空に願いを。

空に願いを。

ドーンッ。
綺麗な赤いグラデーションの花火が夜空一面を埋め尽くす。
花火の煙が空にまだ微かに残り、辺りは薄っすらと星空を覗かせる。
「…れますように。」
流れ星。隣にいる君はそっと空に向かって願いを唱えた。
「何をお願いしたの?」
「内緒だよっ。 ねえ蓮くん。約束して…?」


あの日、あの場所で…
約束した。


流れ星に願いを唱えた君の横顔が、
悲しい顔をしていたことを、気づけなかった。
この笑顔の裏の気持ちに気づけなかった。

もう2度と会えないということも、
何も知らなかったんだ。

そう、この日までは。

秘密の通学路。

<1>



レ「っはよぉ〜! 亜莉愛。」
ア「おはよぉ〜蓮くん!」

松田蓮翔(マツダレント)と翡翠亜莉愛(ヒスイアリア)。幼馴染で、家は向かい合わせにある。小さい頃から何をするのも一緒で、習い事や好きな食べ物、全部一緒だった。…と言いたいところだったけど、流石にそこまではいかない。どちらかと言えば喧嘩ばかりで、気付けばいつの間にかと仲直りしていたって事が何度かある。

ア「ねえ蓮くん、今日から新学期だね!今年こそ同じクラスがいいんだけどなぁ〜。」
そう、俺たちは幼稚園からずっと一緒なのに、一度も同じクラスになれたことがない。
レ「まあ、俺は別になんでもいいけどね〜っ?」
ア「なぁに蓮くん!本当はなりたい癖に〜!素直じゃないんだからっ!」
レ「んだよそれ〜。早く行かねえと遅刻すんぞ、ほら行くぞ〜」
ア「もう!昔は照れ屋で可愛かったのにぃ! 待ってよ〜。」

この通学路を使うのはもう7、8年になる。住宅地をずーっと真っ直ぐ進み、急な坂道を上り、近藤さん家の駄菓子屋のとこで右に曲がり、そのまま真っ直ぐ行く道が本当は通学路だけど、俺と亜莉愛はそこを更に左へ曲がって行く。所謂、裏道。
ここは俺たち2人以外使わない道だから、いつも2人っきり。

チリーンッ

ア「蓮くん、お守り落ちたよ?」
レ「うわっまじかよ」
小1のとき、俺が学校の遊具から落ちて怪我をしてしまったとき、亜莉愛と俺がお揃いで買った最初のお守り。亜莉愛が俺を心配して買ってくれたやつ。
ア「もう、新しいの買う〜?結構ボロボロだよ??(笑)」
レ「ったく、いんだよこれは。意外と効くんだぞこれ!」
このお守りを忘れると良いことがない…(笑)
それに、亜莉愛から貰った初めてのプレゼントってこともあるし、汚くなった今も肌身離さず持っていた。
ア「ほんと〜? じゃあ、まだ買わなくていっか!」

他愛ない会話をしているうちに、学校についた。
先生たちが持っているクラス表の紙を受け取り、自分の名前を探す。ここ、翠柳第一中学校は1学年6クラス、1クラス40人。俺らの学年は240人近くいて、周りに比べると大きな中学校だ。
レ「おい!亜莉愛! 同じクラスだぞ!よっしゃ!」
3年1組 翡翠と松田は苗字が近いため、すぐ探し出せた。
ア「ほんとにっ? やったぁー☆蓮くんもやっぱり嬉しいんじゃん♪」
レ「そんなんじゃねーって!」
亜莉愛の喜ぶ顔をボケーっと見つめていると、後ろから誰かに名前を呼ばれた。
ヒ「なあに照れてんだよ蓮!素直に言えよ、大好きな亜莉…」
レ「ちょ、うっせーな広樹!お前も同じクラスじゃねーかよっ」
武藤広樹(ムトウヒロキ)。小5で転校してきてから仲良くなった、今で言えば親友ってくらい信頼してるやつ。
モ「蓮翔!あーちゃん!あたしも同じクラスだよー♡…って、広樹も?」
鈴川桃(スズカワモモ)。桃は幼稚園で同じで、小学校に上がるとすぐに留学した帰国子女。お父さんがSUZUKAWAって、車のメーカーの社長さん。超金持ちのお嬢様だけど、社長令嬢に見えないくらい活発でやんちゃ。
ア「桃ちゃんに広くんも同じなの?! わー!嬉しっ」

