【苗石】もう一つの話

ダンガンロンパより、石丸と苗木のお話。前回書いたお話、『絶対に見つける』のもう一つの視点がこんなんだったら。と思って書きました。
ネタバレすさまじいです。今回は石丸視点で。

終わった

兄弟が、ショケイされた。

昨日まで、あんなに一緒に笑っていた、仲間が、友人が、僕の、 兄弟 が。

「うわあああぁああああぁああ!!!!」

気づいたら叫んでいた。何もかも吐き出してしまえればいいとさえ思った。

兄弟が死んだことよりも、彼が人を殺してしまったことに僕は、絶望していた。

それから先のことは、ほとんど覚えていなくて、部屋まで苗木くんが送ってくれたことまでは覚えている。

ほっといてくれ。と言ったことも。

ああ、そうだ、苗木くんがすごく傷ついた顔をしていたっけ。

そんなことすらどうでもいいくらいに、疲れ切っていた。

きっと、このまま眠れない。頭がすごく痛い。痛いのに、鬱陶しいほどに脳内は冴えきっていて、考えてしまうのを邪魔してくれない。

どうして、兄弟はあんなことをしてしまったのだろう。

乱暴な性格ですぐに手が出るような男だったけど、人を殺すなんてそんなこと、するわけないと思っていた。

頭に血がのぼったから?カッとなって殺した??そんなの、最近の若者が人を殺す理由と一緒だ。

それほど低能なヤツだったのか、キミは。

自分の弱い部分を突き付けられたから?理性というものはないのか??

ここの生活はすべての常識が非常識に変わって、唯一の絶対的な常識が支配している。

『人を殺すことで自分が生き延びる』

そうだ、自分が生き延びたければ他人を殺すしかない。ここから出るために。

不二咲くんの言葉がよぎった。

『私たちが投票したせいで桑田クンは死んじゃったんだよ、私たちが殺したのと一緒だよ…!』

そうだ、僕はもう、『二人も』殺しているじゃないか。

風紀を重んじる僕だって、ここでは二人も殺していて、もし、ここから出られても、それは、本当に助かったと言えるのか。

わからない。もう、何もかもどうでもいい。

部屋に取り付けられたディスプレイから、モノクマの声が聞こえる。

朝になっていたようだ。

僕はよろよろと椅子から立ち上がると、食堂へ向かった。

アナウンスが聞こえてすぐに食堂に向かったからか、当然のごとく誰もいなかった。

しかし、なぜ僕は食堂に向かったのだろう。身体が覚えていたからだろうか。

本当は、みんなの顔なんて見たくもないのに…

次々と食堂に集まってくる。

その中で、苗木くんが僕に挨拶をした気がする。

「石丸クン、おはよう。」

「……」

僕は、 無視 してしまったのだろうか。それとも、答える気力がなかったのだろうか。

一睡もしていないからか、頭がうまく働かない。みんなが僕をうかがうような目つきで見ている、気がする。

朝食を食べ終え、僕はひと気のない教室に行き、椅子に腰かけた。

なんで、大和田くんは人を殺してしまった?

昨晩考えて考えて結局答えなんて出なかったことをまたぐるぐると考える。

大和田くんだけは、人を殺すことなんてしないと思っていたのに。

そこまで考えて、あることに気付いてしまった。

どうしてそう言える?大和田くんは人を殺すような人ではないと。

きっとこれは、苗木くんにも、霧切くんにも、朝日奈くんにも同じことを言えるのだろう。

そうだ、『人は人を簡単に殺すわけがない』という常識に当てはめて考えているに過ぎないのではないか?

大和田くんだから人を殺すわけがない、じゃない。

―――――――ガラッ

教室の扉が控えめに開けられ、その後に最後まで開けきる音が聞こえる。

「こんなところにいたのか…」

苗木くんだ。なんの用だろう。僕は考え事をしたいのに。

「…僕を独りにしてくれないか…」

一瞬だけ、苗木くんは傷ついた顔をした。なぜ傷つく?

それでもそこから帰らず、僕の隣に座ってきた。

「別に何も話しかけたりしないからさ…隣にいるくらい、いいでしょ?ほっとけないんだ。」

ほっとけない?なぜ?僕なんかどうでもいいだろう?

断るのも面倒だ。体力を他人なんかに使いたくない。

これを了承と判断したのか、その場から苗木くんが動くことはなかった。

夜時間の前になるまで、苗木くんは本当に、僕に話しかけることはしなかった。

ただ、ずっと隣に座っていた。

僕はそんな苗木くんを不思議に思ったけれど、何も言わなかった。

何かを話しかける余裕なんて無かったから。

そして、そっとその場から立ち上がり、教室を出ていこうとして、僕の方にふり返った。

「石丸クン…少しは寝ないとだめだよ。ご飯も食べなくちゃだめだよ。」

そう言って、出ていった。

なぜ、僕のことをそこまで構うのか。放っておいてほしいのに。

教室で独りになり、夜時間のアナウンスが鳴る。

ゆっくりと重々しく腰をあげ、自室へ向かった。

ずっと考えて、分かったことがある。

僕は、大和田くんのしたことや、オシオキにショックを受けているのだと思っていた。

でも、そうじゃない。

結局、僕たちは、何も知らない。

相手のことも、僕自身のことも、何もかも。

大和田くんが、抱えていた気持ちも、コンプレックスも、悩みも。

もちろん、すべてを知らなくたって友人にはなれるだろう。

だけどあまりに空虚過ぎて、悲しくなってくる…

それから

それから毎日、なぜか苗木くんは僕のもとへやってきて、何をするでもなく隣に座って黙っている。

僕を探している?なんで??

