堕天使の烙印と炎の絆 第2話「異世界と涙」
登場人物
織川愛月斗 おりかわ あきと
姫咲アイナ ひめざき ---
ルスィル
ヴォートム・リノミティー
アイナの父親
アイナの母親
「ようこそ、クロノス王国へ」
俺はいまアイナに連れられて異世界ラスファルに来ている、ホント夢みたいだけど現実の出来事だ。
「こ、これがお前の世界か」
「そうよ、ラスファルにある国の一つクロノス王国よ」
「あ、あの飛んでる龍みたいなのはなんなんだ?」
「あれはフラドライゴンよ」
「あの浮かんでいる岩は?」
「あれは浮遊島、魔力の泉とか鉱石とかが眠ってるの」
「あの空にあるアレはなんだ?」
「あれは"クロノスの刻印"よ」
「クロノスの刻印ってなんだ?」
「そこがクロノス王国だって示す、いわば国旗みたいなものね」
「へぇ・・・・・・」
淡々と答えるアイナに俺は言葉が出ない、生まれて初めての異世界、想像していたのをはるかに上回る光景だった。
「じゃあ行くわよ」
「え、行くってどこにだ?」
アイナはすでに登山道らしき道を歩き始めている、
「どこってクロノスの首都アルヴィーンによ、ここにいたって何にもならないわ」
アイナは愛月斗など無視して歩き始める、俺は周りの景色に気を取られながらもはぐれないようにアイナについて行った。
森に入るとまさにそこは見たこともない動植物があふれていた。
螺旋状に伸びた木や七色に光る実、目が5つもあるトンボのような虫、まるでたとえるなら八岐大蛇のように首が8本ある蛇、極めつけは時々現れる翼を持った馬のようなライオンのような動物だった。
「あ、あれはなんだ?」
「あれはスティルクよ」
「ス、スティルク?」
「そう、大丈夫よとってもおとなしい性格をしているから、危害を加えなければかわいいもんよ」
じゃあ危害を加えたらめっちゃ怖いのか?まぁ動物のほとんどはそうだけどな。
まるでRPGの世界を冒険しているみたいだ、俺はそう思った。このふわふわとした緊張感、それに似た鼓動の高鳴り、俺はさっきまでの恐怖を忘れていつしかこの状況を楽しんでいた。
「なぁそういえばそのアル・・・なんとかってところまではどのくらいかかるんだ?」
「徒歩なら約4日ってところね」
「よ、4日!?」
おいおい冗談じゃないぞ、そんなに何日も歩いてられるか。だいたい4日もこっちの世界に居たらかーさん達が心配するだろうが!!
「でも大丈夫よ、この森を抜けたらファルスホーンで飛ぶから」
アイナは顔色一つ変えずに淡々と話す、
「ファル・・・・なんだって?」
「ファルスホーン、さっきのスティルクと似たような馬よ。でも気をつけて、スティルクと違って多少荒っぽいから、絶対に毛とか抜いたらだめよ」
あれ一応馬だったんだ、てかなんだよその馬、荒っぽいならさっきのスティルクとかいうので飛べばいいじゃん!!
