赤物語

プロローグ

「ゆけっ、バクフーン!」

目の前にいる少年は、モンスターボールからポケモンを繰り出す。

バクフーンは勢いよくボールから登場し、元気に鳴き出した。



「ようやく――、この時が来たんだ。

色んな街で、アンタのことを聞いた。

伝説だか、頂点だか、最強だか知ったこっちゃねぇ。

俺は―、アンタに負けねぇ!

覚悟しろ!」


彼の口から出るその言葉に俺は、新鮮な気持ちになる。

こんな威勢のいい奴にバトルを申し込まれるのは、いつ以来だろうか。


そんな事を考えながら、俺の足元にいたピカチュウに指示する。

「ピカチュウ、頼んだぞ。」

ピカチュウは「ぴかー」と鳴くと、バクフーンの前に立ち対戦姿勢に入った。


嗚呼、胸が高鳴るとはこういう事を言うのだろうか。

久し振りに、こんなにも楽しいと思えるバトルが出来るなんて。



「先制させてもらうぜっ。

バクフーン!かえんほうしゃ!」


その声と同時にバトルが始まった。

旅立ち

俺がトレーナーを迎えた日は、暖かい春の空気に包まれる柔らかな日だった。



「ほっほっほ。

レッドもいよいよ旅立ちじゃのう。

どうじゃ、トレーナーになった気分は。」


暢気に笑うのは、オーキド博士だ。

ココ、カントー地方でポケモンの研究をしている博士だ。


「そりゃあ、もう、浮き足立つ程ウレシイに決まってるだろ?

な、レッド。」


そう言ったのは俺のライバルであり、オーキド博士の孫でもあるグリーンだった。


「まぁ、そうだな。

やっとトレーナーになれたし、俺、今すごくワクワクしてるよ、博士。」

何の偽りもない、正直な感想だった。


実際のところ、近くの街に遊びに行ったときに見た新米トレーナー達が羨ましかった。

自分のポケモンを強くして、戦わせて、仲良くなって絆を深めて。

どんなに楽しいことだろうか。

それだけじゃない。

各街にある、ジム。

ここでは、自分の育ててきたポケモンをジムリーダーと戦わせ、勝利の暁にはジムバッジをゲット出来る。

そして、このバッジを8つ集めたトレーナーだけが行ける最大の難関場所。

そここそが、ポケモンリーグだ。

四天王と呼ばれるトレーナーを倒し、その最後に待ち受ける地方最強のトレーナー、チャンピオン。

彼らを倒したトレーナーは、カントー地方で最強と謳われるだろう。

どのトレーナーも皆、そこを目指してポケモンを強くする。

俺も、その一人だ。



「そうじゃなぁ。ワシもそう思っておったよ。

そうそう、ポケモンを渡さなくてはいかんのう。

そこにモンスターボールが置いてあるじゃろう?

そこから1つ、選んでいくが良い。」


複雑そうな機械の真横には、3つのモンスターボールが横列に置いてあった。


どれでも良い・・・か。

どんなポケモンが入ってるんだろう。

そんな期待を込めて、俺は一番右のモンスターボールを手にとった。


そんな俺に続いてグリーンも選び、グリーンは一番左のモンスターボールを選んでいた。


「選んだようじゃのう。

そのポケモンは、大切に育てるのじゃよ。

それからもう一つ渡さねばいかんものがある。

これじゃ。」


オーキド博士から受け取ったのは、機械のようなモノだった。


「じぃさん、何だよこれ。」

グリーンも不思議そうにそんな言葉を漏らした。


「それはポケモン図鑑じゃ。

出会ったポケモンを瞬時に記録してくれる優れものじゃ。

2人には、図鑑の完成も頼みたい。」


ポケモン図鑑という名の機会をいじってみると、番号が表示されていたが

名前を表示するらしきところは全て、?????だった。


「まぁ、ゆっくり埋めていくが良い。

のんびり、マイペースに、じゃ。」


オーキド博士がそう言って、「さて、そろそろ出発じゃ。」の一言で俺とグリーンは、

研究所の外へ出た。


「グリーン。

さっき貰ったポケモンで勝負しないか?

どんなポケモンかも気になるからな。

どうだ?」


「当たり前だ。

ポケモンと言えばバトル。

全力で受けるぞ、そのバトル。

言っておくが、俺様が勝つからな?

手加減は無しだ。

行くぞ、レッド。」


「ああ!」

勢いよく返事をし、俺はモンスターボールからまだ見ぬ相棒を繰り出す。

「ぴっかー」

そんな鳴き声と共に出てきたのは、ピカチュウだった。


「お前のはピカチュウか。

だったら俺のは・・・!!」

グリーンも又、モンスターボールを投げた。

「ぶいー」

鳴き声はイーブイだった。



「先に攻撃させてもらうぞ、レッド!

イーブイ、たいあたりっ!」


「させるか!

ピカチュウ、でんきショック!」

ピカチュウは、イーブイの技を避けるとでんきショックをイーブイに食らわした。

イーブイは、その場に倒れるが直様態勢を整えた。


「やるなぁ、レッド。

でも、所詮は俺が勝つ・・・!!!

イーブイ、もう一度たいあたりだ!」

イーブイは、ピカチュウに技を食らわした。


「ピカチュウ!大丈夫かっ!!?」

目の前のピカチュウは、倒れ込んでいた。

どうやら、急所に当たってしまったらしい。


「まだ、いけるか!?」

そう言った俺にピカチュウは、ヨロヨロとしながらも必死に体を起こした。

「よし、良いぞピカチュウ!

イーブイにでんきショックだっ!!!」

でんきショックは、先程と同様、イーブイにあたりイーブイは倒れ、HPが0になり戦闘不能となった。


「く・・・・・・・・!!?

俺が、負けたのか・・・・・・・・・!?

そんな・・・・・・。

技の選びも、戦略も悪くなかった筈だ!!」

グリーンは、納得できない様子でイーブイの元に向いモンスターボールに入れた。


「グリーン。お前さんは、何故負けたのかを冷静に考えるのじゃ。

バトルは戦略だけではダメじゃ。

これからの旅で、考えるが良い。

そしてレッド。

良いバトルじゃった。見事じゃのう。

じゃが、これから先、ジムリーダーや強いトレーナーと戦うじゃろう。

もっともっと、強くならなくてはいかん。

頑張るのじゃよ。」

バトルを見ていたオーキド博士は俺たちにそう言って「気をつけて行くのじゃよ。」と付け加え、

研究所の中へ消えていった。


「グリーン。

バトル、楽しかったよ。

有難う。

お互い、ポケモンリーグへ向けて頑張ろうな。」

俺はそう言って、グリーンと別れ家に向かい、荷物の詰まったリュックを手に出た。

「レッド。行ってらっしゃい!」

母さんに、見送られ家を後にした。


タウンマップを片手に、俺はその日、トレーナーとしての第一歩を踏み出した。

アイツとの出会い

アイツに初めて会ったのは、まだ俺が幼い頃だった。

その日、じぃちゃんに連れられて俺はいつものように研究所に足を踏み入れた。

その刹那、赤い服に身を包むアイツ――レッドの姿を捉えた。


「おぉ、そうじゃ。

グリーン。彼はレッド君じゃ。この間、マサラに越してきたんじゃ。

グリーンと同い年じゃよ。仲良くするんじゃぞ。」


じぃちゃんの顔の皺が、もともとクシャクシャだったのに笑ったせいか

もっとクシャクシャに見えた。


暫くすると、レッドが俺に近付いてきて「ヨロシク!」なんて笑顔で言ってきた。

それと同時に手を伸ばされ、俺は握手しようと言ってるかのように思えた。

「あぁ、ヨロシク。」

伸ばされた手をギュッと握ると、レッドから更にギュッと返された。


――意外に、力あるんだな。

なんてことを心の中で思った。


家が隣のこともあって、レッドとはよく遊んでいた。

まだ、ポケモンを持っていなかったからバトルは出来なかったけど。

ある日、俺たちはグレンタウンに通ずる21ばんすいどうの近くで腰を下ろし、オレンジ色に静かに燃える

夕暮れを見ていた。

「グリーンってさ、夢、持ってる?」

夕暮れに顔を向けながら、レッドは俺に聞いてきた。


夢なんて、考えたことも無かった。

だけど、何となく浮かんだのは「頂点に立つこと」、それだけだった。

詰り、チャンピオンになりたい、そういう事なのか。


「俺さ、

マサラから旅立って、自分のポケモンと一緒に冒険して、仲良くなって、

たっくさんバトルして、強くなりたいんだ!」


俺が言葉を発する前に、レッドはそう言った。

その言葉に、俺は返すことなんて出来なかった。

ちらっと、レッドの横顔を覗うと

瞳が、キラキラと光り輝いていた。

何の汚れもなく、ただただ純粋で。限りなく透明で、綺麗だった。


「グリーンも、そうだよなっ?」

くるっと、レッドの顔が俺の方に向かうのが分かると、直ぐに顔を逸らした。

何故だか、見てはいけないような、そんな気になったんだ。


「そうだな・・・。」

そんな曖昧な返事しか返せなかった。


でも、その時、確かに感じたのは。

「俺は、レッドに勝ちたい」

幼いながらも俺は、レッドのバトルがどんなものなのかに思いを馳せていた。

その日から俺は、お前をライバルとして見るようになった。

その時までの俺は、まさかアイツが宣言通り強くなり、

果ては、最強と謳われるようになるなんて知る由も無かった。

赤物語

赤物語

言わずと知れたゲーム、初代ポケットモンスターの主人公 レッドの物語。 ※注意 ・ストーリーは完全オリジナルです。 ・著作権元は(c)ポケモンに属します。

  • 小説
  • 短編
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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