俺たち4人は初めて全員同じクラスになり、中学最後は最高の1日からスタートした。

岡「席につけ〜、出席とるぞ〜」
担任は、体育の岡田先生。みんなからはおかちゃんと呼ばれてるが、熱血教師で有名。
クラスの人も明るいやつが多く、良いクラスになりそうで安心した。
岡「さっそくだが〜、修学旅行についてのプリント配るぞ〜。今年は5月15日から3日間、京都と大阪に行くぞ〜。」
プリントに軽く目を通す。亜莉愛は目をキラキラさせながら、口パクで「4人で回りたいなっ」と微笑んだ。


ー帰り道ー


ア「同じクラスでよかったねーっ♡」
レ「おう。」
くるくる飛び跳ね、嬉しそうにする亜莉愛。
ア「蓮くんと一緒にいれる時間が増えたねっ」
寂しそうに笑ったその顔が、大人びて見えて不覚にも俺は見惚れてしまった。こんな亜莉愛の顔を見るのは初めてだ。
ア「蓮くん?どうしたの?」
レ「あ、なんでもねーよっ」
悩みを抱え込んでしまう亜莉愛をいつも側で見守ることしか出来ず、頼ってもらえない情けなさ、なにも出来ない自分が悔しかった。
レ「なんかあったら話せよ?」
ア「えっ?! 蓮くん急にどうしたの?」
悲しげな笑顔で微笑んだ。「大丈夫だから、心配しないで」とはにかむ亜莉愛は、俺の手を取り、走り出した。
レ「おいっ!急になんだよっ!?」
ア「走るよ蓮くん! ここ誰もいないんだよっ!」
レ「人がいないからってなんで走るんだよ?!」
ア「なんか気分っ! ここは、2人の秘密の通学路だね!」
俺たちはそのまま坂を下り、家路を駆け抜けた。駄菓子屋を通りすぎると、家が見える。あっという間についてしまい、寂しい気持ちが少しある。

ア「いやーぁ、疲れたぁーっ!楽しかったね蓮くん!じゃあまた明日!」
亜莉愛は息を切らしながら、途切れ途切れで「またね、蓮くん!」と言い終えると、家に入って行った。
家からは、「たっだいまー!」という元気そうな亜莉愛の声が漏れ、俺も家に入る。
レ「ただいま。」
楓「おかえり蓮ちゃん! クラスはどうだったの〜?」
母の楓(カエデ)は、帰るなり学校の話を興味深く聞いてきた。亜莉愛や広樹、桃と同じクラスになったことを伝え、俺は自分の部屋へ入った。


中学最後の1年、最初の日。クラスも最高で順調だと思っていた。
でも、順調なのは俺だけで何も知らなかった。気付けなかったんだ。
これから起こることなんて。

学校。

チリリリリ、チリリリリン。
AM 6:00。目覚まし時計が朝を伝えた。
亜莉愛がダイエットと言って朝の散歩を始める様になってから、俺の睡眠時間は2時間減った。
レ「行ってきまーす。」
15分で準備を済ませると、俺は家を出る。
ア「お〜はよお〜。蓮くん〜。」
あくびをし、目をこすり、いかにも寝起きの亜莉愛が家から出てきた。
レ「はよー。眠いなら、散歩辞めろよ?別に痩せなくても細いんだし。」
ア「えへへ(笑) いつもごめんね! 蓮くん寝ててもいいよ〜? 亜莉愛は1人でもへっちゃらだもんっ!!」

何故、朝の散歩に付き合っているかというと、問題は一本の電話のせいである。
楓「なあになあに? えー、朝は1人危険よ〜? あーちゃん可愛いからぁーっ。 …うん、うん。あー! いいよ! 蓮ちゃん使っちゃって♪ …うん、…うん、おっけぃ!じゃあまたねん♪」
レ「なに、俺を使うって?」
楓「天音ちゃんがね、あーちゃんが朝からお散歩するの心配だから、ボディーガードが必要♡って言ってたから、蓮ちゃんは明日からあーちゃんと朝からお散歩ね♪」
(天音(アマネ)=亜莉愛の母)
レ「は? なにそれ!なに勝手に決めてんの!? 俺の睡眠時間はどうなんの?!」
楓「蓮ちゃんは、朝練サボってるんだからいいでしょ?じゃあきーまり! ママは今から天音ちゃんと買い物いくから、たっくんと麗ちゃん帰ってきたら、あーちゃん家でご飯食べてね〜♪」
(たっくん=拓哉(タクヤ)=父さん。 麗(レイ)=姉ちゃん。)
レ「父さんまた拗ねるぞ。あと、姉ちゃんはデートだから飯いらないんじゃ…」
楓「いってきま〜す♡」

