luminoxⅠ出会い

やっと完成しました!!
読んでくださる方、良ければどうぞ、暇つぶしにご覧ください。
私の文才だとそこまでではないと思いますが、残酷な表現や描写があったりする作品なので、嫌悪感がある方はお戻りください。
では、本編始まりです。

足掻け足掻くほど世界は残酷にあざ笑う。それでも、自由に憧れ、求めることを諦めなければ、いつかきっと…

世界には、人間、動物、それ以外の種族が生存している。
種族には妖怪、怪物、神等様々なものが存在し、人間たちは総称して多種族と呼んだ。
違う種族が生きる世界では、考え方の違いから、争いは頻繁に起こった。
発端は領地争い、意見の食い違いと様々だったが、あちこちで戦争をしていた。
人間は武器を、多種族は能力を、動物は牙や爪で戦った。
仲間の死を前に、怒りが、嘆きが生まれた。敵を倒すのに、多くの仲間が犠牲となった。
悲しみを前にこんな奴に、自分達が劣るわけがない、崇高な我らに勝利の栄光を、気持ちを奮いたたせた。
いつしか、自分達が一番強いのだと示す為の無意味な戦いになっていた。
ただの殺戮となっていく。
動物達は、争いから逃げるように森の奥深くに身を潜めるように散り散りに姿を消した。
それでも、人間と多種族は戦いをやめなかった。
心のどこかでは、命を散らすこと自体が必要なことに思えなくなっていたにも関わらず。やめることが出来なかった。
被害はより広がり、全滅した種族も中にはいる。
そして、終わらぬ争いを止める為、遂にある一人の人間が立ち上がり、多種族と協定を結ぶことに決めた。
双方の領地を荒らさず、必要以上に干渉しないことを条件として






「ルー!!どこー」

ここはある森の一角。周りは木々で覆われ、そよそよと風が葉をゆらす。
鳥たちがさえずり、リスが駆け回る。穏やかな森の中で、一際大きな声が名前を呼ぶ。
声の主、オーブは森の中をテクテク歩きながらキョロキョロと周りを見渡している。
その様子を不思議そうに動物達が影から見つめていた。

「ルー…いない…」

ワインレッドの瞳を潤ませ、眉毛はへにゃっとハの字に下がっている。
後ろで軽くまとめた黒髪は歩くたびにゆらゆら揺れ、しっぽのように見えなくもない。
しばらくすると、すんすんと鼻をならし、ぱぁぁぁぁっと明るい表情になるオーブ。
そして、木々の間をぬって、見晴らしの良い場所に出る。そこには一際大きな木があった。近くには湖が広がり、鹿やクマが水浴びをしていた。突然現れたオーブを気にすることなく、水浴びをしている。
木の下に立って、嬉しそうに上を見上げるオーブ。

「ルー!!」

オーブの見た先には、銀の髪を持つ青年が枝の上に寝そべっていた。
葉の隙間から漏れる光に照らされて、銀の髪は時折青く見える。
そよそよとなびく髪をそのままに、ルーと呼ばれた青年、ルーセントはチラリとオーブの方を見る。
表情がなく、サファイアの瞳がこちらを見つめている。
見る者がみれば冷たい印象の顔に、オーブは気にせずにこにこと嬉しそうに笑うと、腕を広げてまた、名前を呼んだ。

「ルー!!ご飯、できたー!!」
「…」

その言葉に返事はせず、頷きだけで返すと音も立てずにオーブの近くに降り立つ。
オーブはすぐさまルーに抱きつく。ルーは嫌がるそぶりも見せず、そのままにさせておき、いつの間にか事の成り行きを見守っていた動物達に手を振る。
動物達は各々頭を下げたり、手を振ったりしてこたえてくれた。
そして、オーブをくっつけたままルーは生い茂る森の中へと歩いて行った。

「ルー、今日はねー野菜シチューだよー♪」
「野菜…」

家路につきながら、隣を歩くオーブがルーに話しかける。
ここ最近野菜を食べていなかったので、つい反応してしまった。きっと、オーブが森を抜け出して野菜を調達しに行ったのだろう。
森を抜け少し奥まった場所に畑があり、そこで野菜を栽培しているのだ。
世話は動物達とオーブがしており、食べ頃になると各々欲しい分だけ持って行く。

「人参とねー芋をふんだんに使ったから、うんまいよー!!あ、長達にもあげてきたかんね」
「…元気だったか?」
「うん!!鍋ねー二つ分持ってったの。喜んでくれたよ!!ルーに会いたがってた。この前会ったのにねー」

楽しそうに話すオーブは、こんくらいの鍋だと身振り手振りで教える。
その姿が面白くて、ふと笑ったルー。
ルーが嬉しそうでオーブも嬉しくなった。はたから見れば、表情の変化に気づけない位の笑みだったが、長年共にいるオーブには手に取るようにわかる。
ルーはオーブの手をそっと握った。オーブは頷き、ルーの手を引いて家路までを一気にかけて行く。引っ張られながら、ルーは楽しそうに笑っていた。




「ルー今日も集会?」

夕ご飯を食べ終え、食器を洗うルーの後ろ姿に、テーブルを拭きながら聞くオーブ。
ルーは洗う手を止めずに頷く。オーブは頷く様子を見ていなかったが、気配で感じたのか、そっかぁとつまんなそうに呟いた。

二人で住んでいるこの小屋はけして広くはないが、過ごしやすい。
家具は最低限のものがあり、リビングにはルーの本棚が壁一面に広がっている。
リビングからはすぐキッチンが見え、必要な料理道具は揃っているようだ。
他に部屋は二つあり、寝室と洗面所である。洗面所には風呂とトイレがあり、オーブがいつも綺麗にするので汚れ一つない新品のような輝きを放っている。
テーブルを綺麗に拭き終わり、満足したようにルーの元へと行く。
ルーはオーブから布巾を預かると、ささっと洗って近くにはある短い竿に布巾を干した。そして、食器をすすぐのを再開した。
オーブは、ちらっと窓を見てからルーに言った。

「ルー、そろそろじゃないの?後は俺がやっとくからいーよ」
「…もう少し」
「いや、まだまだあるじゃん。大丈夫だって、いーから行ってきなよ」
「…」

粘るルー。そこで窓をトントンと叩く音がした。
どうやらいつも遅刻するルーの為に、今日はお迎えが来たようだ。
オーブが早く行けと目で合図すると、渋々といった様子でその場を離れ、ドアの方へと歩いて行く。

「オーブ」
「わかってるよー!!誰か来ても開けんなって言うんでしょ?もー心配しすぎ」
「…心配」
「わかったって!!大丈夫だから、さっさと行く行く」

と言いつつも、オーブはギュッとルーを抱きしめてからドアを開ける。
ルーは少し名残惜しそうにオーブをみつめるが、オーブはにこりと笑うだけで、部屋の中で手を振って送り出した。


スタスタと暗い夜の森の中を歩くルーと迎え。
迎えのものは、ルーの腰までの高さで、悠然と隣を歩いている。
姿は狼に酷似しているが彼はれっきとした獣族の一匹で、灰色の毛並みに顔の一部に黒い刺青があり、鋭い牙が見え隠れする。

《すみません、お邪魔してしまいまして》

少し不機嫌そうに見えたルーに、申し訳なさそうに話す獣。
ルーはちらっと彼を一瞥するが、感情のこもらない声で淡々と答えた。

「邪魔じゃない」
《ですが…》

言いにくそうに言葉を濁す獣に、ルーは首を傾げるが、言いたい事がわかったのか少し目を開く。

「仕事をとられただけだ」
《…はぁ…》

困ったように返答する獣に、ルーは気にする事なく歩を進めた。
しばらく歩くと、昼間とは違う開けた場所に着き、所々でユラユラと炎が揺らめいていた。
炎の光に照らされて、一際大きな獣や、小さな獣の姿がチラチラ見える。
獣達はどこかざわついている気もするが、何かあったのだろうか。気になっていると、ふと件の主が視界に入った。
件の主、獣族の長は炎を中心に座り込んでいた。
迎えに来てくれた獣よりは大きいが、それでもルーの肩ぐらいの大きさで白の毛並みに顔、体に黒い刺青があった。
ルーの視線に気づき、ふっと微笑んで話しかけてきた。

《またぶすくれてきたのか》
「違う」
《まぁ、いい。座りなさい》

凶暴そうな顔に似合わず、穏やか口調でルーに話す。
ルーが炎を挟んで長の前に座ると、迎えにきてくれた獣は一礼して長のそばに座った。
数が少ない事に疑問を持ち、ちらっと周りを見渡す。
その視線に気づいた長があぁ、と呟いてから話し始めた。

《今日は集会と言うよりお前達に警告だ。これは他の動物達にも言っているところだ》
「…警告?」

先ほどまでの穏やかな話し方とは違い、表情も口調も険しいものとなる。
いつもの集会ではあまりでないような重々しい言葉に、訝しむルー。
その様子を静かに見つめながら、ふと炎に視線をずらして長は口を開いた。

《どうやら、最近現れたらしい》
「⁈…長、もしかして…」
《あぁ、人間だ》
「な、んで…」
《…目的はわからない。今探っているところだが、なかなかつかめなくてな。とりあえずここには来れないだろうが…気をつけるにこしたことはない》

長は眉を潜めて苦々しく言った。
ルーは、いつにもましてザワザワとした感じがしたのはそのせいかと思った。
その後は、長が人間についての話しや、定期報告の話をしていたが、ほとんど頭に入ってこなかった。頭にあるのはただ一人。




「ルー、今日はいつ頃帰ってくるかなぁ」

部屋にあるソファーに寝転びながらルーの本を読むオーブ。
早々に食器洗いは終わり、洗濯物も畳んだ。風呂も沸かしたし、後はルーが帰ってくるだけである。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、うつぶせに寝そべって足をパタパタする。

そして、ふと動きをとめ、ガバッと起き上がる。
すん、っと鼻をならして、臭いを確かめた。

「…血の臭い」

すぐさま小屋を飛び出そうとして、ドアノブを握るが、一瞬頭に過るルーの言葉。
だが、森を穢すことは許さない。ルーと、獣族が治めるこの地を無断で入るのは愚か、血の臭いを放たせるとは、許し難い行為だ。
オーブは、念のため、部屋に置いてあったホルスターを腰に巻き、2丁の内小さくて小回りの効くハンドガンタイプの銃を持った。
そして、ルーが帰ってくる前に事を終わらせれば咎められない筈、と言い聞かせて勢いよく外に飛び出した。



森の夜は明かりもなく真っ暗で、夜目の効かないオーブには動き辛さがあった。
小さく、まだ森に慣れていなかった頃、何気なく夜に出歩いて不覚にも腕の骨を折ったことがあり、それからルーは夜に出歩くことを禁止した。出歩く時は必ず自分か獣族と共にいろと。
もう大きくなって、森の構造は頭に入っているが油断は出来ない。夜の森は恐ろしい。
臭いを頼りに、いつもより遅めに走る。
本当は急ぎたいが、それで自分が怪我をしては元も子もない。ましてや、ルーに怒られるのは本意ではないのだ。
段々と臭いが濃くなり、警戒しつつ近づいて行く。灯りが見えてきたので、木の影に隠れて様子を伺うことにした。
そこには男二人と、足元に転がる人間がいた。
どうやら臭いの根源は転がっている人間のようだ。
男たちの影になり、足元の人間の状態は見えないが、血の臭いからして死んでいるのだとわかった。
男達からは動物の血の臭いがした。

「なぁ、本当にこれでいーのか?」
「うるせぇな、上の命令だろーが」
「…で、でもよ、ここ、あの獣族が治める森だって聞いたぜ?」
「なら、余計に好都合じゃねぇーか!!罪を被せられるからなぁ」

その言葉を聞いた瞬間、オーブから殺気が溢れ出した。
下品な笑いをしていた男二人は、突如感じた寒気に警戒を強くする。
ゆっくりと茂みから現れたオーブに、腰に下げた銃を取り出すが、オーブにとってそれはただのおもちゃだ。
男二人を冷めた目で見つめると、ゆっくりと言葉を吐いた

簡単には… コロシテヤラナイ、よ?




ルーは、いつもより早めに集会が終わったことに喜びつつも、長が言ったことが頭から離れなかった。

人間が現れた

この森は神聖な場所なので、簡単には近づけない。獣族が護る地なので、近づくことがおこがましいと思われている、と前にオーブが言っていたがイマイチその考え方はわからなかった。
だけど、やっと取り戻した穏やかな日常、命をまた奪われるわけにはいかない。
同じ道を歩むわけにはいかないから、早く対策と注意をオーブと話しあおうと家路への道を急いだ。
早くオーブに会いたい。
何故か、胸騒ぎがした。


小屋に着くと、ドアが開け放たれていた。


「オーブ!!」

慌てて部屋に入り気配を探るが、オーブは小屋にいない。
焦る自分を戒めて部屋に行くと彼の愛銃の一つがなかった。
嫌な予感しかしなかった。どこに行ったのかもわからない。
困ったように眉を潜めたその時、微かに銃声が聞こえた。
聞き間違えるはずがない。この音はオーブの銃声。
急いで小屋を出て、銃声がしたであろう場所へと走る。



ルーにとって森の中はテリトリーだ。さらに夜目が効くので、ここでルーに敵うものはいない。急いで走っていると、後ろから追ってくる足音がした。誰かはわかっていた。
本当は走る速度を落とし、並走したかったが一刻も早くオーブの元へ行きたかったので、心の中で詫びながらスピードを上げた。
足音が段々と遠ざかって行く。臭いがきつくなってくる。


ルーが辿り着いた時、そこは血の海となっていた。


少し開けた場所で、月を背後にオーブが立っていた。
足元で、血だらけとなって虫の息になっている男を見下ろしている。
近くに二人の人間の死体があり、一体は四肢があり得ない方向に曲がり、内臓や脳みそなどの臓器がむき出しに飛び散り、見るも無残な姿だった。
こちらからは背中しか見えないので、オーブの表情はわからないが痛いほどの殺気が伝わる。

「こ、殺して・・くれ・」
「言ったろ?簡単には殺してやらないと」
「・・、・ば、化け物・が・・・」

虫の息の男が血の塊を吐き出す。生きているのが不思議な位に体はズタボロで、血だらけだった。オーブは男の腹と思われる部位に足を乗せる。
そして、持っていた愛銃を、男の胸部にむけ、ゆっくりと引き金を引く。

「オーブ!!!」
「!?」

そこで、我に返って名前を呼ぶ。早くこちらに戻さなければならない。
ルーの声にオーブの今までの殺気が嘘のように消えた。振り向いたオーブの顔は迷子のような不安そうな顔だった。
後ろから追ってきていた獣族の仲間が、いつの間にか追いついていて、ルーの後ろであまりの臭いに顔をしかめて呻いている。
ルーは静かにオーブの元へと歩く。それにならって呻いていた仲間が首を振り、大きな体を木々から現し、死体の元へとそれぞれ歩いていく。
ルーが近づくのを後ろめたそうに顔を背けて、じっと黙っているオーブ。
虫の息だった男は、獣族の仲間が口に軽く咥えてどこかに連れて行った。他の2匹も同じように咥えて歩いて行く。
近くで見ると、オーブの姿はひどい有様だった。
体中血だらけで、ひどい臭いだ。だが、怪我はしていないようだった。
顔をそらして視線を合わせないオーブの両頬をそっと包み込む。
驚いたようにちらっとこちらを見て、慌てて離れようとするオーブ。

「ルー!!汚いから・・」
「何故ここにいる」
「え・・っ・・・血の・・臭いが、したから」
「俺は家を出るなと言った」
「だ、だって!!」

ルーのいつも以上の無表情に怒りを感じとり、びくっと黙り込むオーブ。
いつもならこんな勝手なことはしないのに、何故今日に限って・・・
子供のように泣きそうな顔に、表情を変えずに話しかけた。


「理由はなんだ」
「・・・血が・・・」
「それだけじゃないだろう」

血の臭い位で危ない夜の森に飛び出すとは思えなかった。
だから、きっと何か他に理由があるのだと思った。

「・・・人間の血、だったから。穢されると思った」
「・・・」
「・・・ルーたちの森を、穢す奴は赦さない・・・同じにはさせない」
「・・・オーブ」
「しかも、あいつらルー達に罪をかぶせようとした。そんな奴ら、生かしておけない」

オーブの嗅覚は獣族の仲間が絶賛するほどよく効く。ましてや、自分の嫌いな、だけどよく嗅いでいた臭いに反応しないわけがない。
自分に黙って出ていくほど、許せなかったのだろう。彼は汚いものが嫌いだから。
傍にいるのに、また殺気を放つオーブの体をそっと抱きしめた。
腕の中で体が強張ったが、気にしない。オーブに付着していた血がルーの服にも染み込む。

「ル・・ルー・・・汚れちゃうから・・・」
「いい」
「・・・」

不安そうに、弱弱しく服を握るオーブ。
静かに、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

「森、汚しちゃって、ごめんなさい」
「・・・いい」
「・・・俺、綺麗にする」
「どうせもう長には伝わっている」

男たちを見つけて様子をうかがい、頃合いを見て追い出すつもりが、気づけば一番ひどい始末の仕方をしていた。
ルーに抱きしめられて、ぬくもりを思いだし、ようやく自分のした行為に気づいた。
結局自分が穢してしまった。赦されることではない。
それでも、ルーは何も言わないで傍にいてくれる。
それだけが今のオーブにとっては救いだった。
自分が守らなければならない相手に守られてしまうのは、少し恥ずかしくも嬉しかった。

だから、油断、していたんだと思う。



「ひっどい有様だなぁ」

声がした方向にすぐさま反応し、ルーを背に銃を構えるオーブ。
声の主は大して気にした風でもなく、茂みから姿を現した。
月明かりで声の主である男性の容貌が明らかになった。軍服をゆるく着ている。
まとまった茶色の髪、前髪は左寄せに、もみ上げだけが黒く、少し垂れ目なのが男性のフェロモンを醸し出しているように思う。
自分に警戒心を見せるオーブに気づくと、以外そうにその目を開いた。

「まじかよ、本当に人間がいるなんてな」
「…お前、奴らの仲間か」
「奴ら…?…もしかして、ここにきていた2人組の男か?」

とぼけたように言う男に対して、尖った声で話すオーブ。
男性は血まみれのオーブの姿を見て、少し眉をひそめるものの、ふいに当たりをキョロキョロ見渡し始める。
オーブは、男性から意識をそらさずに、ルーへと目配せする。
ルーは様子を伺うように男性から目を離さない。
その目は、男性の腰に下がる、長刀に注がれていた。

「俺は奴らを追っていただけさ。まさか、神聖なる獣族の森にまで来るとは思わなかったがなぁ」
「お前が追い詰めたんだろうが」
「人聞きの悪い。奴らが勝手に逃げ込んだのさ」

肩を竦めて全く警戒を見せない男性に、苛立ちを覚えるオーブ。
だが、次は間違えない。ルーも傍にいる。
銃を構えたまま、男性を威嚇し、追い出すことにした。
こいつは奴らとは違うにおいがするので、危険ではないと判断したのだ。

