The Fateful Encounter 

The Fateful Encounter 

FF7のセフィロス主役の長編二次小説です。
小説にはFF7に登場しない人物や設定、町の名前や団体などが含まれています。
気分を害されても責任は負いませんので、お読みの際は自己責任でお願い致します。

一章

薄い群青色をした空が段々と白みを帯びる。
朝日がゆっくりと昇り、一日の始まりを告げるこのなんとも言えない瞬間を
目に強く強く焼き付けた。それは誰にでも訪れる当たり前の時間のようであり、
けれど俺にとっては己の存在を再確認する瞬間でもある。
セフィロス。神羅カンパニーに属するソルジャー1st。

俺の事を英雄だと周りは言う。
無論、誰よりもソルジャーとしても仕事をこなし、他の人間よりも身体能力が優れている事は承知しているが……それでも時間の流れ、移り変わる景色の中では所詮一風景でしかないのだ。
「今日も早いな、セフィロス」
背中から聞こえる低い声に振り向くと、そこには腕を組みこちらを目を細めるアンジールがいた。
「ただの日課だ」
「日課?いくら日課といえど、普通の人間は昨晩の仕事が3時間前に終わった夜明けくらいはギリギリまで寝るものだろう」
「そうか?」
「そんなもんだ」
そうは言った所で俺が変わらないことなどお見通しなんだろうが、
それでも遠回しにこの身の心配をしてくれているのだろう。
助言を聞く聞かないはさておき数少ない友人の心遣いは嬉しい、と思う。
埃っぽい風が二人の間を吹き荒んだ。
神羅カンパニーの屋上の縁から踵を返すと、俺は軽くアンジールの肩を叩く。
「さ、行こうか」
「そうだな、今日も面倒事が盛りだくさんだ」

早足でカツカツと階段を降りると、そこにラザードの姿があった。
「ちょうど良かったセフィロス」
メガネの奥で、全てを計算的に見透かすような瞳が揺れる。
「昨日の続きを頼むぞ」
今日の任務も昨日に引き続きモデオヘイムへ向かえとの合図だ。
反神羅の連中が面倒な兵器をこっそりと作っているとの情報をリークしたタークス。
平たく言えばそれを排除してこいという俺の出る幕ではない小さな命令だが、
昨晩の調査でその兵器がどうやら本気で面倒くさい事になっている事が判明したらしい。
そこで俺に声がかかったと言う訳だ。
あんな廃村にまでご丁寧に目を光らせている神羅にも驚くが
俺にとってはただ一つ、命令があるならばそれに従うだけだ。

そのままアンジールと廊下を抜け、外へと繋がる階段を下りると眼下に人影が目に入った。
黄色い声援が耳をつんざく。
「軽く手ぐらい振ったらどうだ?セフィロス」
「アンジール、お前こそ」
そこにいたのは自分たちの活躍を熱狂的に応援してくれる女達の姿。
応援は結構な事だが、ソルジャーはあくまでも神羅カンパニーに雇われている存在であり、
観客を呼ぶような活劇をしている訳ではない。
その辺りを分かっていないのか、それとも無下に扱われる事くらい承知の上なのか。
いつまで経ってもこの人だかりが消える事はなく、
それならば出来るだけ早く消えようとするのが常。

そんな中、
「応援ありがとっ、今日も行ってくるぜ!」
とザックスの声が響いて俺とアンジールのは顔を見合わせ肩をすくめた。
ソルジャー2ndとして採用されてからも変わらず自分らしさを貫くザックスというこの男、
実は大物なのかもしれない。……いや、そんな訳はないか。
「じゃあな」
アンジールに手を振ると、それだけで集まった女達から嬌声が上がった。
ところで、そう言えば今日は早めに任務を上がるよう言われていたような……。
アンジールもちょうどそれを思い出したのか歩みかけた足を止めた。
「セフィロス、今晩7時、忘れるなよ」
「もし……忘れたと言ったら?」
「社長がカンカンだ」
にっと歯を見せながらおどけて言う姿に苦笑いを浮かべると、早足でその場を駆け抜ける。
吹きすさぶ風と共に煌めく銀色の髪が揺れ光る姿にまた視線が集まるものの、
そこから一歩踏み出す事は許されないであろう高貴で絶対的な後ろ姿。
セフィロスのその背中に女達のため息の音だけが響いた。

二章

アンジールが忘れるなと言ったその晩。
街の一角には大勢の人間が期待に満ちた顔でぞろりと集まっていた。
「いよいよお出ましか?」
楽器隊のファンファーレが高らかに鳴り響き、時計台の針がカチリと時間を進める。
「ったくお前は。仮にもソルジャーだろ?あまりそわそわするな」
ワクワクとした瞳を輝かせるのはザックス。

そしてお目付役のようにそれを制しているのは先のアンジールだ。
ここは神羅ビルの脇にある会社名義の広大な庭園である。
この一角を利用して行われる社長主催のパーティーは恒例だが、
今回はスペシャルゲストがお出ましとあってより盛大なものとなっている。
「だってさ、あのレムが来るんだろ?そりゃあテンション上がるって」
ザックスの無邪気な顔にアンジールはやれやれといった風で呟いた。

「……お前には全く関係ないだろうに……」
「俺、レムがゴンガガでトークショーした時にやったくじ引きでゲットした
サイン入りブルゾン持ってるんだぞ!」
「……口を開けばまたその話か。 少しは違うことでも考えたらどうだ。
まあ、気持ちは分からんでもないが」
「じゃあさ、アンジールは有名人に興味ない訳?」
「俺か? 興味があるないで言えば……それにしてもセフィロスが遅いな」
「ごまかすなよ」

横で子供のように口をとがらせるザックスの事は知らないふりで、アンジールはあたりを見回す。
今日のこの場は異国の女優であり、モデルでもあるレムが招待されたパーティーとあって、
どんな輩が入りこむやもしれない。彼女に何かあっては一大事だと
ソルジャーは7時には集まるよう言われたはずだ。
もっとも、実際はレムの噂を聞いた社長がすっかりと彼女を気に入ってしまい、
彼女がソルジャーを見てみたいと過去に口にした情報を得てのパーティーでもあるのだが。
彼女ほどの美貌を持つ人間(実際は人間と妖精のハーフだという)が
本気でソルジャーを見たいかどうかの真相は闇であるものの、
彼女ほどの存在が自らの足でこの場へやって来る事はやはり希少な機会であるだろう。

レムの為に用意された豪奢な生花で作られたアーチをくぐり抜け、
いざその姿が見え隠れすると紳士のたしなみとしてにこやかに迎え入れようとしながらも、
こらえ切れず声をあげてしまう参列者もいる。
「見てよ、アンジール。あの漆黒の髪。いいなぁ」
「だからお前は……社長が後から紹介すると言っていたから待っていろ」
ザックスとアンジールがそんなやり取りをしていると、ようやくセフィロスが現れた。

三章

「セフィロス!」
「結局遅刻か?」
俺を待ちかまえていた二人の視線の先を見つめると、そこには一人の女の姿があった。
「あれが社長の……」
二人の言葉をあっさりと無視すると、ちらりとその存在を確認する。
なるほど、社長が酔狂するのも無理は無い。すらりとした長身から伸びる華奢な手足。
小さな顔はバランスよく整いその青い瞳でさぞたくさんの人間を虜にしてきたのだろう。
笑顔と一緒に揺れる髪から覗く赤い角が人間ではない事を知らせている。
長い睫毛が影を落とす。彼女のたったそれだけの動作が、
周囲の者に感嘆の溜め息を吐かせる上品さと華を持っていた。
美しいだけではなく気品も備えた美女というのは、なかなかいない。

類まれな美貌に恵まれ、更に有名であるが故の傲慢さのようなものは
遠目からは見受けられず少しだけほっとする。
……が、プライベートまでやっかい事に巻き込まれるのはごめんだ。
「それを貰っていいか?」
「別に構わんが」
アンジールが飲もうとしていた白葡萄酒のグラスを横取りし喉へ流し込むと、
改めてこの場を眺める。すると社長がレムを嬉しそうにエスコートしながら、
ちょうどこちらへやって来る所だった。
180センチを超えるであろう長身のレムと極平均的な背丈の社長のアンバランスさが可笑しい。
「セフィロス、アンジール、ザックス」
もうすでに酒が回っているのか、俺達の名前を点呼する社長。
そして俺の隣へやって来ると、
「この面々が神羅カンパニーが誇るソルジャー。そして彼が英雄と呼ばれるセフィロスだ」
いつもの威厳はどこへやら、すっかり毒気の抜けた社長に呆れつつも義務的に挨拶をした。

