堕天使の烙印と炎の絆 第1話「始まりはいつも唐突に」

登場人物

織川愛月斗 おりかわ あきと

姫咲アイナ ひめざき ---

須藤祐作 すどう ゆうさく

芹澤綾太 せりざわ りょうた

伊吹沙織 いぶき さおり

時雨瑠希 しぐれ るき

織川楓 おりかわ かえで

織川夏月 おりかわ なつき

織川渚 おりかわ なぎさ

魔法
俺、いや子供の頃なら誰しもが夢見た不思議な力。
物を自由に浮かせたり、瞬間移動したり、透明人間になったり。
そんな夢を見せてくれた「魔法」、決してこの世には存在しない力、だからかもしれないこんな夢物語が語れるのは。
でも夢物語はやっぱり"夢物語"、たとえこの世に魔法が存在したとしてもそんな夢を見せてくれるとは限らない。
もしかしたら、そんなことを思っていたから俺はいつの間にか夢の無い人間になってしまったのかもしれない_______

「となるわけだ、つまりこの公式を使えばXは簡単に求められるわけで」
数学の授業、俺達学生が受けなければならない必修科目の一つ。俺は今「なんちゃら方程式の解法」とかをご教授していただいているわけだ、いやごめん正確にいえば睡眠学習、夢の世界でランデブーしているわけだ。だが完全な睡眠ではないらしい、時折聞こえるハゲッティー(数学教諭)のかすれた声が耳触り。もっと言うと俺の隣で爆睡を一時限目からかましている須藤のいびきが一番耳触りだ、現在昼休み目前の4時限目、既にこいつの爆睡に3人の先生がノックアウトされている(起こそうとしたが起きなくて諦めたってこと)。
俺は久しぶりに授業中に起きることにする。時計を見ると昼休み5分前、ちょうどよい時間だな、俺って天才?ごめん調子に乗りすぎた。
「はい、それじゃあ今日はここまで号令」
ハゲッティーの合図で須藤以外のクラスメイト全員が立ち上がり号令をする、俺は今日初めての号令となる。
「やっとおわったか」
「おいおい、さっきまでガン寝してて何言ってんだ」
俺の目の前に座る優男Aが話しかけてくる、俺は優男Aの顔面を粉々に砕きたい衝動を抑えながら答える。
「いやいや、ガン寝してないって半熟睡ってやつ?」
「それってどゆ意味?」
「・・・・・・・にしたら負け」
「え?」
「気にしたら負けだ優男A」
「誰が優男Aだ!!俺には芹澤綾太っていうれっきとし」
「芹澤綾太=優男A、これ試験に出るぞ」
「出ねぇよ!!」
俺は優男A、じゃない芹澤綾太の、やっぱり優男Aでいいや。優男Aの怒鳴り声によって完全に現実世界へと戻される、
「うるせぇよ、つか早く飯食おうぜ」
俺はカバンの中から弁当を取り出す、市販のコンビニ弁当で種類はカルビ弁当なるもの、反対に綾太は妹の優華の作った弁当を出す。俺はいつもこの弁当を綾太が出す度にこいつを窓から放り投げてしまいたい衝動に駆られる、どこの世界に妹に弁当作ってもらう兄がいるんだよ。
「ん、どした?」
「いや俺はまだ少年院には送られたくないから我慢する」
「は?」
「いいから飯」
俺はコンビニ弁当のふたを開ける、そしてタレのかかったお肉をパクリと一口。うん、すんげーうまい、タレとお肉の柔らかさが絶妙なハーモニーを口の中で奏でている。
「この瞬間のために俺は生きているんだよなぁ」
まさに至福のとき、本当に今なら死んでもいいかも。
「安っぽい人生ね」
おっと右耳にやや聞こえてほしくない女の声、もちろん無視だよ。だってわたくし、ただいま至福の時を迎えているので。
「あぁ、なんか耳鳴りがする変な声が聞こえる」
「まじでか、おまえそれ幻聴かもよ、もうすぐお前死ぬんじゃね?」
「まじかよ、短い人生だったなぁ。それじゃあこの"柔らかジューシーカルビ弁当"を食べるのも今日が最後かもしれないってことか・・・・」
「最後に一言どうぞ」
「I hate you」
「それってドユ意味?」
「たぶん、私はあなたが嫌いです」
「ひでぇ、しかもそれが死ぬ前の最後の言葉かよ」
「悔いしか残らない人生だった、さらば青春」
以上、俺の思考停止。

