終の煙
火葬場の煙突から、灰色の煙が空へと上る。
無愛想な灰色は白い雲を押しのけて、図々しく空にのさばる。
男はそんな煙を見上げて、祖母らしいと薄く笑った。
勝ち気であった祖母は誰の色にも染まらなかった。強い人だった。
自分の意思をまげない、頑固で少し困った人だった。
男よりたくましく、とても厳しい人だった。
でも私はそんな祖母が好きだった。
母の手は頭を撫でてくれる柔らかい優しい手だったが、祖母の手は悪さをする私の頭にげんこつを落とす、畑仕事でボロボロの手だった。
母は、私が泣くと抱きしめてくれたが、祖母は男がそげんこつで泣いてどげんするんなと私のことを叱った。
女を守れる強い男になりんしゃいと言った。
それがかっこよくて、好きだった。
祖母の夫である祖父は、私が生まれるよりも前、息子である親父が生まれてすぐに病で亡くなってしまった。
祖母とは正反対の、身体が弱い人で、温厚で優しくて滅多なことでは怒らない人だったそうだ。
息子と二人、取り残された祖母はきっと心細かっただろう。あの時代には珍しい駆け落ち同然の結婚だったらしく、頼れる両親も親戚も誰一人いない状況で。
だからこそ、なんだろう。
夫に取り残されて、ずっとさみしい思いで決して豊かでない生活を送ってきた祖母だからこそ、男は強くあれと言っていたんだろう。
私や、親父の妻には自分と同じ思いをしてほしくないと思ったからこその言葉だったんだろう。
強くなって長生きをして、いつまでも妻の隣にいられるようにと祖母は願っていたんだろう。
私は、祖母に身体に悪かばいと止められていたタバコへ火をつけた。
今日ぐらいは許してよ。
心の中で祖母に言いながら、私は煙を吐いた。
私の吐き出した煙は祖母の煙とは違って、すぐに白い雲へと溶けていった。
終の煙