こんな感じで、俺は亜莉愛のボディーガードを任されたって訳です。
走りはせず、ただ歩くだけの散歩でダイエットを考えてる亜莉愛はすごい。
ア「蓮くん、部活今日からあるの?」
家の近くの山道を少し歩き始めたころ、亜莉愛は聞いた。
レ「あ〜、そうだな。今日からだわ。」
ア「やったぁ! 今日は、修学旅行の班決めもあるし、楽しいことたくさんあるね♪」
子供みたいにはしゃぐ亜莉愛を見て、ホッとした。
この前の悩みはもう解決したのかな? …俺はそう思い込んでいた。


AM 6:50。
散歩から帰るなり、すぐにシャワーを浴びて制服に着替えた。
髪を乾かし、ワックスをつけセットする。
麗「蓮、早く髪の毛セットして。あたしそこ使いたいからー。」
高校3年の姉は、近くにある私立の馬鹿学校に通っているため、朝は遅い。
レ「ったくー、自分の部屋のドレッサー使えよな!」
俺は適当に髪を整えると、部屋へ戻り部活の準備をした。
すね当て、スパイク、ランシュー…用具をエナメルへ詰める。
俺はサッカー部に所属し、副部長を務めている。最後の大会へ向けて今日からの部活はハードになりそうだ。
亜莉愛は、桃と後輩5人と一緒にマネージャーをしている。
普段トロい亜莉愛も、部活中は動作が早い。
部員たちからも慕われてるマネージャーで、評判は1番いい。

準備を済ませるとリビングへ下り、朝ごはんを食べた。
AM 8:10。
レ「いってきまーす。」
勢いよくドアを開けると、そこには既に亜莉愛が待っていた。
ア「蓮くん5分遅刻だよ!」
レ「わりぃわりぃ。」
むすっとしていた亜莉愛は、俺を見つめるなりニコッと笑い、「いいよ蓮くん。早く行こう!」と俺の手を取った。
最近はこうして手を繋いで通学している。だけど、俺たちの関係はただの幼馴染。
友達以上恋人未満の曖昧な関係のままだ。
修学旅行の話を話しながら、いつの間にか学校についた。


2時間目。亜莉愛が楽しみにしていた修学旅行についての授業?
岡「えーと、班を決めたりするぞ〜。なんか、3泊4日らしいぞ。良かったな〜!」
教室内はざわついた。毎年2泊3日で行く修学旅行が、1泊増えたのだから。
亜莉愛も桃と目をキラキラさせながら話している。
岡「1日目、2日目は京都な。宿泊するのは1日目に京都の旅館。次の日は朝に宿泊荷物を持って出発。1日目は全体で行動するけど、2日目は自由行動だからな。移動は各班タクシーがある。」
岡ちゃんは適当に話すと、質問を無視して続けた。
岡「2日目は、大阪のホテルに泊まる。京都駅に16時集合。そっから新幹線で大阪へ移動する。3日目はユニバーサルへ行って、4日目は大阪を自由行動。ま、こんな感じね。」
3泊4日となると、かなりハードなスケジュールだ。
ユニバーサルでみんな疲れ果ててしまうんじゃないかと俺は思った。
実行委員「では、男子2人、女子2人の行動班を決めて下さい。とりあえず好きな人同士で構いません。」
亜莉愛と桃と広樹は早速俺の席へやってきた。
モ「ねえ!4人だってさ!やったね☆」
ア「やばいやばい♡もう早く行きたいね!!!!」
ヒ「蓮翔ー!!やっべぇな!!楽しみだな!!」
テンションマックスの3人は、班行動のことで大盛り上がり。話が全然途絶えず、エンドレスに続きそうな勢いだ。
実行委員「では、席について下さい。代表の方1名、前に書きに来て下さい。次は、新幹線の席を決めます。そのあと、宿泊班を決めます。」
教室内はみんなざわつき、楽しそうに話をしていた。
あっという間に班も決まり、時間が余ってしまった。
岡「余りの時間で、班で行動するルート決めといて〜」
再びテンションマックスな3人が俺の元へ足を運んだ。
亜莉愛は京都のマップを。桃は大阪のマップを。広樹はユニバーサルのマップを。
みんなそれぞれ準備満タンだった。
ア「ねえねえ!あたしここ行きたい!」
ヒ「いーねー! 行こうぜ!」
3人はどんどん行く場所を挙げて行く。俺が発言する間もないまま、ルートは決まってしまった。
モ「じゃ、蓮翔班長ね! これ提出してきて♪」
最終的には、班長を押し付けられた。まあ、4人で回れるのなら楽しい修学旅行になるのは間違いないと確信した。

2時間に及んだ修学旅行の班決めなどは、チャイムの音で終わりを告げた。
4時間目が始まるまで、教室内は修学旅行の話で賑やかだった。


あっという間に授業は終わり、久々にグランドへ足を運んだ。
既にマネージャーが用具の準備を済ませてくれていて、着替えが終わるとすぐサッカーが出来た。
広樹もサッカー部で、自称部長。部長は、井出颯太(イデショウタ)。部員たちからの信頼も厚く、しっかり者の部長だ。
広樹と颯太の3人でメニューを決めると、部員を集合させた。
颯「大会期間に入る。ハードなメニューになるけど、怪我と体調管理には気を付けてコンディションを整えてくれ。水分は各自こまめに取る様に!」
颯太の話に「はい!」と大きな返事をすると、いつも通り円陣を組み、練習が始まった。
ア「蓮くん蓮くん!がんばってね☆」
俺は右手でVサインを見せると、ウォーミングアップへ移った。


2時間半に及ぶ部活も終わり、亜莉愛を迎えに部室へ向かった。
レ「亜ー莉愛、帰ろうぜ〜」
ア「お疲れ様ぁ〜! ビブスたたむから待ってて!」
レ「洗濯すんだし、たたまなくていいじゃん?」
ア「駄目! "SUIRYU"の文字が剥がれるとやだもん!」
几帳面な性格の亜莉愛は、丁寧にビブスを袋に入れると、桃や後輩たちに1つずつ渡した。
ア「じゃあ、洗濯よろしくね!明日はあたしとみなちゃんとなおちゃんがビブスね!」
亜莉愛はビブスを2つ紙袋に入れ、マネージャーの日誌を手に取り鞄へしまった。
ア「蓮くんお待たせ! 帰ろっか♪ 」
後輩と桃は、「あーちゃんまたね〜!」「亜莉愛先輩お疲れ様でした! さようなら!」と声をかけた。
亜莉愛は振り向き、
ア「ばいばいみんなぁ〜!お疲れ様。桃ちゃんまた明日〜♪」
と言った。
レ「なんで亜莉愛が2つなんだよ?」
ア「だってね、マネは7人なのにビブス8色もあるんだもん!」
後輩を使えばいいと言った俺に対して、「あたしは2つがいいの!」と笑いながら答えた。
いつもみたいに手を繋ごうとした瞬間、
ア「うわぁっ!」 ズテッ
亜莉愛が視界から消えた。と思っていたら、
ア「いてて。また転んじゃった!」
恥ずかしそうに起き上がる亜莉愛に、そっと手を差し出した。亜莉愛は手を取り、すくっと立ち上がった。
レ「また膝に傷作って〜。ほら、見してみ? …亜莉愛はおっちょこちょいだなぁ〜。」
ワイシャツの袖を少し破り、亜莉愛の右膝へ巻いた。
ア「えへへ〜。蓮くんごめんね。有難う。」
申し訳なさそうな顔で俺のワイシャツに目を移した。
レ「平気だっつーの! ほら、帰るぞ〜」
亜莉愛の手を取り、ゆっくり歩いた。
日も落ち、辺りはもう暗かった。電灯の灯りが付き、夜を迎えた。

亜莉愛の膝の怪我もあり、学校から50分かけて、家についた。
久しぶりにゆっくり話をしながら帰れた。
ア「ワイシャツごめんね!有難う。じゃあまた明日!」
レ「いいよっ。またな〜!」
ワイシャツからは血が滲んでいて、白いはずが赤く染まっていた。
亜莉愛が家に入るのを見送ると、俺も家に入った。


今日もまた1日が終わる。
学校では、修学旅行や体育祭など行事があり、部活では最後の大会を目前としていた。
当たり前のように過ごすこの時間も、徐々に終わりへ近づいていた。

不安。


♪〜♪〜♪

携帯の着信で目が覚める。
着信相手が誰か確認をする前に、応答ボタンを押し、スピーカーを耳に当てた。
レ「…もしも〜し…」
寝起きでボーッとしつつ、話しかけてみた。
?「れれれれれれれんくーーん!!!!!!!おはよーぉっ!!!」
声が割れるくらいの声量で話しかけてきた。俺は思わず携帯を落としてしまった。
?「蓮くーーーん?!どうしたの?!」
俺は慌てて携帯を拾うと、返答した。
レ「亜莉愛。まだ2時だけど…」
電話の主は、亜莉愛だった。鼓膜が破れてしまうんじゃないかと言うくらいの、馬鹿でかい声で俺の目を一発で覚まさせた。
ア「だってさ!!!今日から修学旅行だよっ?!!もー楽しみすぎて眠れなくって!!!」
レ「小学生かよ…。集合、駅に6時だろ?早すぎねぇか…?」
ア「えへへ…。なんか寝付けないってゆーかぁ、早くいきたくって♪」
レ「じゃあ、俺の部屋で映画でも観るか?」
ア「いいの?観にいく!じゃあお菓子持っていくね!」
軽く部屋を片付けると、亜莉愛があがってきた。
レ「不法侵入じゃないかい?翡翠さん。」
ア「楓さんが入れてくれたんだもーん!」
どうやら、母さんと父さんはまだ起きている様だ。
お菓子をテーブルに並べると、テレビの電源を入れた。
レ「洋画でも観るか。」
適当にDVDを出すと、亜莉愛は"トワイライト"を選んだ。
レ「シリーズ物じゃん。」
ア「いいの!また観に行くから♪」
亜莉愛は早速DVDプレイヤーにディスクを入れた。
俺が部屋の明かりを暗くすると、「映画館みたい!」とはしゃいだ。
予告編を飛ばし、本編が始まった。