「今なら見逃してやるからさっさと出ていけ」
「へぇ…それは情け?脅し?」
「…愚問だな」

今まで黙っていたオーブの後ろで、冷たく言い放つルー。
気付いていただろうに、それでも今気付きましたとでも言うような仕草でルーを見る男性。灰色の目に、月明かりに照らされた銀なのに青く光る髪が見え、サファイアの瞳がこちらを静かに見据えていた。
すぐさまオーブがルーを背中に隠し、男性を睨んだのでその姿は見えなくなったのだが。

「見んな、汚れる」
「えっ⁈俺、バイキン扱い⁈」
「うるせぇ!!さっさと消えろって言ってんだよ!!…じゃねぇーと殺すぞ」

語尾をドスのきいた声で男性に言う。男性は怯むことなく、楽しそうに腰に手を当てて、オーブの顔を見る。
警戒心丸出しの、ワインレッドの瞳と気を抜いている灰色の瞳がかち合う。
それは短いやりとりだったが、長いように感じた。
先に視線を外したのは男性の方だった。
両手を上げて、ふっと微笑む。

「降参だ。ターゲットもいなくなった以上引き上げる他ない」
「…ターゲット?」
「ああ、言っただろう?追っていた、と。俺は人間殺しの2人組の男を追っていた。正しくは、人間を研究し、失敗作と呼ばれ…」
「黙って出ていけ」

淡々と話す男性に向かって、オーブの背に隠れていたルーが現れた。
隠れていた、と言うよりはオーブが隠すのでそのままでいた、といったほうが正しいかもしれない。
やはり光の加減で青く見える銀の髪が印象的だった。サファイアの瞳が男性の姿をちらりと写したが、すぐに傍にいるオーブに目をやる。一つ一つの動作が悠然とし、気品の良さを感じた。
彼の傍で今まで血気盛んだったオーブが、苦々しい顔で押し黙っている。
何かに耐えているようだった。その姿を労わるように優しく腕で包み込むと、ルーはこちらをみないまま再度冷たい声で話す。

「…人間の考えることは、いつでも卑劣極まりない」
「ごもっとも」
「奴らはここに住む動物を殺し、その血をかぶることで侵入した」
「…だからって、これはやりすぎじゃないかな?」

辺りに未だ濃く広がる血の臭い。
殺戮が行われたのは明らかな血の量、肉片。
その状況を見ていない男性からも、ここですごい戦いがあったのは明白だ。
それが、一方的だったことも、誰がやったのかも。

「…当然の報いだ」
「でも、殺していい理由にはならないよな?」
「…」

もう話すことはないとでも言うように、ルーは黙り静かにオーブをなだめている。
もはや、こちらのことなど気にもしていないようだった。
まだ、聞きたいことはあったがここで帰った方が良さそうだと男性は判断した。

「最後に一つだけ教えてくれ」
「…」
「何故、人間が入ることが許されないこの地にお前らはいる?そもそも、獣族は大の人間嫌いだ。それなのに、何故…」
「…人間じゃねぇからだよ」

静かに問う男性に、今まで静かだったオーブが怒りをはらんだ声で小さく言った。
距離があるため、聞こえるか聞こえないかの小さな声だったが、男性には確かに聞こえた。どこか、苦々しげな表情で、苦しそうに言うオーブの顔も見えていた。
その表情を隠すようにルーがそっと抱き寄せ、ギュッとする。
そして、ゆっくりと離れるとオーブの左手をしっかりと握り、帰ろう、と優しく声をかけて歩きだす。
男性には目もくれずに。慌てて、男性は声をあげた。

「ミスト!!俺はHOPE所属の、ミストラル・アバンスだ。また、会いにくる!!」

二人は振り返ることなく、森の中に姿を消した。それと同時に、周りから感じていた何かの視線からも解放される。
どっと汗が溢れてきて、初めて自分が緊張していたのだとわかった。
誰もいなくなった森の中、一人にやりと笑う男性、ミスト。

「掘り出しもんだな」

満足そうに笑って、踵を返すミストの言葉を聞いたものはいなかった。

luminoxⅠ出会い

luminoxⅠ出会い

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-07-31

Copyrighted
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