仮面ライダーフォーゼ 忘・却・戦・記

新・星・誕・生

──天ノ川学園高校 -11:32


ノヴァスイッチから着信が鳴る。


「タチバナさん、ノヴァだ」

「……タチバナだ」


「ノヴァスイッチ」から聞こえるこの謎の男の声。
"タチバナ"という名前らしい。

いつもと変わりないこの声……
まるで人間的な感情はうかがえない。


「早速だが新(しん)、君に任務を与える…」


…出た出た、突然のご命令。
だが俺は、コイツに逆らう訳にもいかない。

何故なら……



──三日前


「……今日も、言いなりの一日か。」

 
つい三日前まで、「昴星高校」という奇妙な学園で過ごしていた。


 昴星には、"王様"と呼ばれる人間が存在する。
コイツに逆らえば、"処刑"される…といったところだ。


 俺が"ゾディアーツ"という怪物に関係を持ったのは、丁度この日だったか。



 ゾディアーツは、常人を超えた力を持つ生命体…
もっとも、ゾディアーツに変身するのは人間なんだが。

 ゾディアーツスイッチを押したが最後、そいつはもう人間でなくなる。
ゾディアーツは人間の本質をも変えてしまう。
ゾディアーツに呑み込まれたら最後、自らを捨て、本体をゾディアーツとして活動することになる。
この事を専門用語的に言えば、「ラストワン」と呼ぶらしい。

 人間は欲深く、醜いモノだ。そんなもんに人生を全て売り払うとはな…



いつものように、俺は教室の後ろのほうにある定席に座る。

「よう、新!調子はどうだい?」

……コイツは "天海 総太(てんかい  そうた)"。
中学からの親友だ。
当時はノリが嫌いであまり関わらなかったが、今ではそいつの存在無しでは、
この学園に登校しないほどにまで来ている。


毎朝、俺とは程遠い前列の席に座る総太が話しかけてくる。

「ああ、元気だ。」
明るい顔をせず、心の曇りを表情に表した。

「ああ~だめだだめだ!そんなんじゃだめだな~?」

「じゃあどうすりゃいいんだよ?」

「笑顔だよ笑顔!いつも言ってんだろ~?お前には笑顔が足りないんだよ!
ほら!笑顔!ニ~ッ!」

総太は俺の頬を横に広げ、笑った。

「よせ、総太。」
総太の手を、強めに払った。

高校生にもなって、という恥じらいの念よりは、
王様への恐怖心から沸き起こった感情だった。

「逆に言わせて貰うが、お前は、なぜ笑顔なんだ?」
総太はその言葉を予知していたかのように続けた。

「辛い時こそ、笑うんだよ!そうすりゃ、心の荷も軽くなるって!」
いつもなら、この流れで落着する。だが精神的な問題もあり、
とうとう俺は言葉を返してしまった。


"お前は陽気なんだよ……"


周囲が面食らった。
俺は勢いよく席を立ち、その場を立ち去った。

そしてこの一言が、総太との最後の言葉になるなんてことは、今は知る由も無かった。


カバンを机にかけ忘れたまま、逃げるように校門を後にする。


どこへ行くわけでもなく、俺の足は、ただ遠くへと歩み続ける。
やがて歩みは、駆け足へと変わっていった。


 どれくらいの時が経っただろうか。
とある公園付近に足を止めた俺は、ポケットから携帯電話を取り出した。
開こうとしたその時、携帯電話から着信が掛かる。
嫌な予感が俺の心を過った。

