sousaku
「では…採用の場合だけになってはしまいますが…その…場合は…一週間以内に連絡を差し上げますね。」
国内だけでも一日に数百回繰り出されるであろうその定型文を、こちらの目も見ずにその若き店長は唱えた。
「不合格の場合は…」
不合格の場合は、おそらく、というかほとんどの確率で音沙汰はない事になる。こちらもこの店に近寄るのは避ける事になるので、この店長との会話も生涯で今日が最後になるかもしれないのだ。少なくとも今世では。
「という事ですので…不合格の場合…一週間に一度の来店…を…義務付けさせて頂きます。」
ライテン、ギム。幾重にも渡って経験した同じような状況においても耳慣れない単語に、脳の一部がポーズ機能を働かせかけたが、現役学生の漢字変換機能はそれを正しく認識できた。が、理解と納得を同時に行える余裕の持ち方は生憎教わっていなかったようで、人間の防御反応、目を見開いてアゴを突き出し、更には「え?」の発声という3点セットでもって店長に対抗した。
「店員として採用出来ない場合…私の…その…友達になってもらいたいなと…。必ずしもお会計までして頂く必要はないので…。」
結局一週間後待ったあと、僕はその若き店長の友達として、週に一度の寄り道を日課とする事になった。「義務」と言われて断れないという気持ちも多くあったが、結果的にその事が僕の人生に転機をもたらす事になったのだ。具体的にいうと、義務につきものの「権利」の部分に惹かれて僕はその素晴らしきお節介を待ち遠しく思う事になってしまったのである。。。
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