まぁまたなんか言われそうだから口には出さないけど。
その後俺は約30分ほど周りの変わった景色に圧倒されつつも森を抜けた。
「で、そのファルスホーンとやらは一体どこに居るんだよ」
森を抜けるとそこは辺り一面爽やかな草原だった、生い茂る草花がどこか懐かしい感じを漂わせている。
空を見上げるとさっき話してくれたフラドライゴンや、鳥のような生き物が飛んでいた。だがアイナのいうファルスホーンとかいう馬はみああらなかった。
「ファルスホーンは普通は夜行性なのよ」
「じゃあ夜まで待ってって言うのか?」
冗談じゃないぞ、そんなに待ってられるか。
「大丈夫よ、ファルスホーンには2種類いるの」
「2種類?」
「そう、夜行性のとそうじゃないの」
「つまりその夜行性じゃないファルスホーンに乗っていくんだな」
なるほど理解した、異世界はなんとも複雑だ。
「でもそれを見つけるのが大変なのよねぇ」
「は?」
「普段は姿を隠しているから、見つけるのは骨よ。下手したら1日中探しても見つからないかも」
希望から絶望に叩きつけられる音がする。
「ちょ、それって」
「でも大丈夫、あたしが呼べばすぐ来るから」
理屈が無い、根拠が無い、やっぱり異世界になんかくるんじゃなかった。
突然アイナは口笛を吹く、そんなんでやってくるならだれも苦労はしな・・・・い・・・・・・。
「ほら」
「・・・・・」
来た、背中に翼をもつ馬が。
「こ、これがファルスホーン?」
白く整った美しい毛並み、金色に輝く瞳は全てを見透かすかのように俺を見つめる。そして何より美しいのはその翼だった、丁寧に整った白く美しい羽、その一本一本はまるでダイヤモンドのように輝いて見えた。
「さぁグズグズしないで、さっさと乗って」
気がつくと既にアイナはファルスホーンの背中にまたがっていた。
「あ、あぁ」
俺はアイナに差し伸べられた手を握り背中に上る、だがここで一つ問題が生じた。
「つかまる場所が無い」ことだった。
翼をつかむわけにはいかないし、かといってアイナにしがみつくわけにもいかない、俺は混乱した。
すると前に座っているアイナが振り向き言った。
「あんたつかまるところないでしょ、あたしにつかまりなさい」
「は?」
「だからあたしにつかまりなさいって言ってるの、そのままじゃあんた振り落とされるわよ」
「つ、つかまるって言ったって・・・・」
アイナは小柄だ、だが以外にも胸がありプロポーションもよい。
アイナの性格を知っていなければ「こんな美少女につかまれるなんて幸せ」とか思うのだろうが、今の俺にとっては罰ゲームのようにしかみえない。
俺は仕方なくアイナの腰にそっと手を当てる、するとアイナはその手をグッと引き寄せる。
「ちょ」
「もっとしっかりつかまらないと、振り落とされたいの?」
「い、いえ滅相もない」
ちょ、やばいってこの体勢は、密着度はんぱないんだけど。てかこいつの髪いい匂い・・・・、ってそういう場合じゃねーよ。
「あ、あのアイナ、アルヴィーンにはどれくらいでつくんだ?」
「大体3時間ってところね」
3時間、3時間もこんな体勢でいなければいけないのか?いくらなんでも俺の理性が持たん、絶対に死ぬ、確信した絶対死ぬ。
「と、途中で休憩とか取らないのか?」
「はぁ?休憩なんて取っていたら夜になっちゃうわよ」
「で、ですよねー」
万事休す。
俺は死なないためにほかの事を考えることにした、数学の公式・英単語・歴史の偉人達・昨日見たお笑い番組の事・食べそこなったハンバーグの事、だがどれとして気をそらすことはできなかった。
「じゃあ飛ぶわよ!!」
アイナがそういうとファルスホーンは勢いよく走りだす、俺は急に現実に引き戻されすこしあわてた。
ものすごいスピードだ、俺は振り落とされそうになるのをこらえる。
「うわっ」
「しっかりつかまってなさいよ!」
「お、おう!!」
し、しっかりって、俺の理性が持たねぇよ!!
なんてことも言ってられない、俺は必死でアイナにしがみついた。
涼しい風が何故か汗ばんだ俺の身体を冷やす、俺は恐る恐る閉じていた目を開ける、するとそこは"空の上"だった。
「と、飛んでる」
まさに夢物語が現実になった瞬間、俺は今まさに空を飛んでいた。
「す、すげぇ」
やっと出た言葉がそれだ、我ながらもっとましな言葉は出ないのかと思う。だがこの光景、まさにすごい以外の言葉が出なくなるほどだった。
下に見えるのは真っ白な雲、そして目の前に広がるのは真っ青とした青空だった。
「そういえばあんたの名前まだ聞いてなかったわね」
いまそれを聞くか?しかもさっき遮っておいて。
「いまは言いたくない」
「は?」
「だってよ、こんなすげぇ景色が目の前に広がってんだぜ、おれめっちゃ感動した」
本当に涙が出そうになる、あんな平凡な日々から一転気づいたら空の上である、涙が出てもおかしくはないと俺は思った。
アイナはそんな俺に呆れたのかため息をついて前に向き直る、その一瞬だけだが俺はアイナが笑っているように見えた、まぁ多分気のせいだろう。
3時間、それはあっという間に終わってしまった。
気がつくとファルスホーンは徐々に下降しやがて雲の中へと入っていく、そして雲を抜けるとそこには巨大な"街"が広がっていた。
「こ、これが?」
「そうこれがクロノス王国の首都アルヴィーンよ」
アルヴィーン、それは巨大な塀に囲まれた都市だった。
都市の真ん中あたりには巨大な一本道があり、その道には人があふれかえっている。馬車や兵隊、商売をしている露店も見える。そしてそんな一本道の先には巨大な川と橋があり、その橋の先には大きなお城がそびえ立っていた。
「あのお城・・・・」
「あの白は"ホワイトムーン・キャッスル"、クロノス王族のお城よ」
「じゃあお前の家ってことか」
「まぁそうなるわね」
いつだか童話の絵本で見たようなお城だった、そして二人を乗せたファルスホーンはそんなお城に降り立った。
ちょうど中庭のようなところだろうか?そこには召使と思われる男女数名と兵士2人、そして高貴なドレスを来た女性と王冠をかぶりいかにも「王様」って感じの白ひげを蓄えた人がいた。
俺とアイナはファルスホーンの背中から下りる、するとドレスを来た女性がこちらにむかって走ってくる、そしてアイナを抱きしめた。
「ただいまお母様」
「あぁ、アイナよくぞ帰ってきました」
「お、お母様?」
なるほど、どことなく面影がある感じだ。柔らかなブロンドのかかった金髪にブルーの瞳、アイナそっくりだ。
「で、そちらの方は?」
突然アイナの母親が俺の方にキッと目を向ける、その目はまるで天敵をみるかのような目をしていた。
「えっと俺は・・・・」
なんて説明すりゃあいいんだよ、恋人ですってか?いやいやそんな誤解をまねくようなこと言うべきじゃない、命のなんたらを結んだ人?それでいいのか?おいアイナ何とか言ってくれよ!!!
「あぁ、こいつはギャベロン」
「織川愛月斗だ!!」
「だそうだ」
こいつまだそのネタ引きずってたのか、てか話すことそれだけ!?
いやいやもっとほかに何かあるだろ?それにこの人たちが聞きたいのは俺の名前じゃなくて俺とお前の関係だって。
「いや、アイナほかにもっと言うことあるだろ?ホラ例えば」
「こいつは巨乳好きの変態だ」
「違うわ!!!!」
俺の部屋で見たエロ本から連想したんだろうが、俺はどちらかというと小さすぎず大きすぎず、ちょうどいい感じの胸が、ってそういう問題じゃない。
「いや、そうじゃなくてなアイナもっとほかに言うことあるだろ?」
「ん、なによ」
「いや、だから命のなんたらを結んだっていうアレだよ」
ここまで言えば思い出すだろう、てかなんでこいつ忘れてんだ?自分から言ったんだろうに。
「あぁ、こいつは私と"命の契約"を結んだ"堕天使い"の一人だ」
え?なんですその単語、生まれて初めて聞きますなぁ、だてんつかい?なにそれ、もしかして俺の事?