「神羅カンパニーのソルジャー、セフィロスだ」
「初めまして、サー・セフィロス。私はレム。ご招待に感謝致します」
ドレスの裾を軽くつまんで挨拶をした彼女はパーティーの席らしく、
落ちついた若草色のドレスを身につけていた。
装飾品や宝石は最小限、更にシンプルなドレスであるが故に、
それが逆に彼女の胸のラインやしなやかな体を引き立たせる。
大人びた容姿と、鈴が鳴るような可愛らしい声のギャップに
社長はもうたまらないと言うように身悶えた。

「よろしく」
遠出の任務でここにはいないジェネシスを除きアンジール、ザックスともレムが握手を交わす。
白く細長い指の感触が印象に残った。
考えてみれば普段誰かと握手をすると言えば、確実にゴツゴツとした男の手ばかりだ。
「彼女には是非とも神羅の広告塔になってもらいたいと思ってね」
雄弁に語る社長の隣で、
「ええ、望んで下さるのなら」
と余裕の笑みを見せたレム。
この巨大な神羅カンパニー。その社長の前でも物怖じしないレムの姿を目の前で見て気付くのは、相当なやり手だという事。
俺と違うのはもちろんザックスのようにバカ……いや、素直なのとも違う、聡明な瞳。

「レムって、何歳?」
バカ……じゃない、素直なザックスがレムに遠慮なく声をかけると、
「21よ。あなたは?」
問いかけるその視線がザックスでは無く自分に突然向いて少しだけ動揺する。
「俺か?……25だ。全く年なんて聞いても仕方がないだろう、ザックス……」
と問い詰めようとした俺の声を遮ったのはザックスじゃなくレムだった。
「そんな事はないと思うの。誰もが誰かと繋がりたいと思っているし、
どんな小さな事でも誰かの事を知る事が一歩じゃないかしら?」
凛としたその姿に社長はすっかりご満悦だ。
「ソルジャーの面々とはこれからもまた会うだろう。さ、レム。こっちに来たまえ」
皆に見せびらかしたいのだろう。すっかりと顔を赤くした社長と共に消えていく姿に
一つだけ疑問符が残る。誰もが……誰かと?
この晩の事は、よくある社長の気まぐれパーティーだと思っていた。
ただ、この誰もが誰かと繋がりたい、という言葉だけが何故か頭に残る。
「ちょっとレム、俺の年聞いてないんですけどー」
ザックスの残念そうな声で我に帰るまで、何度も何度も反芻した。

四章

それから数日後。
「で、なんで俺が必要なんだ?」
神羅カンパニーと正式に契約を結んだレムが、再びやって来る事になった
という話の流れで……社長が打ち合わせに同行して欲しいという、それもつまりは命令だ。
「彼女のあの独特な美貌と世界観は、ミッドガルだけではなく
世界中のハイファッションブランドのデザイナー達や企業も虜にしています。
ショーに出る事も有るんですよ」

秘書はそう言っていたが、そんな華やかな場に立つ女を招くなら、
俺ではなくザックスや戻っていればジェネシスの方が適任だろうに。
アンジールだってそつなくこなすだろう。
大体、俺は社長の身の周りの世話をする為にソルジャーをしている訳ではないのだ。
ビル内で行われる打ち合わせでは、警護の仕事すら必要無いだろう。
話術のかけらもない俺に出来る事と言えば、ただ立っているくらいだ。

心底面倒だとトレーニングルームでのびていた俺に、丁度訪れたアンジールが言った。
「変な顔をしてどうした」
「……例の女優との打ち合わせに来いと言われた」
ため息をつく俺にアンジールが聞く。
「ああいうのは好みじゃないのか?」
ああいうの、か。

そうアンジールに問われたものの、俺には人を愛するという感情がない。
いや…むしろ、昔から持っていなかったのかもしれない
周囲が見ているのは『俺』ではなく『英雄セフィロス』
…誰にも愛されない俺には、そんな感情は無意味だ。
「さあな。任務だと言うなら行くだけだ。女の事を気にするなど、煩わしいだけだろう」
「でもさー。レムってミッドガルじゃお目にかかれないレベルの美女だろ?
マジでなんとも思わねぇのダンナ?」

「……口を開けば女の話か。少しは違うことでも考えたらどうだ。……お前も来い、アンジール」
「俺か?残念ながら無理だな。ラザードに呼ばれている」
じゃあな、そう言ってひらひらと手を振るアンジールを恨めしく思いながら、
仕方なしにも今日の予定に向かう事にする。
「あ、ダンナ」
「…なんだ」
「アンジールがお客さんに失礼のないようにだってさ!」
「………」

打ち合わせは、確か応接室で行われる事となっていたはずだ。
うっかり遅刻でもして社長に文句を言われてはますます気分が淀む。
仕方ない、と無言でエレベーターに乗り込んだ。
「え、今着いたんですか?」
「ああ、遅かったか?」
「そんな訳ないじゃないですか。早過ぎますよ」
遠慮なくまだ誰もいない部屋の大きな椅子に腰を下ろすと、
苦笑している秘書から渡された書類に目を通した。

無駄に分厚い書類の中身を流し読みで要約すると、
神羅カンパニーのCM及びポスターへの起用、
それだけではなく、神羅のバックアップで今後もレムの活動を後押ししていく
……そんな内容だ。
「彼女はスタイリング、ショーの構成、舞台装置の提案、
パフォーマンスで使用する音楽のアレンジをすべて自分で行っているんです。」
「ほう…」

「その他にもイメージガールとしての活躍ぶりも山ほど有ります。
彼女の魅力は徹底して女性の魅力を売りにしている所です。
難しい事抜きで、全身で女性の美しさ伝えます。社長はその点気に入ったんでしょうね」
社長が決めた事なら会社の金をいくらどこに使って貰っても結構だが、
だからといって今日のようにソルジャーまでを巻き込んで貰っては困る。
今回は仕方が無いが次からは……そんな事を考えていたら
コンコン、と応接室をノックする音がした。

五章

「失礼します」
落ちついた声と共にそこに現れたのは先日とは雰囲気の違うレム。
パーティー向けでは無く、完全に私服であるレムはストレートのパンツに
セクシーなキャミソールといったいでたちで現れた。
高めのハイヒールを履いている為、俺と同じくらいになった背丈はさすがに迫力がある。
そうでなくても彼女の自信に満ちた青い瞳は仮に本人が無意識であったとしても
自身を大きく誇っているのだ。
当然一緒に席についた社長の鼻の下は伸び切ったまま。

「ここは素敵な部屋ね」
レムがそう言うのも当然、落ちついた間接照明に照らされ
社長ご自慢の大型水槽は中で大型の熱帯魚すら回遊出来るほどの広さを持つ。
観葉植物も異国より取り寄せた大きな葉から良い香りのする樹木である。
レムはその観葉植物をじっと見つめると、
「あ、コーサス」
と嬉しそうな声をあげた。
「さすがご存知ですか?」
秘書の言葉に、
「ううん、さすがじゃなくて……これは私の国の花なの」
レムが今までになく嬉しそうに話すのを見て、
思わずそっちに目を向けると、彼女は俺の方を向いてにっこりと笑った。

「また会ったわね、セフィロス」
「ああ」
間接照明に照らされ、彼女の長い睫毛が頬に影を落としその美貌の陰影が深まり、
昔見た古い絵画や彫像のようだと思いながら何故か視線を反らしたくなる。
そんな俺など気にすることなく、
「ポスターの画は全体的に淡い紫を主体にすると良いと思うの。それから……」
俺の存在などまるで無かったかのような扱い。

きびきびとプロの顔になり打ち合わせに入るレムを見て、どうしてか心がざわめいた。
彼女のような存在を初めて見たからかもしれない。
類まれな美貌、そして名声。
両親からの愛を存分に受けているであろう彼女から溢れる、母性のような優しいオーラ。
誰を目の前にしても堂々と意見をし、しかし決して傲慢では無く相手への気遣いを忘れない姿。
それが妙に気になるのだ。

彼女のそんな性格を表しているのが土産の一件だった。
持参して来たらしい差し入れを、自らの手で秘書にまで手渡したり、そして俺にも……。
「はい、これ美味しいからあなたにも」
「……悪いな」
「どういたしまして」

出来る事なら気付きたくなかった気持ち。
レムの視線が俺と社長を同じようにしか見ていない事が、何故か気に入らない。
「再来週、興行でまたこの国へ来るの。見に来てくれたら嬉しいな」
打ち合わせはレムの手腕で滞りなく終わり、彼女は何枚かの興行チケットを秘書に手渡した。
そして次の予定が待っているのだと彼女は慌ただしく去って行った。
最後にこんなセリフを残して。
「セフィロス、今度この街へ来る時にはここの美味しいものを教えて貰える?」

