『炎の物語』 第一章 少年の物語
小説をいくつかに分けて投稿することにしました。これから綴るものは、今後の物語の前提となるものです。
Introduction
ある日、突然少年の身体から炎がでた。
少年にとってそれは自慢だった。
少年には友達がいた。
彼らは、少年が炎の話をすると気味悪がった。
少年は友人の一人に炎を当てた。彼は亡くなった。
それから少年は炎の話をしなくなった……
少年の物語
物語を紡ぐ前に、僕の幼き頃の話をしたい。これから僕の炎に関する物語を進める中で重要になる話だ。よく聞いてください。
僕は子供の頃、本当に幼き頃、身体が丈夫ではなかった。近所の子と遊ぼうにも、少し身体を動かすだけで熱が出てしまう。幼い子どもは、みんなおいかけっこやかくれんぼが大好きだが、僕にはそれができなかった。そういうわけで小さい頃の僕はいつも一人でみんなが遊ぶところを見ていた。ところが、7歳のある日、状況は一変する。どういうわけか、突然僕の体調が通常のものになったのだ。理由は分からない。ただ、そのおかげで僕はみんなと遊べるようになった。今まで母親と一緒に公園のベンチにずっと黙って座っていた僕がみんなに声をかけたとき、最初は驚いていたけど、みんなすぐに僕を受け入れてくれた。こうして僕は、7歳にしてようやく家族以外の人と触れ合う楽しさを覚えた。
突然体調が良くなったちょうどその時期に、もうひとつ起こったことがある。僕は、炎を操れるようになっていた。炎といっても、キャンプファイヤーやキッチンのコンロなどの火は僕にはどうすることもできない。ただ、身体の表面から真っ赤な炎をだせるようになっていた。この炎は熱くないし、物を燃やすこともない。あまりに自然にこの現象が起こるので、僕はみんなも同じ事ができるものだと思っていた。外で裸にならないのと同じように、恥ずかしいから外ではみんな炎を灯さないのだと。そう、思い込んでいた。
身体からでる炎は僕のお気に入りだった。寝る前はいつもこの炎を灯して遊んでいた。この炎があまりにきれいなだったから、僕はこの炎の魅力に取り憑かれてしまったのだろう。僕の炎は赤色だ。じゃあ、友達の炎は何色なんだろう?オレンジとか、ピンクとか、ひょっとしたら青とかもいるかもしれない。好奇心が抑えきれず、僕は思い切ってみんなに聞いてみた。当たり前だが、みんな怪訝そうな顔で答えた。
「なにそれ?」
僕が説明すると、最初、みんなは新しいごっこ遊びだと理解した。しかし、僕があまりに真剣に尋ねるため、みんなは僕を気味悪がった。そして、ある一人が言った。
「そんなに言うなら、炎を見せてみろよ」
僕は、得意げにみんなに披露した。しかし、どういうわけか、炎はみんなには見えなかった。その日から、僕は嘘つき呼ばわりされることになった。
こんなにきれいな真っ赤な炎をみんなに信じてもらえないことが悲しかった。そして、みんなに嘘つき呼ばわりされて、からかわれることも悲しかった。そうしてからかわれること数週間、僕の我慢は限界に達しそうだった。どうしてみんな信じてくれないんだ。僕の炎は今もこうしてちゃんと灯っているのに。
ある日、学校の帰り道、いつものように僕はからかわれていた。
「嘘つきやろう!悔しかったら炎で俺を燃やしてみろよ!」
炎で燃やす?そんなことはできない。この炎は何も燃やさないのだから。僕がそう答えると、彼らのからかいはエスカレートしていく。そして、僕の怒りは頂点に達していた。いつの間にか僕は、炎を宿した拳で彼らのうちのリーダー格の子を殴っていた。小さい頃から運動ができず、最近遊びはじめただけの僕の力はたいしたことのない、貧弱なものだった。しかし、異変は起きた。僕が殴った彼が、地面にうずくまっているのだ。なにが起こったのか僕には分からなかった。取り巻き達は怯え、逃げていった。その後、彼は運び込まれた病院で、苦しみ抜いたあげく、亡くなった。死因は分からなかった。
数週間前まで一緒に遊んでいた友達が亡くなって平気でいられるほど僕は冷淡じゃない。先生から彼の死亡を聞いたとき、僕はすぐに自白した。僕が炎で殺したのだと。先生も、僕の両親も、彼の両親も、警察も、僕の話を信じなかった。きっと僕は友達が亡くなったショックで混乱しているのだと。そうして、また誰も僕の炎を信じてくれなかったとき、僕はあることを誓った。こんなふうに僕がみんなに変なことをいったせいで彼は亡くなったんだ。もう僕は、誰にも炎の話なんかしない。誰にも炎を向けない。誰一人、傷つけない。
これが、今の僕をかたちづくる僕の幼少期の話だ。
『炎の物語』 第一章 少年の物語
物語の前提となるお話は以上です。今後、書き終わるごとに更新していけたらなと思っています。アドバイス・感想等ありましたら、よろしくお願いします!