「アイナ」
「なによ」
「その堕天使いってもしかして俺の事?」
「あんた以外にだれがいんのよ」
やっぱりだ、なんとなく俺の中で理解が出来た。
つまりはオリアスとかいうやつと"命の契約"を結んだ人間は"堕天使い"と呼ばれる、そうかそうかようやく理解できた。
「なるほど君がアイナの契約者か」
「えぇ、おじいさま」
「お、おじいさま?」
アイナのいうおじいさまとは、王冠をかぶり白ひげを蓄えた老人だった、たとえるなら「ハリー・ポ○ター」に出てくるダン○ルドア校長みたいな人だ。
「ど、どうも」
「うん、よく来たね」
優しげなその言葉はキツイ言葉をアイナから浴びせられ続けてきた俺には何よりの癒しとなった、血縁者とはいえアイナとは大違いだ。
すると突然背中に悪寒が走る。
「え」
俺はあたりを見回す、何故か数名の召使は全員俺を睨み、そして2人いた兵士も何故か十数名に増えており、さらにその全員が俺をものすごい形相でにらんでいた。
「あ、あのあの人たちは一体・・・・」
俺はアイナのおじいさま、つまりは王冠の人にあそこにいる召使や兵士の事を聞いた。
「ん、あぁ、あれは我が城の召使と衛兵たちじゃよ」
「いや、それはわかるんですけど、なんで・・・・その・・・・」
「ん?」
「いや、なんでもないです」
なんか「言ったら殺す」っていう殺気があそこにいる人たちから出ているような気がした俺は言葉を濁した。
「あーあ、ありゃー完全に嫉妬してんなあいつら」
「え?」
突如後ろから男性の声が、振り向くとそこには赤い髪をした筋肉質な青年が立っていた。
「よ、堕天使い」
「え、えっとどちら様で?」
赤い髪をした短髪男、筋肉質なその体には何やら見慣れぬ服と鎧を着ており、さらに男の瞳は左右で色が違っていた。
「おお、ヴォートム帰ったのか」
王様が手を広げ喜ぶ、どうやらこの人の名前はヴォートムというらしい。
「ルスィル殿下、クロノス王国衛兵師団2番隊体調ヴォートム・リノミティーただいまアルバロン宮殿より帰還致しました」
ルスィル、この王様の名前らしい。
「そうか、よく戻ってきてくれた長旅で疲れたろう」
「いえ、それよりお耳に入れておきたい情報があります、後ほどお時間をいただきたいのですが」
「うむわかった」
俺はただ呆気にとられるばかりであった、これが噂に聞くなんとやら、目の前に起こっている状況に俺は夢のような感覚を覚えた。
「あ、そういえばアイ・・・・ナ・・・・・・」
俺はアイナに「俺はどうすればいいんだ?」と聞こうとしたんだ、でも突然視界が真っ暗になる。そして俺は真っ暗な夢の世界へと堕ちて行った。
そこは子供の頃によく遊んでいた公園だった、桜木公園と名付けられたこの公園は春になると満開の桜を咲かせることで結構有名な場所だ。遊具も充実していてよく休日とかに姉の楓と夏月と一緒に砂場や滑り台、ブランコなんかで遊んだものだ。
「懐かしいな」
実は今はこの公園は無い、数年前に高層マンションを建てるとかでさら地にされ1年くらい前にマンションが出来た、周りの住民は猛反対したのだが、地元の名士香坂家によって押し切られてしまったと母が言っていた。
「ってことは夢か」
いま有るはずのない公園、そこにいるってことは間違いなく夢だ。
愛月斗は急に懐かしくなってすぐそばにあったウサギの形をした遊具に手を触れる、すると突然辺りが炎に包まれた。
「っ!?」
愛月斗は突然現れた炎から身を守る、すると炎は何故か熱くもなく何も感じなかった。
「こ、これって・・・・・」
魔法?っておもったけど違う、なんていえばいいかわからないけど、アイナが見せてくれた魔法の感じが全然しない。
それどころか徐々に辺りの光景が変わっていく、今度は小学生の頃よく夏休みとかで言っていた仙台にある親戚の家だった。
千恵ばあちゃんと利治じいちゃん、二人とも6年前に亡くなってしまった。おじいちゃんおばあちゃん子だった俺は葬儀の日にワンワン泣いたのを今でも覚えている。
だけどその家には二人ともいた、古くて今にも壊れそうなちゃぶ台に二人並んでお茶を飲んでいる。
「・・・・・」
俺は突然目頭が熱くなるのを感じた、たぶん泣きそうになっていたんだろう。だけど、懸命にこらえる。
ボッ
愛月斗の目の前の光景は再び炎に包まれた、そしてある日の愛月斗の過去を映し出した。
「あ、あぁ・・・・・」
それは俺が記憶の隅に封印していた記憶だった、目をそらそうとする、だけどその記憶は過去は否応なく俺の中へと入ってくる。
「やめろ、やめてくれ・・・・」
思い出したくない過去、とっくに忘れたと思っていた過去。でも違った、あの日の事は一生俺の重荷となって俺を苦しめ続けるんだ。
そう、俺は親友を・・・・・・。
「うわああああああああああああ!!!」
愛月斗はものすごい悲鳴を上げてベッドから起き上がる、荒れる息遣いと大量にかいた寝汗から嫌な夢を見ていたような感じだ。
「はぁはぁ・・・・」
「ど、どうしたの?」
あわててアイナが部屋へと入ってくる、どうやら俺は眠っていたようだ。
「い、いやなんでもない」
俺は額にかいた汗をぬぐう、するとある異変に気づく。
「あれ、俺の来ていた制服は?」
「そんなもん召使に渡して洗濯させてるわよ、いつまでもあのままってわけにもいかないでしょうが」
なるほど、アイナも制服姿ではなく白い羽が肩のところに着いたマントを羽織っている。俺もなにやら黒いジーパンのようなスボンに同じく黒のシャツを着ていた。
「それより起きたんならついてきて」
「へ?」
「あんたの事をお父様や老師達に報告しないと」
お、お父様!?っておい話が急すぎてなにがなにやら、それでなくても寝起きで頭グラグラするのに、
「はやくしないと置いていくわよ」
「ちょ、ちょっとまてよ」
俺はベッドから下りる、用意されていた靴は黒革のブーツのような靴だった、高級品らしい流石に履き心地は抜群だ。
部屋を出るとそこは大理石の床がひろがっていた、さらに壁には様々な絵画や坪、鎧などが無数に展示されていた。
「こ、これって」
「あぁ、全部私の持ち物よ」
「ぜ、ぜんぶぅ!?」
「えぇそうよ」
化けもんだ、この女絶対化けもんだ。
たぶん地球で売ったら一個数百万とかするんだろう、そんな美術品が全部アイナのもの。恐るべしクロノス王家!!
さらにアイナは話を続けた、どうやらここにある美術品はクロノス王家が所有する美術品の1割にも満たないらしい。
「全部っていったらどんだけあるんだ・・・・・」
「さぁ、数万とかじゃない?」
「こ、言葉に?で、できな?い?」
いつぞやCMなんかで聞いたことのあるフレーズを口ずさむ。
やがて美術品の展示コーナー(?)は終わり巨大な扉の前に来た。
「い、いよいよか・・・・」
なんか緊張するなぁ、俺大丈夫か?余計なこと言うなよ俺の口!!
「じゃ行くわよ」
「お、おう!!」
「声がでかいわ」
「す、すまん」
「緊張しなくてもあんたはただ突っ立ってればいいから」
ただ突っ立ってればいいからって、そんなこといったって緊張するもんは緊張するんだよ!!