六章

確かに彼女に貰った焼菓子はこれまで味わった事の無い果実が
ふんだんに使われていてそれは旨かったのだが、
だからといって俺が客人の為に菓子を買う姿など、想像しただけで滑稽だ。
だが……
「アンジール、ミッドガルの旨いものは何だ?」
「そうだな、この間食べたミッドガル饅頭は美味かったぞ。確か八番街で買えたと思うが」
「そうか、悪いな」
「もしかして、買い物に行く気か?」
英雄と呼ばれる俺が街へ饅頭を買いに行く姿を想像したのだろう、
秘書が笑いを堪えているのが分かる。

「仕方ないだろう」
「我が社の社員は皆さんレムさんのファンって事ですね」
「ふぁ……俺がレムのファンだと?」
「そうではないのですか?」
改めて言われ、先程抱いた気持ちを思い出した。
レムのあの瞳を思い出すと、ここで違うと言う否定の言葉が出ない。
「興行に間に合うよう買っておいてくれ」
「はい、分かりました」

全く調子が狂う。
俺が他の誰かに惹かれる事など、決してありえないと思っていた。
それなのに、認めたくなくても心の中にある天秤が勝手に彼女へと傾いていく。
レムを、自分のものに出来るだろうか?
力で制圧出来るものなら相手が何であっても負ける気がしない。
だが、この初めての感情は簡単にコントロールできるものでは無さそうだ。
更に女としても最高峰であろう彼女の心の在処など、とても俺には掴めそうにない。
とはいえ、気付いてしまった。黙ってこの炎を消す事も……残念ながら出来そうにない。

それから、興行の日までは案外に忙しかった。
と言うのも、ジルリアの街にある存在するという
とある麻薬組織を調査する事になったタークスに悪い噂があるからと
念の為付き合うよう命令が下り、長期で出かけていたからだ。
手土産の件、秘書に任せておいて助かった。
神羅カンパニーにおけるソルジャーの仕事は幅広く、
今回のように特に危険な武器を持っている相手の場合は
こうしてタークスに同行するような事もあるのだ。

ジルリア郊外。そこは常に薄暗く、都市部の華やかさとは正反対であると言える場所。
その落ち窪んだ空気は嫌いではないが、だからと言って激しい悪を愛す事もない。
タークスと共にひっそりと隠れていた脇で目にしたのは
この街の大手通信会社CEOであるエマヌエルという男。
その男が話している相手は……レムだった。
分かっている。彼女はここでもおそらく仕事をしているのだ。

俺とはまた違う分野で、彼女の名は知れ渡っている。
彼女がどこで何をしようが俺には関係ない。
それでも……あいつだけは何故か許せないと思った。
そんな気持ちが芽生えるのはちらりと垣間見える
エマヌエルの心底冷え切った瞳のせいかもしれない。
ただ思った。こんな街でレムのような女がいいように扱われないようにと。

To be continued...

七章

ミッドガルに戻るとあっという間にレムの興行の日だった。
この日は手隙のソルジャーにもチケットが渡され招待を受ける。
プライベートを楽しむソルジャーの中には芝居好きで有名な好きなジェネシスの姿もあった。
「戻っていたのか?」
そう声をかけると、
「ちょうど昨日な」
と、やや疲れた顔で軽く手を上げた。

「社長がご執心の女優だって?」
ジェネシスにそう聞かれ、俺まで心を蹂躙されているとは言えず黙って頷く。
「咲き誇る花。その花の蜜は麻薬というとこか」
「麻薬だと?」
「そうだろう。いや、蜜ではなく香りか。花を摘まなくとも甘い香りに誘われて、
傍に寄っただけで他を魅了する」

「相変わらず比喩が好きだな。お前もファンの一員なのか?」
「冗談。俺は演技に酔うだけだ。今宵演じられる花姫の舞台を楽しむとするよ」
芝居に酔っているのか、台詞じみた自分の言葉に酔っているのか分からないのはいつもの事で、
こんなジェネシスにはもうとっくに慣れたものだ。
とそこへ、ちょうど秘書がミッドガル饅頭を持って現れた。
「遅くなってすみません、楽屋はあっちだそうですよ」
「分かった」
俺の手にずっしりと渡された饅頭の箱の山を見て、ジェネシスは当然怪訝な顔を見せた。

「何だ、これは?」
「一般的に土産と呼ばれるものだ。ミッドガル饅頭と言うらしい」
「ミッドガル饅頭くらいなら俺でも知っている。で、どうしてセフィロスがこれを?」
「頼まれた」
「誰に?」
「……レムだ」
目の前の光景の意味が分からないと首を傾げるジェネシスをおいて、
教えられた楽屋へと足を運ぶ。
これ以上の会話は不要だ。
あれこれと聞かれたら面倒で仕方ない。
そもそもあまり時間もない。

街中に厳重な警備がついてる事が逆に好都合だった。
そうでなければこの街をふらりと出歩くだけでも俺の容姿は目立ち過ぎる。
前に、ほんの興味本位で街に出たら女達に一瞬で取り囲まれた事を思い出した。
そんな経験を踏まえ、その辺りに落ちていたソルジャー候補生が被っていた帽子を拝借すると、
髪を一くくりに持ち上げその帽子の中へと押し込んだ。
普段と違う俺に気付く者はいない。
だが、よく見られたらすぐに見破られるだろう。
せめてあと10cm背が低かったなら良かったかもしれないが。

足早に人波を駆け抜けると到着した楽屋の入り口で見張りをしていた護衛の前で髪を解いた。
そして一言、
「神羅カンパニーのセフィロスだ」
と名を告げる。
すると一瞬驚きながらも当然俺の事は知っているのだろう。
手に持った饅頭の箱と俺を一度見比べると不思議そうな顔をしたもののあっさりと道が開けた。
それにしても、この俺がまさか饅頭の宅配をする日が来るとは、
全くもって未来とは分からないものだ。

八章

蒸し暑い興行小屋の廊下を進んでいくと、突き当たりにRemと書かれたカーテンが見える。
扉はなく、そのカーテンの向こうがそのまま控えの部屋になっているらしい。
「レム」
そう声をかけると、
「誰かしら?支配人?」
と、のんびりとした声が聞こえてくる。
「セフィロスだ」
咳払いを一つしながら呟くと、すぐにカーテンが開いた。

彼女は嬉しそうな顔で、
「セフィロス、舞台だけじゃなく楽屋まで来てくれたのね」
と手を口にあてた。全く、ただ会いに来たと思われたのではかなわない。
「約束したからな」
「約束?」
「お前に頼まれた旨いものだ、これだけあれば人数分足りるだろう」

ぐいっと手の中のものを押し付けながら、彼女にとっては大きすぎる荷物である事に気付き、
手渡す事は諦め部屋のテーブルにそっと饅頭を置いた。
「まさかあなたが自ら届けてくれるなんて……ありがとう」
二人きりの静かな楽屋の中はレムの香水であろう異国の甘い香りに満ちている。
今日の舞台で着る衣装なのか、南国のプリンセスのような一枚布を体に巻きつけたレムの姿は
エキゾチックで美しく、会う度にこうも印象が違うものかと感心してしまう。

頼まれたものは届け終わった。そして他に言う事も思い浮かばない。
という事は必然的に帰ると言う選択肢となる。
「じゃあな」
と告げると、
「待って、セフィロス」
戻ろうとする俺を呼びとめ、レムは鞄の中から銀色のネックレスを取りだした。
「これ、あなたに似合うと思ったの。ほら見て?やっぱりそう」

俺の首筋にその手を巻きつけるように押し当てると、
ネックレスの脇からじんわりとレムの体温が伝わる。
突然の事に鼓動が早くなっている事、それを悟られないようにと願わずにはいられない。
レムからすれば、これは当たり前の社交辞令なのかもしれないが、
残念ながら俺はこういう行為に慣れてはいないのだ。
勘弁して欲しい気持ちと、もう少し彼女を近くに感じていたいと言う気持ちで揺れ惑う。

九章

「プレゼントするわ、受け取って」
「…………」
受け取ってしまっていいのだろうか?
これを貰ってしまったなら、またお礼をしなくてはならないだろう。
饅頭ならまだしも、彼女に似合うアクセサリーを見繕うなんて事は
どう考えても俺には出来そうにないが。かといって好意を断るのも気が引ける。
「迷惑かしら?」
「いや」
「それならそんなむすっとした顔はやめたらどう?」
「悪い」
「いいえ、本当は気にしてないから」
彼女はそう言って笑顔を見せた。

