護りたい〜Neo Angelique〜

護りたい〜Neo Angelique〜

レインはアップルパイが好きということで、本作では勝手にエレンフリートを甘党設定にしています!!メレは天使というよりアイドルなんだけどもこの世界にアイドルという概念ないだろうな、と…。

財団の天使

えんじ色の上着を纏った男女は、ファリアン近郊の森に来ていた。

少年はロングコート、少女は燕尾のジャケットになっており、どちらもアーティファクト財団の意匠があしらわれている。

「待ちなさーいっ、タナトス!このあたしが相手だよ!喜んでよね★」

少女は腰の鞘から二振りの短剣を抜き、自信に満ちた紅い瞳で敵を見上げた。

肩の上でふわふわと揺れるピンク色の髪は、雨のあとの夕焼けのように青みがかっている。

「このメレちゃんに会ったのが──」

メレと名乗った少女は、ぐっ、と低く構えて踏み込んだ。

「──運の尽きだねっ!」

流れるようにタナトスの足元を切り刻む。

するとタナトスは光の粒子――オーブを残して消えてしまった。

「…エレン、大丈夫だったぁ?」

短剣を鞘に収め、サラサラのサーモンピンクの髪を持つ、眼鏡の少年を振り返った。

「エレンフリート?」

はちみつ色の瞳を覗き込むと、彼はハッと我に返った。

「あ…ええ。──って!何です、その呼び方はっ!」

「えー?エレンって呼んだら、エレンフリートですって言うくせにぃ」

「貴女が言うと違和感で気持ち悪いんですよ!…エレンで構いません」

彼は表情を隠すように、右手の中指で眼鏡のブリッジを押し上げた。

「で、何考えてたの?」

「…私としたことが、昔のことを思い出していたようですね」

そっぽを向くエレンフリート。その横顔で、何を思い出したのかは予想できた。

「…他人と――レイン先輩と自分を比べても意味ないよ」

「比べてなどいませんよ。…私は私です。私の頭脳でなければ、レイン博士を超えることはできませんからね」

図星だったようだが、開き直って自信満々に腕を組んだ。

「それ比べてんじゃん」

少し呆れた言い方をしてしまったせいで、自尊心の高い彼がムッとしてしまった。

「…そろそろ戻りますよ」

「ほぇ?何々?説明せずに連れ出しといて、ただのタナトス退治だったわけぇ?」

唇を尖らせながら、踵を返したエレンフリートの後を追う。

「ジャスパードールのコピー──ジェットの研究の一環です」

「ふーん。あたしの華麗な勝利、ちゃんと見てたぁ?」

「見てましたよ。身近に浄化能力者がいると、何かと便利ですね」

「便利って…これでも女性初の浄化能力者なんですけど〜!」

「“唯一の”ではなくなってしまいましたね」

先日観測されたオーロラは、“女王の卵”が誕生したという証なのだから。

「い、いいのっ!あたしは“女王”なんかより“財団の天使”のほうが…」

「では、その財団に帰りますよ。天使さん?」

「…結局、あたしは実験材料か」

思わず小さなため息がこぼれた。

「あー、退屈ぅ。研究ってめんどくさぁい。メレちゃん飽きちゃった~」

ファリアンにあるアーティファクト財団本部内エレンフリートの執務室にて、うだうだとテンポ良く文句を連ねるメレ。

「…まったく、科学者らしからぬ言葉ですね。ヨルゴ理事も言っていましたが――」

「“飽き性は科学者に向いてない”なんて自分でもわかってるよぅ!でもあたしはエレンの秘書――もとい、補佐役だもん♡」

「なぜ私なんですか…」

「そりゃあエレンがゼネラルマネージャーだから期待されてるんじゃない?あたしじゃなくてヨルゴ理事に聞いてよ~!っていうかあたし達、学生時代からの付き合いなんだし別にいいじゃん!」

彼は諦めたように、視線を手元に戻す。

(な、なんか騙してるみたいでツラい…。嘘は言ってないけどっ)

〜回想〜

“エレンフリートはまだ未熟だ。メレ、お前が補佐役として支え、そして気になる言動があれば私に逐一報告するように”

“…監視しろってことですか。支えになれって言いながら、そんな裏切るようなこと…矛盾してますよぅ”

“できないか?ならば、財団で匿ってやることはできん。初の浄化能力者として好奇の目にさらされるがいい”

〜現在〜

(ここにいられなくなったら、あたしの居場所は…)

メレは良心と葛藤していた。

「…で?ジェットはいつ目覚めるの?」

「もう、まもなくです」

カプセルに入ったジャスパードールを見下ろす。

「それまではあたしが、ちゃーんとエレンを護ってあげる☆」

「…当然です。仕事は全うしていただきたい」

コンコン、とノックが響く。

「どうぞ」

「失礼いたします」

名前も知らない若い男性研究員は、メレの存在に気付いて明らかに動揺した。

「ほっ、星の舟の件です!女王の卵がこちらに向かっており、あと10分ほどで到着するとのこと」

「そうですか。わかりました」

一礼してドアを閉めるまで、エレンフリートは彼に冷たい視線を向けていた。

「そういえば、タナトス退治を依頼したんだっけ?」

「…ええ。表向きは、ですが。ようやく牽引したというのに、タナトスが潜んでいるとは…やれやれ」

彼は眼鏡を外し、目頭をギュッと押さえる。

「エレンは女王の卵の到着を待つんでしょ?あたし、先に向こうに行っとくね!」

ぼやけた視界に、部屋を出ていくメレを映した。

「――ようこそ」

二つの人影が財団本部に足を踏み入れた。

入って正面の大きな階段、その一番上でエレンフリートは待ち受けていた。

「レイン博士、まさか貴方が来てくださるとは」

嫌味っぽい歓迎の言葉を並べて、階段を下りていく。

「…博士…?」

水色の髪の可憐な少女が、不思議そうにレインを見上げた。

「その呼び方はよせ、エレン」

「そちらこそ、その呼び方はやめていただきたいものだ」

ムッとするレインは放置して、首を傾げている少女の方を向く。

「遠路はるばるお越しくださって感謝します。私は今回のプロジェクトの責任者、エレンフリートです」

「あっ、私はアンジェリ…」

俺達は、とレインの声が自己紹介を遮った。

「タナトスを退治しに来たんだ。さっさと案内してくれ」

言うや否や、アンジェリークを置いて踵を返す。

「ずいぶんご機嫌がお悪いようだ。今回の依頼が、我らアーティファクト財団からだからですか?」

「…さっさと終わらせて帰りたいだけだ」

「そうですか。では手早くお願いします」

スタスタと歩くレインを、部下を連れて早歩きで追い抜く。

「あぁ、消すのはタナトスだけにしてください」

背後で息を飲むのがわかった。

「前みたいなことをされては困りますからね、レイン博士」

オートモービルの運転を部下に任せ、エレンフリートは助手席、アンジェリークとレインは後部座席に乗せて港へ走る。

「…財団には、浄化能力者がいたはずだが。メレはどうした?」

「彼女なら先に港に行くと言っていましたよ。オートモービルは四人乗りですからね」

「そうじゃない。あいつには倒せなかったのか?」

「彼女は、ここしばらく体調が優れません」

前を向いたまま、咄嗟に嘘をついた。

「一部は倒しましたが、思ったより数が多かった。…何より、女王の卵なら本当の意味で浄化できるでしょう?」

「そうよ、レイン。私なら大丈夫だから」

「…」

黙り込んだレインを、心の中で嘲笑う。

オートモービルが止まった。港に着いたようだ。

「着きましたよ」

オートモービルから降りた三人は、大きな舟を見上げた。

「これが…?!」

「海底から引き揚げられたアーティファクト、星の舟…!!」

これにはレインも興味津々である。

「エレーン!」

「メレ、準備ぐはっ?!」

エレンフリートに気付いたメレは、ほぼ体当たりのようにして腕に抱きついた。

港に集結していたメレファンクラブがどよめく。

「はわわ!失礼しました、GM♪」

「ジーエム…?」

「…ゼネラルマネージャーの略だ」

「もしかして貴女が、もう一人の女性浄化能力者?」

「あ、ええ。アンジェリークです。じゃあ、貴女がメレさんね」

「あれれ、メレちゃんってば有名人?それともエレンがあたしのことを話したとか?照れちゃうな〜♡」

車中で名前が出ただけ、とは誰も言えず。

「レイン先輩、ご無沙汰してますぅ♪先輩が来るなんて思いませんでしたぁ」

「白々しい…。俺達が行くことは伝えてあったはずだろ。…というか、どう見ても、元気そうだな」

「へっ?」

「レイン博士」

首を傾げるメレを庇うように、ずいっと前に出たエレンフリート。

「いけませんね、女性の強がりを見抜けないようでは」

「…なるほどな」

「申し訳ありませんが、メレを休ませたいので…。タナトス退治、お願いしますよ」

「あ、はい。お大事に」

星の舟へと続く階段を、警戒しながら上っていく二人。

「…あとで説明してよね」

「わかっています」

側に控えていた部下に、計測に向かうようこっそりと合図を送った。

「一度、財団本部に戻りますよ」

「はーい」

「計測は順調。――完了したようです」

財団本部の屋上にて、計測データを受信していた。

「そうですか。…では、タナトス退治もそろそろ終わる頃でしょう」

「じゃあ、また港に行かなきゃいけないんだね。って、何の騒ぎ?」

小さな双眼鏡を取り出し、港の様子を観察する。

「はぅあっ!港にタナトスが!っていうか、もしかしなくても星の舟から出てきたっぽいよぅ!」

「おやおや、失敗ですか?まぁ、彼等が何とかするでしょう」

「自分達のミスだしね~。あーぁ、みんな襲われちゃって」

死に損ないのタナトスがこちらに向かってくるのが見えた。

「させないよっ!」

抜刀する勢いのまま、真っ二つに斬り裂いた。

(エレン、全く避けなかったけど…信頼されてるってこと、かなぁ?)