「天海総太さんが負傷を負いました!」

その言葉を聞いた後の、数時間の記憶はあまりない。

覚えていることといえば、昴星に戻り、図書室で"王様"に眠らされたこと。
それだけだった…



いつの間にか日は沈み、夜の図書室で目を覚ました。
そして、立ち上がった俺の目の前に、驚くべき光景が目に映った。

"影"が、前方に立っていた。

「驚かせてすまないね…」
感情のないその言葉は、なにか妙な力を伝えさせてきた。

「覚えているかね?キミを眠らせた、怪物の容姿を……」

「ああ…忘れるわけがない。あの恐怖を象った姿は。
 アンタ、あの怪物の正体を知っているのか?」

「言っていなかったね。私は"反ゾディアーツ同盟"の… "タチバナ"だ。
キミと接触を試みたのは他でもない。突然だが、キミに任務を与える…」

「お、おい?ちょっと待て。いきなり出会って任務ってどういうことだ?」
タチバナは俺の言葉を聞かずに続ける。

「キミには三日後、天ノ川学園高校に潜入してもらいたい…」

「おい、ちょっと待てって!反、ゾディ… ってなんなんだよ?それに!」

「頼む……キミの力が、必要だ」

タチバナの意外な言葉に、俺は何か深さを感じた。

「キミは、親友を救いたいのだろう?」
タチバナが親友の事態を知ることに対して、疑問は抱かなかった。

「だが、天ノ川に行く事と、それとどういう関係があるんだよ?」

「天ノ川学園に、危機が迫っている。君にそれを、阻止してもらいたい」

「危機… その、ゾディ…」

「ゾディアーツだ…」

「そうそう… ゾディアーツが危機って事か?俺にどうしろと?」
そう言うと、タチバナは驚愕の一言を放った。

「キミに、仇の的、ゾディアーツを倒す力を与えよう」

 タチバナという影は、この言葉を残して消え去った。
そして、影が立っていたと見られるその場所に、大きめの、黒い箱のようなものが置かれていた。

箱を開けると、プラネタリウムのような形をしたベルト状のモノと、
小型のスイッチのようなものが入っていた。
そしてもう一つ、手紙も封入されていた。


『そのアストロスイッチが、君の未来を切り拓く。NOVA-君の運命は、君次第だ』


 帰り道、俺はいつの間にか、総太の入院する病院の前にいた。
……躊躇していた。
面会時間がとっくに過ぎているのもあるが、もっとも、総太に合わす顔が無いのだ。

そんな自分を騙しつつ、暗い帰路へと赴く。
総太の笑顔、タチバナの影… まだ、頭が整理できない。

 翌朝、ノヴァスイッチから着信音のような電子音が流れた。
恐る恐るスイッチをオンにする。

「……タチバナだ」
昨日と変わりない、感情の無い声だった。

「…おい、これ、電話にもなるのか?」

「これから君と連絡をとる際には、これを利用させてもらう」

「ああ……」

「君に言い忘れていたことがある。今日から二日間、君は、その家から
一歩も外へ出てはいけない…」

「何?」

「危険を回避するためだ。君が思う以上に、アリエス・ゾディアーツは危険だ」

「アリエス・ゾディアーツ… あの怪物の名前か?」

「…その通りだ。君にはこの二日間で、君が持つ"ボクシング"の腕を高めてもらいたい」
俺は驚いた。この人物には、俺がボクシングができることを話した覚えは無かったからだ。

「何!?アンタ、なぜそれを知っている?」

「私は無知のまま君に力を与えた訳ではない。わかってもらえるかな?」
俺は、この胸の鼓動の速さを抑えることができなかった。
どこかで監視をされていたのか。それとも、タチバナは俺の周辺にいる人間なのか。

だが、俺は平常を保ちつつ続けた。

「…わかった。アンタのことは後々話してもらう。それが条件だ。」

「異議はない。では、失礼する」

タチバナとの通話は切断された。俺は、ノヴァスイッチをオフにする。


家の中にあるサンドバックをひたすら撃ち続けた。
家中に凄まじいほどの音が響き渡る。
もはや時間の感覚はなく、夢中に撃ち続けるばかりだった。

アリエス・ゾディアーツの姿を思い浮かべつつ…
そして、自分の弱さと、向き合いつつ…


──二日後 -11:32

ノヴァスイッチから聞こえるタチバナの声に導かれるように、とある学校の校門前に立っていた。

「今日から私が命令するまで、この天ノ川学園高校を通ってもらいたい」

「…だがタチバナさん、俺は入学届けを出していないぞ?」

「新、それは君で考えたまえ…」
タチバナとの通話が途絶えた。

ここで初めて、タチバナから「感情」が読み取れた気がした。
突き放す、というよりは、急いでいるといった感じだろうか。

「まったく、勝手な人間だな」

辺りを見回した。

二校の距離はそう遠くはないが、
天ノ川学園… 昴星とは随分異なっている。

これほど明るい雰囲気であるとは思いもしなかった。


職員室に向かい、見学の許可を得た。
どうやら三年生は、修学旅行で出ているようだ。

この学園の同級生は一体どんな人間なのか...まあ、興味はない。


総太から、文化祭のときの話を聞いたことがある。
空から人が降ってきたことや、無数の怪物が現れたこと。

間違いなく、ゾディアーツに関係がある。


一通り見回ったが、目立った現象は見られなかった。

昼休みも始まり、
諦めて帰ろうとしたとき、階段で話す生徒二人の話がうっすら聞こえた。

「そういえば、昴星に転校した三年の人が倒れたらしいぞ?」
「その人、どうやらゾディアーツだったらしいぜ?」

ここにきて、ようやくゾディアーツの話題だ。

「君たち、その話。詳しく聞かせてもらえないかな?」
彼らに歩み寄り、俺は"ゾディアーツ"についての話を聞いた。


どうやら、ゾディアーツは俺が思う以上に複数存在するらしい。
主に、学園の生徒がゾディアーツ化しているという情報がある。
その中には、行方不明になっている者も…。

この時、俺は初めてアリエスが倒された事を知る。
要するに、昴星にはもう、悪夢のような日々は訪れないということになる。

そして同時に、スイッチを使う、"白い戦士"についても知った。


 その戦士は、天ノ川高校3年生、短ランでリーゼントの男。
「仮面ライダーフォーゼ」

この時、2つの感情が同時に芽生えた。

ひとつは、一刻も早く伝えたい、感謝の気持ち。
そしてもうひとつは、アリエスが倒されてしまったという、複雑な気持ち。


先日、タチバナから "力" をもらったのだ。
親友に危害を加えた、アリエスを倒すための力を。

タチバナがなぜ家を出てはいけないと言ったのか。
おそらく、タチバナはフォーゼの存在を知っている。
俺だけでは、力不足だと判断したのだろう。


気付けば、ノヴァスイッチと、硬くテーピングのされた拳を握っていた。


タチバナは、俺からの連絡に応答しなかった。


夕方の天高。
これほど夕日の灯りに満ちた学校は知らない。

この学園は、時間が経つのが早く感じる。
さて帰ろう、そう決断した時─

ただならぬ気が、第六感を刺激した。
この気は、アリエスを見たときと似たような感じだった。

サングラスを掛けた黒いスーツのその男は、
何の気なしに、廊下に立つ俺の横をすれ違っていった。

男が俺の射程距離を外れた途端、
男の胸元から、アラームのような音が鳴り響いた。

男は振り返り、こうつぶやいた。

「おや…君、スイッチを持っているのか?」
軽くビブラートの掛かった高い声に、どこか迫力を感じさせた。

男はその胸元から、銀色の機械のようなものを取り出した。
アラームは、その機械から流れていたものだった。

発言から推測すると、この機械はおそらく、
スイッチの何らかのエネルギーに反応し、探知するというものだ。

男はアラームを止め、もう一度口を開いた。

「君の力を…見せてもらいましょう」

そう言った途端、銀色の機械を内ポケットに戻し、
ズボンのポケットから、奇妙な模様の付いた、黒い"スイッチ"を取り出した。
そのスイッチは、俺の持つスイッチとは異なった形状をしていた。