「ってことで愛月斗死んだんでこのカルビ弁当は俺が貰うよ」
「だれがやるか!!」
ガシッ
俺は地獄の底からよみがえり俺の獲物(柔らかジューシーカルビ弁当)を奪おうとする魔物(芹澤綾太)の邪悪な牙(右腕)をつかむ。
「あんたら相変わらずつまらないことしてるわね、漫才師にでもなるつもり?」
「おまえにゃわかるまい、このつまらなさグダグダ感がいいのよ」
俺は弁当を片手に持つポニーテールの女子生徒に語る。
彼女の名は伊吹沙織、俺らの一個隣の教室のやつだ。なんでここに居るかというと単に俺らと知り合いだから、ちょっと事情があってクラスになじめていない沙織を気遣い俺は優しく、すんげー優しく一緒に昼食をとることを提案した。ほんと俺って友達思いの超いい奴。
「別にわかりたくもないわよ、それより須藤君まだ寝てるの?」
「いびきがお前にそっくりだよな」
「愛月斗このお弁当持ってて」
「あいよ」
「え?」
突然沙織は綾太の身体を持ち上げる、そしてそのまま何やらわけのわからない技をかけ始めた。
「痛っ、ちょ、あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
失言だったな綾太、さらば友よ。
俺は沙織によって紙クズのようにクシャクシャにされる綾太に哀悼の意と「ざまぁみろ」という感謝の気持ちを胸に明日からも頑張っていこうと誓った。
バシン!バシン!バシン!ゴキッ!!!ボキッ!!!!
あ、最後2回くらい変な音した。
「口が悪いとこうなるのよ」
「さ、最後の寝技はないだろ・・・・・・」
「あれはすごかったな」
「ったく、水色だったな・・・・・」
あ、また失言。青少年の素直すぎる性欲は隠そうぜ綾太。
バキ!ボキ!ベキ!!バキャ!!
「バ、バキャ!?」
ベキ!バリ!!ゴキ!!ボキンッ!!!!
あ、最後ものすごくいい音した。
「まったく失礼なやつね」
「おまえも十分アレだけどな」
あえてアレの意味については深く語るまい、言えば俺も死者になりかねない。この飢えた猛獣に獲物を与えてはいけない、それがこいつとの付き合い約2年で学んだことである。
「あれ、なに今の音・・・・・・」
「須藤、もう遅せぇよ」
「???」
ようやく目覚めた須藤は眠たそうな眼をこすりながら死者となった綾太を無視して綾太の弁当をたいらげる、日常茶飯事なので俺と沙織は無視することにした。
「ふぅ、今日のはエビフライがうまかったな」
「昨日はなんだっけ?」
「昨日はチーズ入りのハンバーグ」
こいつ、毎日毎日残飯を漁る様に優華ちゃんの弁当をたべやがる、一度しばくぞ。なんて俺は思ったりもする、でもやめる。だって須藤柔道3段なんだもん。
「綾太いつ起きるんだ?」
「もう起きないだろ、ついでだからこれから優華ちゃんには毎日俺の弁当作ってもらおうかな」
そういって須藤は自分の席に戻りまだ爆睡を始めた。
「こいつ夜寝てないのか?」
「さぁ?」
毎日毎日これだけ授業中に居眠りをするなんて、こいつ将来大物に成るな絶対。
「あ、瑠希君」
「瑠希また購買のパンかよ、しかもいっつも同じやつ、栄養偏るぞ」
「うるさい、これが俺のポリシーってやつだよ」
「どんなポリシーだよ、毎日毎日焼きそばパンばっか、そのうち死ぬぞ」
「死ぬかよこの程度で」
瑠希、フルネームは時雨瑠希、俺らのクラスメイトだ。もともと面識はなかったものの何故か気が合い今に至る、今じゃこいつは昔っから知り合いみたいな感じがする。
「てかなにこの肉塊」
「屍だ、友の屍を乗り越えてここまでこい!!!」
「おまえさらっと酷いこと言うな」
「うわ!!肉塊がしゃべった!!」
突然起き出した綾太に驚く瑠希、その顔はちょっとマジだった。
「だれが肉塊だ!!ったく、あ・・・・・」
綾太は起き上がろうとする、だがその時である。綾太が顔を挙げるとそこは沙織のスカートの中だった。
「へ?」
「綾太」
「な、なに?」
「最後に一言言うことはないか?」
「え、えっと、じゃあ・・・・・・助けて?」
ごめんよ綾太、そればっかりはたぶん世界中の人間全員が無理だ。
綾太は再び沙織の餌食となった。
バキ!!ボキ!!!ベキベキ!!!!ボキンッ!!!!!ゴキッ!!!!
おお、いい音が2つもしたぞ。最後の寝技はすごかったな。
再び肉塊となった綾太をよそに無情にも昼休み終了のチャイムは校内に鳴り響いた。

あ、紹介し忘れたが俺の名前は織川愛月斗。
基本的に自己紹介するとたぶんどこにでもいる高校生、ちょっと違うところと言えば生まれつき髪色が茶色、好きなロックバンドのボーカルの髪型を真似して前髪が少し長い、まぁ後は忍耐強いくらいかな。ちなみにいっておけば俺は世間一般でいうリア充ではない、もちろんなんとも思わない訳じゃないが、いまはとりあえず馬鹿やっていたいってのが本音。
俺の通う夕空学園は「自由人となれ!!!」が初代校長の口癖で、まさにそれが校訓でもある。進学・就職・その他どんな道でも歩める学校ということで毎年倍率は5割を超えるとかなんとか、俺は試し受けのつもりが合格していてそのまま成り行きでって感じで入学。
本当のところ成績は最悪に近い、1学年300人ちかい人数がいて最初に受けた学力調査テストとか言う奴では270前後だったはず。
「大丈夫、真面目に勉強してれば自然と上がるって」
沙織達とこの事を話していたら能天気に須藤が放った言葉である、あいついっつも授業中寝ているくせに調査テストの順位一桁だったらしい。そのことを聞いた俺は我に帰ると家でふて寝していた、たぶん須藤を一発殴ってたと思う。
そして俺の通う夕空学園だが、実はこの学園創立したのは去年なのだ。もともとは共学の京極高校と女子校の聖スフィール女学院そして同じく女子校の椿山高校の3校にわかれていたのだが去年合併、そしてこの夕空学園が出来たというわけである。全校生徒1932名、女子生徒1218名・男子生徒714名と女子のほうが多い。
さて話の話題が大きく変わる。なんでも夕空学園には須藤曰く「5大聖女」がいるらしい、平たく言えば5人の美少女の事らしい。さて何故この話をしたかというと、ちょうど3日ほど前の事である。
「そういやさ、須藤がこの間いってたなんだっけ、5大、5大、5大湖?だっけ?」
綾太が頭を抱える、あー俺もそれ覚えてるような覚えてないようなって感じだわ。
「5大聖女だろ?」
さっすが瑠希さん、完璧な記憶力だこと。
「で、その聖女がどうかしたのか?」
「いや、なんで聖女って言われてんのかなって思って」
「たしかにな、なら言った本人に聞いてみろよ」
俺は後ろを指差す、そこにはちょうどカバンを抱えて走ってくる須藤がいた。
「え?なに?」
「まず息を整えろ、お前は運動不足すぎるんだよ」
須藤は深呼吸を数回、そして何故か屈伸も数回。
「で、何の話?」
「お前の話してた5大聖女の話」
「あぁ、それがどうかしたの?」
「なんで"聖女"なのかって」
「そりゃあ簡単だよ、全員が聖スフィール女学院の生徒だったからさ」
得意げな、いやもはやドヤ顔の須藤。その顔面を木端微塵にしたいこの衝動はなんだろう?こんど姉にじっくりと教えてもらうことにしよう、あいつ心理学専攻してるから。
「なるほど、でその5大聖女って誰なの?」
話の核心に迫る綾太、そこまで知りたいのか。
「まず一人目は3年の四ノ宮美々音先輩。おしとやかで清楚で可憐、黒髪の似合う和服美人。二人目はイギリスからの留学生ステラ・ヴィ・ラヴィンドールさん、ちなみに2年生。三人目は同じ2年の如月紫苑先輩、テニス部の女子エースで中学時代の全国チャンピオン。四人目は」
そこまでいって俺は一旦須藤の話を遮る、俺の直感がこのままだと「語りつくすまで止まらなくなる」と感じたからだ。
「もういい、とりあえず俺らとその聖女様なんて接点ないんだから、話すだけ無駄、とっとと帰るぞ」
「へいへい」
「なぁ、今日綾太何回死んだ?」
「えっと、5回」
「6回だろ」
「4回だゎボケ!!」
そうだっけな、とか思いながら俺は家へと帰った。

さて話を戻そう(急に!?)、俺は両親姉弟の5人家族、家は建築家だという親父の兄が建てたそれなりに立派な一軒家。ご近所付き合い普通、弟は古崎中学に通い、姉はどっかの大学(長い名前だから忘れた)の心理学を専攻。まぁほんとそれなりに楽しい、普通の日々を過ごしているのである。
さて夕空学園に入学してから最初のGW、家族旅行などするわけもなく瑠希や綾太ら仲のいいやつらと遊びまくったわけである。そして月日は流れGWが明けて4日目くらい、日付けは5月12日である。
いまから思い返してみれば朝遅刻ギリギリだったから走って学校へ行った、もしかしたらそれがわるかったのかもしれない。あそこで「もうだめだ今日休もう」とか思っていればよかったんだ。撮りだめしてた「渡鬼(渡と鬼子の世間にゃ鬼しかいねぇんだよバカ野郎)」を見ていればよかったんだ。
未来予知能力が欲しい、そう真剣に思った日である。
「5人目?」
「そ、5大聖女の5人目。誰なのかなぁって思ってさ」
「おいおい綾太、お前いつから女好きになったんだ?アレか、須藤と同じフェミニスト気取りか?」
「だれがフェミニストだ!!!ちげぇよ、いま学校中で噂になってるの知らないのか?」
「噂?」
俺は自覚していることがいくつかある、一つは噂話に疎い。これは持って生まれた素質が影響するのだろうか?中学時代周りのやつらが話している噂話に一向に入っていけず、というより次から次へと新しい噂話をするため調べ上げた噂話はすでに古いものとなっていた、思い出したくもない。
「で、なんの噂?」
興味はないが、一応聞いておこう。
「GW直前に転校してきた子、知ってる?」
「あぁ、そういや瑠希がなんか言ってたな転校生がきたって」
女子生徒、としか聞いていないが。
「それがどうかしたのか?もしかして惚れたのか?」
「なんでお前はそういう発想しかできないんだ」
「おいおい、人を変態見たいに言うなよ」
「誰もそんなこと言ってねぇ、てか話そらすな」
「はいはい、で?」
「その転校生"姫咲アイナ"って言うんだけどさ、なんかスゲーらしいんだ」
「スゲー?なに、胸が?」
「お前、絶対変態だろ」
「だから違うって、なんでそういうふうにしか頭連結できないのかなぁ?まったく、カルシウム足りてないぞ」
「関係ないだろ、カルシウムは」
「で、何がすごいんだよ」
「あぁ、そそ。そいつどうやらGW明けから合計してもう10人くらいに告白されてんだとよ」
ふ?ん。ってのが俺の正直な感想、別に女に興味ないわけじゃないがそこまで噂するほどでもない。
「それはすごいな、ああすごい、ほんとすごい、もうびっくりしちゃったよ」
俺はわざと棒読みに感想を告げる、どうやら綾太が知っているのはそれまでの様だ。すると隣から須藤が話に参加してきた。
「それがそれだけじゃないらしいんだよ」
「それだけじゃないって?」
「その姫咲ってやつどうやら誰か探してるみたいなんだよ」
「探してる?誰を」
「だからそれが分かんないんだって、噂じゃ生き別れになった兄妹だとか、昔お世話になった男の子だとかいろいろあるけど、そんなエロゲーとかギャルゲーみたいな話、現実じゃありえねぇよ」
あぁ、もうこんなどーでもいい話やめてぇ。
とか思っちゃったが吉日、俺は気晴らしに購買にジュースでも買いに行った。ここの購買のオススメは購買のパンと、購買のオバチャン特製の手作りジュース。果汁100%ぽい感じで毎月木曜日しか売らない特製ジュースだ、なぜか女子生徒には嫌われているが、俺達男子生徒は売っていたら飲むものである。
「おばちゃん、これ一つ」
「百円」
百円玉をレジに置き、ジュース片手に教室に戻る。その時だった。
突然目の前にふわっとした何かが通る、と同時にそれは一人の女子生徒だと認識する。
金色の髪をした外人のような少女、白い肌とブルーの瞳が日本人とは違う顔立ちを際立たせる。
俺はその子と一瞬だけ目があった、だけどすぐに目をそらし俺は教室へと戻る、たぶんその子もすぐにどこかへ行ってしまっただろう。

「であるからして、Yの方程式がつくれるわけだ」
昼休み明けの5時限目は英語、6時限目はハゲッティーの数学、本日はこれが終われば帰れるのである。だから俺は例のごとく睡眠学習、目が覚めたらそこはすでにクラスの半分が下校した放課後の教室だった。
「おまえ、先生が起こしても起きなかったぞ」
「え、まじで・・・・・、やっと熟睡できたのか・・・」
バシンッ!!と一発いい音が響く、同時に俺の後頭部に痛みが走る。
「おまえ、教科書の角は痛いって」
「うるさい、お前はこうでもしないと目が覚めないだろ?」
まぁほっとこう、めんどくさいのは嫌いだから。
俺はカバンに教科書を入れ、というか出してすらいないが、とりあえず入れてカバンを持ち教室を後にする。そして速攻で家に帰る、するとうまそうな匂いと共に黒こげの姉が俺を出迎えた。
「あら、アッキーお帰りー」
「だから、そのアッキーっての"やめろ"って言ってるだろ!?」
「あら、いいじゃない、アッキー♪」
「殴るぞ」
「家庭内暴力反対!!」
「どこがだ!!!」
本当に、俺にもこの姉と同じ血が流れていると思うと恐ろしくなる、もしかして俺も19になったらこんな感じになるのか?とか思っちゃうわけだよ。遺伝子って怖い、いや恐ろしい、どっちも同じか。
「それよりなにやってんだよ、そんな黒こげになって」
「ディナーよ、It's the dinner」
「犬の餌?」
突然である、突然姉は俺を手繰り寄せ両手をこめかみに当てる、そして両手を中指が少し突き出た拳に変形させる。
姉によると子の技の名前は「キャノン・スプリッシュ・グラビティー・ブラスト」というらしい、敢えて言うが「グリグリ」ではないらしい。
「いて、いって、痛いってば、ねーさん!!!」
「何が犬の餌よ!!」
「だってそうだろ!?黒こげになった飯なんて食いたくねぇよ!!!」
一度、2年くらいまえだろうか?母の渚が風邪をひいて寝込んだ時、姉の楓がその日の夕飯を作ったのである。見た目はまぁまぁ旨そうだったので良しとしたが、問題はやはり「味」である。
俺がまず口にしたのはカニ玉である、一口食べただけで2日間寝込んでしまった。
弟の夏月が食べたのはみそ汁だ、こちらは3日間寝込んだ。
極めつけは久しぶりに海外出張から帰ってきた親父の龍哉が食べたものである、こちらはお米を食べた、1週間寝込んだ。
ってなわけで、姉の料理はもはや料理ではなく「猛毒」である。それ以来俺は姉の作るものは断固として拒否してきた、あれを食べるくらいなら崖から身を投げた方がたぶんマシだ。
「てか、なんでねーさんが飯作ってんだよ?かーさんはどーしたんだ?」
「あら、もう知らないふりしちゃって♪」
姉が、頑丈暴力女の姉が普通の恋する乙女のような振る舞いをしている・・・・・。
いや正確にいえば違うのだが、とにかく普通の女のような振る舞いだ。
まぁ、そんなことはどーでもいいのだが。
「キモいな、頭でも打ったのか?」
「またまたー、おねーさん知ってるんだから。アッキーいつの間に彼女なんて作ったの?しかも二人、我が弟ながらやるわね」
おっと、この人本当にヤバいところ打ったんじゃないのか?
だいたいこんな愛想の悪い俺に彼女なんてできるわけないじゃないか、少しは考えてから物を言うんだなバカ姉。
「ったく、なにジョーダン言ってんだよ」
俺は後ろで何か喚く姉を無視してリビングへと入った。
「お帰り愛月斗」
「お帰りーおにーちゃん」
「お帰り織川」
ん?あれ、なんか若干一名、変な人がいる気がする・・・・・。
いやいや、気のせいだ気のせい。あいつ(姉)のせいで俺の聴覚が少し狂ったのだろう。
「あー腹減った。かーさん夕飯は?」
俺は冷蔵庫を開け"スプラッシュ・ザ・ゴールド"という炭酸飲料を取り出しながら聞く。
「今日はハンバーグですよ」
「まじか、ナイスかーさん」
「はいはい、早く着替えなさいよ」
「そうだ、早く着替えろ織川」
「絶対気のせいじゃねー!!!」
先ほどの声。
最初の声の主は紛れもなく母親の織川渚だ。
次の声の主は「おにーちゃん」と言っている時点で弟の織川夏月だ。
問題は最後の声の主である、同じ家族なら俺の事を「織川」と呼ぶはずがない。それにである、俺の記憶にある限り俺の血族にはこんな綺麗な声の主はいなかったはずだ、というかいない!!
「つまりお前が犯人だ!!」
「「「「は?」」」」
母・弟・姉・謎の声の主、4人一度に「は?」って言われた、もうやっていけないかも、立ち直れないかも。
「てか、だれこの人」
話題を戻そう。
どことなく見たことのある顔、というか感覚がどこか懐かしい。
「あれ、アッキーの彼女じゃないの?」
「だまろうか、そろそろ」
いや、真面目な話ほんと誰?
「織川、お前の部屋に案内してくれ」
「いきなりすぎるだろ!!!てか、おまえ誰だよ!!」
「誰って、アッキーの彼女の姫咲アイナちゃんじゃないの?」
「姫咲、アイナ・・・・・・」
どこかで聞いた名前だな、確か・・・・・あれ、どこで聞いたんだっけ?
「って、おいあんた、どこ行こうとしてんだ!!」
「おまえの部屋」
「誰が行って良いって言ったよ、てか俺の部屋わかるの?」
「大抵の男の子の部屋は二階にある」
何その理屈、ぜんっぜんわかんないんだけど。
まぁいいか、とりあえず部屋に戻ろう、話はそこで聞くとするか。
俺はカバンを持ち部屋に戻ろうとする、だがそれを姉が引き留めた。
「アッキー」
「なに?」
「くれぐれも、優しくね」
「うるさい、早く顔洗ってこい、真黒だぞ」
どういう意味かはあえて考えるまい、俺は何故か重く感じる鞄を片手に部屋へと戻った。

部屋に戻ると既に姫咲アイナは俺のベッドに座り、偉そうに腕組していた。
「遅い織川」
「・・・・・・」
「それにしても殺風景な部屋ね」
「男の部屋なんてそんなもんだろ」
「エロ本は・・・・・」
アイナはベッドの下をのぞこうとする、
「ちょ、見るなって!!!」
俺はあわててアイナを止める、だが遅かった。
アイナが取り出したのは俺の持つ数少ない過激すぎるエロ本ではなく、須藤が以前置いて帰った「爆乳祭り」という本だった。
「へぇ、こーゆーの読むんだ」
「ち、ちがう!!こ、これは須藤のもので」
もうなんかめちゃくちゃだ、というかこの女俺を蔑むような目で見てやがる。アレか?巷で言う「ドS女」って奴か?あるいは「ツンデレ」っていう奴なのか?いや、ツンデレだと"デレ"がないから違うか。
「つ、疲れる・・・・」
なんかもう無駄に疲れた、今日はいいことなんもねぇな。
「じゃあさっそく本題に入るか」
おう、それを待ってたぜ。
「織川」
「なに?」
「単刀直入に言うぞ」
俺はこの時何を言われるか想像もつかなかった、ただ一言言わせてくれるなら言わせてくれ。
俺はこの姫咲アイナという少女に昔あっていて、「もう近付かないで」とかそんなこと言われるんだと思ってた。
いや、無理やりなのはわかってるけど、それくらいしか思い浮かばなかったのだ。
愛の告白にしては態度が偉そうだし、お友達になってとかならまだあり得る話だがそんな感じもしない。
だが、この女の口から発せられた言葉は俺の予想の斜め上、いや斜め上なんて言葉にならないほど違っていた。
「あたしのために死んでくれる?」
「・・・・・・は?」
冗談だと思った、というかもう笑うしかない。
だが、それだけでは終わらずさらにアイナは言葉をつづけた。
「あんた、魔法って信じる?」
「・・・・・・」
「何よ、返事しなさいよ」
返事も何も、こいつ頭大丈夫か?
「ったく、いきなり人ん家上がりこんできて意味不明なこと言ってんじゃねーよ。だいたいなんだよ、どーゆー意味だよそれ」
「言ったまんまの意味よ」
「・・・・・・」
アイナの顔はふざけている様子もなく大真面目だった、だから俺も真面目に答えてやることにした。
「じゃあ答えるが、俺はお前のためになんか死にたくないし魔法も信じていない、これでいいだろ」
数秒の沈黙、するとアイナはベッドから立ち上がる。
「そう、じゃあ信じてもらうしかない様ね」
「は?」
アイナは突然俺の左手をつかむ、そして右手を俺の左手の近くに添える。
「ちょっ・・・」
「黙って」
そういえば、言い忘れていたが俺の左手にはかすり傷があった、それはこの間転びかけてやったものだ。
また数秒沈黙、そして突然アイナの右手が光り出す
「ッ・・・」
かなり眩しい、俺は我慢できず目を閉じた。
「ふう、いいわよ目を開けてみなさい」
俺はゆっくりと目を開ける、そして左手をみると傷は完全に消えていた。
「・・・・・・」
「どう、これでも信じない?」
俺はただ茫然としてその場に立ち尽くしていた。
生まれて初めて「不思議なこと」を見たのである、もしこれを魔法と呼ぶのなら俺は信じるかもしれない。
「おまえ一体・・・・」
俺は傷の癒えた左手を見ながらアイナに聞く、するとアイナは右手を腰に当てやや偉そうなポーズをとった。
「私は姫咲アイナ、正当なるクロノス王国第3王女にして王位継承者よ」
「・・・・・・」
そう来たか、俺は一つの確信を得た。
そう、こいつは俗に言う"イタイ子"だ。
姫咲アイナ、これはおそらく本名だろう。だがクロノス王国なんて聞いたこともない、仮にあったとしてもどうしてそこの王女様なんかが俺の前に現れるのか見当もつかない。ましてや俺の部屋に勝手に上がりこんで、王女のような雰囲気すらも感じられなかった。
「その顔は信じてないわね」
「あぁ」
「どこが信じられないの?」
「どこって、全部だよ全部」
「全部?」
「あぁ、クロノス王国なんて聞いたこともないし、てか何でそんな国の王女様が俺の家なんかに来るんだよ」
「あぁ、そのことね」
俺は少しムッとする、この偉そうな口ぶり絶対Sだと思った。
「ねぇ貴方体のどこかに変な刺青みたいなのない?」
「はぁ?俺は不良じゃねーぞ、そんなもんあるわけねぇだろ」
「いいから見てみなさいよ」
「おい話が変わってるぞ、それとこれと一体どういう関係があるんだ」
「いいから見てみなさいって言ってるでしょ!!」
しびれを切らしたのか、アイナは俺の制服のネクタイとYシャツを強引に脱がし始めた。
「ちょ、おまえやめろって!!」
「うるさいわね、ちょっと我慢しなさい」
「いや、我慢とかそういう問題じゃないから!!」
俺は必死に抵抗した、だがアイナは俺の抵抗などもろともせずYシャツを脱がした。
「ほら、やっぱりあるじゃない」
「え?」
俺は恐る恐る自分の上半身を見てみる、すると左胸のあたりに何やら奇妙な紋様が刻まれていた。
「な、なんだこれ?」
「それは"死の烙印"よ」
「意味不明なんだけど」
全く持って意味不明!!!
さっきの不思議な力といい、俺はアイナが普通の常識人ではないことはすでに理解していた。
というかほんとこの展開には全く持ってついていけない、須藤とか綾太あたりならいけるんだろうが、俺は全く持ってダメだった。
「詳しく説明するわね、一度しか言わないからよーく聞いてよ」
「わ、わかった」
俺は心して聞くことにした、しっかりと正座をして。
「あんたに刻まれているその"死の烙印"、それは私とあんたが「命の契約」を結んだっていう証なの。そしてあたしがさっき使った力、あれは紛れもなく魔法、癒しの魔法よ」
大丈夫だここまでは何とかついていけてる、気がする。
「そして私たちのように「命の契約」を人間と結ばなければいけない種族の事を"オリアス"というわ、私たちオリアスはここじゃない別の世界から来たの。そしてオリアスは人間と契約を結んで生命力と血を分け与えてもらわなければ生きられない体をしているの」
「ちょっと待った」
俺は話し続けるアイナを止める、
「何よ」
「いや、悪いんだが話に全くついていけん」
正直な話「癒しの魔法」の事を話しているところまでしかついていけなかった、
「はぁ?」
「いや、だってな急にそんな話されても証拠が無いだろ?」
「証拠ならさっき見せたじゃない」
「いやでもな、それじゃあお前が異世界から来たって言うなら俺をその世界に連れて行けよ」
俺自身この時は冗談(?)のつもりだった、だけど後で気づいた「何か言う時には考えてから言う」ことだった。
「いいわよ、連れて行ってあげる、あたしの故郷ラスファルへ」
そういうとアイナは俺の手を握る、そして体を俺のそばへと寄せてきた。
俺は生まれてこのかた姉以外の女の子に手を握られたことなど一度もない、ましてや女の子がそれも結構かわいい子が俺と体をほぼ密着させるなんて、夢なら死にたい気分だった。
「じゃあ行くわよ!!」
「え?」
突然床がスポッと抜ける。
「うわあああああああああああああああ!!!」
まるで長いトンネル型の滑り台のようなところを俺とアイナは一緒に滑り落ちる、もしかしたらこれが「地獄への道」なのかとか思っちゃったりしたわけだ。
ドスン!!
俺は豪快に尻もちをつく、一方のアイナはというと俺の頭を踏み台にして華麗に地面へと着地した。
「痛ってぇな、人の頭を踏み台みたいに踏むな!!」
「あら、そこに座ってるのが悪いんでしょ?」
アイナのやつ全く持って悪気が無い、俺は痛いケツをさすりつつ立ち上がった。
「んでここはどこだよ」
「ラスファルよ、正確にいえばクロノス王国の東側にある"ポリティスカ神殿"だけどね」
「ポリ・・・なんだって?」
「ポリティスカ神殿」
なるほど神殿か、たしかにあたりを見渡すと人工的に造られたと思われる岩やくぼみがたくさんある。
「こっちよ、モタモタしないで」
「あ、待てよ」
気がつくとアイナは歩き出していた、俺は本当に痛いケツを気遣いながら後を追った。
どれくらいたっただろうか、少なくとも10分以上は経っているはずだ。
「おい、まだかよ出口は」
「そろそろよ。あ、あそこよあそこ」
アイナは前方を指差す。
なるほど、確かに少し明かりが見える。
「そういえばあんたの名前まだ聞いてなかったわね」
「はぁ!?おまえ、知らなかったのか?」
「知らないわよ初対面なんだから、さっさと教えなさいよ」
俺はその上からな態度に少しイラッと来てしまった、
「教えねぇ」
「は?」
「だから教えねぇ、だれがそんな偉そうな態度とるやつに名前なんか教えるか、自分で考えな」
「わかったわ、じゃああんたは今日から"ギャベロン"よ」
「んだよその野球選手の新加入外国人選手みたいな名前は」
「何言ってんの?」
ちょっとたとえがマニアックすぎただろうか、仕方なしに俺は名前を教えてやることにした。
「ったく、俺の名前は織川」
「みて出口よ!!」
遮られた、俺の名前を知りたいんじゃなかったのかよ!!
俺はちょっとムスッとしながらもアイナの後を追った、そして神殿の出口から差し込む光の中へと飛び込んだ。
「あ・・・・・」
「どう、ここがラスファルよ」
そこには紛れもない"異世界"があった。
まず目に入ってきたのは何匹もの巨大な羽をもち青い色をした龍のような生き物だった、次に目に入ったのは宙に浮く小さな岩、眼下には緑豊かな森が広がっていた。
そして何よりここが"異世界"だと思わせるものがあった、それは"空"である。
なんと空には翼を広げた龍が描かれた紋様のようなものがあったのだ。
「ようこそクロノス王国へ」
俺はただ茫然とその壮大な景色を眺めることしかできなかった。

織川愛月斗16歳と13日、ただいま生まれて初めて異世界に来ています。

堕天使の烙印と炎の絆 第1話「始まりはいつも唐突に」

言い訳からさせてもらいますと、この作品は今まで書いてきた作品全ての俺がいいと思う設定を組みこんだお話しです。なのでオリアスとか刻印みたいなものが出てくるとか、前作の「君と僕と繋ぐ刻印」と似た設定ですがご勘弁を。
さて今回の作品は書いている途中で主人公の愛月斗君の性格が変わったり、ヒロインのアイナの性格が変わったり、前もって決めていた設定が変わっちゃったり、と不祥事だらけでしたが、我ながら満足のいく出来になったともいます。
次回はこの続きか、今書いているSF作品を投稿すると思います。
では第2話ご期待ください。

堕天使の烙印と炎の絆 第1話「始まりはいつも唐突に」

自分ではごく普通の高校生を自負している織川愛月斗。そんな彼の前に突然謎の美少女が現れる、しかも彼の家に。剣と魔法の準ガチファンタジー登場。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-11

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