やばい、変な汗かいてきた、今すぐ倒れそう。
だが無情にも巨大な扉は「ギギギッ・・・」という音を立てて二人を中へと招いた。
「_______では、その男がお前の"契約者"だというのかアイナよ」
「はい、その通りですお父様」
「なるほど・・・・」
巨大な部屋、アイナは王家の間って言ってたな。王家の間に俺とアイナが来て約30分が経った、先程までアイナは事のお父様と老師ら5名ほどに説明していたところだ。そしていまようやくその説明が終わった。
「そこの少年」
「は、はいっ!!!」
ちょ、アイナ!!俺はただ突っ立ってればいいんじゃなかったのか!?もろお前のお父さん俺に話しかけてきたぞ!!
「少年、名を何という」
「は、はいっ!!お、織川愛月斗です!!」
「そうか、愛月斗というのか珍しい名だ」
いや、それはあんたらが外人みたいな名前をしているからだろ?俺はれっきとした日本人、あんたの娘だって"姫咲"ていう日本人の名字がついてるじゃねーか。
「では愛月斗とやら、そなたは"堕天使い"が何かを知っているのかね?」
「え、えっとそ、それは・・・・・」
「知りません」なんて言ったらヤバい空気になってきてる、というかヤバい空気だ。第一俺はアイナからまだあまり事の次第を聞かされていないし、そもそもなんで俺がアイナと契約を結んだのかそれすら俺は知らない。
「私はまだ彼に事の次第を話していません」
ちょ、ええ。アイナさん、そんな正直に言わんでも・・・・。
「話していない、とな?」
アイナの父親が怪訝な顔をする。
ほらほら、なんかすげぇ顔してるよ。まずいって、この空気はまずいって!!
だが俺の心配をよそにアイナは言葉をつづけた。
「この少年は魔法の存在をあまり信じていません、なので私はこの少年を朱雀師団に入れて、そして魔法の存在を自ら信じてもらおうと考えていたのです」
え、なにそのあとからつけたような言い訳。そんなんで納得するわけが・・・・
「なるほど、よかろう」
「何納得してんの!?」
「ん?」
「あ、い、いえ・・・」
つい声に出してしまった、にしてもここの人たちなんかちょっとズレてる、アイナにしたってどことなく常識人とは言い難い。
「ではその者の朱雀師団入隊を許可する」
「え?」
す、朱雀師団?なんだそれ、まぁ言葉の響きから察するに軍隊みたいなところか。って、おい!!
「なんでこうなるの?」
「あら、あんたが魔法を信じないからじゃない」
「いや、そういう話じゃなくて」
俺とアイナは王家の間から出る、思っていたより早く終わった。結局俺は朱雀師団とかいう謎の組織に入れられてしまった、一方のアイナはというとディアナ共和国とかいうところの王宮に行かなければならなくなった。
「じゃああたしがこっちに戻ってくるのは1週間後くらいだとおもうから、それまでに朱雀師団で頑張りなさいよ、逃げ出したりしたら殺すからね」
その言葉は本気だった、だって最後の方若干殺意はいってたもん。
「っておい!!だから何なんだよその朱雀師団って」
「簡単に言っちゃえば傭兵部隊よ、クロノス王国最強の」
「だから、なんで俺がそんなとこに入んなきゃいけないんだよ」
「あ、あんたには話して無かったわね」
まったく、こいつは俺に話していないことが多すぎる。それでなくても異世界に来てまだ若干ながら混乱していると言うのに、
「オリアスと契約した堕天使いにはね魔力が宿るのよ」
「魔力?俺に?」
「そ、その魔力はあたしがあんたから吸い取った生命力と血の"代価"として宿るものよ。そしてその魔力は契約したオリアスの魔力が強ければ強いほど強力になる」
「ちょ、ちょっとまて、話が少し高度すぎる」
「ったくレベルの低い頭ね、よくそんなんで夕空学園に入学できたわね」
こいつ、おれの痛いところをピンポイントで潰して来やがる。
「つまりいっちゃえばあんたは今"魔法師"なの、はい終わり!」
「は?そんだけ!?」
「あんたに説明するのめんどくさいのよ」
そ、そんな理由で大事な説明をものすごく簡単にまとめないでほしいものだ。そっちからすれば些細なことかもしれないが、俺からしたらものすごく重要なことなんだぞコレは!!