男がスイッチを押すと、黒いオーラを放ちながら、
翼、クチバシの生えた黒い姿へと変貌していった。

見た目からすると、こいつはおそらくカラス。

タチバナによると、ゾディアーツは星座がモチーフになっているということだ。
となると、コイツはカラス座のゾディアーツ…

「私の名はコルウス・ゾディアーツ。私と勝負しなさい、仮面ライダーフォーゼ…」

コルウスが手を上にかざした途端、黒いオーラと共に、
忍者のような姿をした仮面の黒い集団が現れた。

「行きなさい、ダスタード」

戦慄を覚えた俺は、とっさに廊下の階段を駆け下り、
校門まで全力疾走した。


校門前には、部活終わりの生徒等で溢れていた。
辺りは笑い声から、悲鳴に変わっていった。

ダスタードは彼らをも襲い、更に俺を追跡する。

校門を出ようとしたとき、
コルウスが空から向かって襲ってきた。

際どい所で身を横に交わし、擦り傷程度で済んだ。

コルウスは地上に降り立ち、ゆっくりと向かってきた。

「なぜ変身しないのですか、フォーゼ。このままだと死んじゃいますよ?」

どうやら奴はフォーゼを探しているらしい。
背負っていたカバンを地に下ろし、ベルトを取り出そうとした。
その時、激しい地面の揺れを感じた。

すると背後から、勇ましい声と避難を促す声が聞こえた。

振り返ると、人型の巨大な黄色いロボットがこちらに向かってきていた。

「うおおぉぉ!」

ロボットは俺の頭上を飛び越え、
コルウスにタックルを浴びせた。


その光景を目にしていると、
背後からモデル体系の女が叫んだ。

「ここは危険よ、早く逃げなさい!」

予期しない事態に、俺は従うしかなかった。
俺は校舎に戻って、奴らの行動を伺うことにした。
校舎に向かって走る途中、更に二人の生徒が現場に向かっていった。

一人はチャラく制服を着こなしている男。
もう一人は、一言で言うとゴス女。

「会長、そんなとこいると危険っすよ!」
チャラい男が俺とのすれ違いざまに言い放った。

モデル体系の女は会長と言われるポジションに存在するみたいだ。
おそらくここの卒業生か。

事件現場を見ながら走っていると、
ゴスが振り返り、俺のほうを不思議そうに見た。

「あの人…」

何か勘付かれたかと思ったが、向き直し、俺は校舎に入っていった。
そして、2階の窓から現場を見た。

「パワーダイザー」
黄色の戦闘機から、先ほど聞いた勇ましい声とは別の音声がここまで聞こえた。
おそらく操縦者の声とは別の、戦闘機に内蔵されたガイダンス音のようなものだろう。

パワーダイザーとコルウスは、
火花を散らす程の激闘を繰り広げている。

パワーダイザーは、コルウスの背丈の倍以上ある。
だが、勝負は徐々に、コルウスの優勢に傾いていった。


 コイツらは一体何者なのだろうか。そして、パワーダイザーとは一体何なのか。
なぜ、力を持っているのか。この事を "フォーゼ" というモノと結ばせると、
何かが繋がった気がした。

彼らを見てそう思っていると、
何かを感じたのだろうか。あのゴスが2階の俺と目を合わせたのだ。

俺はとっさにしゃがんだ。

「なんなんだよアイツは!」
もはや心の声が、言葉として口を通じ、発言していた。

その時、激しい爆発音が鳴り響いた。
立ち上がり、もう一度現場を見た。
そこには、倒れたパワーダイザーをコルウスが追い詰めようとする状況になっていた。
コルウスは黒いエナジー弾のようなものを、いまにも撃ちそうな勢いだった。

後方の3人は、悔しさで歪んだ顔と、硬く握った拳でそれを黙ってみていた。

"もうこれまでか"

この一言を、まるで絵に描いたような光景が俺の目にひどく映る。
そのときふと、総太の笑顔を思い出した。



「…分かったよ総太。」

そうつぶやき、決心した。
これ以上、総太のような人間を増やすわけにはいかない。
…あのゾディアーツを倒す。

カバンの中のベルトを手にとり、ノヴァスイッチを装填した。
腰に巻き、前面部の右脇にあるトリガーを引く。

「ノヴァ・レディ」

ドライバーからガイダンス音が響き渡り、
それに続いてロック調の音楽がループされる。

「変身!」

ドライバーのレバーを弾き、俺は眩い光に包まれた。

眩い光は爆発音と共に放射線状に放たれた。
気付いた時には、俺はコルウスを目の前にしていた。

校門外を走る車のバックミラーから、初めて自分の姿を見た。
車道は約30m以上離れた位置にある。
この時、異形の者へと変化した実感が得られた。

全身は灰色で、キラキラしたラメのようなものがちりばめられている。
頭部は銀色の硬い仮面の上に、半透明で深い橙色の五角形が装甲している。
右腕には、ブレスのようなものが装着されていた。