吸血鬼と人間のラブストーリーは、2時間半が経ち終わった。時刻はAM 4:50。
亜莉愛は準備をすると言い、家に帰った。
俺は、風呂場へ向かう。
レ「おはよー。」
楓「蓮ちゃんおはよ♡今日からたっくんと天音ちゃんと龍くんと旅行いくから♪」
拓「麗は、彼氏の家に行くそうだから、なんかあったら携帯に連絡かけろよ。」
2人は、「いってきま〜す」と一言残して旅行へ出かけた。

風呂から上がり、いつも通りに髪を整える。
ピンクの半袖シャツに、白いハーパンを履き、ポケットに携帯、iPod touch、財布を入れた。
左手にシルバーの時計をつけ、この前買った十字架のネックレスをつける。
サングラスを胸元に引っ掛け、玄関へ向かった。
麗「ほら、お守り忘れてるぞ馬鹿。」
レ「馬鹿は余計だよ、サンキューな。じゃ、いってきます!」
姉ちゃんは、「気を付けて! 楽しんでこーい♪」と明るく送り出してくれた。

家の外に出ると、亜莉愛の姿はまだなかった。
ア「お待たせ蓮くん!」
振り向くと、真っ白なマキシ丈のワンピースに、茶色いロングヘアを三つ編みにした、普段とは違う亜莉愛の姿があった。
赤いショルダーバックが色を映えさせ、オレンジ色の頬に、軽くメイクを施してある。
私服の亜莉愛を見るのは久しぶりだ。あまりの可愛さにボーッとする俺の手を取り、
ア「蓮くん!早くいこーっ!」
と、歩き出した。

ずっと楽しみにしていた修学旅行に、ご機嫌な亜莉愛。
だが、駅まで歩いているうちに、段々と足取りは重たくなっていった。
レ「疲れたか? 休む?」
俺は、亜莉愛の顔を覗き込む。
ア「全然平気だよ! 行こっか!」
何事もなかったかの様に、先を歩き出した。
おぼつかない足元は、いまにも倒れそうだった。
突然、繋いでいた手が解け、亜莉愛はふらつき壁にもたれかかった。
レ「亜莉愛?! おい、しっかりしろ!」
不安と焦りで急いで亜莉愛へ駆け寄ると、壁に手をつき、ぐったりと地面にしゃがみ込んでしまった。
ア「やっぱ疲れちゃったや! 寝てないからかな? えへへっ」
辛そうな笑顔を見せ、壁に持たれかかりながらゆっくりと立ち上がった。
まだ多少ふらつく亜莉愛を支えながら、少し不安になった。
レ「…もうちょい休むか?」
亜莉愛の体は予想以上にも軽く、肩は細かった。
ア「大丈夫だよぉ!さあ行こっ!ごめんね蓮くんっ。」
俺は亜莉愛を介抱しながら徐々に歩を進めていった。
歩いていくうちに、ふらつきもなくなりホッとした。
無事に駅に到着し、新幹線へ乗り込む。
レ「じゃあ、あとでな亜莉愛。無理するなよ?」
ア「ありがと蓮くん! またあとでね☆」
亜莉愛は桃や、クラスメイトの女の子たちとニコニコしながら新幹線へ乗り込んだ。
俺も後を追うように広樹と乗車した。

新幹線では男女が別々なため、亜莉愛の側にいられない。
俺の中では不安が募り、流れ続ける冷や汗に、嫌な予感が込み上げる。
隣の席の広樹に朝のことを伝えると、
ヒ「寝不足だって!大丈夫!あんま心配すんなって☆」
と、俺の背中を軽く叩いた。
健康的な翡翠家の食事なら安心だし、基本的に体調もあまり崩さないタイプだから、きっと寝不足だろうと俺も考えることにした。
痩せた体が気掛かりだったが、ダイエットだろうと考えた。