「じゃ、後は自分一人で何とかしなさい」
「ちょ、待てよ!!」
俺は一人でスタスタと歩き出したアイナを引き留める、こいつは俺をこのまま放置プレイする気か?
「なによ」
「なにじゃねぇよ、勝手に俺をここに呼んでおいて用がすんだら放置プレイかよ!!」
「はぁ?なんのこと?」
「なんのことじゃねーよ、俺はさっさと元の世界に戻りたいんだよ!!」
「無理よ」
「なんで!?」
「あんたの世界に戻るには"イプテリアの日"がこないと無理なのよ!!」
イプテリアの日?なんだそれは、休日か何かか?
「じゃあそのイプテリアの日ってのはいつなんだよ!!」
「知らないわよ!!」
カチン、ときた、もう我慢の限界だ。
俺は今まで抑えていた言葉をアイナにぶつけた。
「知らないって、おまえふざけんなよ!!勝手に変な契約結ばせやがって、お前のせいで俺はこんな目に会ってんだぞ!?それを何とも思わないのか!?俺はおまえなんかのためにここまで来てやったのに、そんな曖昧な言葉で"はいそうですか"って引き下がれるか!!」
俺はほとんどマジギレに近い状態で怒鳴った、さすがのアイナも目を大きく見開いて黙りこくった。
「さぁ早く俺を元の世界に戻せ!!お前が何と言おうとお前が勝手に連れてきたんだからな、俺を元の世界へ戻せ!!」
ここまで言って俺はようやく我に帰る、すると突然アイナの目に涙が浮かんだ。
「うっ・・・うっ・・・」
「な、泣くなんて卑怯だぞ・・・」
一般な健全な青少年ならだれでもそうだろう、男は女の涙に弱い。それが大嫌いでどうでもいい女なら放っておくのかもしれないが、少なくとも愛月斗はアイナの事は嫌いだがどうでもいい存在とは思っていなかった。
愛月斗は涙を見せたアイナに動揺する、今まで一度も女の子を泣かせたことなどなかった愛月斗はどう対処すればいいのかわからなかった。
「と、とりあえず泣きやめよ、なっ?」
だがアイナは泣きやまない、愛月斗はハンカチを渡そうとする、だがあいにくハンカチは制服の中だった。
「まいったな・・・・」
このまま放置して帰るわけにもいかず、結局愛月斗はアイナが泣きやむまでそばにいた。
「泣き、やんだか?」
ようやく泣きやんだのか、アイナは真っ赤に腫れた目をこする。
俺はホッとした半面何故アイナが泣いたのか理由がわからなかった。
ようやくでた答えは至極単純なものだった。
「ったく、困ったら泣くのは辞めろよな」
愛月斗自身無い頭を振り絞って出した答えである、だが少し軽率というか無神経だった。
パァンッ!!
一瞬何が起こったのか理解できなかった、気がつくと左の頬に痛みが走っていた。
「え・・・・」
「あんたなんか、だいっきらい!!!」
それだけいうとアイナは走って逃げてしまった。
俺は痛む左の頬を触りながらただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。
堕天使の烙印と炎の絆 第2話「異世界と涙」
さて、今回は予想よりも短くなってしまったというか。本当ならばアイナに涙を流させる展開になる予定ではなかったのですが、書いている途中で新しい案を思い付き急きょ泣かせることに。いやいや、ごめんなさい。
さて、今回は異世界ラスファルでのお話しです。次回もラスファル、その次もラスファル、少しの間ラスファルです!!
次回予告としては次回は第2のメインヒロインが登場します。お楽しみに。