顔を下ろし、俺は思わずこの目で、変わり果てた腕を見つめていた。

「なんだ貴様は?」

目の前のコルウスがそう言い放つと、手のひらのエネルギー弾を俺に向けた。
背後では、突然現れた謎の存在に対して驚いている、そんな雰囲気が漂っていた。

「仮面ライダー……ノヴァ」
俺は静かに言い放ち、右腕を下ろしつつ顔を上げ、相手に向かって走っていった。

「ノヴァだと?」
コルウスはエネルギー弾を放ってきたが、拳で、その弾を軽く殴りつけた。

「シュッ!」

脳内で、そのエネルギー弾は拳で破裂させれるものだと予測できた。

左右に分かれたエネルギー弾は、地面に降下して爆発した。
爆煙の中を駆け抜け、辺りが見えず困惑しているコルウスに向かって
拳の一撃を与えた。

「フウッ… シュッ!」

助走があったため、拳にものすごい力が集まっていたのが分かった。
集まった力が相手の腹部に炸裂したとき、爆風と共に、相手は吹き飛んだ。

秘・密・計・画


コルウスは後ずさりをしながら、大きく翼を広げた。
「このままでは済みませんよ…」

そう言うと、空へ羽ばたいて、どこかへ飛び去った。

後ろを振り返ると、そこには、呆然と立ち尽くす奴らの姿が目に入った。

「あなた…何者なの?」
「ちょっと、メテオに似てる気がする…」

口々に喋っていたが、俺は聞かずに言った。
「お前たちは、なぜ戦っている?」

「俺たちは、学園と地球の自由と平和を守るために結成された "仮面ライダー部" っす!」
チャラい男が、即答を放つ。

「密かに学園や街をまもる陰の名誉は、俺達だけの勲章だ。お前は、誰なんだ?」
その男はガタイが良く、パワーダイザーの操縦者の声だった。

呆気にとられた。
仮面ライダー部…勲章…
戦っている理由がふざけ過ぎている。
こいつ等は、命が掛かっていることの重大さに、気付いていないのだろうか。

正体を明かそうと、変身の解除をしようとした。
「俺は…」

その時、変身を遂げた時と同じ光が俺を包んだ。
気付いたときには、変身が解けた状態で、元居た2階の場所に戻っていた。

突然、ノヴァスイッチから着信がかかってきた。
俺はさっきとは別の校門へと向かいながら、着信に応答した。

「タチバナだ。君はこれから、ゾディアーツと戦ってもらう。
 その上で、一つ注意してもらいたいことがある。」

タチバナはいつもより早い口調で話し出した。
ここでも、少し急ぎ口調だった。

「君はあくまで潜入員だ。君の正体は、誰にも知られてはいけない」

"陰の勲章"
ふと、その言葉が脳裏を過った。

「タチバナさん、フォーゼを知っているか?」

「フォーゼか。君には、教えなければいけないことがあったな」

その後、タチバナから全てを聞かされる。
それを聞きながら、無事に誰とも遭遇することなく、帰路へと向かった。


【スイッチ】
スイッチには、大きく分けて2種類存在する。
人間をゾディアーツへと変化させる"ゾディアーツスイッチ"

そして、俺の使う"アストロスイッチ"
"コズミックエナジー"と呼ばれる、未知なる宇宙空間のエネルギーを使用するために必要なものらしい。

【仮面ライダーフォーゼ】
天ノ川学園3年生、如月弦太朗が変身した戦士。
多彩なアストロスイッチを使って戦ってきたようだ。
タチバナ曰く、奴には関わらないほうがいいらしい。

【仮面ライダー部】
如月弦太朗の周辺人物で結成された、学園には秘密の部活。
深く知る必要はないらしい。


タチバナからこの話を聞いたとき、長期間の戦いになるだろうと予想した。

辺りは日も落ち、そろそろ暗くなってきた頃だった。
また、総太のいる病院の前で迷っていた。

心の中で、何かが騒いでいる。
これからどうすればいいのか。
本当にゾディアーツと戦っていけるのだろうか。

上を見上げてみると、
厚い雲に覆われた空は、月の光すらみえない。
まるで、俺の行く末を映し出しているかのようだった。

その時、ノヴァスイッチから着信が掛かって来た。

「新、すぐに天ノ川高校に戻りたまえ」
タチバナはかつて無いほどの、急ぎ口調だった。

「なんだ、緊急事態か?」

「君が帰ったのを見計らい、コルウスが学園を襲撃している」

どうやら、俺が学園からの一定範囲を超えたところを、コルウスが上空から監視していたらしい。

あの銀色の機械で、俺がスイッチを持っていることはバレていた。
そして、その後現れた仮面ライダーが、俺であるということを悟ったのだろう。

俺はすぐに天高に戻った。


案の定、広い校庭でパワーダイザーが倒れていた。
周囲一体、エナジー弾によるものと見られる炎が燃え盛っていた。
その脇には、操縦者であるガタイのいい男も倒れていた。

「大文字先輩!」

他のライダー部の奴らは、大文字という男に、近づこうにも近づけない状況だった。


木陰に隠れ、ドライバーを腰に装着する。

「変身!」

光が包まれ、変身した俺はコルウスの前に立ちふさがった。

「貴様、なぜ!」

「仮面ライダー…ノヴァ」

俺はとっさに右手に意識を集中させ、パンチを放った。

「くっ…」

それはコルウスの腹部に命中した。しかし、その右拳は徐々に力を失くしていく感じがした。
見ると、コルウスと接触している右拳の部分が、黒いオーラに包まれていた。

「これぞコルウスの力。触れた者の心を見透かして、その憎しみを奪い取る。そしてそれを、私の力に変える…」
要するに、他人の憎しみの力を、自分自身の力にしてしまう能力、だということだ。

