2回目のセブン・ティーン

1997年初夏……

 高校2年。僕は大学受験に向けて勉強漬けの毎日を過ごしていた。真帆は僕の横の席だった、とはいってもクラスメートではなかった。高校は進学校で2年生からは成績別のクラスに別れて授業を受けていたため、真帆と会えるのは英語の時間だけだった。真帆は、ずっと隣の席から眺めるだけの存在だった。話したこともなければ、話しかけられることもなかった。何度か、真帆の笑う顔が見たくて、悪友とわざと真帆の席のそばでふざけあったり、真帆に聞こえるように大声でギャグを言ったりしたことはある。その時、真帆が微笑んでくれたかどうか、残念ながら記憶にない。ただ、窓際に座る真帆の、ほんのり脱色した綺麗な髪と、真帆の頬の柔らかそうな産毛が初夏の日差しを浴び、まるで後光が差しているかのように金色に輝く姿は鮮烈な記憶として、今も僕の胸に刻まれている。

 結局、真帆とは一度も話すことなく高校を卒業した。僕は大学受験に悉く失敗し、東京の名前も知られていないような新設私立大学に進学した。滑り止めの滑り止めだったこの大学に入学したところで、大学生活には期待を持てなかった。浪人してもいいよ、という両親の申し出を断りこの大学に進学を決めたのも、ただ早く親元を離れたいだけの事に過ぎなかった。高校の卒業式で、それとなく真帆の進学先について男友達に探ってみたが誰も知らなかった。

 大学に進学しても真帆の事は心の片隅でいつもずっと気になっていた。しかし、連絡先すらわからない状況の中で打つ手はなかった。そのうちに、僕は徐々に大学で出来た新しい友人の輪の中に飲まれていった。真帆を忘れたわけではなかったが、それ以上に初めて暮らす東京での自由で刺激的な日々に、次第に故郷静岡を思い出す回数が減っていった。

 大学での僕はいつも浮わついていた。ろくに授業も出ることなく、毎晩のように友人と飲んでは騒ぐ日々の中で、そんな自分によくお似合いの彼女が出来た。金髪に近い程脱色した長い髪、栄養失調ではないかと思う程細く、背が高い彼女の話題はいつもブランド品とファッションの話題、そして芸能界のゴシップだけだった。当時の僕から見ても薄っぺらい彼女であったが、化粧や服装に気を使っていたせいか男友達からの評価は割と高く、僕はしばしば羨ましがられた。僕は彼女の事を愛していた訳ではなかったが別れる気もなかった。恋人がいる、という事実は大学生の僕が自尊心を保つのに十分すぎたからだ。

 僕は大学を卒業した。無名大学で堕落した生活を送っていた自分が、高校時代に憧れていた金融関係の仕事に就けるはずもなく、また未曾有の就職難の時代とあっては目指す気力もなかった。僕は地元静岡に帰り、コンビニで貰った安っぽい求人誌に載っていた会社に就職した。社員20名位の小さな会社で、プラスチック製の衣装ケース・組立式のキャビネット・ハンガー……そんな類の物を製造しホームセンターに卸していた。面接に行った時、社長は僕が大学を出ているという理由だけで目を輝かせ、その場で採用された。安月給ではあったが仕事は楽だった。指定された配送先への納品さえ終われば、ワンボックスの営業車の中でラジオを聞きながら寝ていれば、それで十分だった。

 そんな刺激のない日々の中でも、大学時代の彼女との遠距離恋愛は続いていた。月に1、2回僕が東京に行き、もしくは彼女が静岡に来て、食事をし、時々セックスした。彼女は就職していたのかどうか定かではなかったが、相変わらず小綺麗な格好をしていていた。日々の繰り返しの中で時は過ぎ、僕が28歳の時に結局彼女と結婚した。お互いの愛情があったわけではない。長く付き合ったことで双方の両親に対する世間体と、マスコミの「結婚適齢期」という洗脳、そしてある種諦めにも似た決意で結婚したに過ぎなかった。新婚生活はまるで小さなビンの中で、お互いの姿に精一杯威嚇し鰭を広げる闘魚のような日々に過ぎなかった。新婚と言ってもほとんど毎日別々に行動し、ともに飯を食べ、ごくまれに体を重ねるだけの同居人と化していた。

