10年を隔てて…

輝いていた雷門中の少年たち。10年と言う時が経ち、彼らも大人になった。しかし、サッカーへの思いは変わっていない。今日も同じ空の下、ボールを追っている…。

〈1〉

ーーーお前に頼みがある。


そんな風に真面目な口調で切り出された電話は、かつて共にフィールドを駆け抜けた仲間、鬼道有人からのものであった。
その声は栄光のあの時代よりも少し大人びた気がする。

クーラーの効いた部屋で、不動明王はソファの上にあぐらをかき、懐かしい日本語で、

「どうした?鬼道クン?犬猿の仲じゃなかったのか、俺たちは。」

と返す。電話の向こうで、クスッと笑う声がした。てっきりまた喧嘩が始まるものだと思っていた不動は、自分の幼稚さを恥じて、無愛想に

「…で?何の用だよ?」

と、もう一度ききかえした。鬼道の口から、懐かしい名前が飛び出る。

「円堂からの依頼なんだが…、俺だけでは人手が足りなさそうなんだ。協力してほしい。」

「へぇ。鬼道クンだけじゃ出来ないってか。キャプテンも大層な事頼んでくるもんだな。……内容によっては、協力してやってもいいけどよ。」

少しの間、受話器の向こうでためらうような沈黙が広がった。不動はじれったくも、次の言葉を待った。

「実は、日本のサッカーが危ない。」

切り出された言葉に、不動は思わず「はぁ?」と声を上げる。

「……やはり知らなかったか……。実は、日本では少年サッカー法というものが」



それからの鬼道の説明に、不動は一言も口を挟まずにただ固唾をのんで耳を傾けていた。
ずっとスペインでの生活ばかりで、母国の事など心配していなかった。
日本には円堂たちがいるから、自分は目の前の事をやっていようと、ただそう考えていたのだ……。

ーーー考えが、甘かったか……。

そう心で呟き、不動は自分の膝をガンッと殴りつけた。

「鬼道……、すぐ帰国する。待ってろ。」

低く伝えたその言葉は、偽りひとつない、心の底からの言葉だった。

「でも、不動、お前スペインのチームの事はいいのか!?」

鬼道が慌てた声で言う。不動は膝の上のこぶしを握りしめ、深呼吸すると答える。

「今日負けたから……抜けるにはいいタイミングだろ。2-3だぜ?2点も奪っといて情けねェ負け方だぜ。……いいか、俺は帰国する。俺が人の意見に左右されねェ精神持ってることはお前らが良く知ってるはずだ。キャプテンたちにもそう伝えとけ。」

「分かった……、不動、ありがとう。」

「……なんだよ、改まって……。」

思わず不動が顔をしかめて言うと、鬼道は声を上げ、軽く笑った。

「そうだったな、お前はこういうのが苦手だったな。忘れてた。変わってないな。じゃあ、また会おうな。待っているぞ。……おやすみ。」

そこで、通話が切れた。

「お前は……変わったな……。」

受話器を持つ手をだらりとおろし、不動は呟いた。

〈2〉

「え~~~~~!?何でだよぉ!!」

佐久間次郎が悲痛な声を上げた。

「何でも何もない。効率よく物事を進める為にも、人数が必要なんだ。」

鬼道が、少し呆れたように言うと、佐久間は子供のように唇をとがらせる。イナズマジャパン時代から、佐久間と不動は犬猿の仲なのだ。

「でも、佐久間君と鬼道君さ、不動君と一緒に戦ったことあったよね?」

吹雪士郎が口をはさむ。

「あれは・・・!仕方なかったんだ。影山打倒の為に・・・」

「仕方ない・・・か。それにしては佐久間、協力的じゃなかったか?」

鬼道がからかうと、佐久間は返す言葉が見つからずに机に突っ伏した。
すると、TPK+kmcの「マジで感謝!!」のメロディが流れた。

「染岡くんだ!ちょっとごめんね。」

吹雪はそういうとその場を離れた。その足取りは軽い。それもそのはず、ついさっきまで吹雪は、「染岡くんからもう1週間も連絡が来ないんだよぉ!嫌われたかなぁ・・・」などと愚痴っていたのだ。

ーーー道を踏み外しそうで恐ろしいんだが・・・。

鬼道が苦笑すると、佐久間が真面目な顔つきでささやいた。

「なあ鬼道、あいつら・・・吹雪と染岡って、どういう仲?」

鬼道は返事に困り、「さあ・・・」と言うと口ごもった。
すると今度は、それまで黙っていた炎のストライカー、豪炎寺修也の携帯が机の上でブザー音を放つ。

「悪い。俺も電話だ。少し出てくる。」

短く告げた豪炎寺は、携帯を開いて立ち止まる。

「豪炎寺?」

佐久間が声をかけると、豪炎寺は

「円堂からだ。」

と言うと、その場で電話に出た。豪炎寺にしては笑顔の絶えない会話だった。豪炎寺にとって、円堂はサッカーでの恩人なのだ。初めこそは円堂を冷たくあしらったものだが、帝国学園との試合の際、ついに豪炎寺はサッカーと正面から向き合う事を決意できたのだ。

「鬼道、佐久間、円堂が今からここに来るらしい。」

すると、丁度電話を終えたらしい吹雪も戻ってきた。

「染岡くんはこっちには来れないんだけど、でも、僕たちのことを忘れたわけじゃないって言ってたよ。」

どうやら一線は超えていないようだ。

「染岡って、今イタリアにいるんだっけか。」

佐久間がそれとなく尋ねると、吹雪は子供のような愛くるしい笑顔でうなずいた。

「うん。おまえたちに負けてられないって言ってた。だから『染岡君に負けるような僕じゃないよ』って返したら、……」

すっと吹雪の表情が微かに曇る。
それに気付かず、佐久間は無遠慮に問い返した。

「…返したら、なんだよ?」

「確かに俺はお前にはかなわねぇな、って……。『なんだとっ!?』って言われると思ってたからびっくりして、それで黙ってたら通話が切れちゃって…」

豪炎寺は微笑し、軽く息をついた。吹雪は若干暗い笑みで席に着き、メニューのパフェを眺めはじめた。

「染岡君、僕よりずっとずっと…大人になったなぁ……」



「ごーえんじぃぃー!!」

突如、カフェ内に明るい声が響く。
10年前と変わらず丸い瞳、オレンジのバンダナーーー円堂守だ。

呼ばれた豪炎寺はというと、慌てたように席を立ち、声のする方へ向かった。

「円堂、大声を出すな。子供じゃあるまいし。こっちだ」

しかし、もう一人子供がいた。

「わぁっ!キャプテーンっ!!早くおいでよ!」

吹雪だ。
鬼道はサングラスの奥の瞳で吹雪を冷ややかに見つめる。

3


「お前ら全ッ然変わってないよな。…ちょっと安心した」

円堂が切り出すと、豪炎寺は苦笑して返す。

「円堂。それはお前にも言えた事だと思うぞ」

そうか?と呟き、円堂はコーヒーフロートに軽く口をつけた。
鬼道は真剣な表情で俯いている。彼の考え事をする際の癖――机を指でたたく――に気付いたのは、珍しく吹雪だった。

「鬼道君。さっきの話、キャプテン……じゃなかった、円堂君は知ってるのかな」

そっと囁くと、鬼道も小声で返す。

「分からない。兎に角、俺からは話していない」

「そっか。もし知らなかったら、どうするつもり?」

「話すしかないだろう」

重い口調に、吹雪は小さく肯いた。

「……あのさ。俺、風丸もここに来るように言ってあるんだ」

円堂が至って真面目に口を開いた。佐久間と鬼道は眉根を寄せる。

「「まさか円堂……?」」

完全なるユニゾンで尋ねた元帝国コンビは、別に気にする様子もなく円堂を見ている。息が合うのはいつものことのようだ。

「サッカーをさ、守りたいって気持ちは…みんなおんなじだと思ってる」

円堂の表情は頑なな意思を露わにしている。
やはり『変わってない』とは言えど、10年と言う時間は経っているらしい。

「円堂君。僕たちがここに集まってたのは、その話をする為だったんだ。君が知っててくれて、その――なんていうか、ホッとしたよ。一緒に守っていこうね、サッカー」

吹雪が言うと、円堂が肯き、その他の面々も肯定の意思を示した。



「よお、みんな」

数十分後、風丸が姿を現した。その表情はどこか――険しい。

「風丸。話があるんだ。そこに座ってほしい」

豪炎寺が言うも、風丸は首を振った。

「ちょっとさ、雷門町の河川敷にある、鉄塔に行かないか?あそこの景色、久しぶりにみんなで観たいんだ」

吹雪がしばらくの沈黙の後、答える。

「そうだね、久しぶりに行こうか!」

豪炎寺、佐久間、鬼道、円堂は互いに顔を見合わせた。
何か裏があるのか、それともただ単に会えたことに対しての喜びで気分が舞いあがっているだけなのか…?
と、考えながら。

10年を隔てて…

10年を隔てて…

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-26

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
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