天誅

狂った女の子を書いてみました。
良かったら読んでやって下さい

 冬の風が、頬にささる。二月ももう下旬だが、日はまだ短く、5時だというのに真っ暗だ。

 

 街灯も頼りないコンクリートの道を、つかつかと歩く。



 ときどき周囲の家から食欲をそそる夕飯の匂いがする。・・・・・あの家はカレーか、鍋をひっくり返してしまいたい。テレビの音らしい笑い声も、奴らの笑い声のようで忌々しい。



 ただいま、とも言わずに私は家の中に入った。母が台所で料理しているらしい。トントンと包丁で切る音がする。



 私は2階にある自室にかばんを放り投げ、机の引き出しから古びた鍵をだした。



 

 一年前に亡くなった祖父との会話がよみがえる。



「うちの家は昔、武士だったんだ。
そのなごりでうちの蔵にはまだ、カタナがあるんだよ。正確には脇差だ。
俺のじい様は名刀だって言っていた。
辰太郎、知ってんだろ?そうだ、辰じいだ。あいつの家は昔、刀鍛冶でな、廃刀令で刀が売れなくなったんで、鍛冶屋はやめちまったが、俺らがが小さいときにはまだ、刀を研ぐくらいのことはしてたんだぜ。
今じゃ、あの家でも刀研ぎできんのはアイツくらいなもんよ。
俺は時々、その脇差を辰太郎に研いでもらってんだ。じい様が大切にしていたあの脇差の切れ味を残すために・・・」



 7歳だった私は、その脇差を、見たい見たい、とせがんだ。



「まあ、そう慌てんな。俺はお前にその脇差を継がせる気だ。お前の父親はとんだ腑抜けだが、おまえは賢そうな、良い目をしてる----.。」

 

 そして祖父は、この鍵を私に秘密に託した。



 それから7年------。おじいちゃん、喜んで。あなたがほめた孫は、あの刀で正義を果たそうとしているよ。



 

 暗闇の中の蔵は、重く、少し不気味な雰囲気を漂わせていた。



 初めて、この鍵を使った。鍵は古びてはいたが、どこかで、絶対に開くという自信があった。



 開いた。

 

 ギギギギ・・・・という音。うっすらと黴臭い匂い。



 がらくたの一番奥に、小窓からさしこんでくる月明かりに照らされ、凛とたたずむ脇差。



 ゆっくりと歩を進め、近づいていく。



 掴んでみると、意外に重い。



 そして、抜く。刃が、鋭く光った。



「きれい・・・・・」

 

 思わず呟く。祖父が守ってきた刀は、私の人生で見た何よりも美しかった。



 

 その次の朝、私は多分一生会うことのできないだろう母に見送られ、家を出た。



 それからはのどかな朝を楽しむように登校した。

 

 学校には何の未練もない。土足で上がった。そのまま走って、かばんの中から取り出した。



脇差を------。



 一気に鞘を抜いて、ぺちゃくちゃとおしゃべりしている奴の背中に刃をつきたてた。



 目をカパッと開いて驚く奴の顔、おかしいったらありゃしない。



「天誅」



 天に代わって悪者に手ををくだす----。



 私は、正義だ。



あはははははははははははははははははははははは!!

天誅

ありがとうございました!!

天誅

いじめを受けた少女の復讐――――、 それは、祖父から受け継がれた日本刀で行われた。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-08-08

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