 そんな日々に変化が訪れたのは今年の3月だった。納品先のバイヤーから、何の気なしに誘われたSNSだった。そのサービスの名前は聞いた事があったが、個人情報を垂れ流しながら自分の生活を逐一投稿するなんて正気の沙汰とは思えなかったし、何より興味がなかった。そのバイヤーは僕に言った。
「でも正ちゃん。SNSは実名だから、昔好きだった子を見つけられるかもしれないんだぜ。正ちゃんの好きだった子がいたら……、大丈夫、嫁さんには黙っててやるよ!」
 ふーん。と興味がないふりを装っていたが、心のザワつきは抑えきれなかった。僕はもう34歳になっていた。初恋の人か……白鳥……真帆…。彼女は今どこで、何をしているのだろう。

 自宅に帰りPCを開く。SNSから「白鳥真帆」を検索した。考えてみれば、結婚して苗字が変わっていたらもう調べる術はない。それ以前に白鳥真帆という名前の人物が想像以上に登録しているようだ。注意深く、居住地や出身高校、掲載してある投稿や交遊関係等から推測し、5名の「白鳥真帆らしき人物」にメッセージを送った。「人違いだったら申し訳ありません。僕は静岡県立青葉高校2年の時、隣の席だった鈴木正太です。覚えてますか?英語の時に、隣に座っていた白鳥さんなら、メッセージ下さい。」どの「白鳥真帆」からも、すぐに返信が来ることはなかった。

 所詮こんなもんだ。期待した俺がバカだった。そもそも17年会ってないんだし俺の事、覚えてるかさえ怪しいだろう。最初は暇があるたびに開いていたSNSだったが、毎回返信が来ていない事が解ると、次第にアクセス自体しなくなっていた。
 
 1ヵ月半ほど経ったある日のことだった。あまりに仕事が暇だったので営業車の中でラジオを聞きながらふとSNSを開いてみた。そこには、見慣れない、赤い新着通知のアイコンが表示されていた。それは5名の白鳥真帆に送ったうちの1件からの返信だった。

「鈴木正太君?英語のクラスで隣だった鈴木くんなんだね!久しぶり、元気?よく私のことわかったね。これからいろいろ話ができたらいいね。」紛れもなく、高校で隣の席に座っていた「本物の」白鳥真帆からのメッセージだった。

 僕は、返信しようとして躊躇した。結局、真帆の事を何も知らない自分は、メッセージを送っておきながら、いざ返事が来てしまうと何を話せばいいのか良くわからなかった。とりあえず、高校卒業後の全てのこと……大学のこと、仕事のこと、そして自分が高校生の時に、真帆を好きだったけど一度も声をかけられなかったこと……思い付く全てを書いた。ただ一つ、結婚していることを隠した事は、自分でも不思議だった。高校時代から憧れ続けた真帆に、汚れた僕を知られるのが怖かったのかもしれない。
「そうなんだ~。正太君は結婚してるのかな?独身なのかな?私はまだ独身だよ。お恥ずかしい限りだけど……。でも正太君が私の事好きだったなんて知らなかったよ~。でも、その気持ち伝えてくれて嬉しい。ありがとう。まだ青葉市に住んでるのかな?私はずっと青葉市内。近くにいるなら、良かったらご飯でも行きたいね。」しばらくして真帆からの返信。僕は、17年もの間、想い出という世界の住人に過ぎなかった真帆と、二人きりで逢える可能性を感じただけで、卒倒しそうな程の恍惚感と、二人で逢っても会話が途切れてしまうのではないかという、言いようもない不安に包まれていた。真帆にどのような返事を書くべきか悩んだが、考えれば考える程、逢いたい気持ちの方が強かった。今逢わなければ、二度と真帆と逢うことが出来ないかも知れないとも思った。そもそも、今の段階で真帆に好かれている訳じゃない。恥をかいても僕に失うものは何もないじゃないか、と自分を奮い立たせた。不思議と妻への罪悪感は微塵もなかった。
「僕も逢ってみたいな。良かったら、今週土曜日、夕方6時に青葉駅で待ち合わせしたいな。一緒に夕食でも食べない?」真帆の返事は
「うん!大丈夫。久しぶりだから楽しみにしてるね。」
とにかく、土曜日には真帆に逢える事になった、それも二人きりで……。誰も知らない壮大な予定を抱えながら、僕は今週の日々を生きる事になった。季節はもう初夏になろうとしていた。

 真帆と逢う予定が決まってからの日々は、予想以上に早く過ぎ去って行った。最初は土曜日に備えて美容室に行ったり、洋服を買ったり、小洒落た飲食店を調べておこうと思ったが、初めてデートする高校生でもあるまいし、と思いやめた。僕は勝手に期待を膨らましているが、高校の同級生に逢う、ただそれだけに過ぎないのだ。

 土曜日は予定より10分早く青葉駅に来た。妻には取引先との懇親会と嘘をついた。電車が到着するたびに、駅から出てくる人波から真帆の姿を探したが、なかなか見つける事はできなかった。17年前の断片的な想い出だけを頼りに、大勢の中で探すのだから無理もなかった。もしかしたら逢えないのかもしれない……。気が焦り、そんな悪い予感が頭をよぎった。真帆を待ちながら過ごす10分間が、まるで永遠ではないかと思われる程に重苦しく、長く感じられた。

「正太…くん?」
振り返ると、そこには清楚な一人の女性が立っていた。エメラルド・グリーンのチュニックと、純白のロング・スカートを着て、白いサンダルを履いた彼女は、まるで夏を運ぶ妖精のようだった。よく見ると、ぷっくりと膨らんだ頬と笑った時に目が細くなるところが、あの頃の真帆の記憶を呼び起こさせた。

「ま…真帆ちゃん」
自分でも声が上ずっているのがハッキリ解った。心臓の音が真帆に聞こえてしまうのではないかと思う程ドキドキしていた。足が震え、僕自身の歩行がたどたどしく感じたので、わざと腕を大げさに振って歩いた。真帆は本当に魅力的な女性になっていた。高校時代の少女らしさに、少しだけ大人の色気と、憂いの色を加えたような……。僕にはそれ以上真帆を分析できるほどの余裕はなかった。
「とりあえず、行こうか」
真帆を引き連れて足の向く方に歩いた。緊張のあまり、地元の駅なのに何処に向かっているのかもわからなかった。頃合いの良いお店がありますように……と半ば願うような気持ちで歩くうちに、偶然少し洒落た洋風居酒屋を見つけたので、少し安堵して店に体を滑り込ませた。

 店に入り、オレンジ色の間接照明で見る真帆は、本当に美しかった。僕たちは幅70センチ程のテーブルに向い合って座った。でも僕にとって真帆が、目の前に展示されているのに絶対に触れることができない、有名な絵画ではないかと思えるほど遠く感じられた。やがて注文した飲み物と食事が少しずつ運ばれてきた。
「じゃあ、乾杯しよっ。」
真帆が、ロゼのスパークリングワインを手に言った。
「うん、ありがとう」
乾杯し、極度の緊張で乾いた喉を潤すため、僕はグラスビールを三分の二程一気に飲んだ。
「真帆ちゃん。今日は、会ってくれてありがとう。ほとんど話したことなかったのに、誘っちゃって迷惑じゃなかった?」サラダを取り分ける僕の手が震えていたからか、真帆は、いいよ、私が分けるね、と僕が持っていたサラダ・フォークを取り上げて言った。
「ううん、誘ってくれて嬉しかったよ、地元に居ても楽しいことないし……友達はみんな結婚しちゃってるしね。一人で過ごしてる事多いんだ……」
「そうなんだ……」と答えながら、僕はいきなり真帆の口から出た「結婚」という言葉に強く反応した。自分が結婚している事を正直に言うべきか、隠し続けるべきか、心の中で葛藤していた。
「正太君は、まだ独身なんだよね……?」
僕の心の準備ができていないのに、真帆が核心を衝いてきた。どう言おうか逡巡しながら、時間稼ぎのために残りのグラスビールを飲み干し、ウエイターに同じものを注文した。真帆に向き合った時に、僕は正直に言おうと覚悟を決めた。それは真帆との関係性がこれ以上深まる可能性を、限りなく低くしてしまう選択であることは自覚していた。
「真帆ちゃんに隠してたって訳でもないんだけど……なんとなく言いそびれちゃったんだけど……実は、結婚してるんだ。子供はいないんだけどね。もう6年目になるのかな」
「なんだぁ、結婚してるんだあ。奥さん大丈夫なの?私と会ったりして~。」
真帆は、わざとおどけたような声を出して笑った。それがまるで、真帆にとって僕の存在が、「自分の旦那候補」から「他人の夫」に変わったことで軽薄なものになってしまった象徴しているように感じ、悲しかった。
「正太君の奥さんの事、いろいろ聞きたいなあ」
真帆は、妻との馴れ初めや、結婚を決めた理由、今の生活等、いろいろな事を僕に聞いてきた。僕も、話せる範囲の中で妻との結婚について話していたが、一つの話題が終わる度に、真帆との距離が遠ざかっていくように感じられた。僕は、ただ真帆にとって結婚の相談相手でしかなかった。話をしながら、僕は今日真帆と会った事を後悔しだしていた。早く、この時間が過ぎて欲しいとさえ思った。今から真帆と一緒の人生を歩むことは100%叶わないという事実を痛いほど実感していた。
 
 僕がひとしきり妻とのことを話し終わった後、真帆がつぶやいた。
「奥さん羨ましいな……。正太くん、優しいんだね……。私にも正太くんみたいな旦那さん、現れないかな~」
真帆が、悲しい目をしたような気がした。それ以上、僕は真帆に話しかけられなかった。僕たちは店を出て、駅へ向かった。
「今日は、ありがとう。ご馳走様。正太くん、奥さんと仲良くするんだよ~。」
真帆が笑って言った。僕は切なくて、涙をこらえていた。もう、二度と真帆と会う理由すら作れなかった。
「うん。真帆ちゃんの事、好きだったし……、今も好きだけど……。うん、ありがとう!」
「正太くん、何言ってるの~、だめだよっ、奥さん泣かせちゃ。じゃあね!」
真帆は、改札に向かって階段を登っていった。階段の半分ぐらいで一度こちらを振り向き、軽く手を振りそのまま人ごみに消えていった。僕は声を出さずにそれを眺めていた。それは教室で風に吹かれる真帆をただ眺めることしかできなかったあの日の僕と何一つ変わらなかった。僕は知らないうちに泣いていた。
 
 家に帰ると妻がテレビを見ながら
「なんだ、意外と早かったのね。もっと遅くても良かったのに」と言った。
「明日は、私、友達と外食だから。どこかで夕食適当に済ませてきて。」
「ああ」僕は気のない返事をし、風呂に入り、眠りについた。これまでの妻との毎日がそうであったように。

 次の日、真帆からSNSにメッセージが入っていた。
「久しぶりで楽しかったよ。また、結婚についていろいろ話聞かせてね。私もいい人見つけるように頑張るね!」
僕は返信する気にもなれなかった。昨日から僕の中に、「どうすれば真帆と一緒になれるのか」という感情が芽生え出しているのを感じていた。これまで、想像したこともない「離婚」という文字が僕の中に浮かんでは、消えた。ただ、その2文字は僕自身が想像する以上に、得体の知れない、大きな困難を伴った巨大な悪魔のような不気味さを持って立ちはだかっていた。妻との日々は相変わらずの日常だった。お互いが思いやることもなく、ただの同居人として過ごす日々。セックスも最近は月に1回あれば上出来だった。二人の気持ちは冷めていたが、夫婦とも「離婚」という言葉だけは暗黙の了解であるかのように、口に出さなかった。
 
 僕はSNSを開いた。真帆にメッセージを送信した。
「この前はありがとう。いろいろつまらない話しちゃってごめんね。俺もいろいろ真帆ちゃんと話したい事もあるし、また会えないかな?」
返信が来ない可能性は僕自身十分承知していたから、まともな返事など期待しなかった。
「うん、いいよ。今度はドライブでも行きたいな。いろいろ話聞かせて」
真帆からの返信は、僕の想像以上だった。まるで、真帆が僕にチャンスを与えてくれているのではないか、と勘違いしてしまうほどに。
 
「おまたせ!」
真帆はサーモン・ピンクのサマーセーターとベージュのキュロットという、この前より少し活動的なファッションだった。ポニーテールの真帆は初めて見たが、可愛くて胸が少年のようにキュンと痛んだ。久しぶりの感情に、僕は少し戸惑いながらも嬉しかった。
「じゃあ、行こうか。音楽はハード・ディスクにいろいろ入ってるから適当にかけてね」
「おじゃましま~す、正太くん、いい車じゃん。静かだね~ハイブリッドっていうの?」
 この前一度会っているせいか、気負わず話ができる気がした。それはもちろん、僕が既婚者であるがゆえの、真帆にとっての気楽さと安心感によるところが大きいのだろう。真帆にとって僕は恋愛に発展することのない気軽な相談相手でしかないのだから。隣に座っている僕が、機会があれば真帆と恋愛し結婚したいと思っているなんて、微塵も感じていないに違いない。
 車を近場の小さい砂浜に走らせる。初夏とはいえ人影はまばらだ。車内では最近の出来事や、日常の話題など、たわいない話をした。真帆の横顔は相変わらず綺麗で、思わず見とれてしまう。高校の頃、ずっと憧れていた真帆を、今、この瞬間、助手席に乗せてドライブしている事が、未だに信じられなかった。自分が主人公の映画を見ているかのような、そんな感覚に包まれていた。
海岸に着いて、僕はソックスを、彼女はミュールを脱いで素足になった。
「砂、けっこう熱いね~!」
「火傷しないでよ~」
とはしゃぎながら、二人は童心に帰って波打ち際を歩いた。高校時代にタイム・スリップしたような、懐かしい、幸せな時間だった。しばらく二人で、その時の中に身を委ねていた。
二人で、岩陰に腰を下ろした。口火を切ったのは真帆だった。
「正太くんは奥さんの事、愛してるんでしょ?」
「……」
何も答えられなかった。僕が想いを寄せている真帆から言われていると思うと、胸がチクチク痛んだ。真帆が続ける。
「私、良くわからないんだよね……自分が本当に誰かと結婚したいのかどうか……。本当に好きな人に出会ってないのかな。なんとなく、そういう歳になっちゃって…、周りもしてるし、親や親戚なんかからも言われたりして……、そんなのって違うと思うんだよね。」
「俺だって、よくわからないよ。……嫁さんの事愛してるのか、はっきり言って自分でもわからない。ただ……こんな事、言ってはいけない事かもしれないけど……真帆ちゃんともっと早く会いたかった。真帆ちゃんの事、やっぱり好きなんだな、今でも。俺、不器用だから自分の気持ちには嘘をつけないし、俺は真帆ちゃんと一緒に生きていきたい!!」
 僕は真帆を抱きしめた。真帆は少し抵抗したが、かまわず唇を奪った。かすかにリップ・グロスだろう、ピーチのような甘い味がした。僕は舌を真帆の唇に滑り込ませると、真帆と深く深く慈しみ合った。ディープ・キスをしながら僕は泣いていた。このまま死んでもいいとさえ感じた。真帆は体を僕に委ねていた。どれぐらいの時間だろうか、まるで時が止まったかのような二人だけの深淵な時間だった。
「……ごめんね……」
「……謝るならキスしなければいいのに……。無責任だよ……。」
「……ごめん。」
二人は放心状態のまま、きつく強く抱き締め合っていた。

「俺の夢……、叶っちゃったのかな……」と少しおどけると、
「ズルいよ…そんなに、私の事好きなの?正太くんの夢は勝手に叶えたかもしれないけど……でも私の夢は叶ってないもん。」と真帆が笑った。
「そうだよね……、俺が叶えてあげてもいい?」
「どうするの……?奥さんは?」
「…………それは、俺がハッキリさせることさ」
「卑怯者……でも信じてる……。」
「うん……。真帆ちゃんと一緒になりたい。俺を信じてくれる?」
「ありがとう……、信じられないけど……信じるね。」
「信じていいよ」

僕達はもう一度目を閉じ、唇を重ねた。
僕と真帆は2回目の17歳。夏の日の約束……。

                                  FIN

2回目のセブン・ティーン

2回目のセブン・ティーン

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-07-20

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