広樹や、席が前の颯太と平良真子(タイラシンジ)と話していくうちに、俺の中にあった不安も少しずつ和らぎ、大阪出身の真子の話で会話は盛り上がった。
真「ほんでな、そこのたこ焼きがほんまに美味しくてな、どえらい繁盛しとるんや!せやせや!あっち着いたら案内したる!」
レ「俺ら班が違うよ?」
真「せやったら、一緒に行けばええやん!女子説得するさかい、自分も女子説得せえ!頼んだで自分。」
自分? だれに言ってるんだこいつ?
颯「おい真子、自分じゃなくて名前で呼ばねーとわかんねえだろ。自分ってのは、君とか相手に対してだからさ。」
大阪弁は難しいようだ。慣れたと思ったが、まだまだかかりそうだ。
ヒ「8人っておおくねぇか?!でも楽しそうだな!そっちは、琴葉ちゃんと和葉ちゃんだろ?」
颯「そうそう、双子で一緒なんだよ。すげえよな。」
真「ぎょうさんおった方がおもろいで〜! おっちゃんも喜ぶさかい、なんぼかまけてくれるかもしれんしな!」
話はちゃくちゃくと進み、亜莉愛に3班と合同になることをメールすると、軽くOKを出してくれた。
大阪の自由行動は4日目だけど、楽しくなりそうでよかった。



亜莉愛なら大丈夫と自分に言い聞かせ、3泊4日の修学旅行がスタートした。
楽しいはずの修学旅行が、災難の始まりとも知らず。

始まり。


俺たち4人はその後も、真子の初恋の話や、颯太の彼女の話、部活の話も色々した。
広樹は、「桃に手ぇ出すんじゃねえぞ!」と、夏までに告白をすると宣言した。
真「ほんで、蓮翔はどうなんや?亜莉愛ちゃんにいつ告白したるん?」
レ「はっ?!っんなのしねーし!ってか、別に亜莉愛とはそんなんじゃねーからっ!!」
真子にいきなり話を振られた俺は、恥ずかしながらも動揺をうまく隠せなかった。
颯「へぇ〜?翡翠のこと好きなんじゃねえんだ〜?ふぅ〜ん。」
ヒ「亜莉愛って結構男子にモテるよなぁ〜?」
真「わかりやすいっちゃあらへんな!好きなら好きやて、男らしくしいや!気持ち伝えんと、他のやつに持ってかれるで?いつまで待っとってくれるかわからへんで?」
確かにそうだ。亜莉愛は学校の中ではモテる方だ。
顔も可愛くて、勉強も優秀で、部活のマネージャーの中でも1番作業が早く、性格は本当に良い。
瞳は茶色く、ぱっちりしていて、髪は綺麗なミルクティー色。
いつもニコニコしていて、後輩にも慕われている。
こんだけモテる要素が整っているんだ。彼氏が出来てもしょうがない。
レ「まあ、確かにそうだな。でも、彼氏が出来た時はそん時。亜莉愛が幸せなら幸せでオッケーだし。」
颯「馬鹿だなお前は!!翡翠はずっと待ってんだぞ!そんなのもわかんねえのか?」
いつも冷静な颯太が、いきなり声をあげた。
真「ほんっまに、颯太の言う通りや。鈍感にも程があんねん!あないかわええ子、どこにもおらへんで?」
ヒ「早よ告白したれ!!」
広樹までも大阪弁を使ってきた。
俺に説教していたはずの真子は、下手な大阪弁を使ってきた広樹を怒鳴り、颯太は優しく微笑んだ。
真「早よ、亜莉愛ちゃんに気持ち言うたれ。待っとるで。」
レ「ありがとな。」
あんまり話したことのなかった真子とも打ち解け、亜莉愛へ対する気持ちに正直になると決めた。

そして、気づけば3時間が経ち、無事に京都に到着した。
降車してすぐに亜莉愛を探す。
ア「早く抹茶パフェ食べたいなー!!楽しみだね桃ちゃん♡」
モ「そうだねそうだね!!!あたし、京バウムも食べたいなーっ♪」
そこには、まんべんの笑みを浮かべる、元気そうな亜莉愛の姿と、桃の姿があり不安が一気に和らいだ。
ヒ「ほーら、大丈夫そうじゃん?あんま気にすんなって!ほら行こうぜ☆」
亜莉愛のことはすごく心配だったけど、あまり気に止めないようにし、そのうち緊張もすっかり解け、思いっきり楽しむことにした。

各クラスに用意された、市バスで清水寺へ向かうと、人数確認をして集合写真撮影が始まった。
遂に修学旅行らしくなってきて、気持ちもどんどん高ぶった。
撮影が終わると、清水寺をクラスで見学し、数時間後班行動に移る。
岡「1時間半後、清水寺集合だからな〜!京都の自由時間は明日あるから、あまり遠くまで行くなよ〜!」
担任から指示が入り、遠くに行けるような時間もあまりないため、近くにある地主神社へ行くことにした。
モ「ここって、有名だよね!あーちゃんも目瞑ってやってみる〜?」
ア「んー、やろうかなっ♪」
どうやらここは恋愛の神様?の神社のようで、目を瞑って石から石まで歩けたら恋が実るとか、実らないとか…。
一応、パワースポットみたいだ。
ヒ「蓮翔やるのか?(笑)」
レ「やるわけねーだろ!!馬鹿かお前は。」
ヒ「そうだよな♡蓮翔くんには愛しい人がいるし、確実両思いだもんな♡」
広樹は俺の腕をちょんちょんとつつき、わざとらしくウインクした。
レ「ふーん、へぇ〜。広樹は俺にそんなことが言えるようになったのかぁ〜!そういえば今日の桃ちゃんお洒落だよなぁ〜。」
俺も負けじと、広樹をからかう。
広樹は桃のことを転校初日に見て一目惚れ。そっからずっと片思いをしていたのだ。
ヒ「桃はいっつも可愛いの!」
照れ臭そうにそう言うと、桃と亜莉愛の元へかけて行った。
どうやら亜莉愛と桃は、目を瞑って石から石まで歩くのをやるそうだ。
モ「じゃあ、あたしからやるね!!見ててあーちゃん!」
トップバッターは桃。
桃は目を瞑ると慎重に歩を進めた。一歩ずつつま先にかかとを当てながら歩く。
少し進むと手を伸ばし、石を探す。亜莉愛は、「もっと歩いて!」とアドバイスをし、桃は止めていた足をまた一歩ずつ進ませた。

ペタッ

モ.ア「できたぁぁぁぁ!」
モ「あーちゃん!あーちゃん!できたよできた!!」
亜莉愛と桃は子どものように喜んだ。
ア「次はあたしがやるね!」
亜莉愛は、石の前まで行くなり、深く深呼吸をすると、目を瞑った。
桃のように慎重に歩を進めていく。
モ「あーちゃんバランス悪くない?フラフラじゃんよ(笑)」
俺はいつの間にか冷や汗をかいていた。今朝と同じだ、このふらつき方。
俺は、急いで亜莉愛の元へかけて行った。
レ「亜莉愛っ!!」
案の定、亜莉愛は倒れた。
広樹と桃も、急いでかけつけた。
俺は亜莉愛を抱きかかえると、人目のつかないベンチへ運んだ。

レ「おい…もう、大丈夫か…?」
顔色の悪い亜莉愛へ、そっと話しかけた。
ア「…うん…。ごめんねっ、また蓮くんに迷惑かけちゃってっ…。桃ちゃんや、ひろくんにまで…」
モ「あーちゃん!よかったぁ〜。なになに、自分の心配しなさい!」
ヒ「そーだよ、俺ら別に迷惑とか思わねえし!」
桃は涙ぐみ、広樹は笑顔で話しかけた。
レ「なあ、やっぱ寝た方がいい。…バスに戻ろう。」
俺は亜莉愛を背負うと、清水寺へ向かった。
広樹と桃は、俺らを挟むように並んで歩いた。
清水まで、広樹と桃はいろんな面白い話をしてくれて、場の空気を盛り上げてくれていた。

バスに着く前に、亜莉愛を背中から下ろす。
レ「歩けるか…?」
ア「うんっ、ありがとう蓮くん。」
広樹は先生に先にバスに乗ると伝えに行った。
レ「…なんか冷たいもん買ってくるわ…。桃、亜莉愛よろしく…。」
そう言って、2人を残して近くのコンビニまで歩いていった。

俺の中では沢山の疑問が浮上し、頭の中はパニック状態だった。
ただの寝不足で、あんなにふらふらになってしまうものなのか、
基本的に、風邪はあまりひかない方だし、でもその分、風邪をひいてしまったときは長引く。
だけど、あれは風邪なのか?

俺はボーッと歩きながら、コンビニの前に辿り着いた。
清水寺からは少し離れてしまったようで、どこのコンビニか全然わからなかった。
知らない土地を1人で移動するのは危険だな、と思った。
?「ちょい待ちぃ! 落としたでー?これ。大事なもんなんちゃう?」
後ろの方で声が聞こえた。どうやら、誰かが何かを落としたらしい。
だけど、あまり気に留めずに再び入り口へ歩き出した。
?「?!ちょい待ってーや! 落としたって言うとるやろ!聞こえへんの?」
急に肩を掴まれ、俺は驚いた。
どうやら、落とした主は自分だったようだ。
レ「あ、ありがとう。」
俺は落し物を拾ってくれた方の手を見た。そして、目を見開いた。
その手の中にあったのは、亜莉愛から貰ったあのお守りだった。
?「気いつけやー?自分、顔色悪いんちゃう? なんぎなことでもあったん?」
(※なんぎ=大変)
俺はお守りを握りしめ、胸ポケットの中にしっかりしまった。
レ「あ、すみません。大丈夫です。ありがとうございました。」
俺と同い年くらいの女の子は、心配そうな顔をして、俺を見る。
俺はその横を通り過ぎ、お辞儀をしてコンビニに入った。
とりあえず麦茶を4本、冷えピタ1箱をカゴに入れ、レジへ持っていった。
俺は店員さんに、清水寺への行き方を尋ねた。
店員「お客さん、清水寺行かれるんですか?!バス使った方が早くつきますよ?ここ出てすぐ、バス停ありますんで、10分くらいで着くと思います。」
時計を見ると、バスが出発するまであと15分だった。どうやらすごく遠くまで来てしまったようだ。
俺はお金を払い、会釈をしてコンビニをダッシュで出た。丁度バスも来て、清水寺へ向かう。
携帯を開くと、広樹と桃、亜莉愛からの着信がたくさん来ていた。
道路が混雑していて、出発時刻から5分過ぎてようやく清水寺へ着いた。
岡「おっそいぞ〜!迷子になったのか?」
先生は全然怒らず、むしろ笑いを取ろうとしてくれた。
俺は気を遣ってくれてる先生に、「遅くなりました。すみません。」と一言告げると、1番後ろろの座席の亜莉愛たちの元へ向かった。
ヒ「おかえり!おっせーじゃん?買えたか〜?」
モ「あーちゃんさっき寝たところ!ちょっと熱っぽいから風邪かも!」
俺は2人に麦茶を渡し、亜莉愛の隣へ座った。
コンビニで買った冷えピタを取り出し、そっとおでこに貼る。
少し熱い程度だったし、風邪だという点ではホッとした。
広樹と桃は、「疲れてるんだよ! 大丈夫!」と俺を元気付けてくれる。
俺は、元気付ける側なのに、逆に2人に気を遣わせてしまった。


気が付くと宿の布団の中にいた。
どうやらバスの中で眠ってしまっていたようだ。
真「お早うさん〜! 運ぶのえらい時間かかったんやで〜? 感謝しぃ!」
部屋が同じで、新幹線での席のメンバーの真子と颯太、広樹の3人が俺を運び出したそうだ。
レ「亜莉愛はどうだ?」
ヒ「それがな…」
広樹は声のトーンを下げて言う。
レ「…亜莉愛やばいのか?」
颯「やばいってゆーか…」
颯太も、声のトーンが低かった。
みんなが下を向く。
嫌な予感がして、布団から飛び起きた。
真「亜莉愛ちゃん……めーっちゃ元気になったで!!」
レ「…えっ?!」
俺はポカンと3人を見つめた。
話によると、寝たら元気になったようだ。
3人は、俺を驚かそうとしたらしい。
レ「よかったぁ〜。」
そっと胸を撫で下ろし、夕飯が用意されている食堂へ向かった。
そこで、元気そうな亜莉愛を見かけた。
どうやら、体調が戻ったようだ。
俺たちは夕飯を食い終えると、大浴場へ向かい、また部屋へ戻った。
俺は3人に、清水寺からコンビニ行くのに迷った話や、お守り拾ってくれた人が大阪弁を話す同い年くらいの女の子だったこと、
バスの中でいちゃついていたカップルの話をしたり、夜遅くまで起きていた。


俺たちが寝たのは結局夜中の2時で、あまり寝れなかったが、1日目の最後は楽しく終了した。
すっかり不安は消え去って、2日目のことで気分は弾んでいた。

解決したと思っていたけれど、不安が消えたのは俺だけで、俺は1人だけ、取り残されてしまっていた。
そんなことに気付く間もなく、修学旅行は3日目に突入した。

空に願いを。

空に願いを。

俺の名前は松田蓮翔(マツダレント)。幼馴染で、初恋の人である翡翠亜莉愛(ヒスイアリア)。中3の夏、松田家と翡翠家で出かけた伊豆旅行。最終日の花火大会のあと、亜莉愛と俺は約束をした。旅行から帰った俺は、車の中で亜莉愛が忘れたていったお守りを届けに翡翠家へ足を運んだ。しかし、家には誰もいなく、家具も何も置いてなかった。残っていたのは、亜莉愛から俺宛ての一枚の手紙だけだった。

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更新日
登録日
2013-07-27

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  1. 秘密の通学路。
  2. 学校。
  3. 不安。
  4. 始まり。