電車に恋した女の子の話
朝が嫌い。暖かいお布団で、幸せに眠っている私を起こさないで。寝起きのぼやぼやとした頭の中に鳴り響く目覚まし時計。まだ、夢の世界にいたいのです。
お布団はまるでお母さんのお腹の中みたい。暖かいそこから出れば、私は寒く冷たいところを、目を開いて進まなくてはいけないでしょう。私は毎日、うまれる。
ひゅうひゅうと冷たい風、すんと澄んだ空気。外に出て、初めて息を吸った時、私の肺がその空気を知ったとき。きっと一番私が綺麗になる。冬が好き。寒い中の、少しの暖かさは幸せ。家から駅までの道は朝日に照らされた私の影を追いかけます。私なんかよりずっと背が高くて、足も細い。はあと白い息を吐きました。
電車はがたんごとんと人を乗せて、届けます。まぶしい朝日が読んでいた本に反射しました。目がくらむ。こんなに寒い冬だから暖かい朝日が目立ちます。
学校。友達に会う。楽しい。楽しくない。寂しい。寂しくない。幸せな子がいる。本当に。私はまだ知りません。それなのに、憧れて追いかける。あの子みたいに、私を幸せにしてくれる人がきっといつか。馬鹿みたい。誰かと、つながっていたいと私は思うのです。だって、この手が誰かにつながっていなければ、ただ一人で。世界にただ一人で。そんな気がしてしまって。寒い。
帰りの電車は椅子に座って暖かい。いつまでも乗っていたい。がたんごとんと揺られて、窓の景色はさらさらと過ぎてゆきます。ねえ、電車さん、あなたはこの景色を何度見ているのですか。朝から晩までずっと見ているのですか。やわらかい椅子の布に手を這わせました。暖かい。座ったら最後。今日も乗り過ごし。
お家に帰って、ごはんを食べて、お風呂に入って、ただいまお布団さん。
朝です。今日は珍しく、朝から電車に座れました。暖かい。でも、私が椅子に座った時嫌な予感がしました。座ったら最後。降りられない。一番の心地よい場所を見つけてしまった。外からの朝日と、暖房と。終点のアナウンス、降りなくちゃ。降りたくない。降りられない。こっちのほうが幸せでしょう。こっちのほうが私を暖かくしてくれるでしょう。初めてのさぼり。
もう何度往復したの。朝と夕方とは違う景色を何度見たかしら。お昼ごはんも食べずに、揺られている。
電車が好き。
次の日、私は始発に乗りました。早くあなたに乗りたくて、会いたくて。私はもう、あなたの暖かさから逃げられない。電車さん、私ずっとあなたといたいわ。暖かくてずっと幸せ。
銀の手すりが頬に触れた。冷たい。あなたは、私と違った。生きていないものね。それでも、好き。どうしたらずっと一緒にいられるかしら。右手首と銀の手すりを赤いリボンで結びました。ずっとつながっていられますように。これで、ずっと幸せ。みなさん、私幸せを見つけました。永遠にさようなら。
電車に恋した女の子の話