「贈り物ってね、誰かにあげたいなって思う気持ちが大事なの。
私はこのネックレスを街で見た時にすぐにあなたが浮かんだ。
だから自分の気持ちに素直になっただけよ」
……まただ。レムの言葉にまた心惹かれる。
そして、俺がどうしてか彼女に惹かれる理由が外見だけじゃない事を改めて知る。
どうやらこの内面の綺麗さにすっかりと捕えられてしまったらしい。
それならば、こちらも素直になるしかない。

「興行の後、時間はあるか?」
「そうね……セフィロスとデートする時間ならあるかもしれない。あなたの事、ちょっと気になるの」
誘いの意味をきっぱりとした言葉で明言するレムには敵わない。
「……分かった、じゃあデートに行こう」
一体俺はレムの目にどう映っているのだろうか?
彼女だけはなぜか英雄としては見ていない気がした。

一人の男、一人の女。
肩書きも、過去も脱ぎ捨てて寄り添えたならそれはどんなに幸福だろうか。
無論、そんなものは絵空事で俺は永遠にソルジャーであり、
彼女はもおそらく永遠にスポットライトを浴びる存在であるのだろうが。
そんな彼女の一番近い存在になるという事は、どんなミッションよりも難しい
……どうもそんな気がしてならない。

レムが俺の前に現れたのは、2回の興行が終わった零時近く。
神羅ビル内にこっそり呼び込んだ事は社長には内緒だ。
彼女のファンが帰り道を取り巻く中で、安全に話を出来る場所に導くには
他の場所は思い浮かばなかった。
深夜になっても疲れは微塵も見せず、変わらない穏やかな表情を見せるレム。
変わったのは劇中での衣装を脱ぎ、私服に着替えている事くらいだろうか。
46階脇からそっと抜け出した所にある、普段一人で考え事をする時に使うポーチへと案内した。

The Fateful Encounter 

小説に登場する予定のFFキャラクターは以下になります。
レムとギガはオリジナルキャラクターです。

セフィロス
小説の主人公。ジェノバプロジェクトによって生み出された最強のソルジャー。
彼に憧れる少年達が世界中におり、ザックスやクラウドも同様にいずれ
セフィロスのようなりたいと願いそれぞれの村を後にした。誇り高き英雄。 (Wikiより引用)

アンジール
ソルジャー・クラス1st。ジェネシスとは親友であり幼馴染でもある。
軍務の人間らしからぬ理想論者で抽象的な言動が多いが
後輩達からの信頼は厚いようだ。(wikiより引用)

ジェネシス
ソルジャー・クラス1st。アンジールとは親友であり幼馴染。
セフィロスに強い対抗意識を抱いている。叙事詩「LOVELESS」を好む。
愛剣は赤いレイピア。(wikiより引用)

ザックス
セフィロスに憧れ彼のような英雄になることを夢見てゴンガガを家出同然で飛び出し
2ndとして採用される。後にクラス1stへ昇格する。(wikiより引用)

レム
異国の女優で絶世の美女。
透き通るような白い肌、黒く美しい髪、青い瞳、スレンダー体型で胸は少し大きめ
髪の長さは肩より少し上、性格は女性らしく暴言を決して吐かない。
後にセフィロスのパートナーとなる女性。
妖艶な表情をする事が多い。

エマヌエル
レムの幼馴染で端整な顔立ちだが言動は過激で派手。
表向きは大手通信会社のCEOで保有資産額は690億ギル(約5兆6000億円)
世界長者番付のランキングは3年連続で首位
裏の顔は麻薬組織のボスでありとらゆる麻薬や兵器を取り扱う。
プライドが高く大胆不敵で傲岸不遜、残忍かつ冷酷な性格であり、
極めて高度に洗練された頭脳を持つ天才的な知能犯で
一見無計画な行動の裏には、計算され尽くされた恐るべき計画が潜んでいる。
ラザード曰く、悪魔のような男

メインヒロインのレムの外見はこちらです。
http://ditamanson.blog.fc2.com/blog-entry-13.html

The Fateful Encounter 

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-08-04

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 一章
  2. 二章
  3. 三章
  4. 四章
  5. 五章
  6. 六章
  7. 七章
  8. 八章
  9. 九章