うやつな」
「へぇ?。お前、よく知ってんな?」
「彼女の職場に熱狂的なのがいるんだってさ。それに有給つかったりしてるって話してた」
同僚は、画像を消しながらそうつぶやいた。
(じゃあ、彼女の友達は熱狂的な感じなのか?)
日記の内容を思い出して、そう思った。

『遠征する程、スマイルに熱を上げてる彼女と、1公演でも入れれば良いと思ってる私は、温度差がありすぎるもん…』

俺には良く分からないけど、きっと彼女にとっては差を感じるには十分すぎる程のことだったのだろう。

「なぁ、もう1つ聞いていいか?」
俺は、パソコンのキーボードを叩きながら同僚に問いかけた。
「何?」
「ネットワークビジネスって何の事だか知ってるか?」
「はぁ?何それ?それもタレント系の話?」
「いや。よく分からないけど・・・知らないならいいや」
「なんだよ。お前、ちょっとおかしくないか?」
「そうか?ちょっと気になる話を聞いたからさ。知らないならいいんだ」
俺が話を切り上げると、同僚は怪訝な顔で首をかしげていた。
俺は時計を見た。
終業時刻まで後、2時間。
昨日は残業で遅くまで仕事していたが、今日は定時で帰れるはずだ。
帰ったら、もう一度日記を読んでみよう。
何故だかは分からないが、続きがとても気になった。

死にたがりの日記<3>

日記を書いた彼女の気持ちを推察中って感じです。

死にたがりの日記<3>

主人公の日常の中で、日記で分からなかった単語を問いかけていきます。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted