死にたがりの日記<2>

日記を書いた人は…

電車の音がして目が覚めた。

目を開けても暗い部屋の中。
見覚えのない天井。

「電車?!」

俺は、慌てて飛び起きた。
だって、自分の家の近くに電車など走ってはないからだ。
しかし、近くでハッキリと聞こえる踏切の音と電車特有のガタゴトと言う音。
暗い室内を見渡せば、見覚えのない部屋。
混乱する頭を必死に落ち着かせようと、深呼吸。

(俺、寝たよな・・・)

確か、自分の部屋で眠りについたはずだ。
なのに、ここは一体・・・。
寝ていた所もベッドではなく布団。
暗がりでもうっすらと見える物は、部屋に置かれた棚に飾られた可愛い小物。
男性タレントであろう写真が大きくプリントされたカレンダー。
机の上には化粧道具。

いったい・・・ここは、どこなんだ?

部屋の中を見渡していると、ガチャッと鍵をあける音。
(やばい!)
そう思ったけど、部屋の間取りは1DK。
自分が身を隠すほどのスペースなどない。
焦って動けないまま、玄関が開いて、ダイニングの方の電気が神々しく光る。
それと、話し声。

「もしもし?」

それは、女性の声。
部屋からダイニングを覗く。
黒のパンツにポロシャツをきた女性がダイニングに座り込んで携帯電話に耳を傾けている。
そこで、俺は驚いた。

(なんで・・・?)
なんで、電話越しの声が聞こえるんだ?

そう。まるで自分が携帯電話を使っているかのように相手の声が聞こえる。

『ごめんね。電話に出らなくて』
「ううん。私も連続で電話してごめんね」
『ちょっと、仕事に疲れちゃってて』
「そうだよね?。4月に仕事変わったもんね。大丈夫?」
『うん。とりあえずは大丈夫』

相手の声は女性。

『スマイルの公演、当たってた?』
「ごめん。まだ、当落聞いてなくて。てか、いつ出たの?」
『昨日だよ』
「そうなんだ。そろそろだとは思ってたんだけど・・・」
『私、当たってたんだけど、1組、友達に譲る約束しちゃったんだよね』
「そうなんだ。でも、1公演は入れれば、私はいいと思うし」
『そう?一応、東京の最終公演だから昼と夜の部、2回入りたいかなって思ったんだよね』
「そっか。でも、私、たぶんチケット当たってると思うし、大丈夫だよ」
『そっか』

なんだか聞き覚え(見覚え)のある会話に俺は首をかしげた。
ダイニングの電気がついたために、自分のいる部屋の中も自分が目覚めた時よりも明るくなっている。
そして、気付いた・・・。

机の上に紫の日記が置いてあることに・・・。

(ここは、この日記を書いた人の部屋!)
じゃあ、今、しゃべってる彼女は、この日記の持ち主?!

彼女は俺に気付くこともなく会話を続けている。

「18日。時間あるかなって思って」
『ごめん。ちょっと無理かな…』
「そっか。前に言ってた仕事の話聞いてほしいなって思って」
『う?ん…今、疲れちゃって、10時には寝てるんだよね。スマイルのツアーのこともあるし…私、東京公演以外にも行く予定だから』
「うん。だよね。じゃあ、当落聞いたら、また連絡するね」
『うん。よろしくね』
彼女は電話を切って、肩を小さくふるわせた。
鼻をすする音がして、ため息が聞こえた。
彼女はノロノロと立ち上がり、部屋の方へと移動してくる。

(やばい!)
ついに見つかる!!
でも、なんて、言い訳する?
必死に言い訳を考えたが、こんなこと経験したことがないために、何も思い浮かばない。
部屋の電気がついて、彼女が部屋に入ってくる。
そして、机の前に座った。
俺の頭は真っ白になり、ただただ彼女の行動を見ているしかなかった。
彼女は、日記帳を開くと、ペンを走らせた。
時たま聞こえるのは、鼻をすする音。
(泣いている・・・のか?)
俺のいる位置は彼女の斜め後ろになるから、表情を伺うことができない。
それよりも、彼女は俺に気付いてないようだった。
(今のうちにここから出ていけばいい)
それしか、思いつかなかった。
だから、こっそりと玄関のある方へと向かった。

彼女が一層、大きく鼻をすすった。
俺はそれが気になって、彼女の方を振り向いた。
彼女は布団にドサリと倒れこむと、ボソリつつぶやいた。
「なんでこんなに弱いんだろう・・・」
仰向けになった彼女の瞳からは涙があふれていた。

俺は、そんな彼女を見つめたまま動けなくなっていた。

死にたがりの日記<2>

日記を書いた彼女の姿が出現。色々と不明な点はどんどん解明していきます。

死にたがりの日記<2>

日記を書いた人を見ることに・・・これは夢?

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-12

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted