チキュウメツボウノヒ

チキュウメツボウノヒ

地球滅亡の日ーそこから見える日常の煌めき。

2012年12月21日。
マヤ文明の予言によれば、この日地球は滅亡する。らしい。
地球滅亡?人類滅亡?世紀末?

マヤ文明以外にも似たような予言は以前にもあって、でも地球は滅亡していない。
マスコミは少し騒いでいるけれど、私達人類はその予言が当たると信じていない。
信じるどころかどうせ嘘でしょ、とさえイラつく。

地球なんて滅亡しない。地球は滅びる事なく、退屈な日常は続くのだと確信している。
そう、退屈な日常が続くのだ。永遠に。自分が滅びるまでー

毎朝同じ時間に起きて働いて、家に帰って眠る。日常はルーティンワークで淡々と、ただ淡々と過ぎていく。

時間に追われ、余裕がなく、日常は奇跡で溢れている、なんて綺麗事が大嫌いだ。空だって飛べるはず、なんて馬鹿馬鹿しい。

何の変化もない日常のどこに奇跡が潜んでいるだ、と腹立たしく思える。本当に。

機会の歯車の様な自分、ただやり過ごす毎日。何の奇跡も変化も起きない。日常とは退屈で残酷だ。あまりにも。


地球滅亡の日。いつもより早い時間に目が覚めた。

部屋はまだ真っ暗で、一筋の光さえも指していない。コトリ、と物音がした。その音が新聞配達の音だとすぐに気が付く。新聞配達の人は世界で一番早起きかもしれない。

ベッドからのろのろと起き上がり、私はミルクを温める。酪農家の人の方が早起きかもしれないな、と思いなんだか可笑しくなる。
テレビのスイッチを入れるともうそこには、可愛らしい笑顔のアナウンサーがいて、今日の天気を伝えている。彼女が一番早起きかもしれない。本日は晴れ。地球滅亡の日なのに?
地球滅亡、人類滅亡とは言ってもどうやって滅亡するのだろう、と無駄に早く起きた私は考える。

天変地異?隕石衝突?それぐらいしか思い付かないが、隕石衝突なら報道されているはずだし、可能性としては天変地異か…ノアの箱舟が現れるかもしれない。私はきっとその舟には乗せてもらえないだろうけれど。

いつもの時間に部屋を出る。マンションの管理人のお爺さんがいつも通りに掃除をしている。
「渡邊さんおはようございます。今日も寒いね。いってらっしゃい」
「おはようございます。いってきます」
いつも通りの会話。管理人さんは今日が地球滅亡の日だと知っているのだろうか?

いつも通りの電車に乗り込む。いつも通りの安全運転。いつも通りのアナウンス。
窓からはキラキラ太陽が差し込んでいる。太陽もいつも通りに輝いている。
考えると何もかもがいつも通りだ。いつも通りの職場、いつも通りのデスク、いつも通りの職場の仲間。

「今日地球滅亡の日らしいよ?」
「そうなの?知らなかった。ヤバイね」
営業の小山さんと奥村さんが笑っている。
いつも通りに仕事をこなし、いつも通りにランチを取り、いつも通りの休憩室でたわいも無いおしゃべりをする。地球滅亡の話題なんて出ない。知らない人もいるだろうし、知っていたところでそれが本当に起きるだなんで誰も信じていない。当たり前だ。
みんな日常を生きる事で精いっぱいで、そんな根拠の無い話しに付き合っている暇なんて無い。日常には変化も奇跡も無いのだからー

奇跡は無い。けれど、いつも通りの日常はいつも通りの人達の軌跡で出来ている。
奇跡は軌跡で出来ている。思いついて我ながら可笑しくなる。可笑しくて、そしていつも通りの自分が愛しくなる。私も誰かの奇跡になれているのかもしれない。

いつも通りの残業、いつも通りのコンビニ弁当の夕食。いつものコンビニに新しいバイトの男の子。
「お弁当温めますか?」
温めるに決まってるでしょ、と意地悪は言わない。
お弁当を扱う手元がぎこちない。彼の新しい日常は今日始まったばかり。
日常を継続させるには努力が必要。忍耐が必要。彼は日常を継続させる事が出来るのだろうか?
「今日は地球滅亡の日だったらしいよ」私は彼に話しかけた。
「マジっすか!知らなかった!でも大丈夫みたいですね!」笑顔が可愛らしい。
「地球滅亡の日にバイト始めるなんて君はすごいね。もしかして救世主かも」
「そんな訳ないじゃないですか」もちろんそんな訳あるはずが無い。
けれど、彼は誰かの奇跡の軌跡になれるだろう、きっと。
今日はお弁当にビールも付けた。地球滅亡の日に乾杯、人類滅亡の日に乾杯、世紀末に乾杯、いつも通りの日常に、乾杯。

2012年12月22日。

そしていつも通りの朝がまた始まったー

チキュウメツボウノヒ

いつも通りの日常が少しは煌めいて見える事を願ってー

チキュウメツボウノヒ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-21

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