空白の夜

少年少女は旅をする。
施設の小さな窓を抜け出して。
満天の星空のもと、二人はかけてゆく。
草原を、手をつないで。裸足で。

二人はひとしきり駆けたあと、草の上に並んで寝転んだ。
はあと息は乱れ、胸は上下に動く。
頬は熟れた桃のように染まり、首筋が汗に濡れていた。
「あついね」と、少年。
「うん」と、少女。
まったく同じ声だった。
顔も何もすべて同じ。
双子。

「僕たちの普通は、みんなの普通ではないみたいなんだ」
少女が言った。星を見あげながら。
「だから、僕はその普通になりきろうと思う。」
ぱさり、と何かが落ちた。
どこに持っていたのか、銀色のはさみが月に反射して冷たく光り、黒く長い髪を切ってゆく。
「それなら、私はこれからずっと髪をのばすよ。」
少年の指がその落ちた髪を優しくまとめた。
「施設に戻ったら、ピンクのリボンを結んであげる。そして、私の大切な宝物にするからね。」

「じゃあ、明
あきら
、その名前も、今着ている服も、君のものすべて僕にちょうだい」
少女の人差し指が少年を向く。
「いいよ。だから、私にも宵
よい
という名前とそのワンピースと、あなたのものすべてちょうだいね。」
人を指でさしてはいけないと少年は少女の指を広げ、二人は掌をあわせた。

すっかり着替えて、二人は常に恋焦がれていた隣の姿をやっと手に入れられた。
宵と明はまた手をつないで駆けてゆく。
僕と私、ずっと一緒なんだ。

空白の夜

空白の夜

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-07-28

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted