鬼と獣、四
さて、方向性
心の臓が疼く、本音を告げよう
白澤と鬼灯、二人だけの店内。
静かな空気、漢方の香りが部屋一面に漂う。
「で。相談って何?お前が僕に相談事なんてさ。珍し過ぎて笑えてくるよ」
白澤は来客用の椅子に腰掛けながら尋ねる。
鬼灯も空いている椅子に腰掛け意を決したように白澤を見据えた。
「相談事というか…、私、最近どうもおかしい様で。あなたの事を考えるだけで、こう…胸がえぐられるような、締め付けられる感じになるのです。あなたと面を合わせている今まさに、心拍数が上がっています。…どうやら、今までの恨みつらみがもう限界の様です。あなたを地獄に落とさねば」
「いやいやいや、何それ。鬼灯意味わかんないし。地獄に落とそうとするなって。…というかその症状僕心当たりがあるよ」
いきなりの鬼灯の台詞に驚きつつも鬼灯の今まで見え隠れしていた心中に勘付いた白澤はまさか、と少々疑いながらも相手の言葉を待たずに話し始めた。
「僕の店にね、よく女の子が漢方を買いにくるの。勿論僕に会いに来てくれる子も居るんだけどね。そしたらさ、症状が胸の奥が締め付けられる様に痛むんだってさ。お前と全く同じだよ。まぁ、お前にこんな感情があった事に驚きだけどさ…それ、恋だよ。恋の病。鬼灯、僕の事気になってるでしょ」
白澤自身言葉を紡ぐのになかなかの勇気が要った。女の子にならまだしも何故自分から鬼灯にこんな事を言わなければならないのか。何故鬼灯は自分の気持ちに気づかないのか。気づけないのか。鬼灯は大事なものが欠落していると思った。
一方、鬼灯の方は更に困惑していた。この痛みは白澤に対するストレスだとばかり思っていた。まさか私が白澤に恋愛感情を抱いていただと?混乱している、言葉を発する事が出来ない。
「鬼灯?大丈夫か。珍しく言葉が出ないみたいだけど。もしかしてせっかく恋愛感情持ってたのにそれが僕に対してで幻滅してる?」
「いえ、…まさかあなたなんかに。しかも男じゃ有りませんか。私が…有り得ません…」
やっと発した声はいつも白澤を貶す声では無い。
そんな様子の鬼灯を見た白澤は胸に秘めていた一大決心を試みる。
「…ねぇ、今から鬼灯の弱みに漬け込む。嫌だったら金棒でも何でも飛ばしてよ、地獄に落としてくれても構わないよ…」
そう言うや否や椅子から立ち上がり鬼灯の元へ近寄ると腰を曲げて唇を合わせた。
「…っ、⁈」
鬼灯は目を見開く。払いのけようとしたが、あまりの衝撃に体が怖ばっていて動かない。
「ん、……、」
はじめは軽く唇に触れるだけ。そう思っていた白澤だったが、鬼灯の想定外な様子に後戻りが効かなくなった。舌で歯列をなぞり、舌を口内へと割り込ませる。生暖かい唾液が鬼灯の唇を伝う。
「…..ん、ねぇ、嫌だった?僕まだ殺されて無いみたいだけど…」
数秒かそこらだろう。しかし、とても長く感じた。白澤はゆっくりと鬼灯から離れ、様子を伺う。
鬼灯は頬を赤らめ口元に垂れる唾液を着物の袖で拭き取り、少し荒くなった息を整えてから、ゆっくりと白澤へと視線を移す。
「…自分でも、抗えなかった事に驚いています。この結果をどう捉えれば良いのでしょうか…しかし、何故いきなりこんな事を」
自分に驚きつつも鬼灯は白澤へ一番の疑問をぶつけた。
白澤はまだ分からないのかと言う様に大きく溜息をつき、一呼吸置いて言葉を放つ。
「だって、僕鬼灯の事好きだから。なんで気付かないんだよこの仕事中毒!」
鬼灯は再び目を丸くした。
鬼と獣、四