闇に吸われるタナトスを見届けて、上司の無事を確認する。

「ありがとうございます」

「…エレンなら、いくらでも護るよ♪さっ、港に行こ!」

「船内の掃除は済んだぞ」

「ご苦労様でした」

星の舟の甲板にて、レインの報告を聞くエレンフリートとメレ。

(…そういえばこの人、どうやって戦うんだろ?武器は持ってなさそうだけど)

メレは報告もろくに聞かずにアンジェリークをじろじろと見ていた。

(でも無傷だし、まさか先輩は女王の卵を護りながらタナトスを倒してるわけ…?)

「あの、メレさん」

ハッと我に返ると、アンジェリークと目が合った。

「な、何ですかぁ?」

「出歩いても平気なんですか?」

思わず嫌な顔をしたメレを、気遣わしげに見つめる。

「え、あ…歩くだけなら平気ですぅ。戦うほどの激しい運動がきついだけで…」

どうやら体調不良ということになっているらしいので、話を合わせておく。

「――浄化の邪魔だっただけだ。じゃあな、エレン」

気付けば報告は終わっていて、レインが不機嫌そうに階段に向かうところだった。

「レイン博士。貴方のお兄様は大変残念がっておられましたよ。…今更、顔向けなどできはしないでしょうけど」

アンジェリークはペコッとお辞儀して、慌てて彼を追った。

「では、お気をつけて」

「…女王の卵アンジェリーク、だって。可愛かったね?」

「そんなことは関係ありません」

「そう言うと思った。ていうかぁ、浄化能力者のくせに、武器も持たずに護られてるんだねー」

「そのようですね。しかもお嬢様だ。貴女の嫌いなタイプでしょう」

よく知ってるなぁ、と驚きつつ頷く。

「とりあえず、今日のミッション成功だね♪」

「データを解析して、ヨルゴ理事に報告しなくては」

キョロキョロと何かを探すエレンに、気付いたメレが口を開く。

「オートモービルは準備万端!いつでも出せます★」

「そうですか。では、財団本部へ戻りましょう」

「了解!」

「──GM、こんな感じでどうですかぁ?」

簡単な解析が終わり、プロジェクトの研究室から少し離れたエレンフリートの執務室で資料をまとめていた。

「…グラフが見やすくていいと思います。ありがとうございます」

「エレンに褒められちゃった★」

「仕事モードは一瞬でしたね…今に始まったことではありませんが」

どちらが彼女の素なのか、エレンフリートは時々わからなくなる。

普段のテンションは場を盛り上げようと気遣っているのか、もしくはデスクワークのときの切り替えが上手なのか。

「ほぇ?常にキリッとしてた方がいい?」

「…調子が狂います。――詳細な分析結果は明日まで待つとして、とりあえずヨルゴ理事の所へ行ってきます」

「あ、あたしも途中まで一緒に行くよ!ジェットの様子を見に行くから」

「そうですか。ジェットは最終段階にきていると思いますよ」

コンコン、とエレンフリートのノックを聞きながら、メレはヨルゴの部屋の前を通りすぎた。

「おっと…じゃ、どーも!」

財団では聞き慣れない声と、ヨルゴに向けて失礼な軽い口調。

振り向けば、エレンフリートと入れ替わりで出てきた少年がいた。

「へへっ♪──おっ?あんた、どっかで…あぁ!プロジェクトリーダーの付き人だろ?財団にも可愛い子がいるんだなぁって思ったから覚えてるぜ」

メレは軽い男とキザな男が嫌いだ。

(付き人って…)

「…こんな所にいるなんて何者ですかぁ?」

「俺?情報屋☆」

(ますます怪しいんですけど…)

「そんなに警戒すんなよ~。お茶でもどう?その腰の剣って護身用?俺にも教えてよ」

紫髪の情報屋がウインクしてみせたが、メレには効かなかった。

「取材ならお断りですからね」

「お前って取材されるような研究してるのかよ?ま、とりあえずゆっくり話しながら…」

「無事に帰りたければ、あたしとは関わらないことですねー」

「ふーん、脅してるつもり?初対面なのに全力でフラれたの初めてなんだけど。って、おーい?」

無視してスタスタと歩く。

(情報屋なんて関わらないのが一番!あたしが浄化能力者とは知らないみたいだけど…)

追いかけてこないのを確認し、サッと研究室に入った。

(でもヨルゴ理事が許可した、ってことだよね?)

「お疲れ様です。…メレさん?どうされました?」

ジャスパードールプロジェクトの研究員が数名、こちらを見ていた。

「えっ、あー、お疲れ様ですぅ☆なんか、自称情報屋がうろついてて…」

「情報屋?大丈夫でしたか?」

「うん、チャラい男だった…じゃなくて、ジェットの様子は?」

「安定しています。あとは最終調整のみです」

「そっか。…あたしはちょっと心配なんだけど、エレンなら大丈夫だよね」

「私が何か?」

ガチャリと入ってきたプロジェクトリーダーは、黒い服を脇に抱えていた。

「あ、おかえりなさい。あとはGMによる最終調整だけだそうでーす♪」

「そうですか。――ジェットの制服です」

メレがその黒い制服を預かると、彼は黙々と最終調整に入った。

(ヨルゴ理事ってば、意外とジェットの目覚めを楽しみにしてたのかな?)

ヨルゴが他の研究員とは違う制服を作ったのは、自身の弟であるレイン、ゼネラルマネージャーのエレンフリート、GM補佐のメレ、そしてこのジャスパードールのコピー──ジェットだけだ。

「──目覚めなさい、ジェット」

エレンフリートの呼びかけで、ジェットは目を開けた。それは決して機械的ではないが、違和感のある動作だった。

プロジェクトメンバーが息を呑むのが伝わってくる。

「私が貴方の主、エレンフリートです」

カプセルが開いてジェットが上半身を起こすと、メレは無意識に一歩後ずさった。

「オリジナルには心がありますが、あれは不要です。感情を消しなさい」

エレンフリートは思い出したように部下に指示した。

「オリジナルのジャスパードールは不良品ですから。…メレ、制服を」

「あ、はーい」

預かっていた黒ずくめの制服をエレンフリート経由でジェットに渡す。

「ジェットの制服だよ。お仕事のときはそれを着てね」

「…普通の新人のように接しないでください。彼は人間ですらありませんから」

「あ、そっか…。でも、目のやり場に困るから、とりあえず着てほしいかな…」

ジェットは何も着せられていなかった。人間でないとはいえ、それはどう見ても男性の身体である。

「…眠っているときは普通に見ていたじゃないですか」

「それは、なんていうか、研究対象として?よくできてるなーって見てただけだよぅ!」

「…まぁ、いいでしょう。ジェット、カプセルから出てきてください」

メレが慌てて背を向け、ドキドキしながら衣擦れの音に耳を澄ます。

「これに足を通してください。ベルトを通して…こうやって。次にこれを上から着て、その上にコートを羽織る」

「…こうか?」

「そうです。――メレ、もういいですよ」

ホッとして振り返る。

「あ、そうだ!これ似合うかなーと思ってあたしが用意したんだけど」

「サングラスですか」

「顔も隠せるし、かっこいいでしょ?――ジェット、少しかがんで?」

膝を曲げたジェットにサングラスをかける。

「なんだ?視界が暗くなったぞ」

「うん、それをかけてると太陽があんまり眩しくないし、戦うときに少し有利かもだよ☆…えっ、もしかして視界が暗いと困る?!仕事に支障をきたすとか?」

「大丈夫でしょう。むしろ、顔を隠せるのは好都合かもしれません」

黒髪に黒いコートに黒いサングラス、黒ずくめの彼は少し怖い印象を与える。

「――彼女はメレ。ゼネラルマネージャーである私の助手です」

「GM補佐兼恋人のメレだよ♪」

研究室の空気を和らげようと冗談を言ったが、周りの研究員は信じたようで反応は薄い。

「違いますっ」

「きゃわーん♪GMってばそんなに照れなくてもいいのに…♡」

「メレはエレンフリートの補佐兼恋人――了解した。データベースに追加」

「だから、違う…!」

「ジェットのデータベースって、どのくらいの情報量が入ってるの?」

エレンフリートは眼鏡を押し上げ、気を取り直すように咳払いをした。

「日常生活に困らない程度の常識や人物情報、アルカディアの地図もインプットされています。ひとまず、これからの任務に必要な知識は与えました」

「これからの任務?エレンの護衛?」

「女王の卵のデータ収集です。可能であればジャスパードールオリジナルの回収も」

「了解した」

主の言葉を反芻して、自分の中で任務を設定したようだ。

「オリジナルって、アルカディア中を旅しながらタナトス退治してるんでしょ?」

「ええ。ですが、陽だまり邸に移動しているとの情報が上がってきました」

「えっ!それが本当なら、一気に片付くじゃーん!」

今まで何度もオリジナルに逃げられているのだから、そう簡単にはいかないだろうが。

「…ヨルゴ理事に、会わせた方がいいでしょうね」

(普通の新人みたいに扱ってるのはエレンの方じゃん)

「それとも成果が出てから報告するべきか…」

(あぁ、違った。エレンにとって研究結果は我が子のようなもの…だからジェットのことはやっぱり人だと思ってないんだね)

エレンフリートはジェットが目覚めたことに少なからず興奮しているようだった。

だが対照的に、メレはどこか冷めていた。

「報告は早い方がいいんじゃない?ヨルゴ理事も楽しみにしてたし」

「そ、そうですね。ではメレも来てください」

「はーい♪」

(あたしも行く必要ある?…もしジェットが暴走したら力ずくで止めろってこと?――違う違う、GM補佐として当然のことだもん)

漆黒のジャスパードール

「ほぅ…ジャスパードールのコピーか。――エレンフリート隊に加わって活動するように」

ジェットの起動成功を報告すると、ヨルゴはまじまじとジェットを見た。

(“エレンフリート隊”って聞いたことないんですけど?!)

「俺を研究していたプロジェクトメンバーのことか?」

空気を気にせず堂々と尋ねるジェットを、ナイス!と心の中で称賛した。

「いや、ジャスパードールプロジェクトではない。エレンフリートとメレにジェットを加えた3人のことだ」

「なるほど☆3人になるとまとめた呼び名があった方がいいですもんね!ね、エレン隊長♪」

「メレ、からかわないでください。――早速、女王の卵のデータ収集とオリジナルの回収に向かわせます」

「そうか。期待している」

ヨルゴは相変わらず淡々としていて、その表情から期待はあまり感じない。

「つきましては、ジェットにオートモービルの使用許可をいただきたいのですが」

「…移動距離やオリジナル回収を考えると、それがいいだろうが…運転はできるのか?」

「運転マニュアルは全て記憶した」

「ジェットは完璧なアーティファクトです。ご心配なく」

先に答えたジェットに少し慌てて補足した。エレンフリートの感情の細かな起伏はメレにしかわからないだろうが。

「…そうか。わかった、オートモービルの使用を許可する」

「ありがとうございます。私は先日計測したメレのデータを元にジンクス計画を進めます」

「あたしも手伝いますね、GM♪」

「貴女は何かあったときのために、今回はジェットと一緒に行ってください」

思いがけないエレンフリートの指示に、思わずヨルゴの顔を一瞥した。

「えっ?でもぉ…ジェットに何かあったとき、あたしじゃ修復できませんよぅ」

「ある程度ならできるはずです。それに、万が一に備えて私とメレ以外の研究員には従わせませんから」

監視役としては困る状況だが、伝わる信頼に思わず頬が緩んだ。

「えへへ…あ、でもでもっ!あたしとジェットがいない間、もしファリアンにタナトスが現れたら…」

「――そのときは銀樹騎士か女王の卵を呼べばいい。元々、タナトス退治はお前の優先任務ではない」

「ヨルゴ理事…。わかりました」

じっとヨルゴの目を見ると、彼は僅かに頷いた。

(本当にいいってこと?エレンと離れるなんて久しぶりだな…)

「――メレ」

理事室を出ると、エレンフリートに名前を呼ばれた。

「ん?」

「ジェットと一緒に行動するのはそんなに嫌ですか?」

「…はい?」

「先程、必死に言い訳していたように感じましたが」

あっ、と思い当たって言い淀んだ。

(やっぱり必死すぎて怪しまれたよねぇ…。だって長時間エレンの側を離れたら本来の役目が…って焦っちゃった)

彼はいつものように眉根を寄せてこちらを見ている。

「そりゃあ…エレンと離れたくないんだもんっ」

「…言いたくないのなら、くだらないことを言う必要はありませんよ。さっさと出発の準備をしてください」

「えぇっ?!エレンひどーい!本心なのにー!」

可愛らしく頬を膨らませたが、彼はため息をついた。

「むぅ…じゃあ、ジェットはオートモービルを表に持ってきてくれる?あたしもすぐに行くから」

「俺の主はエレンフリートだ。主の命令のみ実行する」

「あ、そうだよね。命令じゃなくてお願いだったんだけど…ごめん」

「…ジェット、GM補佐であるメレの“お願い”にも従ってください。ただし、私の命令を優先すること。いいですね?」

「了解した」

そう言ってジェットは走り去った。

「あっ、ちょっ?!そんなに急がなくていいよー!!」

「…貴女も早く行ってください」

「…ありがと。でも良かったの?」

「別に…貴女はただ単に、ジェットを後輩扱いしているだけだと思いましたので。言うことを聞かないと困るでしょう」

「えへへ♡――じゃあ、行ってきます!ちゃんと食事と睡眠はとってね!」

「私は貴女の後輩ではありませんよ。…お気をつけて」

「ふぅ…着いたねぇ」

少し離れた所にオートモービルを隠し、陽だまり邸が見える距離まで森の中を移動してきた。

「お前は足手まといだ」

「わかってるよぅ…。仕方ないじゃん、エレンの指示なんだから。ヨルゴ理事だって…」

木の上から陽だまり邸を見据え、小さくため息をついた。

「木の上を移動するジェットを見失わないようについて行けるなんて、人間の女の子にしてはスゴいって自負してるんだけどね〜」

「そうか。つまりお前を基準にするべきではないということか」

「改めて言われると変人みたいでフクザツだけど…。ま、そーかな」

サングラスの奥でジェットの目がチカチカと赤く光る。

「対象は発見。動きがあるまで待機する」

「うっ…そっか…。ジェットは何も食べなくても平気なんだっけ」

「ああ。狩りならできる」

森へ目をやるジェットに、メレは首を振った。

「処理が大変だし、可哀想で食べる気失せるもん」

「木の実やキノコがか」

「鳥とか兎じゃないんかいっ!それ狩りって言う…?」

「肉がいいのか」

「ううん!キノコ大好きだよ?!」

「…そうか。了解した。お前の場合は毒キノコを集める、と推測される」

「そんなイメージまで設定されたわけ…?まぁ、確かにわかんないけどぉ」

2人はシュタッと地面に下りた。

「じゃああたしは、薪でも拾ってこよっかなー」

「薪があっても火がないぞ」

さすがのジャスパードールも、魔法使いではないらしい。

「火おこしくらいできるっちゅーの!」

「そうか。…何かあれば知らせろ」

「うんっ!そっちこそ☆」

可愛くガッツポーズを決めて、暗い森の中に足を踏み入れた。

「…月明かりだけじゃ、足元見えないよぅ」

もちろん相槌などはなく、自分の声すらも森に吸い込まれる。

「こんなことなら、陽だまり邸に泊めてもらいたーい」

寂しさを紛らわすように不満をこぼす。

「…夜は冷えるな〜。不気味さが増すっていうか…」

微かに、ガサッと葉擦れの音が聞こえた。

「はぅあっ!ななな何っ?!」

短剣の柄に手をかけ、暗闇を見つめる。

すると、黒い物体が咆哮しながら飛び出してきた。

「ぎゃあぁ?!」

咄嗟に抜刀した。そして手応えがあったことに内心ホッとした。

「なんだ…タナトスかぁ…」

大振りの攻撃を避けてひょいっと跳び上がり、近くの枝に掴まった。

「暗いし気持ち悪いし足元不安定で戦いにくいしー!」

くるんと勢いをつけてタナトスの頭上に飛び下りた。

短剣を突き立てられたタナトスは、断末魔を上げて闇の空間に消え去った。

「…さっすがメレちゃん♪」

ふぅ、と息をつき、短剣を鞘に収めた。

「なんか、1人じゃ元気出ないなぁ。早く薪集めちゃおっ」

ジャケットから広がった長い裾の汚れを払った。

「…こんなもん?――ジェットー!」

不意に星空に向かって叫ぶ。

「――何だ」

(タナトスが出現しても来なかったくせに…)

目の前に降り立ったジャスパードールを軽く睨む。

「…薪ってこのくらいで足りるかなぁ?」

「十分だと推測される。俺の方も完璧だ」

「ありがと♪」

メレは近くの石を持ち上げ、短剣を抜いてみせた。

「よぉし…唸れ短剣っ!」

強く擦りつけ、枯れ草に火花を散らす。それを数回くり返し、思ったよりも早く着火した。

「ほらね!本で読んだことがあるんだぁ♪」

「お前が本を読むのか」

「馬鹿にしすぎなんですけど…!」

慎重に薪へと火種を移す。

「よかった〜。…ジェットは、寒さも感じないの?」

「ああ。凍えて動きが鈍くなることはある」

「じゃあ…痛みは?」

ちらりとジェットの顔を盗み見る。

目覚めてからずっと表情は変わらない。

「お前達の言う痛みとは違うだろうが、不具合はある」

「そっか…そういうとき、あたしじゃやっぱり直せないんだろーなぁ」

少しは理解できるつもりだが、実際に修理することは難しいだろう。

「2人のためにも、勉強しなきゃな〜」

ふたり?とジェットが聞き返した。

「ん?そうだよ?エレンの負担を減らしたいし、ジェットの苦しみを取り除きたいから」

「俺の苦しみ…」

「もちろん、心身共にね!…なーんて言ったら、エレンに怒られちゃうかも」

感情は邪魔だと言っていたのを思い出す。

「お前の苦しみは誰が取り除く?」

「えっ?それは…エレンだったら嬉しいな〜!えへ♡」

「エレンフリートはいないぞ」

「え、今?今だったらジェットかなぁ?バトルパートナーになるかもだし」

すると、いきなり左手を掴まれた。

「ジェット?」

「怪我をしている」

「怪我?どこに…あ、ホントだ」

手のひらからほんの少し出血しているが、痛みはほぼない。

「素手で枝握ったりしてたからねぇ…。でも大したことないから、舐めときゃ治るよ!」

笑ってみせると、ジェットは傷口に口をつけた。

「えっ、ちょ…!汚いから!」

口を離すと、吸った血を吐き捨てた。

「消毒だ。お前に何かあれば、エレンフリートに壊されかねない」

「いっ、今のはいいってこと…⁉」

「何の話だ」

「イエ、アリガトウゴザイマス…」

(ジェットの優しさは、エレンの最終調整の影響なの…?それともジェットの本来の…)

「――メレ、いつまで寝ているつもりだ」

「…んー、おはよー…」

頭上から降ってきた声が少年のそれではなく、無感情の低音だったことで、一気に意識が浮上した。

「だぁってぇ、いつタナトスに襲われるかわかんないし寝心地悪いし、熟睡できなかったんだもーん」

足に掛けていた上着を取り、伸びをする。

「…朝食は必要か?」

「うん!腹が減っては戦ができぬ、ってね」

ジェットはずっと木の上で見張っていたのだろうか。

「――女王の卵が出てきた」

「え、朝ごはん…」

「歩きながら野草でも食べろ。俺はタナトスの出現する森へ誘い込む」

「…野草もキノコもわかんないってば…」

はためくコートを見送って、作戦の予定されている地点へと向かう。

「食べられないことないけど…さっ!お腹の足しにはならないかなぁ…。よっ!と…」

木の上をひょいひょいと身軽に移動して、小鳥と一緒に木の実を食べる。

(あたしってば、森の妖精みたいじゃない?これが森ガールってやつ?)

そんなことを考えながら、目的地に到着した。

「エルヴィンなの…?!」

震える声が聞こえた。女王の卵が近くにいる。

「っ!エルヴィン…!じゃあ…?!」

そっと見下ろすと、そこには銀髪の少女アンジェリークと、美しい銀色の猫がいた。

(エルヴィンって、飼い猫の名前?)

そして怯える彼女達の視線の先には、予測通り出現したタナトスがいる。

(…浄化能力者としては、つい助けそうになっちゃうけど。ここは我慢、我慢)

アンジェリークは意識を集中させ、浄化の光を放った。タナトスを完全に浄化できるというその光は、今は全く歯が立たない。

ふと気配を感じて近くの木を見てみれば、同じように身を潜めた黒ずくめの男がいた。

(ジェット…力の計測中かなぁ)

追い詰められたアンジェリークに、タナトスが襲いかかる。――その時。

「はぁぁっ!!」

「アンジェリーク!!」

仲間達が駆けつけた。初見の男が一人いるが、新しい仲間だろうか。

オーブハンターに打ちのめされたタナトスは、毛を逆立たせて威嚇する小さなエルヴィンに襲いかかった。

「エルヴィンっ!逃げて…!!」

「ちっ…!」

レインが銃を向け、一発、二発と撃ち込むもまだ倒れない。

(何やってるんですかぁレイン先輩っ!)

エルヴィンはメレがいる木の下。自分なら間に合う。

(エレン、ごめん…!猫に罪はない!)

木から飛び下り、エルヴィンとタナトスの間に着地した。

「あいつ…?!」

素早く投げた右手の短剣は命中し、森中に悲鳴が響く。

「――アンジェリーク、浄化を!」

あっけにとられていたアンジェリークは、レインの呼びかけでハッと祈りの姿勢をとった。

「あっ、はい!浄化の光よ…!」

タナトスはオーブとなって天へと消え、そこにはメレの短剣だけがカランと落ちた。

「助けていただき、ありがとうございました。マドモアゼル」

「…あなた達を助けるつもりはなかったんですけどぉ」

メレは軽薄な男とキザな男が苦手である。

背後にいたふわふわのエルヴィンを抱え、アンジェリークに歩み寄る。

「…エルヴィンを、助けてくれてありがとう、メレさん」

「…飼い主なら、ちゃんと守ってあげないと。貴女は浄化能力者なんだし」

「ええ…。ごめんなさい、エルヴィン」

受け取った愛猫を大事そうに抱きしめる。メレは小さくため息をつき、短剣を拾い上げた。

「ねぇ、レイン。知り合いかい?」

「…ああ。財団の、浄化能力者だ」

(わぁぁ!?ジェットとそっくり!てことはオリジナル…!で、でも…予定が狂っちゃったよぅ!あたしの力で抑え込めるわけないし…)

ジェイドはさり気なく後ろに下がった。代わりに新聞記者らしき男が、興奮気味に前のめりになった。

「もう1人の、女の子の浄化能力者…!今まで財団に隠されていたけど、ようやくお目にかかれた…!」

(いや、あんた誰?!いやいや面倒くさいから一旦スルーして、とりあえずジェットは…?)

助け舟を求めようとしたが、不機嫌なレインに阻まれた。

「…どうしてこんな所にいる?メレ」

「えっ?!えっとぉ…先輩に会いたいなーって思ってたら、まるで導かれるよーに!これって運命かも♡」

キャッ、とぶりっ子ポーズをしてみせる。

「おや。レイン君、モテモテですねぇ」

「明らかに嘘だってわかるだろ!」

「――このチャンスは逃せない。アンジェリーク、メレ。君達を取材させてほしい」

新聞記者が我慢できずに取材を申し込んできたが、メレは当然応じる気などない。

「ていうか誰ですかぁ?さっきから当たり前のよーにいますけどぉ」

「申し遅れたね。僕はベルナール。ウォードン・タイムズの記者をしている」

「あたしに取材したいなら、ヨルゴ理事に許可とってくださぁい。そういう発表があったと思うんですけど?」

いい加減離れようと思い、踵を返す。

「待て、メレ」

パシッとレインに腕を掴まれた。

それを見てなのか偶然なのか、計測を終えたジェットが現れた。

「なんだ…?」

「…君は…!」

動揺している隙にレインの手を振り払い、女王の卵一行から距離をとる。

「ジェット、オリジナルの回収を!」

「了解した」

躊躇するジェイドに代わり、ヒュウガが槍を構えて走り出した。

「ぃやぁっ!」

しかしジェットは易々と槍を払いのけ、ヒュウガを殴り飛ばす。

「ぐっ…!!」

「ヒュウガさんっ!」

駆け寄ろうとするアンジェリークを、ベルナールが慌てて押さえる。

「接近戦じゃ不利だ!任せろ!」

そう言ったレインの銃撃を、ジェットはひらりとかわし、一気に間合いを詰めた。

「速い…?!」

銃は蹴り飛ばされ、レインは来たる衝撃に構えた。

「油断は禁物ですよ」

そう言ったニクスの鞭がジェットの腕を捉え、レインを殴ることはできなかった。

(ジェットとはまだコンビプレーできる自信ないし、見守っとこ)

ジェットはニクスとの間合いを一瞬で詰め、その長い脚で華麗な蹴りをお見舞いした。

「かはっ…?!」

「ニクスさんっ!」

「ダメだ!」

泣きそうなアンジェリークと目が合った。どうしてこんな酷いことをするんだ、とでも言いたげだ。

(大人しくしててくれれば傷つけないも〜ん)

ジェイドのトンファーとジェットの拳が激しくぶつかった。

「君は…!君は!」

「お前は」

まるで合わせ鏡だ。

「――不良品だ」

「っ…!」

ジェイドが僅かに動揺した瞬間、鳩尾に重い拳が入った。

(不良品、ね…。なんだかアーティファクトには見えないなぁ。感情があるから?でもそれって不良品なの…?)

「みんなっ!!」

悲鳴にも似た叫び声で、メレは我に返った。

「…ジェットに勝てるわけないじゃないですかぁ〜!ってことでぇ、任務を遂行してね♪」

「了解した。これから、オリジナルの回収に移る」

(淡々と命令に従うジェットのほうが、便利だし都合がいいってことか…)

みんなを庇おうと飛び出すアンジェリークを、ベルナールが必死に引き戻す。

「お嬢さんを危険な目に遭わせるわけにはいかない!」

「でも、みんなが…!」

メレとジェットも黙って成り行きを見守っている。この2人も排除すべきかどうか、様子を見ているのだ。

だが、アンジェリークは小刻みに震えていた。

「…本当は怖いんじゃないのかい?本当は戦いたくない。そうだろう?」

ベルナールの言葉に、そりゃそうだ、とメレは思った。

(ついこの間まで普通の女の子だったんだろうし…)

「――違います」

「違う?…強がってるの?」

メレはつい口を出してしまった。

「強がり、かもしれません。確かに怖いけど、みんなが守ってくれます」

「…みんなが、守ってくれる?何それ?だからって、頼りきるつもりですかぁ?」

彼女はギュッと両手を握りしめ、震えを押さえ込もうとしている。

「…私1人では、何もできません。でも、みんながいてくれるから…!」

数歩前に出たアンジェリークを見て、四人の仲間が一斉に名前を呼んだ。

「そんなみんなのために…!私もみんなを…護りたい!」

彼女の祈りに応えるように、傷ついた仲間達を青白い光が包み込む。

「これは…?!」

「力がみなぎる…!」

(癒やしの光…ってこと?ここまでくると、さっすが女王の卵って感じ…)

先ほどまで悔しそうに倒れていたのが嘘のように、四人はジェットに再戦を挑んだ。

ヒュウガとレインの攻撃を避けて隙ができたジェットの腕を、ニクスの鞭が捉える。

そこに背後からジェイドの攻撃が命中した。

敵ながら見事な連携だと思った。

(力は互角なのかな?1対1じゃないからわかんないな…)

殴り飛ばされたジェットは立ち上がり、メレの横まで下がった。

「くっ…!オリジナルの回収は不可能。ただちに撤退する」

オリジナルであるジャスパードールの攻撃をマトモに受けたのは、相当なダメージだったのだろう。

「…うん、了解。早く帰ってエレンに報告しなきゃね♪」

「メレ、待て!何の報告だ?!」

レインが再びメレを呼び止める。

「部外者には関係ありませ〜ん。気になるなら財団本部までお越しのうえ、ヨルゴ理事かエレンに聞いてみたらどーですかぁ?」

「…それは…」

レインの動揺を見て、意地悪な笑みを浮かべる。

「…エレンは、仕えるに相応しい人物か?少なくとも今のあいつは危険だ!」

「…っ!」

握りしめた手に爪が食い込む。

「誰のせいで…!誰のせいで、エレンがあんな風になったと思ってんの」

レインがハッとして目を伏せた。

「エレンは頑張ったのに!今も頑張ってるのに!…それに、エレンを支えるのは、あたしの仕事ですから」

(ゼネラルマネージャーの補佐、ではなく、エレンフリートを支えること。これがヨルゴ理事から与えられた、あたしの…)

自分に言い聞かせるようにして、落ち着きを取り戻す。

二人は颯爽と走り去った。

ファリアンに着いた頃、空はすっかり暗くなっていた。

「ただいま、ファリアンっ!」

「…元気だな」

「帰り着いたら疲れなんて吹っ飛ぶの!さて、報告は明日がいいかな。今日はもう解散しよ」

了解した、と言ってどこかへ行ってしまった。

(うちのゼネラルマネジャーはどうしてるかな〜。…規則正しい生活は、してないだろうけど)

財団本部は正面玄関こそ閉まっているが、研究室のフロアはまだ明るかった。

「メレさん、お疲れ様です!」

「お疲れ様でーす♪」

疲れた身では愛想を振りまくのもきつい。研究員達への挨拶も程々に、そそくさと裏口のエレベーターに乗り込んだ。

(研究に行き詰まってイライラしてなきゃいいけど…)

明日は、上司のとばっちりを受けたであろう研究員達のフォローに回ると心に決めた。

寮フロアに降りたメレは、隣りあった二つの部屋の前を行ったり来たり。

自室と、隣のエレンフリートの私室だ。

(たぶん執務室じゃなくてこっちにいると思うんだけど…戻ったことは知らせた方がいいもんね?)

自分を納得させて、彼の部屋のドアをノックする。

(……。集中してて気付いてないのか、寝ちゃってるのか…)

恐る恐るノブに手をかけ、中を覗いてみる。

支えか依存か

「…エレン?ただい、ま…」

部屋の主は机に突っ伏していた。どうやら後者のようだとメレは安堵した。

(寝てるなら起こせないなぁ…。でも、この体勢だとすぐに起きそうな気もするし)

想像して一人頷く。とりあえず、風邪をひかないように毛布を肩にかけてやる。

(あ、メガネは邪魔だよね。壊れたらエレンうるさそうだし…)

慎重に外したメガネを興味本位で覗き込んでいると、少年がゆっくりと頭をもたげた。

「あ…僕は眠ってしまったのか…」

「エレン、起こしちゃった?」

「っ、メレ?いつ戻りました?」

「ついさっき。疲れてるのはお互い様みたいだし、報告は明日でいいでしょ?」

メレの様子で、収穫はおおかた理解できた。

「…ええ、ご苦労様でした。ジェットの姿が見えませんが」

「うん。解散って言ったらどっか行っちゃった」

「そうですか。――毛布とメガネ、ありがとうございます」

「考えごとしてて寝落ちしたんでしょ」

彼は無言で受け取ったメガネをかけようとした。

「まだやるの…?」

「…途中で眠ってしまったので」

メレは机の上を一瞥し、思わずため息がこぼれた。

「これって急ぎじゃないよね?睡眠とった方が、頭が働くと思うなぁ。資料は執務室にあるんだし」

「うっ…。それも、一理ありますね…」

「ということで、エレンがちゃんと寝るまでここで見てるからね!」

ついたての奥のベッドをビシッと示した。

「なっ、何ですかそれは…」

「一緒に寝てほしいって?え〜、どうしよっかな〜♪まぁ、研究のためなら…」

「そんなこと言ってません!」

「あはは、冗談だよぅ☆可愛いなぁ、もう」

可愛いと言われた上司は、座ったまま上目遣いで睨んでくる。

(これじゃあ、まるで恋人同士みたいじゃん?でも、今の距離感が気楽なんだよね~。残念ながら、エレンの方は研究一筋だし。…ん?“残念ながら”?)

心の中の自分にツッコんだ。

「ハァ…今日はもう寝ますから、メレも休んでください」

「あ、うん…。エレンってば、やっぱりあたしがいないとダメみたいだね〜。体壊しちゃうよぅ」

「必要最低限の睡眠はとっています」

言いたいことはいくつもあったが、ぐっと飲み込んで部屋を出た。

「体痛めるから、ちゃんとベッドで寝てね!おやすみ〜」

「…おやすみなさい」

パタンとドアを閉め、隣の自室のシャワー室に向かう。

(必要最低限の睡眠って、限界がきて寝落ちしてのくり返しってことだよねぇ…。どうせ食事もそんな感じだろうし…科学者らしいとは思うけど、やっぱり無理してたなぁ)

高度な研究は手伝えないが、健康管理もGM補佐の仕事だと思っている。

(マッサージでもしてあげようかな…)

明日は忙しくなるぞ、と覚悟を決めた。

翌朝、エレンフリートの執務室に三人はいた。

「報告する。女王の卵のデータは採れた。が、オリジナルの回収は失敗」

ジェットの報告を聞きながら、メレは上司の顔色を窺った。

「…そうですか。まぁ、女王の卵が優先でしたから、今回は構いません」

「向こうは人数も多かったし、仕方ないよねっ」

ホッとしたのもつかの間、エレンフリートの視線がメレに移る。

「貴女は、ついて行っただけですか?」

「え…っと、どういう意味ですかぁ?」

「何か報告することがあるのでは?黙って見ているような人ではないと認識していますが」

そんな風に思われていたのか…と思いつつ、姿勢を正した。

「…ごめんなさい。女王の卵の飼い猫が、タナトスに襲われかけてたところを…助けちゃいました」

「木の上から派手な登場をし、タナトスにトドメをさしていた」

「ちょっ…!派手な登場なんてしてないし、トドメって言っても一撃だけだよぅ!」

エレンフリートはあまり驚かなかった。どちらかというと呆れたように頬杖をついた。

「ハァ…優しいのは結構ですがね」

「あっ、あとね!アンジェリークさん、癒やしの光とかいう力もあるみたいだよ」

「浄化だけではない…?」

「うん、浄化とは別の。初めてできた感じだったけど…まぐれなのかなぁ」

「火事場の馬鹿力…だとしても、興味深いですね」

「回復なんて反則だよね〜。報告は以上です♪あとの詳しい記録はジェットに聞いてね」

「では、そちらは他の研究員に頼みましょう。ジェット、解析室へ」

「了解した」

コートを翻し、部屋を出ていった。

「エレンの研究はどう?確か、ジンクス計画を進めるって言ってたよね…?」

ジンクスというのは、財団が長年研究している対タナトス用アーティファクト兵器の名称だ。

進捗次第では地雷になるが、聞かないわけにもいかない。

「あぁ、貴女にも説明しておかなければいけませんね」

身構えていたメレに、彼は意外にもあっさりと口を開いた。

「ほぇ?進展あった?」

「ええ。あのジンクスが、ついに完成へと向かっているのですから…!」

「えぇっ!ジンクスが完成しそうなの…?!凄いじゃん!」

メレが科学者として興奮するほどには、ずっとそばで見てきた計画だった。

「これが成功すれば、私はヨルゴ理事に認められ、レイン博士の上に立つ…!」

「エレン…」

ふと、エレンフリートに危うさを感じて、そっと彼の背後に回った。

「お疲れ様♪もうひと頑張り…ですね、GM」

エレンフリートのコートを肩からずらし、凝りを揉みほぐす。

「…ええ、これからですよ。そういえば、もう今朝のウォードンタイムズは読みましたか?」

「えっ?ううん…まさか、あたしの記事が…?!」

「ではなく、女王の卵の記事が載っていますよ」

バサッと広げられた新聞を肩越しに覗くと、取材でわかった彼らの目的とともに、集合写真が掲載されていた。

「オーブ、ハンター…」

「オーブ集めが目的ではないでしょうが、そのように呼ばれるようですね」

(ベルナールって、あの記者だよね…?あたしのことは書いてないんだ…。まぁ、許可してないから当然だけど)

マッサージを続けながら、ふと思い出したことを口にする。

「そういえば、情報屋が出入りしてるみたいだけど、ヨルゴ理事は何か調べてるのかなぁ?」

「あぁ、女王の卵について調べさせているようです。私はあのような者の出入りには反対なのですが…」

「あたしも!あんまり関わりたくない人種だなぁ…」

今度はエレンフリートが、思い出したように口を開いた。

「ジェットは、オーブハンターと戦っていてどうでした?」

「どうって、対人だと圧倒的だったよ。ただ、向こうにはオリジナルがいたし、あたし達も連携できたらよかったんだけど…」

「アーティファクト兵器にそれを求めるのは無理でしょう」

(オリジナルはできてた、なんて流石に言えないなぁ)

それはきっと、オリジナルより劣化しているということではない。だからこそ、エレンフリートには言えない。

「うーん…一緒にエレンを護っていく仲間なのに〜」

「アーティファクトは仲間ではなく道具です。何度も言っているでしょう」

「あ、護られることはもう認めたんだ?」

「適材適所です。お互い、自分の仕事をするだけですから」

メレはぽんっと彼の背中を叩いてマッサージを終えた。

「エレンは、ジェットの解析を待って報告に行くんだよね?あたし、先にヨルゴ理事と話すことがあるから」

「…わかりました」

一人で行動するときは浄化能力者としての仕事、と彼は思ってくれているようだ。全く違うというわけではないが、罪悪感がチクチクと主張する。

「背中も凝ってるから、続きは夜にベッドでね♡」

「誤解を招く言い方をしないでください!」

2人っきりの執務室で、誰に誤解されると言うのだろうか。


ヨルゴを訪ねたメレは、ジェットやエレンフリートの近況を報告した。

「――そうか。ジンクス完成を目前に、更に不安定になっているな…」

「はい…。長年研究してきたことだから、興奮してるだけかもしれませんけど…」

「いや、お前が言うのなら確かなのだろう。引き続きメンタルケアを頼む」

「はい。レイン先輩と再会したことも、要因かもしれませんねぇ」

口に出してから、ハッとヨルゴの反応を窺った。

「…そうだな。切磋琢磨、というわけにはいかないか…」

「そ、そうですね〜」

(よかった…禁句かと思ったよぅ!兄弟そろって不器用すぎるんだっちゅーの!)

心の中で悪態をついて、ふとヨルゴの手元――細やかな装飾が施された封筒が目についた。

「ヨルゴ理事、それは?」

「…舞踏会の招待状だ。私も研究員達も忙しいので出席できない、と断るつもりだが」

(ヨルゴ理事が踊る姿なんて想像できないなぁ…。――あっ、そうだ!)

「ハァ…全く。何故私が舞踏会なんかに…」

会場に着いても、エレンフリートはこの調子である。

「これもお仕事ですよぅ、GM!」

(ひと晩だけでも研究から離れて、少しは気分転換できるといいんだけど…)

ヨルゴに頼んで手に入れた舞踏会の招待状を無駄にはしたくない。

「仕事と言いつつ、貴女はドレスまで着て楽しんでいるように見えますが」

「そ、それは社交界のマナーだもん!」

爽やかなライトグリーンのロングドレスが、エレンフリートの視界にふわふわと舞っている。

「エレンは財団の制服だからちょっぴり残念だけど…ヨルゴ理事の顔に泥を塗らないように、頑張ろうね☆」

「わかりましたよ…。銀樹騎士の制服もちらほらと見受けられますね」

「あ〜、騎士様ってだけでモテそうだよねぇ」

「…騎士がいいのですか?いえ…人気で言えば、貴女だって…」

意味深な彼の目線を追って、さっと会場を見渡す。

「――あれは…まさか財団の天使!」
「まるで可憐な花のようなドレス姿…!」
「メレさん…!踊ってくださるだろうか?!」

彼女のファンであろう男達が、遠巻きに熱視線を送っていた。

「はわわっ!こんなところでも…?!」

「おや?あそこにいるのは――」

見知った顔を見つけたエレンフリートの腕を、メレが慌てて引っ張る。

「エレン、中庭に行こっか?!」

「まだ誰にも挨拶できていませんが」

「エレンがそんなこと言うなんて…成長したねぇ」

と言いつつ中庭に出ていくと、不意にカシャッという音とフラッシュの光。

「ひゃっ?!」

思わずエレンフリートに隠れて、そーっと相手を確認した。

「やぁ、驚かせてすまなかったね。素敵な被写体を見るとついシャッターを押してしまうんだ」

ウォードンタイムズの記者、ベルナールだった。

「な、なんだぁ…過激派ファンかと思いましたよぅ」

「え?あぁ、人気者は大変だね。ニクス氏も、あっという間に囲まれて困っていたようだよ」

「げっ、あの人も来てるんだ…」

メレとエレンフリートは、ベルナールの隣で背中を向けている女性に視線を移した。

「おや?隣にいるのは…」

「あっ、まさか…あのチャラチャラした情報屋?」

「ちがっ…私はロシュアンヌ!ベルナールの恋人よ!」

華奢な体型とドレスのせいで女性かと思ったが、目立つ紫の髪とこの声――必死に裏声を出している――は間違いない。

「…聞いていたんだろう?財団の依頼で、こうして潜入しているんだからね」

「女装しているとは聞いていませんでしたよ」

「この方が自然だろう?」

「…女装趣味?それとも男色…」

ロシュは顔を引き攣らせたかと思えば、メレの姿をまじまじと眺めた。

「どっちも違ぇよ…!つーか、まさかお前が噂の浄化能力者だったとはなー。そのドレス、似合ってるぜ♪」

「はぁ、どうも…」

「君のことをぜひ取材したいんだけど、残念ながら今日はそんな余裕なさそうだ」

「ヨルゴ理事の許可がないと、今後も取材には応じませんからねっ」

ギュッとエレンフリートの腕に抱きついてみせた。

「気の強い女、嫌いじゃないぜ。――さぁ、行くわよ、ベルナール!」

「うわっ!ロシュ、引っ張るな!」

台風のようだったな、と二人はため息をついた。

「…私も、似合っていると思いますよ。…ドレス姿」

「エレン…♡」

「――おや、踊らないのですか?」

二人が勢いよく振り向くと、そこにはニクスとアンジェリークがいた。

アンジェリークは朝焼けのような色のドレスを着ていた。

「こうもあからさまに嫌そうな顔をされるとは」

わざとらしく肩をすくめてみせるニクス。

「こんなところに来てまで会いたくなかったですぅ…」

「我々は今、あなた方に用はありません」

「では、一時休戦ということで」

ニクスは胡散臭い笑みを浮かべている。

「あ、あの…どうして私達を襲ったりしたんですか?」

アンジェリークがおずおずと尋ねた。

「ほぇ?アンジェリークさんを襲ったのはタナトスじゃないですかぁ」

「ジェットも、お二人を襲ったりはしていないはずですよ」

「もしジェットの邪魔をしたら、排除しようとするかもだけどぉ」

フッと笑うエレンフリートに、アンジェリークが詰め寄ろうとしたとき、会場の喧騒をつんざくような悲鳴が聞こえた。

「な、何?!」

「行きましょう」

四人が会場に戻ると、そこには一体のタナトスが出現していた。

「――もしや、女王の卵?!」

「それに貴女は…財団の浄化能力者?!」

舞踏会に参加していた銀樹騎士達がこちらに駆け寄ってきた。

「皆さんを避難させてください!」

ニクスの指示で、銀樹騎士は逃げ惑う女性や老人に手を貸した。

ベルナールとロシュは出入口付近で避難誘導をしているようだ。

「さぁ、踊りましょう。戦いという名の輪舞曲を」

ニクスはキザな台詞とともに武器を構えたが、アンジェリークはやはり少し離れたところから様子を見ている。

(とりあえず、実力を見せてもらおうっと)

エレンフリートも同じ考えのようで、避難する気はなさそうだ。

メレはエレンフリートを庇うように立ち、隠し持っていた得物を取り出した。

ニクスの華麗な鞭さばきが命中し、これは楽に倒せそうだなとメレが思っていたときだった。

「ご老人、大丈夫ですか…?!」

「しっかりしてください!」

そんな銀樹騎士の声に、ニクスがハッと顔色を変えた。

「――オーギュスト…!」

ニクスはそう呟くや否や、倒れて苦しんでいる老爺の元へ駆け寄ったではないか。

「えぇっ?!あたしがいるからって、急にタナトス放置しないでよぅ!」

向かってくるタナトスを、二振りの短剣で切り刻んだ。

「わっ…?!」

慣れないドレスとヒールのせいでバランスを崩した体を、エレンフリートがすっぽりと受け止めた。

「大丈夫ですか」

「ご、ごめん…ありがと♪」

慌ててタナトスの方を見やると、アンジェリークが近くにあった燭台を振り回しているところだった。

「えいっ!えいっ!――あぁっ?!」

タナトスの吐いた炎がアンジェリークを掠め、彼女は避けるように倒れ込んだ。

(あーもう!今日は一時休戦、だからね!)

メレがその場から投げた短剣は、鋭くタナトスを貫いた。

そしてアンジェリークの力によってオーブとなり、会場の空気すら浄化されたようだ。

「…なるほど。これが浄化の光…」

そう呟く上司の無事を確認し、少し汚れてしまったドレスをパタパタと叩く。

「――アンジェリーク!お怪我は?」

「大丈夫です。あの、メレさん、ありが…」

半ば叫ぶようにしてお礼の言葉を遮る。

「あたしはエレンを護っただけですぅ!」

「ありがとうございます、マドモアゼル」

短剣を拾ったニクスが、どこか落ち込んでいるように見え、メレは無言で受け取った。

「…。財団本部に帰りましょう、GM!」

この混乱に乗じて立ち去ろうと、エレンフリートの背中を押した。

老爺に駆け寄るオーブハンターを横目に、会場をあとにした。

エレンフリートの部屋で本を片付けるという、助手らしい平穏な時間を過ごすこともある。

「ここはこうした方が…?いや、違うな…」

彼の独り言がどんどんエスカレートしてきたのを見かねて、そっと机を覗き込んだ。

ジンクスの設計書を広げているようだが、手が止まってしまっている。

「…エーレン♪煮詰まってるね。頭が働かないなら、食堂でプリンでも貰ってこよっか?あ、片手で食べられるサンドイッチとかがいいかな?」

「…そういえば、いつもの店のフルーツタルト、最近食べていませんね」

「あ、確かに。じゃあ、買ってくるから少し待っててくれる?」

「今のは、その…ただ思い浮かんだだけですので、別に…お任せしますよ」

笑いそうになりながら返事をして、財団を飛び出した。

(相変わらず素直じゃないけどわかりやすいなぁ…。研究に夢中で何も食べないよりマシだけど♪)

“いつもの店”で通じるくらいには二人で食べた、ファリアン内にあるケーキ屋に急いで向かう。

「――きゃあああ!!」

「タナトスだーっ!!」

港の方からそんな悲鳴が聞こえたからには放っておけない。

心の中でエレンフリートに謝り、港へ走った。

「ママぁー!助けてぇぇ!」

(やばっ、転んで逃げ遅れた子供が…!)

メレの投げた短剣と何者かの銃撃が、ほぼ同時にタナトスを貫いた。

「っ…レイン先輩?!と、女王の卵!」

短剣を回収し、レインと背中合わせで周囲を確認する。

「こっちは俺が相手をする!お前はもう一体を!」

「はっ、はい!」

(…って、あたしに指示するなんて何様のつもりー?!)

「んも〜っ、外部の人間のくせにー!待ちなさーいっ、そこのタナトス!」

完全に浄化するため、攻撃しながらアンジェリークの近くに誘導する。

背後に銃声を聞きながら、己のターゲットを斬り刻む。

「――よし、アンジェリーク!」

「ええ!」

彼女の祈りで二体同時に浄化完了し、メレとレインは武器を収めた。

「アンジェリーク、大丈夫か?」

「平気よ。…またお会いしましたね、メレさん」

「メレ、舞踏会では世話になったみたいだな」

ふんっとそっぽを向いてみせたが、アンジェリークは懲りずに話しかけてくる。

「私達、お届け物の依頼でファリアンに来ていたんです」

「へぇ?すっかり便利屋さんですね☆」

「届けるだけって思うかもしれないけど、街の外に出るってとても危険な…」

メレは無視して燕尾のジャケットを翻す。

「討伐の依頼はしてませんけど、ご協力ありがとうございましたぁ☆じゃ!急いでるんで!」

「おい、待て。その…体は大丈夫か?調子が悪かったら、エレンにでも言って…」

首筋を指す仕草で、彼の言わんとしていることはわかった。

「エレンには話してないので!…体も今のところ問題ないですよぅ。先輩も、何もないでしょ?」

「…ああ、そうだな。…すまない」

レインの苦しげな声を背に、今度こそケーキ屋に走る。

小さめのフルーツタルトをホールで購入し、急いでエレンフリートの部屋に戻った。

「ただいま〜!エレン、キリのいいところで休憩にしよ?」

「…おかえりなさい。遅かったですね」

「ごめんね♪港の方にタナトスが出たから、ちょっくら倒してきたんだよぅ」

「そうですか。ご苦労様でした」

ケーキを切り分け、ソファに移動したエレンフリートの前に出す。

コーヒーを淹れて、二人の間に穏やかな時間が流れる。

(机に向かいながらじゃなく、こうやって手を止めて休憩してくれるのは安心する…)

「少し元気がないようですが…食べている間でよければ聞きましょうか?」

「えっ?元気、元気!…でも、ありがと♪」

――罪悪感に苛まれている隠しごとなら、ある。

一つは、エレンフリートを監視するという役目のこと。

もう一つは、己の浄化能力のことだ。

(…調べればバレること…って思うのに言い出せない〜!)

メレとレインの浄化能力は、実験によって得られた後天的なものなのだ。

(女性初の浄化能力者って騒がれても、取材は全部断ってるけど…そのうちバレたら、また勝手に騒がれるのかなぁ)

先程のレインの苦しげな様子を思い出した。

(先輩、まだ責任感じてるっぽかったな〜。まぁ、あたしが望んだこととはいえ、あの実験は結構きつかったし…)

だが、レインが過ちに気付いて財団を去ったとき、メレは財団に残る道を選んだのだ。

「――さて、そろそろジンクスの試験準備も整った頃でしょう。研究室に行きますよ」

「了解〜♪」

研究室でジェットも合流し、プロジェクトメンバー達と一緒にぞろぞろと製造エリアへ移動する。

「貴女は久しぶりに行くのでは?」

「うん…そうかも。ちょっと怖くてさ〜」

「着いたぞ」

ベルトコンベアに流れてきたのは、戦車のような大きなアーティファクトだった。

「なんか…ジンクスのデザインまた変わった?」

「ええ。タナトスの動きを研究し、より確実に仕留めるために改良を重ねています」

「あたしと女王の卵を参考にしといて、なんでこんなゴツくなっちゃうかな〜」

「参考にしたのは浄化能力のデータです」

エレンフリートはジンクスを見据えたまま真顔で答えた。

「そんなジェットみたいな返ししなくてもいいのに〜…」

「…ジェット、ファリアンの近くで現在タナトスの出現率が高いのはどこですか」

「げっ、わざわざタナトスが出る所にみんなで行くわけ〜?」

「当然でしょう」

ジンクスのリモコン操作は部下に任せ、一行はファリアン郊外の森に向かった。

お披露目セレモニー

「タナトス!ほんとに出たよぅ!」

森はタナトスが出やすい、というのは本当のようだ。

「手出しは無用です。――ジンクス、エネルギー全開」

エレンフリートの指示で部下がリモコンを操作すると、その圧にメレは思わず身を縮めた。

「発射…!」

ドォン!という大砲の音。タナトスの断末魔。森の悲鳴。

目を瞑りそうになりながら、なんとか成功を見届けたメレ。

「はぅあっ!タナトス、一発で倒したの?!」

「ええ…私のジンクスは完璧です」

エレンフリートとメレが抉れた地面を覗き込んでいると、バキバキと木の折れる音。そして頭上に迫る大きな影。

「っ!」

彼の手を引いて避ける時間はない。

「エレン、ごめん!」

「うわっ?!」

上司の背中を思いっきり突き飛ばし、自分は頭を守ってしゃがむことしかできなかった。

(木の倒れるスピードに負けちゃうなんて悔しい〜!)

しかし、予想した衝撃はやってこなかった。

「ジェット…!」

倒れてきた大木は、ジェットの手によってすんでのところで止まっていたのだ。

「あ…ありがと〜っ!今のはやばかった…」

大木を投げ飛ばすジェットを横目に、座り込んでいるエレンフリートに駆け寄った。

「エレンっ、大丈夫だった?」

「ええ…。ですが、私を突き飛ばすとは…。もしジェットが私を受け止めなかったら、研究ができない怪我を負ったかもしれないんですよ…!」

「そ、そうだよね…大事な時期なのに。すみません、GM」

エレンフリートは無言で立ち上がり、制服についた土を払う。

(えっ?だから先に謝ったじゃーん!ていうか、あたしの心配は〜?!)

「任務完了。財団本部に戻りますよ」

「了解」

スタスタと道を引き返すエレンフリートとジェット。

それに続く研究員達とジンクス。

(…ダメダメ!これはお仕事なんだから!エレンが関わると、つい個人的な感情が…)

距離感が間違っているのかもしれない、と反省し、財団本部に戻った。


部下達がジンクスの点検を始めたことを確認し、エレンフリートはコートの裾を翻す。

おそらくヨルゴの元へ行くのだろう、と予測したメレとジェットも製造エリアをあとにした。

(というか、よく考えたら…)

メレは冷静になった頭で先程の実験を思い返す。

「ねぇ、エレン。ジンクスって、街中で使ったらどうなるの?」

「…どう、とは?」

前を歩くエレンフリートの顔は見えないが、ピリピリしているのはメレにもわかった。

「さっきは森だったから、木が倒れて地面が抉れただけで済んだけど…街中だったら建物が壊れるってこと?タナトスの近くに人がいたら?ジンクスの攻撃範囲って広いみたいだし…」

だんだん独り言のようになってしまったが、気付いたことを黙ってはおけない。

「ジンクスの攻撃範囲、およそ…」

計測した数値を報告しようとしたジェットを、エレンフリートは「うるさい!」と、叫ぶようにして遮った。

「…ジェット、ヨルゴ理事に報告に行きますよ」

「了解した」

エレンフリートは、ジェットを連れて足早に去ってしまった。

「あ…」

置いてけぼりにされたメレは、仕方なく1人でエレンフリートの執務室に向かった。

(エレン、否定しなかったな…)

誰もいない部屋に戻ると、メレは引き出しからジンクスの設計書を取り出した。ヨルゴに提出したものの写しだ。

(えっと、部品の詳しい書類は…あった!)

机に広げた書類を睨みつけ、センサーに関する記述を指で辿った。

(これは…?やっぱり…)

少ない知識で答えを導き出したメレは、手早く書類を元の引き出しに片付けた。

このタイミングでジンクスの設計書を検証しているなどと知られたら、きっとエレンフリートを刺激してしまうからだ。

(でも、今のエレンに言っても聞き入れてくれないよね…。証拠はないけど、ヨルゴ理事に相談してみよ…)

メレは彼に会わないよう、遠回りで理事室を目指した。

その途中、見覚えのあるラベンダー色が目に入った。

「あ、女装趣味の情報屋」

「げっ」

それが、女好きが女性に声をかけられてとる態度か。

そんなことを思いながら、つかつかと歩み寄った。

「つーか、女装趣味じゃねーって言ってんだろ!」

「そんなことより、こんな所で何してたんですかぁ」

「何って…女王の卵の情報を売り込みに来たんだよ」

ヨルゴ理事の依頼か、とメレは小さく息を吐いた。

「終わったんなら出口はあっち!勝手にウロウロされると困るんですけどぉ」

「なんか見られちゃまずいもんでもあんのか?」

「まずいっていうか…科学者にとって見てほしいものは、発表済みのものですから!」

ロシュは顎に手をやり、うーん、と唸った。

「ま、確かにそうかもな〜。けど、こっちだって仕事なんだぜ?」

「とにかく!財団に出入りできるからって、その立場を利用するのはヨルゴ理事への裏切り行為だと思いまーす」

「お前まで“ヨルゴ理事”かよ…。はいはい、帰るよ」

回れ右をした情報屋の背中を見送り、メレはエレベーターに乗り込んだ。



メレがジンクスの危険性を説明し終えたとき、ヨルゴは重々しく口を開いた。

「――それで、具体的にどうすればいいか見当はついているのか」

「え…っと、センサーを…」

メレは言葉に詰まった。

そんなことがわかるはずもない。ただ、まだ完璧ではないと伝えたかっただけなのだから。

「人や建物がない所でしか使えない対タナトス兵器など意味がない。タナトスは場所を選ばないのだから」

「それは…攻撃範囲が…」

ジャスパードールのような兵器を増やせばいいのに、と思ってしまうのは素人考えなのだろうか。

「ジンクスは、タナトスに立ち向かう力のない者にとって希望の光。時間がないのだ」

それを言われてしまうと、“力”のあるメレは言い返せなかった。

「…つまり、発表を急ぎたいっていうことですか」

「そうだ。細かい改良は、大量生産前ならまだ間に合う。それよりも、今はジンクスを世に出すのが先だ」

メレはスカートの裾を握りしめ、わかりました、と呟いた。

あれからエレンフリートは、ジェットを引き連れてセレモニーの準備に追われていた。

メレもGM補佐として、式典が成功するように何度も打ち合わせを重ね、忙しい数日間を過ごした。

(何はともあれ、財団が長年研究してきたジンクスのお披露目セレモニーなんだから、仕事はちゃんとしなくちゃね!)

そして、エレンフリートとゆっくり話す時間もないまま、とうとうセレモニー当日を迎えてしまった。

「あとは椅子を並べて、マイクテストするくらいかな…」

メレの指示で設営された会場は、眩しい海と大きな船のすぐ側だった。

重大な発表がある、と各新聞社に知らせていたため、ファリアンには野次馬が集まりつつある。

対タナトス用アーティファクト兵器のお披露目でなければ、ここまで注目されることはなかったかもしれないが。

「――これはこれは、レイン博士」

そんな声が聞こえてきて、メレはハッと振り返った。

壇上からだと、上司とオーブハンターをすぐに見つけることができた。

(この大事な日に、揉め事起こさないでよね…?!)

ハラハラしながら見守っていると、「あの、エレンフリートさん」とアンジェリークの透き通る声が届いた。

エレンフリートの目線は、レインからアンジェリークへと移った。

「今日の式典、楽しみにしてます」

エレンフリートが戸惑う様子が見て取れた。

「アーティファクトの研究が人々の幸せに繋がるのなら、とても素敵なことだと思いますから」

「人々の、幸せ…?」

反芻したエレンフリートに、彼女は笑顔で頷いた。

「これからは財団の皆さんとも一緒に、力を合わせて…」

話を遮るように、エレンフリートは笑い声を上げた。

「ふっ、あははっ!これは面白いですね。女王の卵から、よもやそんな言葉が聞けるとは」

(人々の幸せか…。エレンはそんな目的、研究の過程で忘れちゃったみたいだけど)

メレは心配で降壇したものの、割って入れずにいた。

「もはや、貴女の力など必要ないと言うのに。…まぁ、多少は貴女のデータも役に立ちましたがね」

付け加えた言葉に、レインの眼光が鋭くなった。

「私の、データ…?」

呟いたアンジェリークは、怯えるように眉をひそめた。

「…セレモニーをお楽しみください」

鼻で嘲笑ったエレンフリートは、親子ほど年の離れた部下を二人引き連れて去っていった。

「ったく、何なんだ…」

怒りを隠さないレインに、入れ代わりでメレが声をかける。

「…うちのGMが失礼しました」

「メレさん…」

アンジェリークと、腕に抱かれた猫を一瞥した。

「今日は別行動なんだな」

「えっ、まぁ…。あ、補佐の仕事はちゃんとやってるので」

「…喧嘩か」

ヒュウガが、その表情と同じく無感情な声色で問う。

「仕事で意見が衝突しただけですぅ」

オリジナルであるジェイドよりも彼の方がジェットのようだと、メレは思った。

そういえば、オリジナルは不在のようだ。セレモニーで慌ただしい今日は、財団に見つかる心配はいらないと思うが。

「今日のセレモニー、少し離れて見ていたほうがいいかもですね〜」

「え…?どういう意味ですか?危ないのなら、みんなを避難させないと」

「それはダメですよぅ!そんなことしたら、セレモニーが台無し…」

レインは、呆れたようにため息を吐いた。

「お前も、立場ってもんがあるんだろう」

「う…。ジンクスがタナトスを倒せるのは事実なんですけどねぇ」

「けど、何だ?」

メレは腕組みをして、真剣な表情で話し始めた。

「ここだけの話、実験を見てても設計書を読んでも、心配なところがあって」

「お前、設計書が理解できるんだな」

驚くレインをジト目で見上げる。

「エレンも多分、あたしには理解できないって思ってるんでしょうけど!少しくらいわかりますぅ!同じ大学を卒業したじゃないですかぁ!」

「そ、そうだよな。ただの護衛役じゃなかったんだな…」

「でも、具体的な改良案がわからないから、ヨルゴ理事も相手にしてくれないし…」

ヨルゴの名前に、レインは眉をひそめた。

「…それを俺に話してよかったのか?」

「だ、だって…今は先輩しか頼れる人がいないんですよっ」

「あ、おい…」

呼び止める声を無視して、メレは持ち場へ向かった。

(もちろん、財団内で解決できればベスト…。でもでも!そんなこと言ってられなくなるかもしれないんだから)

観客の興奮と不安が入り交じる中、セレモニーは始まった。

「皆さん。アーティファクト財団の理事、ヨルゴです」

ヨルゴは堂々とスピーチを始めた。

(こういう場では、少しくらい微笑んでみせたらいいのに…)

メレはトラブルに駆けつけられるよう、ステージの下に控えて立っている。

「今、多くの人がタナトスによって苦しめられています。この世界を救うのは教団?銀樹騎士?…それともいつか現れるという女王でしょうか」

観衆がざわめくのも気にせず、ヨルゴは続ける。

「しかし、それを待っていてはもう遅すぎるのです」

(ヨルゴ理事…本心なのかな。でもエレンはきっと、そんなこと考えてないよね…)

「それ故、我が財団では長年に渡る研究の結果、対タナトス用アーティファクト兵器、ジンクスを開発しました」

研究員が白い布を取り、その戦車のような躯体は日光を反射した。

「もはやタナトスに怯える時代は去った。これより、教団や銀樹騎士に代わり、我がアーティファクト財団が世界を救うのです」

ヨルゴが合図を出すと、研究員の操作によって、船着き場にポツンと置かれたコンテナの蓋が開いた。

そこから現れたのは、鳥型タナトスだった。

「きゃあぁぁ!!」「タナトスだ!?」

悲鳴をあげて逃げようとした観衆に、「静粛に!」とヨルゴが声を張り上げた。

「これは東方からの積荷に紛れたタナトス。ジンクスの力を試すために、コンテナごと封印しておいたのです」

「なんてことを…!」という批判的な声が聞こえた。

ヨルゴ理事、と一声かけて登壇するエレンフリートと部下。

うむ、と頷くヨルゴに背を向け、エレンフリートは眼鏡のブリッジを押し上げた。

「ジンクス、起動」

部下が手元の機械を操作すると、ジンクスはタナトスに砲台を向けた。

「目標、捕捉済みのタナトス。出力全開…」

(近くに家はないし人もいないから…大丈夫だよね?とりあえずセレモニーは成功しますように…!)

この仕事が終われば、大量生産の前に改良するはず。メレはそう信じて祈るしかなかった。

「やめろ!」と慌てた様子のレインが視界の端に映る。

そんなレインを見下し、エレンフリートは冷たく発射の指示を出した。

その凄まじいエネルギーに観衆は思わず目を瞑り、身を固くした。

煙が晴れたとき、タナトスはコンテナごと消え去っていた。

船着き場のコンクリートも抉れていたが、会場は歓声と拍手に包まれた。

エレンフリートは壇上からレインを見下し、ニヤリと笑みを深くした。

護りたい〜Neo Angelique〜

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護りたい〜Neo Angelique〜

ネオアンジェリークspecialにオリキャラを加えた二次小説です! 財団side/エレンフリート寄り ※『天使の涙』未プレイ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-08-03

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 財団の天使
  2. 漆黒のジャスパードール
  3. 支えか依存か
  4. お披露目セレモニー