喜怒哀楽
喜怒哀楽 言葉で人間の感情を表すとなるとやはり出てくるのはこの言葉だと思う。
ここでは、人間の喜怒哀楽を一人の人間視点で考えて、上司 幾太が書いた小説を紹介する。
喜怒哀楽
・喜
私は朝目覚めると日課で、家の近所を散歩する。ただの散歩と思うかもしれないが、私の中ではこの日課の朝の散歩は私の生活で一番の楽しみだった。
散歩コースはまず、家の玄関を出て、近くの河川敷に向かって歩き出すのが私のいつもの散歩コース。
その間には、いつものブロック塀の上でスヤスヤと居眠りをしている三毛猫がいる。「今日も元気そうだな。」軽くいつもの猫に声をかけて、散歩を続ける。
猫とのあいさつを終えて、しばらく真っ直ぐ歩くと私がいつも通っているタバコ屋が近づいてきた。
これが、可笑しなことに私はタバコを吸わない。なのにタバコ屋にいつも通っている・・・。 そう、私はタバコ屋の娘のことが好きだった・・・。
また、タバコ屋によって娘に挨拶して、一時ほど、娘との会話をする。娘は非常に優しく、こんなつまらない私の話も親身になって聞いてくれる。
娘との会話を終えて、タバコ屋を後にして、また真っ直ぐ歩き続けると一体のお地蔵さんが見えてくる。
いつもこの時間にお地蔵さんの前でなにやら必死に手を合わせて祈っている老婆をいつも見る。
しかし、どう声をかけたものかと思い。いつも声をかけずに通り過ぎる。
今日も老婆に声をかけれず通り過ぎた。しかし、今日もいつもの場所に居てくれたことの方が私は嬉しかった。
そうした、いつもの出会いがあって私は河川敷に到着する。
今日の出会いも楽しかった・・・。そう思って、今日を振り返りながら河川敷を散歩する・・・・・・。
・怒
いつものように私は朝の散歩に出た。
いつものブロック塀に居るはずの猫が居ない、今日は居ないのか・・・・。
少し、寂しかったがまぁ、そんな日もあるだろう・・・。と思いながら、いつものタバコ屋に足を進めた。
そのときだった、やけに、スピードを出している車が向こう側から走ってきているのを見て危ないな~と思っていると。
急に車はコントロールを失ったかのように、私のよく通うタバコ屋に突っ込んだ!!!
私は急いで、タバコ屋に駆け寄って「大丈夫か!! 聞こえるか!! 返事してくれ!!!」
何度叫んでも、娘の声は聞こえない。
すぐに、娘は救急車に運ばれ、病院に向かったが助からなかった。
即死だったそうだ。私は運命を呪ったよ。
あんなにやさしい娘がこんな形で亡くなってしまうなんて。
その日は、怒りの感情を抑えるために私はいつもの河川敷を夜ひとりで歩いた・・・。
・哀
今日も朝に散歩に出かけた。いつものブロック塀のところに三毛猫が居た。「よぉ、元気か」
ニャーとだけ猫は返事をした。「元気そうだな」と私は答えた。
そして、いつものタバコ屋の前に向かうと、いつもあったあの娘の姿がまだ目に浮かぶ・・・。
タバコは吸わない私だが、今日だけはタバコ屋で1箱だけタバコを買った。
タバコ屋を後にして、いつものお地蔵さんの前に近づいたが、今日は珍しくあの老婆が居ない。
丁度、近所の人を見かけたので、少し訊ねたみた。「あの・・・。ここにいつも居るおばあちゃんは・・・。」
と訊ねると「ああ・・・昨日、急に倒れてね亡くなったのよ・・・。心筋梗塞だったらしいわ。」と答えてくれた。
いつもの顔なじみが時が過ぎて変わりゆくことに私は、とても哀しく思った。
河川敷につくと、腰を私はおろして、買ったタバコに火をつけた・・・・・・。
・楽
私も随分歳を取り重い病気も患っていた。
病院の看護師に私はぼつりと呟いた。「散歩がしたい・・・。」
看護師は言った。「駄目ですよ。寝てなくちゃ。」
看護師が病室を出ると、私はベッドから起き上がり、病室をこっそり抜け出した。
そして、病院の中庭まで行きベンチに腰かけた。
しばらく、ボーとしていると。ニャーとベンチの下から猫の鳴き声が聞こえた。
出てきたのは三毛猫だった。
「懐かしいな三毛猫か、あのブロック塀の上にいた三毛猫を思い出す。」
「あの、タバコ屋の娘を思い出す・・・・。」
「お地蔵さんの前にいたおばあさんも思い出す・・・。」
「私ももうすぐそちらへ・・・・・。」そういいながら私はゆっくり目を閉じた。
二度と私の目は開くことはなかった・・・・・。
喜怒哀楽