鬼と獣、五
いやあ、急展開。
新しい感情を持ち合わせて、
思っても居なかった言葉が鬼灯の耳にすぅっと入り込む。
思考が追いつかない。珍しく揺らいでいる自分が居た。
「私の事が好き、だと…?あなた正気ですか」
まだ落ち着かない頭を回転させ言葉を紡ぐ。
「だから、好きだって言ってんじゃん馬鹿!僕は嘘なんてつかないよ。嘘つく必要もない」
白澤は少し怒った様に、そして頬を赤らめながら答える。
「深刻にしてるから何の相談かと思いきや僕を本格的に地獄に落とそうなんて…しかも方向性が違いすぎるぞ。あんなの真正面から好きだって言われた様なもんだ。…だから我慢出来なくなった。あぁ、僕馬鹿みたい…」
「そ、それは…ですが地獄に落としたいのは事実ですよ。あなたみたいな人が天国に居て良い筈がありませんから。しかし何でしょうこのモヤモヤは…何故あなたは私の事を好いているんですか。あなたは女性一筋でしょう?しかも私とは言い合ってばかり…」
鬼灯はだんだんと挙動不審になる白澤をじぃと眺めつつ、落ち着こうと会話をつなぐ。
「うるさいな、理由なんて分からないよ。鬼灯は魅力が有りすぎるんだ。男の僕でも気を惹かれるくらいに。そりゃ、言い合ってばかりだけどさ、僕はそこに充実感を感じていたよ。今日も鬼灯といつも通り絡む事が出来たってさ。僕が可笑しいのよく分かってる。でも本心だから」
鬼灯は黙り込む。
白澤が今までどんな気持ちで自分と関わってきたのか。それを知った。
私はどうだっただろうか。確かにはらわたが煮えくりかえる様な事もあった。しかし、言う程苦行としていただろうか。
今日だって、言わば雑談をしに来たのと同じではないか。
他人から白澤の話を振られた時にカッとなる、白澤を罠へはめようとする。
よくよく考えれば、全て好意を持って成り立つ事ではないのか?
自分は色恋沙汰にどれだけ鈍感なのか思い知らされた。
こうなれば話は早い。私は漢だ。
「そうか…、白澤。私もあなたが好きです。確信を持てました。もはや性別など関係ない」
「…ほーずき?」
この数秒で鬼灯に何があったのか理解出来ぬまま告白を受ける白澤。
「ちょっと、何でも急すぎない?僕に流されちゃ駄目だからな。お前はそんなタイプじゃないだろうけど!」
逆に焦る白澤に今度は鬼灯が詰め寄る。
そして、さっきのお返しです。と口付けをした。
「私が好きだと言ったら好きなんです。これが好きという感情なんですね。気付かせて頂いてありがとうございます」
白澤に丁寧にお礼の言葉を述べる。
「いや、そんな…。でも、答えてくれて謝謝。嬉しいよほーずき…」
まだ挙動不審な白澤をよそに鬼灯は再び頬に口付けをした。
そのとき、遠くの方でシロの歌う声が聞こえた。じきに店に帰ってくる。
「シロさんたちが帰ってきた様です。………白澤、この事は内密に願いますよ」
鬼灯が白澤の口元に人差し指をあてて述べる。
「…言える筈が無いだろ、馬鹿」
白澤は頬を赤らめて呟く。
「ただいまー、相談終わったー?」
店のドアが開きシロと桃太郎が店内へと入ってきた。
鬼と獣、五