コルウスはエネルギー弾をゼロ距離射程で放った。
俺は30mほど吹き飛ばされ、後に変身は解除されてしまった。

「あの人は…」
ゴス女がつぶやいた。


タチバナの言いつけを、守ることはできなかった。
仮面ライダー部の目の前で、この姿を現すこととなってしまった。

「あはは。君は油断をしていたようですね。私はあの時、決して逃げたわけではない。
 力を吸収し、あなたを倒すためにわざわざこの時を待って、計画していたのです。」

コルウスは翼を広げ、仮面ライダー部の連中に向かい、鋭利な黒い羽を数本放った。
その時、強烈なまでの憎しみが湧いてきた。

俺は、仮面ライダーの力を手に入れた。
さらに、ボクシングをしていたことが、幸運だったとすら感じていた。

しかし、コルウスにはパンチが効かないことはおろか、その一撃を自分の力にしてしまう。
この、憎しみの力を。

俺はもう一度変身した。

「彼らに…手を出すな!」

この言葉を放ったときにわかった。

実は、俺は気付いていたのだ。仮面ライダー部という、彼らの絆を。
勲章という見えないモノに対して、ここまで命を掛ける意味を。
きっと彼らも、俺と同じような境遇に立ったことがある人間なんだと。

「ネプチューン・レディ」

タチバナから、右腕のブレス状のものは「ノヴァギャラクシー」と呼ばれ、技を発動するためのものだと聞かされていた。
ガイダンスボイスが鳴り響き、人差し指で指紋認証を行った。

「OK・ネプチューン」

右手に気を集中させて、仮面ライダー部たちに放たれようとする羽に向けて振りかざした。

「シュッ!」

すると、ノヴァギャラクシーから凄まじい水の波が放出され、羽を粉々に砕いた。
水の波は、見事に羽だけを捕らえるように放たれ、周囲に危害を加えることはなかった。

「なんだこれは!」
突然の反撃に、コルウスは驚いたようだ。

「コルウス、お前の目的を教えろ。」
身構えながらコルウスに問う。

「偵察といったところですか。やがて来る人類のために、
 私はこの学園をステージに選んだのですよ。」

「ステージ?あなた、一体誰なの?」
会長が続けた。

「ふふふ。教えて差し上げましょう。私の名前は番場影人。」
コルウスは手を上にかざし、ダスタードを召還させた。

その数は、校庭を多い尽くすほどの数だった。

「でも、私の名前を聞いたら高く付いちゃいますよ?
 …代償は、あなた方の命」

そう言うと、コルウスは翼を広げ、どこかへ飛び去っていった。


「量が…多すぎる!」

「まずいっすよ先輩!ダイザーも使い物にならないんじゃ!こうなったら弦太朗さんに…」
チャラい男がそう言い携帯を取り出した瞬間、会長がそれを振り払った。

「だめよジェイク!さっき約束したことを忘れたの?」

「でも美羽、この数じゃ…」

「隼、あなたは黙ってなさい!」
ガタイの良い男がピンと背筋を伸ばした。

「分かったっすよ。会長が言うことなんじゃ仕方ないっすね」
しぶしぶ了解しながら、ジェイクは携帯を拾い上げた。

「フードロイドを…取りに行かなきゃ…」

仮面ライダー部はどこかへ行こうとしているようだ。
だがすぐに分かった。彼らは、月面基地"ラビットハッチ"に移動しようとしているのだと。

「お前たち、俺の後ろにつけ!」
彼らを、俺を先頭とする列にさせた。

「ウラノス・レディ」
ノヴァギャラクシーに指紋認証をする。

「OK・ウラノス」

空に右手をかざした。
すると、左右にいる周辺のダスタートが、耳を押さえだした。

ウラノスは、半径5km以内のゾディアーツやダスタードのコズミックエナジーに反応し限定させ、急激な気圧の上昇を体感させることができる。
このほかにも、同様の条件で、一定時間敵を浮遊させることもできる。

「ウラノスの効力は約5分だ。急ぐぞ!」

八方からの、仮面ライダー部の連中への攻撃を防ぎつつ、ある場所へと向かっていった。


「あなた、ラビットハッチを知ってるのね?」

「ああ。だが話は後だ」

俺は変身を解除し、"ロッカー"の扉を開けた。
タチバナが、丁寧に月面基地の入り口まで教えていたのは、このことを予測していたからなのだろうか。


【月面基地・ラビットハッチ】

ゲートスイッチと呼ばれるものによって、ロッカーと繋げられた月面に位置する基地。
使用されていない倉庫にロッカーが位置するため、今まで気付かれることは少なかったようだ。

この場所で、仮面ライダー部は喜怒哀楽を共に分かち合っている。


壁は白く、そこここに見たことのない機械が設置されている。
その他、彼らの私物と見られるギターやダンベルなども置かれていた。

ガタイの良い男、隼は、突然機械に触れた。
すると、窓らしきものがウィーンと音を立て、スライドされた。

窓の外には、黒い空間の真ん中で、地球が明るく照っていた。
これには驚いた。

「どうだ、すごいだろ。俺たちはいつもここで、仮面ライダー部としての活動を行ってきたんだ。」

大文字が得意げそうに言ってきた。

「南無…」

ゴスは、小壷で何か奇妙なものを精製している。
"友子"と書かれた赤い掛け軸のようなものが掛かっていた。

おそらくこのスペースはゴスの場所で、こいつの名前は友子か。

「でー、まだ聞いてなかったっすね。昴星の人みたいっすけど、名前は?」

「…俺は戸賀見 新(とがみ しん)。
 仮面ライダーであることは、アンタらにはバラしちゃいけなかったんだが…」

「あなたもまさか、タチバナさんからその力を?」
やはり、彼らもタチバナと繋がりのある人間であったか。

「ああ、ラビットハッチの存在も、タチバナさんから聞いた。だが、なぜそれを?」

「朔田流星という人、ご存じないですか?昴星からここに転校して来た人で、彼も仮面ライダーなんです」

朔田流星はジークンドーと呼ばれる拳法を扱う奴だ。
クラスこそ同じになったことはないが、俺は昴星の生徒たちに、朔田に似ていると言われていたらしい。

「知らないことはないが…別に、俺には関係ない」

「やっぱり似てる、流星さんに」

友子がつぶやいた。

「確かに~!そっけない態度とか、どっか不思議なとことか?」

「でも流星君は、今じゃすっかり心開いたじゃない」

「そうそう、あいつがあんなに雰囲気が変わるとはな。これも、弦太郎の活躍だな。」

どうしたことか、無償に彼らが羨ましくなった。
これほど深い絆で結ばれた者たちで、ゾディアーツに立ち向かうということが。

俺は孤独に戦っている。だが、それは力を手にする上で、必要なことだった。
総太のため、俺は孤独に戦い続ける。

「あまりゆっくりもしてられないっすよ」
チャラい男が、珍しく妥当なことを言う。

「そうね。新君、あなたに頼みたいことが一つ。あなたが仮面ライダーということを私たちが黙秘する代わりに、
 今修学旅行に行っている仮面ライダー部には、今回の事件については秘密にしてて欲しいの」

「みんなには、いつも助けてもらってました。
 だから、修学旅行くらい、のんびりさせてあげたいっつうか~」

「弦太朗たち秘密で学園の平和を守る。それが、俺たちと新との、陰の勲章だ」

彼らの眼差しは、熱く、優しかった。

「分かった。これは、俺たちだけの…勲章だな」
自分でも性に会わないことを言っているとは思った。
しかし、彼らは全員不思議がることなく、笑顔で俺を見つめた。

「さあ行きましょう!」

会長がそう言った瞬間、モニターが付いている機械から、着信音のような音が鳴り出した。

「かっ会長!流星さんから通信です…!」

「みんな、平常心を保つのよ!新君、どこかに隠れて」

会長の突然の無茶振りに慌てる部員たち。
それぞれが、まるでさっきまでここに居たかのように、自分のいつもの場所に座った。

俺は、梯子を上ったところに伏せた。

「朔田だ。修学旅行での近況を伝えようと思うんだが…」

「ぁー、ホント大変だぜ。ゾディアーツが出るわ、優希奈に無茶言われるわでよぉ…」

「ゾディアーツが出たんスか!?」

「あぁ、どうやら、京都にある石碑を狙っているようだ。それに、新たな幹部まで…」

「そうなの?…それで、優希奈って?」

「ああ、優希奈っていうのは、俺たちと同じ班の…」

「え!?ライダー部以外の子を、班に入れたの?」

「どうしても入りたかったらしい。弦太朗と一緒にいたかったみたいでなあ?」

「おい流星!変なこと言うんじゃねえ!
 …それで、優希奈がホント大変で…ゾディアーツが去ったと思ったら、今度は優希奈が現れて…
 あのあと嵐山行って、人力車引かされた……もうクタクタだ」

ここで、初めて如月弦太朗、フォーゼの人格を知る。
寛大な人間であることは予想通りだ。

近況報告はまだ続くようだ。
だがこのままでは、ウラノスの効果がもうまもなく切れ、学園が荒らされてしまう。

俺はカバンに入った手帳を取り出し、
偶然持っていたマジックペンで、彼らにこう促した。

(フードロイドは俺が持っていく。)

(お前たちは先に行って、注意を引きつけておいてくれ)

