テンシノオスミツキ―ACT.1―

テンシノオスミツキはセイントターミナルのサイドストーリー集です。本編では触れることがないであろう場面を書いてみました。

登場人物:
大豆生田弥次郎兵衛(マメブタヤジロベエ)
 本編では主人公。こっちでは知りません。彼が出ない話もありますので。
美冬(ミフユ)
 超強い天使だそうです。今回は魅せます(嘘。

恩人天使

「「今日も一日何もなかった!幸せだなー。」
 とか言ってるから何も起きないんだろうね。どうも、本編で恐ろしい駄目人間っぷりを披露した…知らない?なら本編読んでください。宣伝…になっちゃいますね。ごめんなさい。ま、いいです。という訳で、もう自己紹介もしてしまった身ですし、少しは僕のことを覚えてくださっている方もいるかと思います。でも、そこは関係なくね、知ってる方も知らない方もおはようございますこんにちはこんばんは。略しておはここー!キモイ?ごめん。さてと、お膳立てはこれくらいにして、今回は短めの何か…サイドストーリー的なものをいろいろぶっこんでいく感じのものだそうです。ま、グダグダ言ってると不自然だから、一つ目の話、スタートしていきます。



「今日も何もなかった!幸せだなー。」
 と言っている僕。何か虚しい。ま、どうでもいいけどね。とにかく、家帰りたい。
「オイ。」
「うわぁ!」
 あと五メートル。家の前で突然何かに声をかけられた。振り向いてまたびっくり。
「失礼。驚かしてしまう気ではなかったのですが。ワタクシ、別に怪しいものではないので…。」
 振り向くと、そこに居たのは世にも珍しいカエル人間。しかも喋った。さらに怪しくない宣言という面の皮まで見せてくれた。関わりたくない。
 スタスタスタ…。
「あっ!待ってくださいよー。」
「…。」
「話を聞いてくださいってばー。」
「…。」
「お願いしますよ。あなただけが頼りなんですよー。」
 嘘つき。人ならたくさんいるはずだ。僕に見えてるんだ。ほかの人にも見えてるはず。拾ってもらえ。僕みたいな駄目人間、損するぞ。
「じゃあ…こうしましょう!」
 ガバッ!
「なっ。」
 ケロッピーが僕の上にのしかかってくる。ついに相手は実力行使に出た。正当防衛、ここからは本気のへなちょこパンチをお見舞いしてやる!
「離せっ!」
 ボコッ。
「―!」
 ショックを受けているようだ。でも離してくれない。
「離せっ離せっ離せっ離せっ。」
 ポカポカポカポカ。
 ギリギリギリギリ。
「クッ…ア…。」
 いきなりのどを締め付けられた。結構強い。
「おまえぇ、何してんだよぉ人間のくせに。」
 ジタバタジタバタ。
「せっかく、下手に出てやったのによぉ。てめぇら人間はぁ、俺らぁの奴隷なんだよぉ。ゴーストに狩られるだけなんだよぉ。」
 ギリギリギリギリ。
 バタバタバタバタ。
「おぉまえぇ、わかってんのかぁ?」
「ちょーっとお二人さん、仲のよろしくされているところ、申し訳ないんですけどぉー、ここらでワルーイことするおっきいカエルがいるって通報受けちゃったんでぇ、ちょっとだけ面かせオラ!」
「ゲッ。」
 バコォ!
 突如として現れた誰かさんは、僕の上にのしかかっていたカエル人間の頭を蹴り飛ばした。…助かったぁ。
「あんたでしょ。ここらで最近悪さしてたゴーストは。」
「ゲヒヒ。人違い、あいや、ゴースト違いでさぁ。」
「嘘ついてんじゃないわよ!」
ボッコオ!
 蹴る。これはなんなんだ?特撮か?撮影?何?カメラは…?
「何キョロキョロしてんの!逃げなさい!」
「え…?」
「ゲゲゲロロロ…。殺す…。」
 みるみるうちにカエル人間が巨大化する。
「死ねぇ!」
「させないわ!気剣開放!閉じ込めろ!蝿地獄!」
 巨大なカエル人間の足元に、魔方陣が広がる。まぶたのような形をした光の塊が、二枚貝のように合わさる。
「ゲェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ…!」
 閉じた光の塊が、断末魔ごと地面に沈んでいく。そして…。
 ドサリ。なぜか急激に疲労し、倒れてしまった。
「ちょっと力を使いすぎたかも…。でも倒れるにはまだ早いわ。あんたには聞いてもらわないといけないことがあるし。えいっ!」
 フラッシュ。瞳を焼き尽くされたかと思った。
「もう立てるはずよ。」
 立てた。疲れも取れてるし。お礼言わないと。助けてもらったし。
「あ、ありがとうございます!僕、あの、大豆生田弥次郎兵衛って言います!こここ、この度はなんとお礼を行ったらいいか…。」
「ねぇ、今なんて言った?」
「え、あ、いや、何かおかしなことでも?」
「マメブタって言った?」
「あ、はい。僕の名前は大豆生田って言いますけど…。」
「あっはははは!マメブタ、マメブタ!アハハハハハハ!」
 笑い転げる女性が一人。突如として現れた、命の恩人は女性だったようです。
「ごめんごめん。外に出れたのが久しぶりで、なんかテンションおかしくなってた。アタシ、美冬っていうの。天野美冬。よろしくね!」
「よろしく…?」
「あのね、アタシ今日からあんたの家に居候することにしたから。」
「なんですかその超展開!」
「うっさいわね。詳しい話は後で聞かせるから、とりあえず上がらせて頂戴。」
「突然なんなんですか…。恩人ですしいいですけど…。お茶ぐらいしか出せませんよ?」
「あとでたっぷり時間かけて、お礼はいただくわ。」
 びっくりするほど図々しい恩人。でもすっごく綺麗な人である。
「なによ、人の顔ジロジロ見て。」
「ああ、すみません。じゃ、じゃあ早速、どうぞ、上がっていってください…。」
「そうさせていただくわ。お茶よろしく。」
「はいぃ。」
 おかしい。なんか…恩人ってこんなもんなの?
「あんた、命の恩人よ?アタシ。お茶ぐらいさっさと出しなさいよ。」
「はいはい。了解しました!」
 すぐに台所へ向かう。
「あ、アタシ、気分的にはコーヒーが飲みたい感じー。」
 …ドリッパーがある。豆がある。ミルク、角砂糖完備。うちの台所が憎い。
「へー。あんた、見どころあるわよ。」
「?」
「あんた、流行らないカフェを一人で切り盛りしてそう。」
 どういう意味?
「嫌いじゃないかも。そういうの。」
「…。」
「てれてるの?」
「いえ。」
「嘘。」
「嘘です。」
「ハハハッ、可愛いわねあんた。」
「…。」
「じゃあさ、そんな可愛い下僕君にお話してあげる。」
「下僕?」
「そうよ。あんたは今からアタシの下僕。じゃ、つべこべ言わずに話聞いて。」
 おかしい。命救われたら下僕にならないといけないのか。
「あなたの命にかかわる、大事な話…ていっても、猿でもわかる話よ。ついていけなくても、アタシがあんたを守るから、大丈夫。」
「はい?」
 命にかかわる?大事な話?全くついていけない。0ワード目でこけた。
「手、止まってる。」
 おっと、コーヒーをいれるんだった。
「ふふふ。じゃ、始めるね。」



「セイントターミナルってなんですか。」
「あれだけ説明したのにまだわかんないわけ?大丈夫?」
「病気じゃありません!」
「そんなこと聞いてないわよ!頭!脳みそよ!」
 そんなこと言われる筋合いない。僕はいたって正常だし、話も真面目に聞いていた。
「命にかかわる…はぁ…。もう、いいわ。また今度、ゆっくり話してあげる。」
「助かります。」
「貸し、増えたからね。ちゃんと返しなさいよ。」
 と言い、迷いない身のこなしであるドアへ向かっていく。
「どこに行くんですか。僕の部屋ですよ、それ。」
「しらないわ、アタシ、ベッドで寝るから。」
 千里眼でも持っているのか!?どうして僕の部屋にベッドがあることが分かった!?
「嘘ですよね?」
「嘘なんかつかないわよ。アタシをなんだと思ってるわけ?」
「天使でしたっけ?」
「よくできました。」
 言いつつも、歩みは一向に止まらない。
「ちょっと、勘弁してくださいよ。止まってくださいってばー。」
「うっとおしいわね。あんたがそこのソファで寝れば済む話でしょ。」
 そんな!
 スタスタスタスタ…、ガチャリ、バタン。
 打ちひしがれている間に、とうとう僕の部屋は恩人様に奪われてしまった。そしてこれが、僕と、自称超強い天使こと美冬さんとのヒヤヒヤホームシェア生活の始まりだった。…僕もなんか肩書き的なもの欲しいから自称超駄目人間ってことで。知ってる?ごめん。閉じられた扉は、広いリビングをなぜか狭く感じさせた。

晩餐天使

部屋を強奪されて、学校行きつつ、生活していると、時折、美冬さんから暴力を受ける。ある時は関節技、またある時はexc…ってな感じである。なんか、腹立つらしい。知らない。そんなことで当たられても知らない。でも、抗議したら、下僕がどうの言ってまた暴力だし…。なんか癪である。だから…。(ちなみに今日土曜日。本編の始まりの一日前である。もっと言うなら、本編のはじまりは五月十日。)
「美冬さーん。ご飯できましたよー。」
 だから今日は、味噌汁の中にタバスコを入れてみた。
「もう出来たの?分かった。今から行く。」
 ドキドキ。ドキドキ。いたずらするのってこんなに緊張するなんて…不思議だ。
「あんた、何か変なことしたでしょ。」
 千里眼でも持っているのか!?
「なんだか変よ。いつも以上に。」
「そんなことないですよー。」
「ふぅーん。」
 ごっつい疑われとる!まずい。
「いただきまーす。」
「僕も、いただきます。」
 美冬さんの右手が、味噌汁の入った茶碗に伸びる。きた。きた。きた。きたー!
「なんなの?」
 ついつい凝視していたようだ。これはまずい。感づかれたら非常にまずい。
「ほんとへんよ?大丈夫?」
心配するなら暴力を振るわないで欲しい。
「なんかいいたそうね。いいわ、聞くわよ。なんでも言いなさい。」
「あの…。」
「なんなのよ。言っとくけどアタシ、気が変わるのものすごく早いわよ。」
「暴力を振るうのをやめてください。」
「お黙り。」
 即答された。
「いい?あれは躾なの。いくら下僕でもアタシくらいになってくるとずさんにしてるとなめられるわけ。わかる?」
「なめられるって…誰にですか?」
「ほかの天使よ。」
「ええ!?天使って沢山いるんですか?」
「そうよ。言ってなかったかしら。」
 恐ろしい。天使がまだいるなんて。
「別に、皆アタシみたいに強いわけじゃないけどさっ」
「そうなんですか。」
 助かった。この世界の罪なき命は守られた。
「だから、上にも下にもなめられないためにも、アタシはあんたを立派な下僕にしないといけないわけ。わかる?」
 立派な下僕ってなんなんだ!
「聞こえてるわよ。」
 ここで発動しやがったぁぁぁ天の声(←いや独りごと)!やばい!実演的な流れになる!→死ぬ!
「聞こえてるし。」
 負のスパイラルだぁぁぁぁ!
「別に。暴力振るうのが趣味なわけじゃないし、そんなことしないわよ。」
「助かります。」
「貸し一つ。」
「え?」
「ふふふ。」
 笑う美冬さん。おかしい。何かがおかしい。
「イタズラ、してるでしょ。お味噌汁に。」
 わぁぁぁぁぁ!
「可愛いわねホント。すぐバレるわよそんなんじゃ。」
「なぜですか。」
「往生際が悪い。」
「すみません…。」
「いいわよ、別に。」
 なんか、助かったぁー!
「躾するだけだもん。」
 ―ダッシュ!
「捕まえた。」
 はやぁっ!自分でも驚くほどの逃げ足の遅さである。
「いいからさ、ちょっと来なさい。」
 嫌だ!
「そんなふうにしてられるのも今のうちよ。ほぉら!」
 ムギュ。
「こうやってすればもう逃げらんないでしょ。逃げる気も起こさなくなるし、一石二鳥だわ。」
 あわわわわわわわわわ。
「抱っこされるなんてもう長いことなかったんじゃない?気持ちいいでしょー。」
「離してくださいっ。」
「嫌よ。というか、下僕が口答えしてんじゃないわよ。」
 逃げたいっ!まずい!こんなことされたら胸が顔に…!いや顔が胸に?どっちでも…ぐっはぁ!
「ふふふ。もう逃げらんないでしょ。ちょっときつい躾しても大丈夫よね。」
 うわぁ…。逃げたい。でも…くっそぉ!なんでこうなる!
「可愛いわねーホント。」
 プハァッ!やっと顔が出せた。
「躾、するからね。」
 ―ツンだ。
 タバスコ入りの一杯は、まるで悪友のように悪知恵だけ貸してくれた。ご飯茶碗だけが切なく、湛えたご飯の湯気で笑いかけてくれたように思えた。

誕生天使

―学校。いつの学校かっていうと、時間的には大豆生田が美冬と初めて会った日の、大豆生田が帰った直後。大豆生田は気づいていないが、実は彼は忘れ物をしていた。お守りである。小学生の時にまぁ…、大豆生田にも小便臭い恋があったわけで。その話はまぁおいといて、大豆生田はもう忘れてはいるものの、鞄の中にずっと忍び込んでいた木の板を紙で包んで作られたお守りが、床に投げ捨てられたかのような格好で、忘れられていた。しかしそれは見る者によっては別に捉えることもできて…。
「なんだろうこれ?蛹みたいだ…。いい匂いがするし…。」
 ひとりの男子生徒が教室に入ってきて、それを拾い上げる。それは大豆生田の鞄の中に8年程度眠っていた幼虫の蛹だと知ったら、この男子生徒はどんな反応をするだろうか。
「なんだ!?何か急に熱くなってきたぞ…。」
 木の板に彫り込まれた文字が血のように紅く光り出す。くるんだ布の間から光が溢れ、閃光が教室の大気を埋め尽くす。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…。」
 閃光の中で、さらに明るい存在が蠢く。腰、背、胴が露になり、首、頭の順に持ち上がっていく姿は、まるで蛹から羽化する蝶のようにも見える。
 スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―。
「はぁ…、びっくりした…。」
 先程までのまばゆい光が嘘か幻であったかのように消え失せ、後には、すらりと背が高く、鋭い切れ長の目を持つ端正な顔立ちをした美少女がすっくと立っていた。
「…。」
 呆然としている男子生徒を一瞥し、教室を見回してから、彼女は言う。
「…行かなきゃ。」
 後には一人、呆然とその場にへたりこんでいる、男子生徒が一人、残されるのみとなった。夕日の朱に満たされ、鮮やかに彩られた教室には、同じ朱に塗られた男子生徒の影だけが、朱一色の教室に人型の黒を添えており、異様な存在感を醸し出していた。

テンシノオスミツキ―ACT.1―

元が短編以下の分量なので、ショートな小説を集めて載っけるつもりだったのですが、できませんでした。ですが当初の目的(読者の皆様が知ったことではない)どうり、サイドストーリー的な感じのものは書けたと思うので、それなりに満足しています。

追記:
タバスコってあんまり辛くないですよね…嘘です。僕は辛党、甘党あんまり定まってないんですが、皆さんは辛党ですか?それとも甘党ですか?

さいごに:
皆様からのより多くのご意見・ご感想をお待ちしております。なにかといたらない点ばかりでごさいますが、最後まで御付き合い頂き、光栄至極に存じておりますので、もうひとつ、お手間をいただき、わがままにお付き合いください。

テンシノオスミツキ―ACT.1―

セイントターミナルのサイドストーリー集。 大豆生田と美冬との出会いの話―恩人天使― 悪戯心が悪夢を呼ぶ―晩餐天使― 美冬はこうして現世に現れた―誕生天使― 以上の三つの話を収録しております。

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 恩人天使
  2. 晩餐天使
  3. 誕生天使