鬼と獣、参
犬猿の仲、再び?それとも…
血迷った暁には、ただただ深呼吸
天国へとシロと軽く雑談を交わしながら向かう。もう行き慣れた道のり。
風景が赤黒いものからだんだんと白に変わる。匂いも、血の匂いはしなくなった。
「鬼灯様、桃太郎は元気にしてるかなぁ?」
シロが尻尾を振りつつ尋ねる。
「桃太郎さんですか?ええ、元気でしょう。きっと仕事の腕も上がっていますよ」
鬼灯は桃太郎の事を考える。白澤の下で働くようになってから随分と気立てが良くなった。きっと出世するだろう。
「白澤さんも元気にしてるかなぁ?」
ついでに、と言わんばかりにシロが尋ねる。
「アレが元気でない筈が有りませんよ。今日も女遊びに明け暮れて桃太郎さんが溜息をついているに違いありません。どうしようもない神獣ですよ…」
鬼灯は大きく溜息をつき、素っ気なく答える。白澤のことを考えるだけで頭が疲労する。モヤモヤする。あんな白豚が天国に居ていい筈が無い。いつか私の手で地獄に落としてやろうとチャンスを伺っている所だ。
しばらくそんな話をしていると目的地に到着した。
極楽満月。白澤と桃太郎、そして従業員のウサギたちが居る。
「ワン!ワン!桃太郎〜遊びに来たよ〜!」
シロが店の扉へと駆け寄り、中へ声をかける。
別に遊びに来た訳では有りませんよ、と訂正をしようとしたがその前に扉が開かれ、中から桃太郎が顔を出した。
「おぉ、シロじゃないか。太ったか?…あ、鬼灯様おはようございます。白澤さんですよね?呼んできますよ」
桃太郎は少々驚きつつシロの頭をひと撫でし、鬼灯に気付くや否や挨拶をして店内へ戻った。
しばらくして、白い三角巾に割烹着スタイルの白澤が現れた。
「なんだ、可愛い女の子かと思ったらおまえかよ。今日は何?漢方の受け渡しはこの間済んだ筈だけど?」
白澤は残念そうに舌打ちをして怠そうに頭を掻きつつ要件を尋ねた。
「何も無ければ誰があなたの元へ行きますか。ええ、今日は少し相談事が有りまして。…あなたに相談を持ちかける事自体しゃくに触りますがね」
少々怪訝な顔をしつつ、鬼灯が答える。
二人の間に軽く火花が散る。
「…相談って?内密なやつ?それとも公的な?ものによっちゃ高くつくけど〜」
白澤がニヤリとしながら鬼灯を見据える。
「そうですね…、あまり公言する事は避けたいです。あなたにも私にもプラスにはならないでしょうし…」
鬼灯はしばらく考えた後、ひとつ息を吐くと表情を変えずに言葉を返す。
「桃タロー君、ちょっと鬼灯と大事な商談があるからさ。シロと散歩にでも行って来ていいよ〜」
白澤は何かを察したのか桃太郎にそう告げると、
「中入れよ、今誰も居ないから。内密な相談事なんだろ?」
と、桃太郎達の姿が遠くなると素っ気なく鬼灯に言い放ち足早に店内へと戻った。
鬼灯もしばらく考え事をする様にその場に立ち止まり、一呼吸置いて白澤の後に続いた。
鬼と獣、参