きわめて危険な行動を指示した。
しかし、俺はこの短時間で彼らとの結束力が結ばれている気がした。
それゆえに頼めたことだ。

「ああ、かなり手強い相手だ。このままだと、フォーゼの活動に支障をきたす」


「3年の高村優希奈か…んな派手な噂も聞かないッスけどね~」

「そういう人間ほど、思い込んだときは怖いの…フフフフフ」

「その子が嫌いになれるような態度をわざとできればいいけど、弦太朗には無理ね」

「確かに。弦太朗だとフォーゼだってことを秘密にするのが精一杯か」


彼らは通信に対して、冷たく突き放すように一言ずつ言い、それぞれラビットハッチを出て行った。

「……おい?…お~い?お~い!」

するとここで、通信は途切れた。

梯子を駆け降り、テーブルの上のフードロイドを手にした。

そしてラビットハッチを後にし、地球に帰還する。



【フードロイド】

仮面ライダー部の活動を支えるガジェット。
部員である城島ユウキが考案し、それを基に歌星賢吾が具現化させたものである。

アストロスイッチを装填することにより、
フードロイド自らが行動することが可能になる。

種類は豊富で、
ハンバーガーの形を模した、通信連絡を行える "バガミール"
フラッシュによる敵を撹乱するのに有効な"フラシェキー"
など多種存在する。



戻ったとき、ダスタードたちは丁度ウラノスの効果が解けたという具合だった。
俺は彼らにフードロイドを渡した。

「みんな、覚悟はいいわね」
会長が言うと、みんな頷いた。

「3!」

「2!」

「1!」

「宇宙、キターッ!」

ライダー部の連中が突然騒ぎ出した。
これは彼らの掛け声か何かだろうか。

彼らは勇敢にもダスタードへと向かっていった。

「変身!」

俺も変身し、ダスタードの群れへと向かった。

「シュッ!」

相手が予測しがたい動きで、確実にパンチをヒットさせた。

ダスタードの刀も正確に交わし、
その数を減らしていった。

一方、ライダー部の連中も、
横目で見る限り、フードロイドで敵を撹乱していた。

「一気に蹴散らす」
ノヴァドライバーからアストロスイッチを取り外し、ノヴァギャラクシーに装填させた。

「ノヴァ・リミットブレイク」

気を右拳に集中させると、
凄まじいエネルギーが沸いてくるのが分かった。
やがてそのエネルギーは、橙色の光を帯びて、拳に留まった。

そして、向かってくるダスタードの群れに拳を放った。

「シューッ… ハアッ!」

群れは吹き飛びつつ、爆発した。


ダスタードが完全に倒されたのを確認すると、変身を解いた。

そして仮面ライダー部の連中も、息を切らしながらこちらに向かってきた。


「ありがとう新君。おかげで助かったわ」

「あんな大勢を一気にやっちゃうなんて、さすがっすね~!」

「助かったのは、俺も同じだ。みんな、感謝する。」

「ああ、サンキュー、新!」

「これからもよろしく。秘密の仮面ライダー3号さん。」


仲間という暖かさを感じた瞬間だった。
そして、総太との、何気ない日常を思い出していた。

空・白・闘・日

翌朝、ノヴァスイッチから着信が来た。

「タチバナだ。新、今日の午後で、君の任務は終了だ。」

これでいつもの暮らしに戻れる。
しかし、本当にこれで終わっていいのか、という気持ちもあった。

「タチバナさん。俺は、仮面ライダー部に正体がバレてしまった。
 あんた、気付いていた筈だろ?」

「もちろんだ。君の行動はすべてこちらで把握している」

「じゃあなんで、俺にライダーとしての活動を続けさせてくれるんだ?」

「こちらからの君の行動を伺うことは可能である。
 ゆえに、君がどんな人間であるかも、私は把握している。
 ライダーを辞めろと言っても、聞かない人間であることくらいはな」


...ずっと勘違いをしていたようだ。
確かに、俺はライダーとして孤独に戦ってきた。
しかし、タチバナという人間の存在があるからこそ、俺はこの力を得たのであり、
その後出会った仮面ライダー部という存在があったからこそ、
昨日のように、だれかとの "感情の分かち合い" が出来たのかもしれない。

「総太の笑顔」を、もう一度見るために。


それは紛れもなく、自分が独りでは無いという証拠だった。

「…ありがとう、タチバナさん」

ノヴァスイッチをオフにし、最後の天高生活へと向かった。



ロッカーの外で入るのを躊躇していた俺は、
数秒後に来たジェイクと友子に連れられ、一緒に向かった。


すでにラビットハッチに来ていた会長と隼も、快く迎えてくれた。

今日の天気は雨だ。
ラビットハッチから見た地球の日本は、白い雲で覆われていた。


ラビットハッチでは、波乱万丈な彼らの学園生活や、
修学旅行に居るライダー部のメンバーに関しての事を聞かせてもらった。
彼らの仲間思いな心が、その話の内容を一層おもしろくさせていた。


授業が始まるジェイクと友子は、ラビットハッチを後にした。
俺も見学許可を貰うため、職員室に向かうことにした。



見晴らしの良い渡り廊下を歩いていると、後方から黒い気配が忍び寄る。
「昨日ぶりですねえ、仮面ライダーノヴァ。」

この口調、この雰囲気...間違いない。
振り返らずに、とっさにドライバーを装着し、ノヴァへと変身した。

背後からの攻撃を感じ、振り返りながら後方へ瞬時に移動した。

コルウスとの距離、約3メートル。お互いが向き合うようにして立ち構える。
授業開始のチャイムが、コルウスとの戦いのゴングとなった。

校内の混乱を避けるため、人けの少ない自転車置き場へと移動した。


「昨日の借り、かえさせてもらいますよ」

コルウスは翼を大きく広げ、先の尖った無数の黒い羽を放ってきた。
俺は、正確にその羽を見極めて、破壊していく。

羽に気をとられている隙に、コルウスが迫ってくる。
コルウスは貯めていたエネルギー弾を放った。

交わす術もなく、まともに攻撃を受けてしまった。

「ふふふ。所詮あなたは、憎しみの力のみを頼りにしている。しかしそれだけでは、仮面ライダーとしての責務は果たせません…」

コルウスは、エネルギー弾を見たことのないまでの大きさに膨張させ、放とうとしてきた。


 確かに俺は、憎しみの力で戦ってきたのかもしれない。



──だから、今から俺は、誰かのために戦うことを決意する。


「ウェヌス・レディ」
ノヴァギャラクシーのガイダンス音が響く。

「俺は変えてみせる、自分自身を。お前のように、自分の欲望を満たすために周囲を巻き込むような、腐り果てた悪人が蔓延る世界を...変える!」

「OK・ウェヌス」

右手に意識を集中させる。
総太の笑顔を思い浮かべながら…

すると、右手をみるみるうちに赤い炎が覆った。


コルウスを正面に向かって行った。
ヤツはかわす事なく、やがてその拳の炎が、腹部にヒットした。

「ふふふ…無駄ですよ、これも私の力に……」

コルウスが異変に気がついたようだ。
確かにコルウスの腹部に接触している右拳は黒いオーラに覆われている。

しかし、攻撃の威力は一向に減らないだろう。
なぜなら俺は、憎しみの力でコルウスに一撃を与えたわけではないからだ。

黒いオーラは、炎に焦がされていく。
やがてコルウスは耐えきれなかったのか、後方に勢いよく吹き飛ばされる。
さらに、溜めていたエネルギー弾はその勢いで破裂する。

「まさか…」
苦しそうな声でコルウスが地面を叩いた。

「これで最後だ!」

ノヴァドライバーの中央部分の黒い球体を回すと、虹色の輝きを放った。
「ノヴァ・リミットブレイク」

俺は助走をつけて、高く飛び上がった。
するとコルウスは危機を感じ、翼を広げ、逃げようとした。
しかし、わずかにこちらのスピードが上回り、コルウスの顔面部に鋭い右拳の一撃を与えた。

大きな爆発音と共に、コルウスが地面に落下した。

「仮面ライダーノヴァ。新たな星が、悪(おまえ)を誘う。」

身体からスイッチが飛び出したのと同時に、コルウスは人間の姿へと戻っていった。

ゾディアーツのリミットブレイクに成功すれば、
スイッチャーの使用したスイッチが身体から放出され、
これをオフにすれば、人間としての意思を取り戻すことができる。


番場のゾディアーツスイッチをオフにしようとしたとき、
突然強風が巻き起こり、何者かが姿を現した。
翼の生えた、全身ピンクの色をした怪物。

そいつはスイッチを拾い、番場を抱え上げた。

「ノヴァ……ご苦労だった。」
そう言うと、俺に金色の杖を向けてきた。


──君の事は、私が忘れない。永遠に…。




俺は、とある病室で総太の看病をしていたが、
いつの間にか眠ってしまっていたようだった。

目を開けた俺は、ベッドで眠る総太に目をやった。

総太は、笑顔だった。
耳に障る警告音と、機械に映し出された緑の直線──時が止まった気がした。



日の沈んだ帰り道、前方から天ノ川の生徒らが俺に向かって歩いてきた。

ガタイの良い男。
モデル体型の女。
チャラく制服を着飾った男。
ゴス。

真面目そうな男。
人工衛星のぬいぐるみを持つ女。
天高に転校した朔田。

そして、リーゼントの男。

「お前、戸賀見 新だよな?」

リーゼントの男は短ランで背が高い。
一見はただのヤンキーだが、極悪非道な者、という感じはしない。

「そうだけど?」

するとリーゼントは、俺のカバンを差し出してきた。

「俺は如月弦太郎!この前昴星に行ったんだけどよ、これパクられちゃいけねえと思って、
俺が持ってたんだ。渡すの遅れて悪かったな!」

お節介なやつだ。

すると、如月弦太朗は俺の背負うカバンを見て一言。
「新しいカバン買ったのか?すまねえ!」

その時、俺は何か違和感を感じた。

「いや、これは別に……」
ふと思った。俺はなぜ、このカバンを持っているのか。

「そうか!じゃあ、またな!」

「ああ、ありがとう。」
如月弦太朗、背後の連中に一礼し、その場を立ち去った。


俺は彼らの温かさに、触れたことがある気がした。




仮面ライダーノヴァの記憶
〜超・裏・舞・台〜


《完》

記憶


【タチバナ】

宇宙京都大学の江本教授が扮する姿。
仮面ライダーメテオ、及び仮面ライダーノヴァの支援者。
宇宙空間の人工衛星、MーBUSより地球を監視する。


【ヴァルゴ・ゾディアーツ】

宇宙京都大学の江本教授が扮する姿。
ゾディアーツの高位集団 ホロスコープスにその身を置いている。
ホロスコープスのトップである我望光明の暴走を止めるべく、
タチバナの仮面をかぶり、天ノ川学園や昴星の生徒らに力を与えた。

主に記憶を消す能力、および自由な場所へ移動できるテレポート能力を有している。
MーBUSへは、ヴァルゴのテレポート能力で移動していた。


【メモリーメモリ】

ガイアメモリは、地球に存在するものがデータとして記録されているもの。
メモリーメモリはガイアメモリの一種であり、その場に存在する、過去の記憶を吸収することができる。更に、その記憶を周囲の人間に見せることが可能である。

仮面ライダーWは、
ガイアメモリを悪用する組織との死闘を繰り広げた伝説の仮面ライダーである。
また、"仮面ライダー"の存在は、今日、都市伝説として扱われている。

仮面ライダーフォーゼ 忘・却・戦・記

仮面ライダーフォーゼ 忘・却・戦・記

舞台は、仮面ライダーフォーゼ 第33話『古・都・騒・乱』 及び 第34話『天・穴・攻・防』での、本編では描かれなかった、ライダー不在の「天ノ川学園高校」。 「タチバナ」が手を差し伸べた高校生、戸賀見 新と、「番場」なる怪しげな人物との死闘の物語。 全三章

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-31

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 新・星・誕・生
  2. 秘・密・計・画
  3. 空・白・闘・日
  4. 記憶