鬱陶しいと思ったことはないが、なぜ?という疑問しか浮かんでこなかった。

まだ出会って数日の、少し一緒に勉強したりしただけの仲だ。

わざわざ僕を探し出して一緒にいる理由も、心配する理由もされる理由もないはずだ。

「苗木くん…」

苗木くんは話しかけられたことにもの凄く驚いたようだ。

実際、僕自身も声を出したのはすごく久しぶりなことな気がした。

「苗木くんは、どうして僕の傍にいる?何か話しかけるわけでもなければ、ここから去るわけでもない。なぜだ?」

僕は目線を前に向けたまま、話しかける。相手の目をみることはしたくない。

「それは、ボクが…石丸クンの友達だからだよ。」

今、なんと言った? 友達 ?それは、僕が一番悩んでいた言葉だった。

「…友達…とは、なんなのだろうな。僕は、兄弟の事を本当に友人だと思っていたし、絆も感じていた。」

今にもすべての怒りや憤りや苦しみや悲しみ、すべての負の感情が僕を飲み込んで狂いそうになる。

それを、どうにか、必死で抑える。つらい。苦しい。吐き出してしまいたいと思うのを。

「それなのに、どんな理由であっても、彼は人を殺してしまった。僕は、兄弟のことを何もわかっていなかった。」

感情と連鎖して、胃の内容物までもを吐き出したくなりそうな気持ち悪さと戦いながら、一度息を深く吸う。

「苗木くんは、『僕の何を知っているというんだ…?』」

その言葉は、そのまま僕にも返ってきて、深く心を傷つけた

――――ガタンッ

世界が傾く。いや、僕が傾いていた。いつの間にか、苗木くんが僕に馬乗りになっている。

ああ、殺されるのか。ずっと一緒にいたのは、僕を殺す隙を探していたのか。

すべてのことに納得した。

「ねえ、もし、ボクがここで石丸クンを殺そうとしたら、どうするの?抵抗する?」

殺そうとしたら? 何を言っている、苗木くんは僕を殺すのだろう?今、その手で僕の首を絞めて殺すのだろう?

その低い声が、僕を本気で殺そうとしている。

自然に自分が殺されるという考えをしていることになんの驚きもなかった。生き延びるためなのだから、仕方がない。

僕はゆっくりと目を瞑る。

「…殺したいのなら、…殺せばいい。僕は、キミのことなんて何も知らない。」

苗木くんが今まで見たこともないような、今の僕でさえ同情してしまうような、すごく傷ついた顔をした。

「…石丸クンの心には、ボクの入る隙間なんてないのかなぁ?」

なんのことだろう。苗木くんの入る隙間???

わけがわからないまま、苗木くんは僕を殺すことはせずにその場から逃げるように立ち去った。

僕は寝転がったまま、今起きたことを整理する。

苗木くんは僕を、殺そうとしたのではないのか?

やっぱり、いくら考えてもわからなかった。

変わる

いつものように、教室でひとり過ごす。

そういえば、苗木くんが来ない。でも、これでゆっくりと考え事ができる。

さっき見た、アルターエゴ…?あれはいったいなんだったのだろう。あれは、不二咲くんだった…?

不二咲くんは、生きていたのだろうか。だから、あんなものがあそこに置いてあったのだろうか。

寝不足か、頭がよく働かない。苗木くんにでも聞いてみたいが、肝心な時にいない。

仕方なく、ひと気の少なくなる夜時間の前に苗木くんのもとへ訪ねてみた。

―――ピンポーン

「…はい…?…!い、石丸クン…!」

とても驚いている。ああ、この前のことを気にしているのだろうか。

いや、殺されかけたのにまた殺されに来たのかと思われてるのかもしれない。どっちでもいい。

部屋に招かれ、素直に従う。僕も、他の人に聞かれたくないからこの時間に訪ねたのだ。

「ど、うしたの…?」

「…生きていたのか?」

ん?と聞き返された。

「不二咲くんは…生きていたのか?」

苗木くんは合点がいったという様子で、

「…石丸クン、お風呂に入らない?」

僕は黙ってついてゆく。

脱衣所に着くと、苗木くんはロッカーからそっと、ノートパソコンを取り出す。

「石丸クン…不二咲クンは…。」

[そこにいるのは石丸くん…だよね?]

不二咲くんの声。すると、顔が大和田くんに変わる。

そして、僕が今まで思っていたこと、悩んでいたこと、感じていたことを、

大和田くん…いや、兄弟の口調で、僕に語りかけてくる。すべての、答えを、すべての僕の、思いを、言葉にしてくれる。

生きる

僕は、オレであり、僕であり、オレではなくなり、僕でなくなった。

なんだろう。兄弟とオレは一つになった気がする。

もう、何も怖くなんてなかった。オレには兄弟がいる。

モノクマからの動機の提示をされても、何にも恐れることなんてない。

もう、悩むことなんて何もないのだから。

そうだろう?兄弟。

【苗石】もう一つの話

石丸が石田になるまでの気持ちを書いてみたかったのです。今回は短かったですね…

【苗石】もう一つの話

ダンガンロンパより、苗木と石丸のお話。「絶対に見つける」の石丸視点でのお話です。性描写はナシ、読みやすいはず・・・

  • 小説
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-07-30

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 終わった
  2. 3
  3. それから
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  5. 変わる
  6. 生きる